◆◇◆◇
祭囃子の唄が、聞える。
和太鼓の音色が、何処かで轟く。
篠笛の調べが、何処かで囁く。
かぁん。
拍子木の聲が、威勢良く響く。
そして、掻き鳴らされる三味線。
祝祭。祝宴。
燃え上がる焔のように。
じわり、じわり、と。
場の熱気は、みるみると昂ぶっていく。
神楽を思わせる、舞台の壇上。
冬の景色とは不釣り合いの活気。
祭りの喧騒。祀られる雅楽。
陽気で、賑やかで。
大団円のように、華やかで。
それ故に眩くて、じっと見惚れてしまう。
はっ、はっ、はっ、ほっ、ほっ―――。
誰かが、楽器を奏で。
はっ、はっ、はっ、ほっ、ほっ―――。
誰かが、踊っている。
はっ、はっ、はっ、ほっ、ほっ―――。
沢山の人達が、舞っている。
皆の履く下駄の歯が、床を踏み鳴らし。
躍動するように、音色を奏でる。
木製の律動が、反響する。
舞踏(タップ)。舞踏(タップ)―――。
所狭しの、軽快な舞踏(タップダンス)。
木の音色がかんかんと、小気味良く鳴り響く。
和の旋律には、不釣り合いな筈なのに。
笛の音や太鼓の音と絡み合い、共鳴していく。
いにしえの音色と、電子の旋律も。
不思議なほどに、親和していく。
賑やかな祭りを見つめるのは。
観客として其処に居る、自分だけ。
まるで映画館で独り、ぽつんと座り込むように。
現実と虚構のはざまで、眼の前の景色に浸り続けている。
はっ、はっ、はっ、ほっ、ほっ―――。
誰もが、踊っている。
はっ、はっ、はっ、ほっ、ほっ―――。
にこやかに、楽しげに、舞っている。
はっ、はっ、はっ、ほっ、ほっ―――。
御祭は、きらびやかに続く。
◆
――――そして。
――――視界は、急速に。
――――映画の場面が、暗転するかのように。
――――“現実”へと、引き戻される。
◆
白い吐息。寒々しい風。
空の静寂を思わせる、青ばんだ視界の中。
現実と虚構。真実と空想。
その境目が曖昧になったように、錯覚する。
日没を迎えた路地裏。
立ちはだかるのは、“人ならざる何か”の群れ。
黒い影のような姿で、ゆらり、ゆらりと。
皆、こちらの命を奪おうとして。
その身を揺らしながら、機を伺ってくる。
“私”は―――“凛世”は。
夢や幻のような、そんな光景を。
ただ呆然と、見つめていた。
脳裏に、知識が流れ込んでいた。
見知らぬ情報。知りもしない“戦争”。
まるで以前から憶えていたかのように。
その知識は、眼前の状況へと結び付く。
後戻りは出来ない。引き返すことは適わない。
そう告げるかのように。
焼き付けられた記憶は、“私”を急かす。
動揺する“私”を庇うように。
“その御方”は、眼の前に立っていた。
金色の髪と、閉ざされた両瞼。
その手に握り締めた杖を、構えながら。
“人ならざる何か”達と、対峙していた。
分かっていた。理解していた。
“その御方”が、何者であるのか。
何故、其処に佇んでいるのか。
何故、護ってくれるのか。
御伽噺のような現実に対する答えを、“私”はとうに識っていた。
そして、刹那の瞬間。
――――ひゅん。
風を切る音。
――――ひゅん。
風を裂く音。
二度に渡り、響く。
それは、余りにも疾く。
須臾の狭間。稲妻のように迸り。
次に、瞬きをしたとき。
人ならざる黒い影は、二体。
首元を斬られて、崩れ落ちていた。
―――銀の刃が、光っていた。
“仕込杖”から、刀を抜き放ち。
居合を、繰り出したのだ。
“私”は、そんな光景を。
ただ唖然としながら、見つめる他無かった。
「お嬢さん」
やがて、“その御方”は。
低く、嗄れた声で。
“私”に向けて、静かに囁いた。
「―――逃げな」
その一言は、“私”の意識を引き戻した。
自分が今、命の危機に晒されている。
そんな実感のない事実を、否応無しに突き付けられた。
ですが、貴方さまは――――そう言おうとして。
けれど“その御方”は。
無言の背中で。仕込杖を握る両腕で。
“私”に対して、言葉もなく語り掛ける。
――――行け、と。
それだけの、単純な訴え。
“私”は、微かに躊躇って。
その矢先に。
“その御方”は、再び。
銀色の刃を、閃光の如く抜き放ち。
それを合図にするように。
“私”は、その場から無我夢中に駆け出した。
◆◇◆◇
遠い記憶の、幼い頃。
まだほんの小さな子供だった頃。
“姉さま”と二人で、こんな景色を見つめた。
肌寒い街の情景。顔を撫でる冷たい風。
薄暗く沈む、日没の空。
しんしんと降り積もった、白染めの足元。
お正月。姉さまと一緒に、初詣へと向かう道。
そんな記憶を、ふいに思い出した。
息を切らして、“私”は奔る。
艶やかな模様の着物を揺らし。
鼻緒が切れそうな勢いで、下駄を鳴らし。
人気の無い路地を、必死に往く。
どん、どん、どん、どどん――――。
どん、どん、どん、どどん――――。
祭囃子の太鼓が、脳裏で木霊する。
はっ、はっ、はっ、ほっ――――。
はっ、はっ、はっ、ほっ――――。
舞踏の音色が、鮮明に反響される。
静寂の冬風が吹く、路地の中で。
あの喧騒が、幾度と無く心に浮かぶ。
思えば、初詣の日。
神社の境内も、酷く賑やかで。
そして―――人混みの中で。
姉さまと、ふいに逸れてしまって。
こんなふうに、“私”は駆け回っていた。
今にも泣き出しそうになりながら。
ほんの少し前まで握っていた、姉さまの暖かな手を探していた。
どん、どん、どん、どどん――――。
どん、どん、どん、どどん――――。
“私”の小さな孤独と恐怖をよそに。
はっ、はっ、はっ、ほっ――――。
はっ、はっ、はっ、ほっ――――。
すれ違う人々は、年明けに賑わいでいた。
あの時と、同じように。
“私”は―――“
杜野凛世”は、迷い子だった。
聖杯戦争。異界の東京。
令呪。英霊。奇跡の願望器。
見知らぬ記憶。見知らぬ世界。
見知らぬ日常―――前奏。
奇跡に求めるものは、何もない。
“私”が欲しいのは、奇跡ではなくて。
――――あいたい。
掛け替えのない青春を分かち合う、大切な仲間達に。
“私”を見つけてくれた、大切なひとに。
また、触れたい。また、会いたい。
この手を握ってくれた、慈しい温もりに。
ただ、それだけ。
そんなささやかな願い。
けれど。“私”には、それで十分だった。
だから―――“私”は。
この世界に、迷う。
手を握ってくれる人は、いない。
あの初詣の境内のように。
必死に、必死に、彷徨い続ける。
あの時のように、“姉さま”は戻ってきてくれない。
いま。
“私”のそばに、いてくれるのは。
開かぬ瞼を持つ、“あの御方”だけ。
あの路地裏に誘われて。
あの“人ならざる影”に襲われた“私”の前に。
彼は、突如として姿を現した。
――――きっと、無事だ。
――――何事もなく、切り抜けている。
何故だか、そんな確信を抱いていて。
路地を抜けて、“私”はふいに立ち止まる。
そして、先程まで奔っていた道を、振り返る。
静寂。閑靜。沈黙。
何もなく。何も聞えず。
だと言うのに、脳裏の喧騒は。
変わることなく、木霊する。
あの壇上で、御祭は賑わい続ける。
宴も、たけなわに―――――。
◆◇◆◇
とん、とん、とん。
刀を仕込んだ杖を、幾度も軽く振る。
地面を叩き、反応を確かめる。
戻ってくる返事は、何ひとつない。
そのまま杖を真正面に伸ばし、辺りを探る。
触れるものは、何ひとつない。
周囲の敵は、全て斬り倒し――――とん。
杖の先端が、何かに触れた。
金色の髪を持つ“盲目の剣客”は、思わず身構える。
その仕込杖をいつでも抜ける体勢を取り。
眉間に皺を寄せ。殺気を、解き放ち。
そして、沈黙が続く。
暫しの静寂の後。
剣客は、恐る恐ると構えを解き。
再び杖を、前方へと伸ばした。
とん。先端が、やはり何かに触れる。
とん、とん、とん。
警戒をしながら、杖でそれを何度も突く。
何とも云えぬ無言のひと時。
やがて剣客は、口を開く。
「ただの壁じゃねえか」
そうぼやいて、思わず苦笑いを浮かべた。
おそるおそる。
おっかなびっくり。
そんな態度を取った己が、酷く間抜けに感じる。
ゆらり、ゆらりと。
剣客は、彷徨う幽鬼の如く。
その場から、ゆっくりと歩き出す。
静寂の狭間。
何処からか、喧騒が聞こえる。
どん、どん、どん、どどん――――。
どん、どん、どん、どどん――――。
祭囃子の太鼓が、脳裏で木霊する。
はっ、はっ、はっ、ほっ――――。
はっ、はっ、はっ、ほっ――――。
舞踏の音色が、鮮明に反響される。
盲目の剣客は、その喧騒の正体が何なのか。
言葉もなく、考え込んでから。
やがて、何かに思い至ったように、にやっと笑みを浮かべた。
――――なんでえ、あの宿場の祭りか。
きっと“あの祭り”は、無事に終わったことだろう。
あの町のやくざ共は、己が斬り捨てたのだから。
宴もたけなわ。
祭もたけなわ。
喧嘩旅に、“
座頭市”が往く。
【クラス】
アサシン
【真名】
座頭市@座頭市(北野武版)
【属性】
中立・中庸
【パラメーター】
筋力:B 耐久:D 敏捷:C++ 魔力:E 幸運:C 宝具:E
【クラススキル】
気配遮断(偽):C+
明鏡止水の域に迫る無想の剣技。
自身の太刀筋が見切られにくくなる他、『直感』など相手の危機察知系スキルの効果を半減させる。
ただしサーヴァントとしての気配遮断能力は「多少察知されにくくなる」程度に留まる。
【保有スキル】
盲の心眼:B+
音。匂い。気配。殺気。目は開かずとも、彼は世界を感じている。
研ぎ澄まされた感覚による察知能力、そして戦闘技術。
自身に迫る危機や殺意、状況を敏感に感じ取り、その場で残された活路を瞬時に導き出す。
風切りの剣閃:A
盲目の侠客”を伝説足らしめた高速の剣技。
鞘からの抜刀と共に敵を斬る“居合”を繰り出す際、高い確率で相手の先手を取れる。
更に先手を取った場合、クリティカルダメージを確定で叩き出す。
無明の剣鬼:B
自身の剣技による攻撃判定にプラス補正が付与され、相手の攻撃に対して打ち勝ちやすくなる。
更に自身と対峙した相手に一定確率で『威圧』のバッドステータスを与え、相手の攻撃の命中率とダメージを低下させる。
北ノ蒼:A++
彼を取り巻く“死と暴力”は、“蒼色”に染まっていた。
自身が参加する戦闘において、戦場にいる全参加者の不死性を一時的に消失させる。
四肢の欠損をも治癒する再生能力も、死という概念そのものへの耐性も、彼が戦闘に加わっている場面においては一切の効果を発揮しない。
故に、彼の立つ戦場では全ての攻撃が“致死の暴力”と化す。
アサシンが離脱するか戦闘が終了した瞬間に効果は解除される。
【宝具】
『照壇(Showdown)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:1\~10 最大捕捉:10
「“めくら”の方が人の気持ちが分かるんだよ」
盲目の剣客であるアサシンはあらゆる存在を“感じ取り”、敵と見做した者達を全て斬り捨ててきた。
敵や飛び道具等を問わず、レンジ内に侵入した存在から向けられた“殺意”と“敵意”を完全察知する宝具。
「気配遮断」を始めとする隠密行動系のスキルや宝具をランクに関わらず無視し、自身に迫る攻撃や殺気を確実に捕捉してみせる。
『舞祭(Festivo)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
「幾ら目ン玉ひん剥いても、見えねえもんは見えねえんだけどなぁ」
盲目の剣客、座頭市の禁忌―――すなわち“開眼”。
両眼を開いている間、自身の与ダメージが倍増する。
更に全攻撃に視覚遮断のバッドステータスが付与され、彼の振るう刃に斬られた者は戦闘終了時まで視覚を奪われる。
ただし発動中は「北ノ蒼」を除く全スキルが最低ランクにまで低下する。
座頭市という英霊の根幹たらしめる神話性、即ち“盲人であること”を自ら棄てる宝具であるが故に、効果以上にデメリットが目立つ。
因みに作中終盤において座頭市は「おめえ眼が見えてんのか?」「そうだよ」等のやり取りをするものの、ラストでは石ころに躓いて「幾ら目ンひん剥いても、見えねえもんは見えねえんだけどなぁ……」とぼやく。
つまるところ、実際彼に視力があるのか否かは物語では曖昧に濁されている。
とはいえサーヴァントとしての座頭市は、この宝具を発動しない限りは“視力を失った状態”として扱われる。
【Weapon】
仕込刀
【人物背景】
流れ者として各地を彷徨う盲目の剣客。
金髪という異様な風貌を持ち、その素性は一切語られない。
ただ分かるのは、彼は居合の達人であること。
その超人的な剣技によって、悪辣なやくざ達と対峙することのみである。
映画本編においては“祭り”を目前にした宿場町へと流れ着き、町を牛耳る悪辣なやくざ・銀蔵一家との争いに身を投じることになる。
【サーヴァントとしての願い】
知らねぇよ。んなもん。
【マスター】
杜野 凛世@アイドルマスター シャイニーカラーズ
【マスターとしての願い】
皆に、あいたい。
【能力・技能】
ボーカルやダンスなど、アイドルとして一定の技術を積んでいる。
また由緒ある呉服屋の娘ということもあり芸道全般に精通している。
【人物背景】
283プロダクションに所属する大和撫子系アイドル。『放課後クライマックスガールズ』に所属。
常に控えめで礼儀正しく、良家の子女としての確かな佇まいを持つ。一方で少女漫画を好むという意外な趣味があり、またメンバーとの交流ではノリの良い一面を見せることも。自身をスカウトしたプロデューサーに対して一途な想いを抱き続けている。
【方針】
生きて帰りたい。
最終更新:2022年07月05日 06:06