―――主役になれねぇのはわかってる。俺は道化(ピエロ)だ。

―――それでも欲しい物は手に入れる。


あれぐらいだろうか、アイツが俺に本音を話したのは。



★ ★ ★


その光景こそ、正しく芸術品であった。
規則正しく、さながら一寸の狂いなくカッティングされたダイヤモンドのような。
見るも美麗な多角形の氷晶が、幾重にも鎮座されている。
評論家がこれを見たならば、世界最高峰の氷の美術品として後世に語り継ぐほどに。

―――そんなわけがない。
氷晶の中には人の体のパーツが有った。腕、脚、指、身体、頭部。
切り裂かれ、砕かれて、飛び散った脳漿ごとアートみたいに冷凍保存された部品もあった。
これは見せしめだ。王に歯向かった愚か者の末路を尽く晒し上げる罪人の墓標だ。

これらは、聖杯戦争の参加者、もといマスターだった存在の成れの果て。ただの残骸。
複数人集まったマスターとそのサーヴァントが、たった一人の或るサーヴァントに蹂躙され、敗北し、こう成り果てた。
氷獄の中心に立つのは、鴉色という言葉があまりにも相応しい一体のサーヴァント。
復讐者のクラス。真名、ヴォルラーン・アングサリ。
そんな男が、氷に包まれた世界で目を瞑り沈黙している。それは一種の失望か、それとも呆れか。

「つまらぬ。」

絶対零度の如き呟きが、氷獄に木霊する。

「英霊などと言う有象無象は、この程度か?」

苛立ちを込めたその眼球は既に哀れな敗者の姿など映してはいない。
根本として、アヴェンジャーにとっては聖杯戦争と呼ばれる催しに呼ばれた事自体が苛立ちの種だった。

「……いやいや、あんたが強すぎるだけでしょうに、アヴェンジャー。」

そして、アヴェンジャーのもう一つの苛立ちの種がこの男。
飄々とアヴェンジャーに語りかける長身の男。この聖杯戦争において、アヴェンジャーのマスターとなってしまった人物。
半間修二。愛美愛主(メビウス)の元副総長。稀咲鉄太の片腕であった男。
規格外。英霊の強さは知識のみで把握できていたとしても、人知を超えた、正しく自然災害とも言うべき惨状を作り上げたこの男を評するならば、これが一番相応しい。
もしこんなものが抗争にいたならば、関東事変に君臨していたならば、東京卍會も天竺も、チリ一つ残さず木端微塵の氷の残骸と化していただろう。

「……まあ、今までがイージーモードってだけで、この先――」
旦那より強いやつだっているだろうなぁ、そう言いかけた瞬間、アヴェンジャーは半間の首元に剣を突きつける。

「―――ッ。」
「なぜ、貴様は生きていられると思う?」

流れる冷や汗と共に血が零れて、雪の大地に消える。
緊張が、静寂の大地に冷たく木霊する。

「貴様がいなければ俺はここに存在できないからだ。――そうでなければ、貴様の命は既に無い。」

アヴェンジャーは、不快だった。
自分がこんなマスターなる男に従わされているという事実を。
マスターが死ねば自分も消えるという理不尽な事実を。
自分が聖杯戦争に、マスターによって『支配』されている事実が、何よりも不快で、悍ましく気に入らなかった。

だが、半間から見るアヴェンジャーの瞳は、満たされない者の瞳だった。
どれだけ支配しようと、どれだけ服従させようと、たった1つ。ある太陽のみは支配できなかった。
手を伸ばそうとも、届かないモノ。太陽を支配したかった月。
まるで道化だ。支配できぬと、それすら自覚せずにこうするしか、そう生きるしかなかった男。
そう、まるで―――。

「はいはい、わかってますって。」

そんな、口に出せばすぐさま斬首刑執行確定な本心は抑える。
実際実力は折り紙付きで、余計な怒りさえ買わなければ優秀なサーヴァントだ。
と言っても、唯我独尊傲慢不遜を地で行くような男、正直な所手綱なんて全く握れていない。
多少は納得した様子なのか、剣を収めたアヴェンジャーが再びその冷徹な瞳を半間修二に向ける。

「……貴様が俺を支配するのではない、俺が貴様を支配するのだ。ゆめゆめ忘れるな。」

そう告げたアヴェンジャーが矢継ぎ早にこの場から立ち去っていく。
明らかに証拠隠滅に一苦労しそうな場所に半間修二を残し。

「……はぁ、ダリィ。」

冬の夜に、一人呟く。
幾ら強かろうと癖の強すぎるサーヴァントは流石に困る。
そして理解する、この男は王にはなれない。時代を創ることは出来ないと。
だが、そんな事を言っても無駄だろう。
彼にはそれしか無いのだから、彼にはその色しか無いのだから。
だが、それでも半間修二がアヴェンジャーを見限らなかった理由。
アヴェンジャーが望む先の、復讐者としてのその根底。
もう一人の王、アヴェンジャーが憎みし太陽。
アヴェンジャーがそれへと執着する様は、稀咲鉄太とはまた違う色彩が垣間見えるのだ。
流石にサーカス程には楽しくないだろうが、暇つぶしとしてはスリルがあっていい。

「……が。てめぇもアイツと同じなんだな。」

そう、似通っているのだ。
稀咲鉄太が橘日向を求めるように。
稀咲鉄太が花垣武道を憎むように。
稀咲鉄太がその目的のためなら手段を選ばないことを。
主役になれない、だがそれでも手に入れたいものは手に入れる。
彼もまた、必死なのだと。
最も、アヴェンジャー自身、そんな道化である自覚など無いのだが。

「だったら少しは付きやってやるよ。アヴェンジャー。稀咲が逝っちまって、暇してたんだ。」

死神は新しい道化に目をつけた。
その道化は道化にしては強く、そして傲慢で、王であることに執着していた。
そんな道化を、死神は面白いと微かに思った。
道具扱いには慣れている、楽しくやっていこう。

【クラス】
アヴェンジャー
【真名】
ヴォルラーン・ライ・アングサリ・ライモ@テイルズオブアライズ
【属性】
秩序・悪
【ステータス】
筋力A 耐久A+ 敏捷C 魔力B 幸運C 宝具B
【クラススキル】
『復讐者:A』
復讐者として、人の恨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。周囲からの敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情は直ちにアヴェンジャーの力へと変化する。

『忘却補正:A+』
時がどれほど流れようとも、彼の憎悪は決して晴れない。
〈王〉は忘れない。己を赦した一人の〈王〉の事を。

『自己回復(魔力):A』
復讐が果たされるまでその魔力は延々と湧き続ける。

【保有スキル】
簒奪のカリスマ:B
アヴェンジャーは奪い、そして支配する。それかアヴェンジャーにとっての王の在り方。
対象に対し判定を行い、成功時にその意志を奪い、自らの手駒として利用することが出来る。
これは対魔力があるほど効きづらく、対魔力B以上には通用しない。
意外なことに、恐らくはアヴェンジャーが独力で為して得た賜物。

反骨の相:A
アヴェンジャーは利用される事を嫌う、なぜなら彼は自らが支配することを当然としているから。
同ランクの「カリスマ」を無効化する。

〈王〉の紋章:A--
アヴェンジャーが〈王〉たる証。
その実態はヘルガイムキルと呼ばれる存在によって植え付けられた後天的な権限に過ぎない。
後述の『主霊石』に溜め込まれた膨大な魔力を制御もしくは操作する事が可能。
ただし、もう一人の真の〈王〉と違い、伴侶となる巫女が存在しない為にその出力は本来の〈王〉には敵わない。当然、基本的に自身の限界を超えた出力は出せない。


【宝具】
『水の主霊石(マスターコア)』
ランク:A 種別:対聖霊宝具 レンジ:1 最大補足:不明
聖霊力を溜め込む力の器。領将としての証。その内の一つである水の聖霊力を司る。
主霊石の持ち主は、その属性に応じた聖霊力を引き出すことが出来る。アヴェンジャーの場合は〈王〉であることも踏まえてそのランクは高い。

『永遠の終わり(フィニステルナム)』
ランク:B 種別:対人~対軍宝具 レンジ:1~50 最大補足:500人
アヴェンジャーの秘奥義。水の聖霊力を用い、虚空の扉より氷の剣を召喚し叩き落とす。
着弾後、着弾地点を中心に氷柱を複数展開し相手を砕く。

『王はただ一人! 貴様は死ね!』
ランク:EX- 種別:対アルフェン宝具 レンジ:1~10 最大補足:2
アヴェンジャーのある執念と憎悪が宝具に到るまで昇華され、現出したもの。完全な特定個人を条件とする極めて稀有な宝具。
彼が知覚出来る範囲にアルフェンが存在し、それを感知した瞬間、この宝具は発動可能となる。
アヴェンジャーの出力が際限なく上昇し、更にそのアルフェンが『大星霊石』を所有している場合は、その力の一部を文字通り簒奪し己の力とすることが出来る。
発動中限定であるがこの時のアヴェンジャーはマスターの存在なくとも現界可能となる。

欠点としては余りにも条件が限定的すぎる為に、実戦ではほぼ役に立たないこと。
それともう一つ、この宝具を発動させたとしても、アヴェンジャーはどうあがいてもアルフェンに勝つことは出来ない。正しくはアルフェンの出力を上回ることが出来ないということ。
何故ならば、アヴェンジャーは孤独で。孤独の力には限界があるのだから。

【Weapon】
日本刀のような氷の長剣

【人物背景】
ガナスハロスの領将にして、もうひとりの〈王〉。
その実態はそうあれと作り上げられた、ただの道化。
その事実を認めず、男はただ〈王〉であることに、支配することに固執した。
それしか存在しない、空っぽに等しい人間だった。

だからこそ、真の〈王〉に、全てを取りこぼしたくない誓った青年に敗北した。

【サーヴァントとしての願い】
聖杯を勝ち取り、全てを支配する。
もし"やつ"が居るならば、今度こそ決着をつける。


【マスター】
半間修二@東京卍リベンジャーズ

【マスターとしての願い】
特になし。まあ、楽しけりゃいいや。
殺されない程度には自由にさせてもらいますっと。

【能力・技能】
喧嘩の強さ自体はドラケンと対等。

【人物背景】
歌舞伎町の死神と恐れられた男。
主役になることの出来ない道化の味方であり続けた自由奔放な死神。

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最終更新:2022年08月14日 01:31