目前で金色の粒子に変わっていく誰かの面影を見届ける。
 顔面を物理的に凹の字に変えられたそれはかつて英霊だったモノだ。
 しかし彼は敵方のサーヴァントを見る事もなくこの異界東京都から退場する。
 人間の少年により一撃で蹴り倒され。
 それから現界を保てなくなるまで殴り潰された。
 よって誰かにとっての希望だった筈の何某は何も遺す事なく消滅する。
 後に残されたのは本体同様に金へ変わって霧散していく返り血の残滓を纏った少年と。
 英霊をすら涜せる神秘を帯び、思い思いの凶器を持った…少年に倣うように白い特攻服を羽織った凡人達の集団だった。
 関東卍會――特攻服にはそう刺繍が施されている。
 それは東京に住まう人間で、尚且つ多少なり暴力の世界に関する知識を有する者であるなら誰もが畏れる四文字。
 破竹の勢いで勢力を拡大し続ける不良集団の名に他ならなかった。

「…便利なもんだな。相手が霊体でも殴れるのか」

 未成年の不良グループはおろか。
 半グレやヤクザ者ですら無視できない。
 しかして抗争を持ちかけた者は一つの例外もなく返り討ち。
 常勝無敗の関東卍會に無敵の二つ名が付けられるまでそう時間はかからなかった。
 そして今日この日、彼らは更に上のステージへと上がった。
 人間相手の戦いで無敵。
 それを一段乗り越えて。
 関東卍會は――人智を超えた。
 人の一生を超克しその存在を"世界の一片"へと召し上げられた英霊。
 本来であれば人間の拳を届かせる事すら叶わないのが道理のサーヴァントを、殺した。

「お前らこれで分かっただろ?」

 総長たるは組織に先駆けて無敵の名を恣にした男。
 誰も彼を倒せず。
 そして誰もが彼に跪くしかなかった。
 この異界に辿り着く前に時を遡ってもまた同じ。
 あらゆる絆も友情も、そして悪意ですら。
 誰も彼もが彼に跪いた。
 彼は無敵の存在であると自ずと信じた。
 信じなかった人間は全員殴り倒された。
 その身で以って"無敵"の二文字の重さを思い知らされた。

「テメェらはもう人間じゃねぇ。バケモノでも殴り殺せる人外だ。
 関東卍會(オレたち)は今日を以って東京最強の暴走族(チーム)になった」

 関東卍會総長、佐野万次郎
 通称――無敵のマイキー。
 聖杯戦争のマスター。
 冬の女王を従え、この異界東京都に君臨する者。

「だから付いて来い。逃げたい奴は勝手に逃げろ。弱ぇ奴に用はねぇ」

 彼の総身は今神秘に包まれていた。
 彼のサーヴァントが施した肉体強化(エンチャント)。
 天性の才覚と天性の肉体に最上の魔力が加わった事により。
 今や生半なサーヴァントでは彼を打ち倒す事は叶わない。
 それが今目前で証明されたのだから、昨日まで普通の人間だった彼の兵隊達もにわかに色めき立った。

 マイキーがあの化け物をぶっ殺した。
 オレたちもマイキーと同じになってるのか?
 だったら本当に最強じゃねぇか。
 東卍に勝てる奴なんて居ねぇだろ、もう。
 いつしかざわめきは歓声に変わる。
 東卍、東卍、東卍、東卍、東卍――!
 高らかに謳う兵隊の数は数百人に達していた。
 敵の実力にも当然依るだろうが、十人も居れば戦闘向きでないサーヴァントなら圧殺できるだろう。
 更に集団の中でも練度の高い…元々腕っ節の強い幹部を使えれば。
 ともすれば一対二、一対一での撃破も夢ではないかもしれない。
 だが万次郎の瞳は冷ややかだった。
 喜ぶでもなく。
 ただの虚ろだけがそこにはある。
 それは無敵の二つ名にまるで似合わない退屈そうなそれであったが。
 強いて言うならば微かな憐れみが、其処には含まれていただろうか。

“誰も逃げやしねぇな。まぁ…そういう風に弄ってあるんだろう”

 関東卍會は総長マイキーと彼が従える女王の兵隊だ。
 重ねて言うが、兵隊なのだ。
 仲間ではない。
 彼らの存在を"マイキー"や女王が顧みる事は決して無い。
 兵隊に意思など必要ない。
 自分で考えて道を選ぶ機能など贅肉となるだけである。
 鳴り止まない歓声を無視して万次郎は歩き出した。
 初陣は勝利。
 これから東卍はサーヴァントをも狩猟できる最強の暴走族として版図を拡大していくだろう。
 万次郎の心は痛まない。
 物の道理を教えてくれる龍は隣に居ない。
 渦巻く衝動を晴らすにはこの世界は実に都合が良かった。
 英霊を殴り殺す感触は人間に対しそうするのとそれ程違いがなかった。
 されど。
 佐野万次郎という少年の心に空いた穴が塞がる事は、やはりと言うべきか無いのだった。

    ◆ ◆ ◆

「叛逆の心配はありません。そういう機能は事前に削いでありますので」
「だろうな」

 玉座に坐すは冬の女王と呼ばれるモノであった。
 美麗にして怜悧。
 只其処に存在しているだけでその場の空気を塗り替えてしまうような、ある種暴力的なまでの存在感を宿した女。
 どんなに無学な人間でも…はたまた気位の高い貴人であろうとも。
 一目見れば理解するだろう。
 彼我の力の差を。
 其処に横たわる壁の大きさを。
 蟻の視点から空を見上げたような果てしないものを。
 感じ、跪き、屈従するに違いない。
 ヒトなのか神なのか、そのどちらとも異なる何かなのか。
 全てにおいて判然としない超越者の威容が其処にはある。

「この時代の概念で説明するならプログラミングというのが一番近いでしょう。
 魔術的処置で反抗、離反、挫折、逃亡その他諸々の不確定要素を切除してあります」
「使えるか? オレの兵隊どもは」
「思ったよりは悪くありません。此処まで神秘の衰退した時代の民草がこうも私の魔術に適合するとは…正直な所想定外でした。
 いや――あるいはだからこそ、なのでしょうか」
「ガキってのはどいつもこいつもバカばかりだからな。現実を知らねぇから、そういうもんとの相性も良いんだろ」

 女王の名をモルガンと云う。
 アーサー王伝説に語られる悪逆の魔女を原典とし。
 しかしてそれとは交わらぬ、異なる歴史を辿った人類史から召喚された異聞のサーヴァント。
 彼女が関東卍會の構成員達を英霊すら殺傷できる東京最強の兵隊集団へと変えた。
 肉体強化、魔術に対する防壁、精神攻撃への耐性に人類が生存不可能な過酷環境への適合力。
 ありとあらゆるステータスを強引に底上げした結果の武力。
 スパイスは脆弱な人間のメンタルに対する補強。
 佐野万次郎に叛くあらゆる可能性の排除。
 これを以って彼らは盲目と化したが、故に欠点の存在しない人形として完成された。

「念には念を入れ自爆の術式も内蔵してあります。
 敵に拿捕されたとて、彼らは最期の一瞬まで己が使命を全うするでしょう」

 素体が人間である以上戦力としての上限はどうしても低いが。
 それでもモルガンは恐ろしい程的確かつ完璧に仕事をこなした。
 関東卍會を最強の軍勢に変えろと言うのは他でもない万次郎のオーダーだ。
 手段は選ばない。オマエの思う最上を寄越せ。
 その命令にモルガンは応えた。
 関東卍會というチームを彼女は最高の練度に仕上げてみせた。

「…どうした。人の顔をジロジロ見て」
「いえ、そう大した事ではありませんが。貴方はこういうやり方を善しとしないのではと思いましたので」
「文句はない。どうせ血が通ってるのかどうかも定かじゃない作り物だろ?
 尤も…仮にあいつらがオレと同じ血の通った人間だったとしても何も変わらねぇけどな」

 …昔は先陣を切っていた。
 チームの誰かが害されたなら。
 総長自ら皆を焚き付けて敵地に乗り込む。
 武器や奸計を弄する敵には嫌悪を露わにし、その上で真っ向乗り越えぶっ飛ばす。
 佐野万次郎はそういう男だった。
 だがそれも昔の話だ。
 今は残骸が一つあるのみ。

「聖杯を手に入れられなきゃ此処で死ぬんだろ?」
「聖杯戦争の終結と共に、世界諸共虚空へと消え去るでしょう」
「なら最初から道は一つだ。死ぬのは構わねぇが…死ぬ理由も見当たらねぇしな」

 佐野万次郎は闇に愛されている。
 あらゆる未来で彼は堕ちる。
 大切な誰かの死、誰かの悪意。
 …あるいは。
 すべての悲劇に打ち勝ったとしても。
 彼だけは光の中に居られない。
 他ならない彼自身がそれを壊してしまうから。
 己の内側で渦を巻くドス黒い衝動を、いつか解き放ってしまうから。

「オマエがオレを使ってみせろモルガン。ロストベルトの、冬の女王」

 最初、その世界が迎える終わりは決まっていた。
 佐野万次郎は巨悪と化して裏社会を支配する。
 彼を人の道に引き戻せる龍は死に。
 不安定な心を肩に預け合った友は彼の影に沈み闇へと堕ちる。

「それは構いませんが」
「…どうした?」
「いえ。誰かと契約するというのは愉快な事だけではないのだと、感じ入る出来事がありましたので」
「何が気に入らない。兵隊の質か」
「あなたの夢を見ました」

 だが――その未来は変わった。

「あなたの知る救世主の夢を」

 龍は死なず。
 袂を分かった友を赦し。
 歪な家族の絆は叩き直され。
 兄の妄執との決着も着いた。
 未来を曇らす黒幕は志半ばで散り。
 幸せな未来が約束された。
 そこに佐野万次郎が居ないだけだ。
 彼一人が闇に沈み、彼の仲間は皆救われる。
 そんな未来を血の滲むような想いをしながら掴み取った男が居た。
 弱くちっぽけで青っちょろくて。
 なのに勝てる喧嘩はしない。
 何度のされても諦めずに立ち上がる、救世主(ヒーロー)。
 彼は皆のヒーローだった。
 それは。
 万次郎にとっても…無敵のマイキーにとっても例外ではなかった。

「…まさかオマエも――」
「それだけです。特段取り立てて話すような事でもありません」
「……そうか」

 悪意に挫けず。
 最後の最後まで歩み抜いた救世主。
 本来の歴史ならば万次郎の人生に名を刻む事すら無かったろう一人のヒーローの名前を。
 闇と空虚に支配された今でも覚えている。
 自分はそちらには行けないし、行くつもりも無かったが。

「なら忘れてくれ。それは――今のオレには不要な過去だ」

 佐野万次郎は止まらないだろう。
 無敵のマイキーは止まらない。
 今や人外犇めく魔群と化した関東卍會を率いて。
 聖杯を手に入れるという只それだけの目的の為に。
 この異界での頂点(テッペン)を、目指す。

 …白い。
 白い雪が降り積もる冬だった。
 虚ろな白色が降り頻る季節に。
 血が流れる。
 黒が渦巻く。
 救いは降りないままに。
 救世主の光から外れた影を少年は進む。
 かつて救世主と呼ばれた女を。
 何も知らぬままに、従えて。
 異界の時は進んでいく。
 無敵の彼はリベンジをしない。
 何にも挑まない。
 ただ勝つだけだ。
 ただ――歩むだけだ。

【クラス】
バーサーカー

【真名】
モルガン@Fate/Grand Order

【ステータス】
筋力C 耐久E 敏捷B 魔力A+ 幸運B 宝具EX

【属性】
秩序・悪

【クラススキル】
狂化:B
全パラメーターをアップさせる代償に理性の大半を奪われる。
…筈だが、異聞帯のモルガンは理性を失うことなく人格を維持している。

【保有スキル】
渇望のカリスマ:B
多くの失敗、多くの落胆、多くの絶望を経て、民衆を恐怖で支配する道を選んだ支配者の力。

湖の加護:C
湖の妖精たちによる加護。
放浪した時間があまりにも長い為、ランクは下がっている。

最果てより:A
幾度となく死に瀕しながらも立ち上がり、最果ての島に至り、ブリテンに帰還を果たした女王の矜持。
通常のモルガンは持たない、異聞帯の王であるモルガンのみが持つスキル。
戦場の勝敗そのものを左右する強力な呪いの渦、冬の嵐、その具現。

対魔力:A
魔術への耐性。
ランクAでは魔法陣及び瞬間契約を用いた大魔術すら完全に無効化してしまう。
事実上現代の魔術師が彼女を傷付けるのは不可能。

道具作成:EX
魔力を帯びた器具を作成可能。

陣地作成:B
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。

妖精眼:A
ヒトが持つ魔眼ではなく、妖精が生まれつき持つ『世界を切り替える』視界。
高位の妖精が持つ妖精眼はあらゆる嘘を見抜き、真実を映す眼と言われている。

【宝具】
『はや辿り着けぬ理想郷(ロードレス・キャメロット)』
ランク:EX 種別:対城宝具 レンジ:10~99 最大捕捉:100人
モルガンが生涯をかけて入城を望み、果たされなかった白亜の城の具現。
モルガンは娘であるアルトリアと同じ存在であるはずなのに、アルトリアは迎えられ、モルガンは拒絶された。
アルトリアに拒絶されたのではなく――世界のルールそのもの。即ち『人理』に拒絶された。
モルガンが憎むはアルトリアではなく人理そのものであり、決してたどり着けない路を一夜にして踏破し人理そのものを打倒せしめんとする「世界を呪う魔女」としての彼女の在り方を表した宝具。
世界に対する恩讐(のろい)。

【人物背景】
異聞帯・妖精國ブリテンを支配する女王。
最高位の妖精であり、最果ての槍・ロンゴミニアドを魔術として修得した神域の天才魔術師。
人間を嫌い、妖精を嫌い、
弱いものを嫌い、醜いものを嫌い、
平等である事を嫌い、平和である事を嫌う、
民衆から見れば『悪の化身』そのもののような人物。

【願い】
自分には不要であると諦めている。
だがいざ目前にそれが顕れた時、彼女がどうするかまでは分からない。


【マスター】
佐野万次郎@東京卍リベンジャーズ

【願い】
???

【能力】
常人の領域を数段以上飛び越えた身体能力もとい喧嘩の腕前。
彼は常勝無敗、不良の頂点の景色を知る者。
人は彼をこう呼んだ――"無敵のマイキー"と。

【人物背景】
元東京卍會総長。
…現関東卍會総長。
聖杯戦争の舞台となったこの世界で関東卍會を組織し聖杯を狙い戦っている。
黒い衝動に蝕まれたその心は既に空洞。
かつての面影はそこにはない。

【方針】
やるべきことはいつもと変わらない。
ただ少し"殺す"という選択肢を取るのに面倒がないだけ。

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最終更新:2022年08月14日 01:33