再編前(削除され次第削除します)
どれだけ――気を失っていたのだろう。
ふと――木更津茜は、軍用4駆車の後部座席で目を覚ました。
目を覚ました、と書いたがしかし――それが現実なのか、夢なのか、茜はよく分からなかった。
モノクロというかセピアというか、記録映像のような風景の中に軍用4駆車が佇んでいる。
「……何コレ」
ぼんやりと眺めていた茜だが、ふと我に返って、周囲で同じく失神している“仲間”を揺さぶった。
「愛ちゃん、飛音ちゃん、ちょっと起きてよ!」
ハンドルに覆い被さるように突っ伏していた習志野飛音がゆっくり頭をもたげた。
「うーん……何だ?」
続いて助手席の扉に寄りかかるように傾いていた市ヶ谷愛が体を茜に捻じる。
「……ぁ、茜さん……ここは?」
直後に2人は、モノトーンの風景に言葉を失った。
習志野が不審そうに目を細めてキョロキョロ見回す。
「……何だこれは?」
「あのゲートは……消えたんですか?」
「……あたしも良く分かんないよ、目が覚めたらこうだったし」
「場所は……さっきのゲートの近くのようですね――」
市ヶ谷がそう言いかけた直後――大きな影が軍用4駆車を包み込んだ。
何事かと3人が空を見上げ――すぐに驚愕と困惑が混ざった、複雑な表情に変わる。
彼女らが“目撃”したのは――戦車の2倍ほどもある、見たこともない巨大な白亜の“機械獣”だった。
「あれ、何……?」
白亜の機械獣は、一見止まっているようだが、スローモーションのようにゆっくりと動いている。
しかし3人はその機械獣が、ゆっくりと自分たちの軍用4駆車に接近しているように感じた。
自らの置かれた状況を想像した――習志野の表情が軽く引きつる。
「これ……マズくないか?」
★(この辺にタイトル/7章の間に挟むか、サイドストーリーに振るかは未定orz)★
茜たちが意識を取り戻した頃――別の場所でも“少女たち”が覚醒していた。
“陸上自衛隊”の文字が書かれた輸送防護車(装甲車の1種)の中で、数人の小さな人影が呆然と“外の世界”を眺めている。
モノトーンに塗り潰されたその風景は、音のない不気味な静寂に支配されていた。
「……どうなってるの、これ?」
「まるで記録映像の中にいるみたいね」
何が起きたのかよく分からない表情をする少女たちの中から、カメラを提げた少女が運転席に顔を出す。
「あ……福知山さん」
「ねぇ鯖江さん、あのジープ……習志野さんのじゃない?」
「……え? あぁ……ホントだ、動かないって言ってたけど、無事だったみたいだね」
「でも動いてないですよね? そう言えば“ゲート”はどこに消えたのかなあ」
余り広いとは言えない、薄暗い装甲車の車内で、少女たちがざわざわと不安げに言葉を交わす。
カメラを提げた少女――福知山凛子に声をかけられた鯖江静香はふと“妙なもの”の存在に気付いた。
「あれ――何だろう?」
「あれって?」
鯖江が指差す先――100mほど離れた路上に停まっている軍用4駆車の数mほど“上空”に、
見たこともない白と黒の“物体”が浮いているのが見えた。
戦車2台分ほどもあるその物体は、高速度カメラで撮影されているようにゆっくりと動いている。
鯖江たちからは角度の都合で全体像がハッキリしないが、物体の後方には細長いチューブが伸びている。
「何アレ……ゲートから光が出る前には……あんなの、確かいなかったわよね?」
「それだけじゃないよ……街の感じも、何だかおかしい」
「……そう? さっきの新田小学校じゃな…… ――あれ?」
装甲車の小さな窓から、周囲の景色をキョロキョロと見回していた福知山も“変化”に気付いたらしい。
「窓ガラス……割れてなかったっけ?」
「そうよね……それに、校舎の壁に弾痕もないわ」
どうやら彼女たちが“知っている”新田小学校には、軍事攻撃を受けたような“傷跡”があるらしい。
しかし装甲車の側面窓から見えている校舎に、そんな傷跡は全くなかった。
「……いったいどういうこと?」
「もしかして、私たちが今見ているのって――」
鯖江がそう言いかけた直後――衝撃波のようなものがモノトーンの世界を駆け巡った。
細かく震える車内……そして間もなく――
「街の、色が……!!」
記録映像のような1色に包まれていた世界が、突然「元の色」を取り戻したのだった。
ちょうど“1時停止”していた映像を、再開させるように。
★ ★ ★
そして彼女たちの100mほど先でも、突如――時間がリアルに動き出す。
モノトーンだった風景に色が戻ったことを、市ヶ谷や習志野は悟る――直後、茜の叫び声が響いた。
「危ない――逃げないと!!」
我に返った市ヶ谷と習志野が、咄嗟に軍用4駆車のドアを跳ね開けて外に飛び出したのと、
頭上に圧し掛かった謎の“白亜の機械獣”が、一気に接近の速度を上げるのが、ほぼ同時であった。
3人が振り向く間もなく――金属が強引に曲がる激しい音が響く。
「あぁっ――私のジープがっ!!?」
普段男勝りで勝気な習志野が、悲痛な声を漏らした。
彼女の目の前で“愛車”が機械獣に踏み潰され、見る影もないスクラップと化す。
粉々に砕けて飛び散る防弾ガラスやバンパーが降り注ぐが、習志野は立ち尽くしたまま動けない。
そんな習志野の哀愁を知ってか知らずか、軍用4駆車をアルミ缶のように踏み潰した白亜の機械獣は、
まるで新幹線のような猛スピードで走り去り、見る見るうちに姿が小さくなっていった。
アスファルトの路面に、畳2~3枚分はあろうかという巨大な“足跡”をくっきりと踏みつけながら。
確かにこんな物体に踏まれれば、クルマ1台などひとたまりもないだろう。
そして呆気に取られる茜と市ヶ谷の頭上を、ジェットの爆音を響かせた飛行物体が、
白亜の機械獣を追うように飛び去る……その形状も、彼女たちには見たこともないものだった。
爆音から当初、戦闘機の1種かと思ったが、噴射ノズルは斜め下を向いている。
機体の形状も戦闘機というより、米軍のテイルトローター輸送機MV-22“オスプレイ”に近い。
「何アレ……ヘリコプターじゃ、ない……?」
「まさか、ここは……別世界!?」
驚愕の表情を浮かべながらも、呟くように言った市ヶ谷に茜が振り返る。
「愛ちゃん!?」
「私たち、さっき確かにゲートの前にいましたよね……だとすればここは――」
市ヶ谷の言葉の意味を察した茜が、再び空を振り仰ぐ。
「ゲートの“向こうの世界”だっていうの……!?」
『――さん、市ヶ谷さん、聞こえる!?』
その時、市ヶ谷の胸ポケットに入れた携帯式通信機から声が響いた――鯖江の声だ。
「こちら市ヶ谷、鯖江さん!?」
『あー良かった、無事だったのね!』
「――無事じゃねぇよ! 畜生、私のジープが……今日は最悪の日だ!!」
無線機の向こうで“再会”を喜ぶ鯖江に、習志野が顔をくしゃくしゃにして毒づいた。
鯖江に八つ当たりしても仕方ない話なのだが、それだけ彼女にとっては“悪夢”だったのだ。
★ ★ ★
「……つまり、ここは“異世界”だってことですか?」
中左近橋の手前の路側帯で、茜や習志野たちは鯖江や福知山たちと“再会”した。
近くで倒れていた大宮氷乃とドイツ出身の武器娘、レオパルト1A5も一緒だ。さっきの機械獣が起こした大音響に叩き起こされて意識を取り戻したのだ。
彼女らの正体は、“陸自娘”と呼ばれる“戦士種族”である。
見た目は中学生や高校生の少女だが、実は人間ではなく自衛隊の兵器や駐屯地の“能力”を持っている。
地下から現れたある異種族の“侵略”の危機に出現し、今まで戦い続けてきた。
セーラー服のような姿の少女が多いが、茜のように自衛官と同じ迷彩服を着ている者もいる。
……どこかで似たような話を聞いた気がするが、つまりそういうことなのだ。
ただ彼女たちは“異世界”というSFのような可能性に、既に“免疫”があった。
ワームホールのような空間の穴“ゲート”が現れ、異世界と接触する経験を数度に渡り、過去にしてきたためだ。
そもそも今回の“事態”も、そのゲートの調査の際に起きたことなのである。
「恐らく。だって周囲を見てください、マグマ軍による砲撃や爆撃の痕跡はないでしょう?」
「そうそう……小学校の校舎が綺麗でさぁ……おかしいなって思ったんだよね」
「市民たちにも会ったしね……私たちが知っている東京は、戦災で封鎖された状況だったはずだし」
市ヶ谷や鯖江の会話に、まだ動揺が収まっていない習志野が口を挟んだ。
「だったら、私のジープを踏み潰しやがった、あのへんてこなメカは何なんだよ!?
“こっちの世界”には、あんな駆け回る兵器があるってのか? ……マグマ軍じゃあるまいし」
「でもあれ、あたしたちが知っているマグマ軍の兵器ではなさそうだよね、今まで見たこともないし。
その後に飛んでいったジェット輸送機みたいなのも初めて……あの脚が生えたメカを追っていたような?」
ぶつぶつと愚痴る習志野を横目に、茜が言葉を継ぎ足す。
「その脚が生えたメカ、私たちはよく分からない影しか見てないんだけど……どんなのだった?」
「…ふん…そこらへんに“足跡”が残ってるだろ」
吐き捨てるように言って、習志野が道路を指差した……そこに“畳3枚分”の足跡が、何個も並んでいる。
しかも階段1段分ほど凹んだ段差に、何台かクルマがはまり込んで動けなくなっている。
視線を遠くに向けると、“機械獣”が走行中に突き倒したらしい、電柱や信号機が何本も見えている。
その光景は“綺麗な小学校”とは裏腹に、彼女たちに妙な既視感を感じさせた。
「うーん……動きが速かったから詳しくは分からないけど、白い装甲に覆われているように見えたかな。
マグマ軍の兵器は黒いカラーリングが多いから、その点も違っていた気がする」
「市民の混乱振りを見ても、想定していなかった存在のようですね……」
市ヶ谷が周囲を見渡すように言った……10mほど先で、集まってきた市民に複数の“陸自娘”が応対している。
機械獣に踏み潰された習志野のジープや鯖江の装甲車だけでなく、他にも幾つかの軍用車が停まっている。
彼女たち自身、まだ何が起きたか十分に把握出来てないのだが、服装はともかくとして、
明らかに自衛隊を思わせる迷彩カラーの装甲車に乗っているため、市民から質問攻めに遭っているのだ。
これに対して彼女たちが取った対応は「今調査中、いずれ本部から報告がある」というものであった。
世界が違う以前に彼女たちは“1兵卒”の立場であるため、不用意なコメントはそもそも出来ないのである。
しかしそんな中でただ1人、足跡の縁で屈んでいる白衣を羽織った陸自娘がいた。
いつの間に市ヶ谷たちから離れたのか、大宮である。
「これはとんでもないテクノロジー臭がします…」
ぼそりと誰にとも無く言ったが、市ヶ谷は耳ざとく聞きつけた。
「大宮さん?」
大宮はゆっくり立ち上がりながら市ヶ谷たちを振り向いた。
「この足跡の持主、今どこですか?」
「さあ…」
返答に困りながら空を見上げると、ベイエリア付近だろうか、南の方角に、先ほどのジェット輸送機が小さく見える。
ビル陰からちらちらと見えるだけだが、どうやら同型機が2機、飛んでいるようだ。
ほぼ同じ場所を旋回しているように見えるため、もしかすると先ほどの“騒動”が収束したのかも知れない。
「さっきのジェット機……同じところを旋回してるね、収束したのかな?」
「……あんなへんてこメカをどうやって止めたんだ? でかいし速いし、戦車くらいじゃ無理だぞ」
「迎撃した感じでもなさそうですね……あのメカに故障でも起きたんでしょうか?」
大宮の眼にサイコパスの色が浮かぶ。
「興味深いですね…バラしてみたい」
「はあ…」
いつもの調子の大宮を市ヶ谷が窘めようとした…
その時だった……ふと装甲車が1台、交差点を曲がって彼女たちに近づいてきた。
「――おいお前たち、どこの所属だ? 自衛隊のようだが」
装甲車からは太い男性の声が響く……不思議なことに“声の主”は装甲車から出てこようとしない。
“普通の自衛隊員らしからぬ”彼女たちの姿に警戒しているのだろうか。
「えっ!? ……えぇとあの、私たちは――」
やや困惑の表情をして、市ヶ谷が応対する……特別なことを話したわけではないが、
彼女の推測では、ここは“異世界”の可能性が高いため、知っている情報が噛み合わない可能性はあるだろう。
そうなって疑われた場合は、正直に自分たちの“正体”を話すつもりだった。
すると装甲車のドライバーらしい“隊員”は、市ヶ谷の話を聞いて、しばらく黙り込んだ。
「あ、あの……荒唐無稽な話かも知れませんが……決して怪しい者では――」
「分かった。これから誘導するから付いてくるように、聴取の続きは立川駐屯地で行う」
あっさりとした応対に、市ヶ谷は拍子抜けしたような気分になった。
疑われている可能性もあるが、目立った警戒の素振りはない……相変わらず隊員の姿は見せないが。
「……は、はぁ……皆さん、取り合えず指示に従って移動しましょう」
「何だかいけすかねぇな……警戒してるのか知らんが、顔も見せないって失礼じゃないのか?」
隣の茜が肩をすくめる。
「……見せられない“事情”でもあるのかもね?」
「事情って何だ?」
「さあ?」
一方、発進指示を無線で連絡していた市ヶ谷は、別の声を受信した。
「こちら座間、応答願います!」
ハッとして市ヶ谷は送話ボタンを押す。
「はい、市ヶ谷です!座間さんまで!?」
どうやら川向こうの新田小学校に設置されていた指揮所までゲートの異変に巻き込まれたらしい。
「やっぱりここって別世界ですか!?」
「そのようです。そちらの状況は?」
「私の他に明野さん、北富士さん、Sタンク(スウェーデン出身の武器娘、Strv103主力戦車)さんも一緒です!」
因みに指揮所の方では、校内の生徒や先生が窓からジロジロとこちらを見下ろしており、4人はその視線を痛い程に感じながら無線の前にいた。
「分かりました。では詳しい話は後にして、私達についてきてください。立川駐屯地まで移動します」
座間仁菜は、どういう事だろうと他の3人と顔を見合わせたが、市ヶ谷の指示に従う事にした。
「はい、分かりました。でもヘリに機材を載せないと…」
「ああ、そうでしたね…では、とにかく立川駐屯地まで。案内の人に事情は説明しておきます」
「了解しました!」
無線を切ると、座間達は早速作業に移った。
指揮所に停めていた軽装甲機動車は北富士に立川駐屯地まで運転させ、小学校前の路上に停めていた重機関銃搭載のジープは輸送ヘリに収容して指揮所の機材と一緒に空輸する事にした。
★ ★ ★
1時間後――市ヶ谷たちは立川基地の正面玄関にたどり着いた。
「立川駐屯地か……」
誰ともなく、習志野が呟いた……“陸自娘”たちも、首都圏に位置するこの基地は良く知っている。
“同じ世界の立川基地”ではないのかも知れないが。
「見てみて、倉庫の壁に弾痕があるよ?」
「本当ですね……この基地も、マグマ軍の襲撃を受けたのでしょうか?」
「え、でも、ここは異世界じゃなかったの?」
さっきよりも“人口密度”が上がった装甲車内で、ざわざわと少女たちが会話する。
「異世界にもマグマ軍が襲撃したのかも知れませんよ。過去にもそのケースがありましたし」
「じゃあ、やっぱりあのへんてこメカはマグマ軍か!?」
……とか何とか言っているうちに、誘導していた装甲車が止まった。
そこは基地本部に当たるビルの裏側だった。
誘導していた装甲車が反転して、ハザードランプを点滅した……降りろということか。
少女たちは思い思いに乗っていた車両の扉を開け、外に降り立つ。
間もなくビルの中から、40歳台の男性が2人、出てきた……1人は黒い作業服で、1人はスーツ姿である。
迷彩服の人間が1人もいないことに、茜や習志野は不思議そうな表情をする。
「ようこそ、立川駐屯地に……防衛省特殊事態調査室室長の黒木です」
「副長の木乃です」
「えっ……防衛省……何ですって!?」
聞き慣れない名前を耳にした市ヶ谷が、思わず聞き返す。
そんな市ヶ谷の反応を見た黒木と木乃は、意味深な表情で顔を見合わせた。
「江戸川区の現場にいたと伺いました……“異世界から来た”と言われたそうですね?」
「あ……は、はい。荒唐無稽な話だとは思われるでしょうが――」
「なるほど。確かに“普通は”そうでしょうな」
「――えっ!?」
再び市ヶ谷の顔が困惑の色を帯びた……いや、茜や習志野、鯖江も同じような表情になっている。
この木乃と名乗るスーツ姿の男性は、彼女たちの“荒唐無稽な話”を必ずしも否定しなかったからだ。
「……マクスレッジ殿。 彼女たちの誠意に失礼になります、顔を見せてあげてください」
ふと木乃は、彼女らを誘導してきた装甲車に向かって、少し大きめの声で語りかけた。
そして少女たちは、全く予想もしていなかった光景に遭遇した。
突然――ガチャリとギアを切替えるような音と共に、装甲車がパズルを組み替えるように変形したのである。
「えっ……えぇっ!?」
「ちょっ……どういうことだよ!?」
唖然とする少女たちの目の前で、装甲車は身長4mほどの“ロボット形態”を取り、再び話しかけてきた。
頭部と思しきボンネットの上のパーツには、2個の“目”とメタリックな“口”が付いている。
「驚かせて済まない、私はオーディアンのマクスレッジ、先ほどの形態は“擬態”だ」
「……ウソ、マジ?」
「顔を見せないと思ったら……こういうことだったのね」
「非礼をお詫びします……何分こうした事情なので、こちらも“真実”をすぐには打ち明けられないのです。
皆さんが言われる通り、確かに“異世界からの来訪”は常識をはるかに超えた事態と言えますが、
今の“この世界”に関して言えば……そうした事態が既に何度も起きているのです」
ここが異世界かも知れないという予感は既にあったが、まさか“現地人”がその可能性を受け入れるとは。
呆気に取られるとはこのことだ……開いた口が塞がらない“陸自娘”たちに、木乃は更に言葉を続ける。
「江戸川区でマクスレッジ殿が皆さんを発見したという1報を受けて、まさかと思っておりました。
自衛隊車両に、普通の自衛官とは違う服装の若い女性が乗っていると……」
「つ、つまり……皆さんも既に“異世界の干渉”を経験していると?」
「そうですね、そしてこれからもこうした事態が繰り返し、起きるだろうという予測を立てています」
そう語った後、木乃は空に顔を傾けた。「ところで、ヘリの方はまだですかね?」
座間の要請で、市ヶ谷が事前にマクスレッジに新田小学校にいる仲間がヘリで後から来ると伝えていた件だ。
噂をすれば何とやらで、ヘリのローター音が聞こえ始めた。
陸自娘達はすぐに、それがCH-47JA輸送ヘリコプターの音だと聞き分けた。
それが合図かのように、市ヶ谷の無線に明野の声が入った。
「こちら明野、ただいま到着しました!」
「了解。その高度を保って待機して下さい」
「了解!」
一旦無線を切ると、市ヶ谷は木乃に指示を仰いだ。
「着陸場所ですが…」
「少しお待ちを」
木乃は予め用意していた無線機をポケットから取り出し、管制塔に繋いだ。
「管制塔、今のヘリがさっき話していた機体です。周波数はさっき伝えた通り…はい、誘導お願いします」
管制塔のオペレーターの返事を聞いてから木乃は無線をポケットに戻した。「これで大丈夫です」
「有難う御座います」
それから間も無く、管制塔の指示を受けた輸送ヘリは、指定のヘリポートの上へ重そうにどしりと着陸した。
後部扉が開くと、陸自娘にとっては予想外の出来事が展開した。
バイクの起動音がしたかと思うと、偵察バイクに乗った背の高い女性がヘリの中から出て来たのだ。背中には巨大な狙撃銃を背負っている。
「あれ…?」
松本亜衣璃がその女性を凝視した。
隣に立つ豊川カルラが女性の名前を言う。
「出浦さん…」
「いつの間に?」
困惑する市ヶ谷。
向こうでは、バイクに乗ったまま出浦信が手を振って来た。
困惑する市ヶ谷達に、黒木が首を傾げた。
「あの人、お仲間では…?」
「あ、はい。そうなんですが…その…部隊編成には組み込まれてなかった人で…」
「んん?」
黒木に木乃、マクスレッジまでもが困惑に巻き込まれてしまった。
木乃が機転を利かせて話を進めた。
「ええ…まぁこんなところで立ち話も何ですから、会議室に行きましょうか」
ここでネタばらしすると、出浦信は特殊作戦群所属で、市ヶ谷達の部隊とは別行動で、極秘にゲートを単独調査する命令を受けていた。
ところが一緒に異世界に飛ばされてしまったので、座間達と合流して便乗してきたのである。
市ヶ谷に出浦合流の報告をしようとした座間に、出浦はこう言った。
「そんな事より立川に行くのが先決じゃない?」
そ、そうか(困惑)。
★ ★ ★