公開日 2022/10/2
一部修正 2023/6/3
※この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません
本編
テイパア王国――22年前、勇者アレンが悪魔の拠点から持ち帰ったとされる宝玉「大秘宝Tapir」の強大な力により、大きな発展を遂げた国である。虹色に輝くこの大秘宝の持つ魔力は大地に恵みを与え、災害を防いでいると語り継がれている。王国は技術者たちの努力によって完成した制御装置でこの力を安定させることに成功した。現在、大秘宝はテイパア王国城の内部にある専用の部屋で、制御装置に繋がれた状態で置かれている。王国民たちは平和で豊かな生活を謳歌していた。そう、あの日までは。
ある夜、城壁近くに黒いローブを羽織った数人の人物が集まった。夜で暗かったことや、長年の平和に慣れてしまっていたことから、この集団に気づく者はいなかった。
「偵察担当によれば、ここからなら守りの薄いところを突けるらしい」
集団の先頭に立つ人物が話を始める。この人物がリーダー格なのだろう。
「僕の合図と同時に一斉攻撃して突入。皆には守備隊を足止めしてほしい。その間に僕が大秘宝を取ってくる」
話を終えると、突如その人物の手から紫の光が伸びた。光が剣のような形を取ると、その腕を城壁に向かって振りかざした。光の剣は轟音と共に城壁をえぐり、人が出入りできるだけの穴を開けた。
「今だ! 突撃!」
「うとぴあ様に続くぞ!」
リーダー格の人物――うとぴあの合図と共に、黒いローブの集団が城壁の内側へと突入した。
うとぴあ達の前に、城壁が破壊される音を聞いた守備隊が駆け付けた。守備隊は各々が剣や槍で武装している。
「お前たち! そこで何をしている?」
「来たか。予定通り、ここは皆に任せる」
守備隊が黒いローブの集団と戦う中、うとぴあは城の内部への侵入に成功していた。
「……あっちか」
何かを感覚で察知し、城の中を進んでいった。道中鉢合わせした警備兵が抵抗したが、高い戦闘力を持つうとぴあの前では無力だった。やがて彼は、他とは明らかに雰囲気が異なる頑丈な鉄の扉にたどり着いた。
「感じる。大秘宝はこの奥にある」
うとぴあは両手を前方に構えて自身の魔力を集めると、それを扉に向かって撃ち込んだ。分厚い鉄の扉もこのパワーに耐えることはできず、中心部がへこんだ直後、部屋の内側へ向かって吹き飛んでしまった。
「さて、後は大秘宝を持ち帰るだけ……」
「待て!」
突然の声に驚いたうとぴあは歩みを止めた。彼の前には、カラスのようなマークがついた黒いマントを羽織った男が立っていた。
「誰だ?」
「僕は
ヒガシ。この大秘宝Tapirの守護と管理を任されている」
うとぴあの問いに、ヒガシはそう答えた。ヒガシの背後には、虹色に輝く卵型の宝玉――すなわち大秘宝Tapirが安置されている。大秘宝からは数本のケーブルが部屋の壁や床に向かって伸びていた。
「悪魔なんかに、この大秘宝を奪われるわけにはいかない」
「大秘宝Tapirはもっと神聖に扱わないといけない。そんな風に機械に繋ぐような奴らのところにあっちゃいけないんだよ」
うとぴあはヒガシを睨みながら、右手に光の剣を発生させた。
「やっぱり戦うことになるか」
ヒガシは腰から短剣を取り出し、うとぴあに向けた。
「抵抗しなければ痛い目に遭うこともないのに……ハアッ!」
そうつぶやいた後、うとぴあはヒガシに向かって斬りかかっていった。ヒガシは短剣ひとつでそれを迎え撃つ。
「そんな短剣で何ができる?」
うとぴあは短剣よりはるかに長く形成された光の剣を振り下ろす。ヒガシはそれを短剣で切り結ぶように受け止めた。
「こうすることができる」
「何!? そんな短剣でなぜ?」
「こっちだって、ある程度の魔力は操れるさ」
そう言うと、ヒガシの短剣が青白く光り始めた。彼の魔力が短剣に集約されつつあるようだ。
「なるほど。魔力を駆使して僕の刃を受け止めたのか」
状況を理解したうとぴあは、一旦後ろに下がると右手の光の剣を引っ込めた。
「短剣一本で僕の攻撃を凌ぐとは、大したものだ」
「僕も伊達にここを任されているわけじゃない。わかったらさっさと撤退してもらおうか」
ヒガシは短剣を前に向け、一歩ずつうとぴあに迫っていく。
「しかし……僕だって伊達に守斬魔の異名をもらっているわけじゃない!」
宣言と同時にうとぴあは両手から光の剣を発生させてヒガシに突撃した。
「くっ……」
ヒガシは咄嗟に回避したが、マントの半分ほどが切り裂かれた。
「守斬魔……悪魔の中でも、敵対する者の防御をその刃で破壊しつくすというあの守斬魔だと言うのか……」
「その通り。僕が守斬魔だからこそ、今ここにいる」
「なるほどね……強いわけだ」
戦いの中で、うとぴあが守斬魔の異名を持つことに納得したヒガシは内心状況が厳しいことを理解しつつあった。しかし、それでも彼は怯まずに短剣を構えた。
「ほう、僕の強さを知ってもなお戦う気か。面白い」
うとぴあが突撃し、2人の剣がまたぶつかり合った。
その後も激しい戦いが続いた。部屋にはいくつのも斬撃の跡が残り、大秘宝と繋がっていたケーブルもほとんどが切断されてしまった。
「はあ……はあ……」
ヒガシのマントはボロボロになり、息も荒い。対するうとぴあは、まだまだ体力に余裕がありそうだ。
「どうする、降参して一緒に来るというならこれ以上の攻撃はやめるけど?」
「嫌だね……これほどの力を秘めた宝玉だ、悪魔に渡したらこの国はどうなってしまうか……」
「そうか……ならば死ぬといい」
うとぴあが光の剣を出してヒガシに迫る。ヒガシは何とか立ち上がり、右手で大秘宝に触れた。
「ちぱ――」
「これで終わりだ」
ヒガシが口を開いた直後、光の剣が彼の胸を貫く。
「ウッ……がはっ」
攻撃が急所に直撃したヒガシは、血を吐いてその場に倒れた。
「大秘宝は返してもらおう」
「ま……て……」
ヒガシは最期の力を振り絞って抵抗を試みるが、大秘宝に手を伸ばすうとぴあを止めることはできなかった。
大秘宝を持ったうとぴあは無言で部屋を立ち去った。この後、守備隊と戦っていた集団も撤退していった。後には鎧や武器を破壊されて倒れた守備隊の面々が残った。
翌日、テイパア王国では昨夜の襲撃事件が一大ニュースとなっていた。特に、国に恵みを齎していた大秘宝Tapirを奪われたという情報は、国民に大きな不安を与えていた。
王室では、ヤマト国王と
ウィークエンド大臣が今後の対応について話していた。
「生存者の証言によれば、襲撃犯は悪魔の集団ということか」
「はい。リーダー格の悪魔は光の剣らしきものを振るっていたという発言もありました」
「なるほど、幹部級の悪魔の侵入を許した可能性が高いな……」
証言から情報を整理していた2人は、徐々に状況が厳しいことを認識していった。
「ヤマト国王、このままではこの国は……」
「わかっている。この国には大秘宝Tapirが必要だ。すぐに奪還のための部隊を出す必要がある」
大秘宝が必要だと語るヤマト国王の表情は険しい。
「守備隊から部隊を編成しますか? しかし守護者のヒガシ氏が倒されたとなると……」
守備隊はテイパア王国の主要戦力であるため、ウィークエンド大臣が真っ先に提案するのも当然である。しかし、守備隊は昨夜の襲撃で消耗しているうえ、ヤマト国王からすれば戦力に不安があるようだった。
「いや、守備隊ではダメだ。彼らに頼もう」
「彼ら……クリスタルファミリーですか?」
テイパア王国の特殊部隊「クリスタルファミリー」――略してクリファミと呼ばれる彼らは普段から訓練や専用武器などの開発を行っている他、密かに諜報活動を行っているとの噂もある。
「そうだ。すぐに連絡を!」
「はっ!」
指示を受けたウィークエンド大臣は王室を飛び出していった。
第二章へ続く
資料集
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※ネタバレを含むので本編を読んだ後の閲覧推奨 |
今回の主要人物
勢力:テイパア王国
役職・肩書き:大秘宝の守護者
王国から大秘宝Tapirの管理と防衛を任せられていた。高い魔力とそれをコントロールする技術を持っており、短剣に魔力を集約して性能を高めるのも高度な技術のひとつである。かつてはある盗賊団に所属しており、戦闘技術はその頃に習得したものが多い。マントに付いているカラスのマークは、その盗賊団のエンブレムである。
勢力:テイパア王国
役職・肩書き:国王
テイパア王国の国王。クリスタルファミリーに大秘宝Tapir奪還の命令を出す。大秘宝の力による平和な国家運営を望んでいる。
勢力:テイパア王国
役職・肩書き:大臣
テイパア王国の大臣であり、実質的にヤマト国王の側近でもある。
勢力:悪魔軍団
役職・肩書き:三魔衆・守斬魔
悪魔軍団の中でも高い戦闘力を持つ「三魔衆」と呼ばれる人物のひとり。三魔衆はそれぞれ固有の肩書きがあり、うとぴあは「守斬魔」の異名を持つ。高い魔力によって光の剣を発生させることができ、これで敵の拠点や陣地を突破していったことからこの肩書きがついた。
今回も守斬魔としての能力を期待され、大秘宝奪取の任務を担当した。
次回予告
襲撃の翌日、ヤマト国王は特務部隊クリスタルファミリー(通称:クリファミ)を招集し、彼らに大秘宝の奪還と悪魔の指導者である大魔王の討伐を命じる。命令を受けたクリファミは作戦準備に取り掛かる。出撃前、武器商人ヤレヤレはクリファミにある物を託すのだった。
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最終更新:2023年06月03日 23:17