ゼータの悲劇

地球は、太陽を中心とした太陽系に属している。
そして太陽系は、多くの銀河系を含む天の川星団-ミルキースペースに属している。
天の川星団-ミルキースペースは小宇宙-コズモ-の一つなのである。

小宇宙の外側には無限の空間が広がっている。
この空間をまとめて大宇宙-コスモ-と呼ぶ。
大宇宙には、地球がある小宇宙と同じような小宇宙が数えきれないほど存在し、Aゾーンは数ある小宇宙の一つなのである。

これは今から遠い昔,Aゾーンで起きた物語である。


~異界空間-Aゾーン・中心母星・王城~

王室の扉が騒がしく開き,どかどかと音を立てて室内に入る。
ウォリアー「マザー,報告がある」
猛々しい爪を研ぎながら,銀色のエーリアンが話し出す。
ウォリアー「あの人造天使野郎,俺の攻撃をはじき返しやがった。ただまぶしいだけなのによ!!」
ウォリアー「俺の力はこんなもんじゃねぇ。今度も俺に行かせてくれ!!」
ゼータ「ふむ・・・あなたの力強さがあれば心配ありません」
満足した銀色のエーリアンはスキップ交じりに部屋を後にした。

王室の扉が華麗に開き,優雅に腕を振り上げながら部屋に入る。
ハンター「マザー,報告に参った」
スッと伸びた尻尾を振りながら,青色のエーリアンが話し出す。
ハンター「あそこのコスモは質がいい。見てください,この輝きを」
ハンター「そうですね・・・ブループラネットという名前はどうでしょう?」
ゼータ「ふむ・・・機会を見つけて私も足を伸ばしてみたいものです」
満足した青色のエーリアンは更なるハントに意気揚々と部屋を後にした。

王室の扉が静かに開き,隙間をぬるりと抜けて室内に入る。
マーズ「マザー、報告があります」
数本の触手を器用に動かしながら、赤いエーリアンが話し始めた。
マーズ「暗黒エネルギー(D・E)の持つポテンシャルは計り知れません」
マーズ「この研究が成功すれば,Aゾーンだけじゃなく多くのコスモが頭を悩ますエネルギー問題を解決できます」
ゼータ「ふむ・・・期待してますよ」
赤色のエーリアンが部屋を出るとほぼ同時に,マザーの前に異形のエーリアンが佇む。

ゼノモーフ「失礼つかまつる」
ゼータ「・・・おぬし,矮星への派遣を申し付けたはずだろう」
異形のエーリアンはしゃがれた声で答える。
ゼノモーフ「ふぉふぉふぉ、まだワタクシにはやるべきことがありまして。それを終えるまでは母星を離れるわけにはいきませぬ」
ゼータ「我に歯向かうというのか。あの時命を奪わなかったのは間違でしたか・・・」

ゼノモーフ「おそろしや,おそろしや。マザーの【天命】の前には,この老体は何の太刀打ちもできませんて・・・」
ゼータ「もうよい。下がれ」
ゼノモーフ「仰せのままに」

マザーエーリアンは【天命】のSPECを持つ。
大宇宙が誕生した気の遠くなる時間の奥底で発現した『三天のSPEC』のひとつ。
【天命】は生物の”命”を自在に操る。魂の創造さえも。

【天命】は代々マザーエーリアンが受け継いできた力である。

しかしゼータは【天命】を使おうとはしなかった。
”命”を生み出すのは生物の理で十分であり,ましてや”命”を奪うなどもってのほかなのだ。
ゼノモーフもそれを知っていて,ゼータとのやり取りを楽しんでいるのだ。

ゼノモーフだけではない。
多くのエーリアンが代わる代わる部屋に来ては一方的に話して満足し部屋を後にする。
彼らにとってゼータとの語らいは何よりの楽しみなのである。


~~

ウーウーウー
城内をけたたましいサイレンが木霊する。
ゼータ「何事です。サイコ,他のエーリアンからの報告はありますか?」

サイコ「あのぉよろしいですかぁ?」
可愛らしいエーリアンがいつの間にかマザーの前に現れた。
といっても、日常的なことなので誰も驚いたりはしないのだが,状況が状況だ。

ゼータ「ふむ、どうだ?サイコよ」
サイコ「まーずによればでぃーいー(D・E)をきゅうしゅうしたえーりあんがあばれだしたぁ」
サイコ「ひがいのひろがりがじんじょうじゃない。えーぞーんのはじまでひろがった!!」

ゼータ(暗黒エネルギーは未知なる部分が多かった)
ゼータ(・・・私がこの子達を守らなくては!!)
ゼータ「グレイ、おるか?」

グレイ「ココニ」
ゼータ「”あれ”を持ってきてくれぬか」
グレイ「・・・ギョイ」

グレイ「コレヲ」
ゼータ「いつもすまぬな。おぬしのそのしたたかさ決して忘れはせぬぞ」
グレイ「マザア・・・(ああマザー行かないでください。ああどうして僕は多くをしゃべれないんだ。伝えたいことがたくさんあるのに。ああ・・・)」

ゼータがグレイから受けとったのは小型の爆弾。
細長い筒状で,先端には赤いランプがついている。
胴部はガラス張りであり内部は緑色の液体で満たされている。

D・Eの研究過程で偶然発明されたこの爆弾は,起動から爆発までの間に周辺のD・Eをほぼ100%吸収する。
ゼータは爆弾を抱えるだけかけて,そして王城を飛び出した。
Aゾーンは数百光年に及ぶ大きさを誇る巨大コスモである。

ゼータ「Aゾーンの全てのエーリアンからD・Eを吸収しなくては」
ゼータ「この身がどうなったとしても・・・」

ドーーーーン!

爆弾のひとつがAゾーンの外側で爆発した。
光速をも超えるスピードでAゾーン中を飛び回り,爆発する直前にAゾーンの外へ。
ゼータは爆発の影響が無いかのように,残りの爆弾を抱えたまま飛び続ける。

【天命】である。

ゼータは自らの”命”を【天命】によって創造し,死を回避していたのだ。
しかし肉体へのダメージは回避できない。

ドドーーン!!

肉体へのダメージは回避できない。
ぼろぼろになりながら,ゼータはAゾーンにいる全てのエーリアンと接触し,全てのD・Eを爆弾の中に封じ込めた。
そして,最後の爆弾が爆発した・・・

ドドドドドドドドーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!!!!

遠視能力によってゼータの動向を見ていたサイコの思念を,テレパスがAゾーンにいるエーリアン全てに伝える
故にエーリアンは同時に理解した。
ゼータの肉体がこの宇宙から消滅したことに。

ゼノモーフ「一大事!!一大事でござる!!」
ゼノモーフ「マザーが・・・マザーが・・・うっうう・・・」
Aゾーンは深い悲しみで包まれた。


後に「ゼータの悲劇」と呼ばれるこの事件を機に,エーリアンはD・Eから手を引いた。
二度とこの悲劇を繰り返さないために。
・・・失ったものの大きさを忘れないために。



~新たなマザーとルナ~

エーリアン【ルナ】「きゃはは。もっとはやくはしれー♪」
ゼノモーフ「姫様これ以上はむりであります。爺は老体なのですぞ」
マザー「といいながら楽しそうだぞ?ゼノモーフよ」

「ゼータの悲劇」からしばらくして,新たなエーリアンが誕生した。
ゼータが最後に残したエーリアン・エッグには,双子の赤子の命が芽吹いていたのである。
一人は母なる存在を継ぐ「マザー」,そしてもう一人がD・E耐性を持った「ルナ」。

マザーは誕生後すぐに成長しその地位を確立したが,ルナの成長は地球人と比較しても遅かった。
ルナの興味は底知らず,エーリアンのタブーであるD・Eにも強い関心があったようだ。
そしてその興味は突然に爆発する。

青色のエーリアンの発言がすべての事の発端である。
ゼータとの語らいを思い浮かべながらの独り言は,ルナを突き動かすに十分だった。
ハンター「そういえばブループラネットにはD・Eを自在に扱う生き物がいました」


~赤き龍誕生の一端~

ゼータの肉体の消滅の折,赤いエネルギー体が誕生した。
【天命】によって生まれた最後の命。
のちに赤き竜として語り継がれる存在。

Aゾーンの外を飛び回る赤いエネルギー体は,周囲のD・Eを抱えるようにして集め,そしていつの間にかどこかへといってしまった。
ついでに彼女もいなくなった・・・
エーリアン【ルナ】「ブループラネット目指してかっとべー♪」

ゼノモーフ「あわわ・・・姫様が・・・家出を・・・」
マザー「家出だと?私には地球に行ってくるね(はーと),と断りを入れていったぞ?」
ゼノモーフ「なんと!気づいていながら姫様をお一人でAゾーンの外に出すなんて・・・」

マザー「心配しすぎだ。ルナは強い子だ。それにな・・・」
マザーの手には小型の映像投影装置が置かれていた。
マザー「マイクロブを一緒に連れて行かせた。何かあったらすぐに分かるよ。それに・・・」

マザー「きっとゼータが,見守ってくれるはずだから・・・」


~ゼータの魂の行方~

ゼータの肉外は消滅した。
しかし魂はどこへ消えたのか。
なぜマザーエーリアンに【天命】が受け継がれなかったのか。

その答えは・・・ゼータの魂は今も存在している事実。
肉体を失いながらも,その魂は【天命】をはらんだまま”空間”そのものになったのである。
のちにこの空間はZスペースと呼ばれることになる。

あるいは・・・「空白の次元」・・・と。
【天命】が内在する空間で,ある地球人の強い意志がきっかけとなり,”命”が誕生する。
しかして,それはまた別の話。


~発現する【純然たる悪意-InV】~

ウーウーウー
城内をけたたましいサイレンが木霊する。
マザー「これは・・・まさか・・・」

マザーは直接体験したことは無い。
しかしその異常さを前にして即座に理解した。
マザー「消滅したはずのD・Eが・・・エーリアンの体内に・・・」

凶暴化するエーリアンを前にして,マザーははすすべが無かった。
【天命】もなく,ルナのようにD・Eの耐性が無いマザーはただ祈るしかなった。
マザー(ゼータ・・・どうか救済を・・・)

ガタガタッ
王室の扉が乱暴に開かれた先にいたのは,老いた肉体の脆弱さなど微塵も無い,変わり果てたゼノモーフだった。
ゼノモーフは,【純然たる悪意-InV】が発現していたのである。

マザー「!!」
ゼノモーフ【InV】「ぐははははは。力が満ち溢れてくるぞ!!」
立ちふさがるエーリアン特殊部隊を片手でなぎ倒す。

ゼノモーフ【InV】「お前たちにもいい思いをさせてやろう!!」
ゼノモーフの腹部から生えた太い触手がソルジャーを貫く。
それと同時にソルジャーの体内にD・Eが強制的に注入される。

マザー「あなたがやったのですか・・・AゾーンのエーリアンたちにD・Eを強制的に注ぎ込み暴徒化させたと・・・」
ゼノモーフ【InV】「Aゾーンは俺様のものだー!!ぐははははは!!」
ここまでか・・・マザーの希望が消えかけたそのとき。

(あの時命を奪わなかったのは間違いでしたか)

どこからとも無く”声”が聞こえる。
ゼノモーフ【InV】「!!この声は・・・ああ,あああ」
何も無いはずの空間につかまれて,ゼノモーフの巨体が宙に浮く。

ゼノモーフ【InV】「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
何も無いはずの空間が,ゼノモーフの身体を雑巾のように締め上げていく。

ズガガガガガガッガガガガ

二連射の攻撃がゼノモーフを貫く。
リベンジャー「マザーお怪我はありませんか」
ヒュプノ「あぶないところだったね」

マザー(今のはヒュプノの念動力・・・いやそれだけじゃない・・・)
マザー「意識のあるエーリアンに告ぐ。われわれの力では同胞を救済することはできない」
マザー「だからといって希望を捨てるではないぞ。ルナがいるブループラネットへいくのだ」

マザー「全ての同胞を母艦に乗船させよ。D・Eの支配下に落ちても他の同胞を信じよ」
マザー(ルナ・・・お前にかかっている・・・どうか救済の道があらんことを・・・)
マザー(ゼータ・・・あなたの声が・・・あなたの声が聞こえました・・・)



【InV】「・・・・ただじゃいかせねぇ・・・地球・・・地球・・・ぐはははははああああああああああああああああ」
【純然たる悪意】のほんのわずかな思念が地球へと送られた。
そしてその信号が,モーメント装置にキャッチされるのにそう時間はかからなかった。



~地球~

マイクロブ「Aゾーンがぶない。もすぐエーリアンやてくるう」
瑠奈(いまいち要領を得ないんだよな・・・もう年だな,こいつ)
瑠奈「みんなが来るまでに浄化の算段をしないと」

瑠奈「でも安心して。地球人の【コネクト】があればすぐに浄化できるから」
瑠奈「でもちょっと不安だな・・・絶対にD・Eの影響を受けないとも限らないし・・・」
瑠奈「D・Eへの強い耐性を持った決闘者を探さなきゃ」

マントを羽織り,彼女は夜の街へと姿を消す。
ある始まりの前に,ひとつの物語が終わりを告げた。
もうじきソラには,大きな大きな満月が浮かぶ・・・そんな夜だった。
最終更新:2012年10月20日 21:46