嗚呼、我ら地球防衛軍』 第51話

艦艇不足に苦しむボラーは地球と取引を行い、旧ガトランティス帝国軍艦艇と引き換えにハイパー放射ミサイルの技術を含む
ディンギル帝国製の技術を地球側に提供した。
 詳細な内容が書かれた書類を議長室で読み終えた議長は、書類を机に置くと苦笑した。

「また真田&大山コンビの仕事が増えたわけだ。まぁ仕事がないよりはマシと思ってもらうしかないな」

 お疲れ気味の本人達が聞いたら激怒しそうな内容をのたまう議長に、秘書はすかさず突っ込んだ。

「増やしたのは議長でしょうに……このままだと真田さん、過労死するのでは?」
「万が一の事態に備えて医療体制は整えている。それに名無しの技術者だって頑張っているから、負担も極端には増えないだろう。
 それに……」
「それに?」
「不幸というのは皆で分かち合うものだろう?」

 議長の前にはこれから読まなければならない書類が積まれていた。
 これでも可能な限り減らされたのだが、それでも防衛軍の三軍(宇宙軍、空間騎兵隊、地上軍)を統括するとなると仕事量が
半端ではないのだ。

「私が幸せだったら、少しは他人を思いやる余裕もあるんだが……」
(うわ、この人、最悪だ……)

 黒い笑みを浮かべる議長を見て秘書官は腰が引けた。

「……冗談だ。そう引くな」
「冗談には見えません。むしろ本気に見えます」
(半分は本気だがな。くそ、この地獄から逃れるためには、仕事の効率をもっと向上させなければならないか)

 そう小さく呟くと、議長は右手にある書類に目を向けた。  

「第9艦隊の新設と3個艦隊を基幹とした攻性部隊の創設……これを進めないと」


 十十十艦隊計画と並行して、議長は遠隔地にある敵本拠地への侵攻を考慮した攻性部隊の創設を提唱していた。
 第7艦隊、第8艦隊(臨時編成から常設へ)、第9艦隊(新設)の3個艦隊を中核とし、これにα任務部隊等の独立部隊を加えた
遠征軍をもって敵本拠地を攻略(又は殲滅)するというのが議長の主張だった。

「それやったら、もう防衛軍とは言えないのでは?」

 日系の実力者からはそんな声が出たが、北米や欧州出身の白人層からは高い支持を受けた。
 彼らは殴られっぱなしで泣き寝入りする民族ではない。

「一発ぶん殴られたら、百発以上殴り返して、相手の足腰が立たなくしてやる!」

 それが彼らのクオリティだった。
 北米州は必要ならアリゾナやアイオワなどの新造戦艦を攻性部隊に加えることも躊躇わないという始末だ。 
 尤もそこには些か生臭い理由もあった。そしてその理由を議長は悟っていた。

(ヤマトやムサシ並の活躍をさせて、連邦内部での発言力を強化したいのだろう……)

 極東州、いや日系が連邦政府内部で幅を利かせるのはヤマトの活躍による物が大きい。
 日本がガミラス戦において力を温存させることに成功させていたこと、日本の宇宙艦隊が地球復興の立役者になったことも大きいが
やはりガミラス本星を滅ぼした上、イスカンダルからコスモクリーナーDを持ち帰ったという功績は誰も否定できないものだった。
 さらに最近では日系人が主流を占める防衛軍がガトランティス帝国をほぼ無傷で撃退するという戦果を挙げている。 
 かつての大国群が、「この辺りで自分達の立場を回復させたい」と思うのは当然の流れだった。 

「まぁ良い。この際、何でも利用してデザリアムを二重銀河ごと滅ぼしてくれる。何しろボラー軍は当面役に立たんからな」

 議長としてはボラーを対デザリアム戦役で盾に使おうと考えていたのだが、その目論見は水泡と帰した。
 故に防衛軍を少しでも強化するしかなかった。

「ま、3個艦隊と言っても自動艦が多いから、引き立て役にされて壊滅しても被害は最小限に抑えられる」
「黒すぎますよ、議長……」
「多少、黒くないとやってられないぞ。
 まぁ転生者仲間には、いや一人でも多くの宇宙戦士たちに、生きて地球に帰ってきてもらいたいとは思っているよ。
 そう、今後のためにも」



 一方、仮想敵とされたデザリアム帝国は極秘裏にボラー連邦に接触を行っていた。
 尤もボラー連邦は、イスカンダルで防衛艦隊によって一方的にボコボコにされたデザリアム帝国軍の実力を疑問視しており
頼りにならないかも知れない国と一緒になって地球と敵対するつもりはないと伝えた。

「あの狂戦士共と戦いたいのなら、自分でやってくれ。(今は)そちらに味方する気はない。
 ただ、地球に与して積極的に敵対するつもりも(今のところ)ない」

 これがボラーの本音だった。
 だがサーダはそれでも十分と判断した。

「対地球戦争で邪魔をしないというだけでも十分でしょう」

 スカルダートはこれを聞いて嘲笑する。

「それにしても、何と薄情な連中だな。友好国をこうも簡単に見捨てるとは」
「いえ、むしろ彼らは地球ならば単独で我々を退けることが出来ると思っているのでしょう。
 兵を引くのも、下手に巻き込まれて被害を受けるのを避けたいというのが本音かと」
「そして、ついでに我々と地球が消耗すれば良いということか。舐められたものだ」
「ですがここで短期間で地球を占拠できればボラーは手のひらを返して勝ち組に乗ろうとするでしょう。彼らもガミラスとの
 戦いで受けた損害を補填したいと思っているようですし。そして仮にそうなれば他の星系にいる地球軍を始末しやすくなります」

 この言葉を聞いた時、スカルダートは一瞬だが逡巡した。地球を叩くべきかどうかを。
 だがボラーが弱体化し、地球が事実上孤立無援となっているのは絶好のチャンスとも言えた。
 波動エネルギーを使う天敵を一刻も早く叩き潰し、加えてその生命力を手に入れるというのは、種として衰えつつある
デザリアム人にとって余りにも魅力的だった。 

「……よかろう。参謀本部に命じて、短期間で地球を陥落させる作戦を立案させる。情報は集まっているのだろう?」
「はい。ですが地球を制圧した後、次はボラーが脅威になるのは事実です。工作を進めておく必要はあるかと」
「良いだろう」

 こうしてデザリアムは地球攻略に向けて本格的に動き出す。


『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第52話


 議長の必至の根回しもあってか、第9艦隊の新設と、第7~9艦隊の攻性部隊化が決定された。 
 そして転生者たちにとっては究極の切り札である『あの男』が現場に復帰することになった。
 その人物は防衛軍司令本部の長官室で、長官直々に辞令を受けることになる。

「沖田君、病み上がりですまないが、地球のために再び頑張ってくれ」
「判っています。藤堂長官」

 沖田十三。イスカンダルへの航海を成功させた英雄。
 どんな不利な状況においても不屈の闘志と冷静さを失わず戦い続け、デスラーさえも一目置く男が長い入院生活を終えて戻ってきたのだ。

「沖田君には第7艦隊司令官兼タケミカヅチ艦長に就任してもらいたい。これに伴い、古代進艦長代理を正式にヤマト艦長に任命する」
「了解しました」
「第7艦隊には自動戦艦や、ガトランティス帝国軍の艦艇などが配備されている。
 自動戦艦は実験部隊である第01任務部隊で問題点を可能な限り潰しているが問題が発生する可能性はある」
「判っています。初めての試み故に問題は多いでしょう。しかし解決できないものはないと思います」

 沖田はこのとき、デザリアムとの戦いは不可避であると判断していた。
 故にいずれ訪れるであろう大反抗では、乗員の消耗を気にしなくても良い無人艦や、遠征に適している旧ガトランティス帝国軍の艦が
必要になると考えていた。 

「とりあえず第7艦隊は訓練漬けでしょう」
「必要な資材については優先して送る。これは議長や防衛会議も同意している」

 かくして第7艦隊は土方の訓練並にハードな訓練を課されることになる。
 この一方で、改装中のヤマトとムサシの下に、2隻の戦艦が送られることになった。



「新しい艦を配備すると?」

 α任務部隊司令官である古代守は、ムサシの第一艦橋のメインパネルに映る藤堂長官に尋ねた。
 この質問に藤堂はすかさず頷く。

『そうだ。議長はα任務部隊に大きな期待を掛けておられるそうだ。
 一部では過剰との意見もあったのだが、α任務部隊には主力戦艦2隻、『アーカンソー』と『ロイヤル・オーク』が配備されることになった」
「これで戦艦3隻、攻撃型空母(ムサシ)1隻の4隻。かなりの打撃力ですが、護衛艦は?」
『主力戦艦2隻が護衛艦のようなものだ。この2隻は波動砲を搭載せず、引き換えに装甲を厚くしている』
「波動砲を搭載しない?」
『そうだ。波動砲を撃つ前と撃った直後、艦は無防備になる。それをフォローするための艦だ。試作として2隻建造された。
 何しろ波動砲に頼り切るのが危険ということがこれまでの戦役、特にガトランティスとボラーの戦いで誰の目にも明らかになったからな。
 勿論、波動カードリッジ弾などの波動兵器も多数揃えている。火力は十分だろう』
「しかし、石頭たちがよく納得しましたね」
『心底納得はしていないだろう。だが何かしら手は打たなければならない。その一環だ』
「正規艦隊で大々的には取り組めない。だから独立部隊のα任務部隊でテストをしてみると?」
『そういうことだ。新装備のテストは第01任務部隊でも出来るが、やはり実戦データも必要になる。君達なら使いこなしてくれると
 議長も考えているようだ。それとコスモファントムも優先して送ると言われている』
「了解しました。議長の期待に応える為にも、全力を尽くします」

 こうしてα任務部隊はさらに強化された。 
 だが梃入れはそれだけではなかった。何とこの度、ズォーダー大帝さえ脅威と見做していた超能力者・テレサが正式にヤマトクルーとして
乗り込むことになったのだ。尤も表向きは超能力者と言うことは伏せているが……。
 また空間騎兵隊も強化され、斉藤を筆頭に『2』の主要な面子が送り込まれた。
 沖田艦長復帰やα任務部隊への梃入れの状況に関する詳しい報告を、議長室で聞いた議長は満足げに頷いた。

「山南さんは植民地星防衛の指揮を執ってもらわないといけないし、土方長官は太陽系防衛の任務から外せないが……まぁフルキャストだな」

 議長の言葉に秘書は頷く。しかしすぐに懸念を口にする。

「ここまで充実すると、あとが怖そうですが……」



 この言葉に議長は少し固まった。

「……二重銀河が吹き飛ぶ以上のことでも起きると?」
「否定は出来ないのでは?」
「ははは、まさか。銀河が消えてなくなる以上の大惨事なんて起きないだろう。いくら何でも……」

 そう言いつつも、議長は不安に駆られた。何しろ彼らは色々と前科がありすぎた。

「……いや、さすがに無いだろう。波動融合反応がいくら凄くても宇宙を崩壊させるようなことはないだろう」

 さすがに銀河が吹き飛ぶ以上の大災害を想像できなかった。そして議長はそこで話を切る。

「あとは重核子爆弾だな。出来れば太陽系外で迎撃したいが……」
「難しいのでは?」
「いやこちらに何時到着するかがある程度判れば何とかなる可能性はある。
 劇中では太陽系の各惑星の基地が次々に叩かれていたことから、地球を含む各惑星が直線上に並ぶ時期と考えることができる。
 重核子爆弾の能力からしても、正しい選択と言えるだろう」
「では?」
「その時期に特に警戒態勢を敷く。
 もしも太陽系に侵入されて一部の惑星の基地が全滅しても、基地に配備したロボットが詳細な報告を行うようにする。
 そうすれば各基地の要員を退避させる口実にもなる」

 そこまで読まれていることを知る由も無いデザリアム帝国は、地球の速やかな占領のために重核子爆弾を地球に向けて発射した。
 さらに地球本星攻略を担う地球攻略艦隊も出撃していく。ただしその艦隊はゴルバこそないが、当初の予定より大幅に増強されていた。

「一気に叩くのだ。油断はならん」

 スカルダートは通信機越しに、巨大戦艦ガリアデスに乗る攻略艦隊司令官カザンにそう命じた。
 命令を受けたカザンは自信満々に答える。

「お任せください。あの星をすぐに我が帝国の版図に加えてみせます」

 かくしてデザリアム戦役が始まる。


『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第53話

 天体観測の結果、議長は太陽系の各惑星がほぼ直線上に並ぶ時期を特定した。
 これを受けて議長は様々な理由をつけて(でっち上げて)、その時期にあわせて特別警戒を行うように根回しをした。
 一部の人間はこれに不審に感じたものの、その理由を理解している転生者たちは、ガトランティス戦役を上回る戦乱に
なるであろうデザリアム戦役がいよいよ始まることを理解した。
 連邦政府ビルの一角で行われる転生者たちの密談も、デザリアム戦役の話題でもちきりだった。 

「いよいよですな」

 転生者たちは、迫り来るデザリアム戦役に緊張を隠しきれなかった。

「議長、防衛軍はどのように彼らを迎え撃つおつもりで?」
「まずは情報収集だ。太陽系外で重核子爆弾や敵の侵攻艦隊を察知するためにパトロール艦隊を増派する。
 発見次第、艦隊を派遣して目標を破壊。艦隊決戦は基地からの支援が期待できる太陽系外縁で挑む。
 太陽系外で訓練中の第7艦隊も呼び戻しているから、タイミングを合わせれば敵艦隊を前後で挟撃できる。
 ただし重核子爆弾によって派遣した艦隊が無力化される可能性もある。
 もしも乗員の生体反応が消滅すれば、コンピュータに自動報告させた後、簡易量産型アナライザー(以降、Mライザー)と
 自動操縦システムで土星基地に帰還させる」
「太陽系外での発見や迎撃に失敗した場合は?」
「不本意だが、外惑星基地に犠牲になってもらうことになる。
 11番惑星基地や冥王星基地などが潰されたら、即座に各艦隊を出撃させて迎撃だ。波動砲で叩き落す。
 仮に重核子爆弾の攻撃可能範囲が波動砲の射程以上だった場合は、アイルオブスカイの波動直撃砲やデスラー艦の瞬間物質移送装置で
 波動砲をチャージした状態の自動戦艦を送りつけて叩き潰す。そして残存艦隊を集結させ、敵侵攻艦隊に決戦を挑む」
「なるほど……勝算はどの程度ですか?」
「状況が流動的なので一概には言えない。ただ太陽系各惑星の基地や防衛艦隊の戦力を考慮すれば……5割以上と判断している」
「これだけ準備して5割ですか……」
「戦争は水物だ。まぁ仮に防衛軍が壊滅してもヤマトがあれば、地球は生き残れるだろう」

 この言葉に誰もが複雑な顔をする。
 自分達の努力を嘲られているような感覚を覚えたのだ。

「まぁ犠牲を少なくし、一人でも多くの将兵が家族の元に帰れるように努力しよう」



 こうして地球防衛軍は厳重な警戒態勢を敷いて重核子爆弾を迎え撃つ体制に入る。
 各艦隊は訓練の名目で出港準備を急ぎ、各基地も防空体制を強化していく。準戦闘配備と言っても良かった。

「さぁ来るなら来い。今度こそ、防衛軍主力で叩き潰してくれる」

 しかしそんな議長の思いを他所に、予期せぬ事態が起きようとしていた。
 それは相変わらず土星で訓練中のヤマトから始まった。

「地球に危機が?」
「はい」

 テレサはその超能力でもって地球に迫り来る危機(重核子爆弾)のことを察知したのだ。
 さすがに具体的には何かとまでは断言できなかったが、それでも島を始めとして主なヤマトクルーの面々はテレサの言葉を
信用した。

「古代」

 島は古代に顔を向ける。これを見た古代は頷くとすぐに口を開く。

「判っている。参謀本部や防衛軍司令部が各惑星の艦隊を訓練の名目で出航させているのも、何か関係があるのかも知れない」
「つまり政府は何かを知っていると?」
「その可能性はある」

 この古代の意見を聞いた真田は頷く。

「確かに。ボラーか、それとも何か公表できない情報源から情報を得たという可能性はある。
 危機について何も公表しないのはパニックを警戒しているのか、それとも危機が本当に来るかどうか断言できないか……
 いずれにせよ何か事情があると考えたほうが良い」
「『政治的判断』という奴ですか。しかしそれで犠牲が出たら」
「その辺りは議長もわかっているはずさ。そうでないなら、ごり押しして訓練を名目にした警戒態勢なんて敷かないだろう」


 この真田の言葉にヤマトクルーも納得した。
 ヤマトのよき理解者(笑)であり、後援者でもある議長の評価はヤマトクルーの中ではすこぶる高かったのだ。

「守の奴からも聞いたのだが、議長は防衛軍司令本部とも話をして、パトロール艦隊を太陽系外に増派している。
 あと噂なのだが、議長が警戒しているのはデザリアム帝国らしい。二重銀河を支配する帝国だから、帝国の威信にかけて
 復讐戦を仕掛けてくるのではないかと踏んでいるようだ」

 そこで南部が納得したかのように頷く。

「だから、うちに戦艦を護衛する戦艦なんて送ってきたと?」
「だろう。議長はどうやら、我々を扱き使うつもりのようだ。全く人使いが荒い」

 真田は苦笑する。
 しかしそんな真田とは対称的に、古代は渋い顔だった。

「ですが真田さん、パトロール艦隊は危機のことを知らないんですよね? そんな彼らに本気で敵が襲い掛かったら……」
「……犠牲は避けられないだろう」
「ヤマトとムサシなら」
「無理だ。防衛軍司令本部はα任務部隊は練度の向上に務めることを命令してきている。それに新型機の訓練だって十分ではないだろう?」
「それは……」
「ふむ……だが確かにパトロール艦隊が報告する前に包囲殲滅されるという可能性は否定できん。
 救援に出れるように手は打っておくべきかも知れないな。よし守にも話をしてみよう」

 こうしてα任務部隊は動き出す。


『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第54話


「長官、ヤマトとムサシの航空戦力があれば太陽系外縁での哨戒もこなせます」
『ふむ……』

 α任務部隊司令官・古代守は太陽系防衛艦隊司令官である土方に対して、太陽系外縁での哨戒を兼ねた訓練計画を提案していた。
 ムサシのメインパネルに映る土方は難しい顔で聞き返す。

『だが君達はわかっているのかね? 防衛軍司令本部はα任務部隊の練度向上を命じているのだぞ?』
「判っています。太陽系外縁への移動中に訓練を行います。訓練スケジュールは今から送ります」

 送られてきたスケジュールを見て土方は驚いたような顔をした。
 そこにはかなりの過密スケジュールが記されていたからだ。

『こんな訓練をして大丈夫なのか?』
「土方さんの扱きに比べればマシだと思っています」
『くっくっく。言うようになったな』
「それに……この程度の訓練に耐えられないのであれば、生き残るのは難しいでしょう」
『ふむ……』

 土方も実戦になる可能性があることを判っていた。
 宇宙戦士としての経験、そしてその経験から培われた嗅覚が戦の気配を感じ取っていたのだ。

『……よし。良いだろう。α任務部隊は太陽系外縁に向かってくれ』
「ありがとうございます」
『それと太陽系外縁には丁度、第8艦隊が訓練中だ。何かあった場合は、第8艦隊と協力して動いてくれ』

 このとき、第8艦隊司令官(原作ヒペリオン艦隊司令)は少し嫌な予感を覚えたのだが、彼らはそれを知る由も無かった。

「了解しました」

 こうしてα任務部隊は一路、太陽系外縁に向かった。


 こうして地球圏最強(最凶)の部隊が太陽系外縁に向かっているとは露も知らないデザリアム帝国艦隊は、威風堂々と
いった様子で地球に向かって進撃していた。

「これだけの大艦隊をもってすれば、地球なぞ一ひねりだ」

 兵士達は口々にそう言いあったが、司令部の面々はアンドロメダ星雲の覇者であったガトランティス帝国首脳を討ち取り
侵攻部隊も壊滅に追いやった地球に対して全く油断していなかった。
 ボラー連邦の情報から、地球艦隊が絶対に侮れない相手であることも彼らは理解していた。

「重核子爆弾で各惑星基地と駐留艦隊を無力化するしかあるまい」

 イスカンダルで地球の1個艦隊によってゴルバを含む艦隊が手も無く捻り潰されたことから、司令官カザンは地球艦隊を
侮ってはいなかった。

「本隊は重核子爆弾が露払いしたのを確認して前進。加えて別働隊は迂回し地球本星を突き、重核子爆弾の地球到達を支援する」

 地球侵攻部隊はデザリアム帝国が動員できる機動戦力の大半であった。その数は防衛艦隊を超え、ガトランティス帝国軍艦隊に
迫るものがあった。故に彼の戦術は非現実的ではなかった。加えてデザリアム帝国軍艦艇は高いステルス性を持つ。防衛軍が混乱
していればその懐に潜り込むのは不可能ではない。
 しかしそれについて懸念を示すものがいた。

『兵力の分散になるのでは?』

 画面の向こうから聞こえるミヨーズの言葉を、カザンは嘲笑う。 

「これだけの艦隊を有機的に運用しない方が非効率的だ。それに地球軍が予想もしない新兵器をもっていたら、どうする?」
『……』
「地球の首都を一刻も早く制圧し、奴らを降伏させるのだ」

 こうして彼らは進撃する。
 すでに自分達の来襲が予知されていることも、そして最凶の戦艦が近づいていることも知らず。


『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第55話

 アンドロメダ級戦艦2番艦『ネメシス』を旗艦とした第8艦隊は太陽系外縁で訓練に励んでいた。
 勿論、転生者である第8艦隊司令官(以降、8F司令)は議長から内々に、デザリアム戦役が勃発する可能性が
高いことを知らされていた。このため十分な量の武器弾薬を訓練宙域に持ち込んでいた。
 加えて周辺を探索しているパトロール艦隊へも定期的に連絡をとって、不意打ちされないように注意を払っていた。

「第8艦隊が矢面に立つとは……」

 重核子爆弾の存在とその破壊力を知っている8F司令は、気が気でなかった。
 そんな中、太陽系防衛艦隊司令長官である土方から一つの連絡が入る。

「ヤマト、いやα任務部隊が?!」

 艦長席で8F司令はひっくり返りそうになった。だがすぐに態勢を整えると通信士に確認した。

「そんな予定は聞いていないぞ? 何かあったのか?」
「訓練の一環だそうです。不測の事態が起きた場合、α任務部隊を指揮下に入れて行動をとるようにとも」
「……(嫌な予感しかしね~)」

 自身が感じた悪寒の正体はこれかと思い、8F司令は頭を抱えた。

「……判った」

 しかし自分が何を言っても変えられない。議長も部隊の運用を一々指示出来ない。 

(連中をうまく使うしかない。ここはむしろチャンスと思って行動するべきだろう。そうチャンスと思って……)

 しかし彼の脳裏に過ぎるのは、ここぞとばかりに暴れまわるヤマトメンバーだった。
 デザリアム帝国という敵と相対するとなれば、彼らの戦力は確かに頼もしいのだろう。
 だが暴れすぎて、『別』の問題を引き起こす可能性が高かった。だがそれ以上にタイミングを間違えれば、自分は
主人公達を奮い立たせるための生贄役になる可能性があるという問題があった。

「(第8艦隊の仇とか言って暴れるヤマトクルーか)……すまないが、胃薬と頭痛薬、それと水を用意しておいてくれ」
「?……は、判りました」

 こうして8F司令が頭痛を覚えつつも、太陽系外縁では歓迎会の準備が進んだ。
 そして運命の時は訪れる。そう、パトロール艦隊が太陽系に接近する謎の物体を捕らえたのだ。


 この緊急報告は直ちに地球防衛軍統合参謀本部にも伝えられた。

「そうか。遂に来たか」
「防衛軍司令本部はただちに迎撃を指示。加えて土方司令長官は全地球艦隊を臨戦態勢へ移行させました」

 秘書の報告に、議長は満足げに頷く。

「まずは第一関門突破だ。α任務部隊が前線に赴いたのが気になるが……まぁ彼に任せよう」

 餅は餅屋だった。少なくとも議長は勝つためのお膳立てを行った。
 もはや細かい前線の指揮は現場に任せるしかない。しかし彼にやれることもあった。

「地球本土防衛艦隊も臨戦態勢へ移行させろ。それと万が一の場合に備え、政府首脳の避難準備も進める」
「了解しました」

 万が一、防衛軍が敗北すれば地球本土は制圧される。
 その場合に備え、政府首脳を植民惑星かボラー連邦へ脱出させ、徹底抗戦を図る用意に彼は取り掛かった。

「さて、どうなるか……」

 議長がそんな呟きを漏らしたころ、太陽系外縁ではパトロール艦隊が哀れにも重核子爆弾の餌食となっていた。
 普通ならそれで艦隊は行動不能になっていただろう。
 だが議長主導で行われたMライザーの配備によって艦隊は何とか宇宙のゴミになることなく、冥王星基地へ自動で帰還を開始した。
それも艦内の様子を細かく報告しつつ。
 そしてその報告を聞き、さらに謎の飛行物体に関する情報を分析した真田と大山は一つの結論を下した。

『間違いない。あれはハイペロン爆弾だぜ』

 大山の言葉にヤマト、ムサシなどのα任務部隊、通信機越しに報告を聞いていたネメシスのクルーの間で驚きの声が広がった。
 尤も8F司令だけは少し表情を引きつらせていたが。


(何で、それだけで判るんだ? いや……もう良いか。そんなものなんだろう。多分) 

 もはや突っ込む意欲も無い男は、話を続けた。

「だとすると近寄るのは危険だ。パトロール艦隊はなすすべも無くやられたのだから」

 この言葉にヤマトクルー、特に古代進は悔しそうな顔をする。
 それを慰めるように8F司令は言う。

「……まぁ彼らの死体は手厚く葬ろう。幸い、遺体は艦と共に戻ってくる」

 宇宙戦争での戦死者は大半が宇宙の塵となるか、宇宙葬で母星には戻れない。
 故に遺体が戻ってくれば、遺族への慰めにもなる。

『はい』

 だがそこでさらなる凶報が飛び込む。そう、退避中のパトロール艦隊がデザリアム艦隊に攻撃されたのだ。
 クルーを失い、反撃できないままパトロール艦隊は宇宙の塵と化す。しかしそれはα任務部隊の面々の怒りを煽るものだった。

「……どうやら敵はハイペロン爆弾で艦隊を無力化し、その後に侵攻するつもりのようだ。聞くまでもないが、あの爆弾は?」
『針路から、間違いなく地球に向かっています。そしてこのままでは太陽系の各主要惑星を通過します。これでは』

 その後の真田の台詞を8F司令は遮った。

「判った。司令本部、太陽系防衛艦隊司令部、統合参謀本部にも報告し退避命令を出してもらう。
 そして……我々はあの爆弾を迎撃する。あのような兵器が地球に命中すれば人類は滅亡してしまう」

 危険な任務だが反論は無かった。
 こうして防衛艦隊は迎撃準備に入ろうとしたのだが、そこで一人の女性が手を挙げた。

『私にも協力させてください』

 彼女の名はテレサ。
 本来ならこの場にいるはずの無い彼女が、デザリアムにとって予期せぬ展開を引き起こそうとしていた。

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最終更新:2014年01月27日 17:43