パトロール艦隊を撃滅したとの報告を受け、デザリアム帝国艦隊総司令のカザンは満足げに頷いた。
「重核子爆弾は期待通りの成果を出したようだ」
最初、パトロール艦隊が退避していくのを見て、地球人が何らかの方法で重核子爆弾を無効化したか、その威力を低減させた
のではないかという考えが過ぎったのだが、生命反応が無かったことから自動で動いていることが判った。
故にカザンは全艦隊に進撃を命じる。
「本隊は前進。別働隊も進ませろ。一気に地球人の本星を叩く」
こうして進んでいくデザリアムの大艦隊。
「前衛部隊より報告。地球艦隊が出動し、重核子爆弾の前方に展開した模様」
「ふん。無駄なことを」
そう言いつつも、カザンは前衛部隊に地球艦隊を牽制するように命じる。
「本格的な攻勢はしなくても良い。重核子爆弾に波動砲を打ち込まれないようにさせすれば良い」
重核子爆弾の耐久力は高く、ショックカノン程度では打ち抜かれない。
たとえ波動カードリッジ弾でも、装甲を突き破り、内部にまで到達しなければ何とかなる。
「地球人め、イスカンダルで我々に歯向かったことを後悔するが良い。
そして帝国に歯向かった代償として、その肉体を帝国繁栄のために差し出すのだ」
そして自分は、地球攻略を成し遂げた名将として栄達する……そんなことをカザンは考えていた。
だがそんな彼の思考は、異常を知らせる報告によってかき消されることになる。
「た、大変です。つ、通信機に異常なエネルギーが!」
「何?!」
敵艦隊が襲ってこないことを確認した8F司令は直ちに重核子爆弾迎撃に取り掛かった。
「作戦は成功のようだ」
8F司令は嘆息した。
「まぁ地球のネットワークを焼ききるほどのエネルギー波を送られたら、堪ったものではないだろうな」
原作ではテレサは宇宙の危機を伝えるメッセージを地球のネットワークを焼ききる程のエネルギーを籠めて送った。
ガトランティスの妨害を突破してメッセージを送るためなのだが、逆に言えば、そのエネルギーを転用すれば敵の
通信を撹乱することも出来ることを意味する。
「これだけの大規模ECMをなそうとすれば、どれだけの労力がかかることか」
議長の献策で、地球では大出力のエネルギーが流れ込んでもネットワークが焼ききれないように対策がされているが
これを対策していないデザリアムは……。
「……α任務部隊と駆逐艦の用意は?」
「すでに完了しています。いつでもいけると」
「それでは第二段階へ移行する。
諸君。彼らは遥々、太陽系にまで足を運んでくれたお客だ。土足で上がってきたマナーに欠ける客だが、客であることには変わりない。
彼らが一生忘れえぬ思い出になるように心を籠めた歓迎にするぞ」
「「「了解!!」」」
一方、ヤマトでは島がそわそわした様子で舵を握っていた。
「落ち着けよ、島」
「でも、古代。また彼女に負担をかけることになる。それに政府に彼女の能力が詳しく知られたら……」
「判っている。だが彼女の意思でもあったんだ。彼女を信じるんだ。それに8F司令は議長と交流がある。議長なら彼女の能力を伏せる
ことは出来るだろう」
彼らはテレサの能力を詳しく知られることを恐れた。もしも政府がその能力を知ればテレサを排斥するか、利用しつくそうとするかも
知れないからだ。8F司令はそんなヤマトクルーの考えを理解し、議長と協力して彼女の能力を極力伏せることを約束した。
(議長にも苦労してもらうさ)
そんな8F司令の考えも知らないα任務部隊の面々は、理解のある上司に恵まれたことに感謝した。
「……そうだな。でも彼女の好意に甘えてばかりではいられない」
この言葉に真田が頷く。
「そうだ。ここを何とか切り抜けて、自分達で地球を守れるような力をつけなければならない」
「頑張りましょう。真田さん」
古代は艦長室から独力で大規模な電子攻撃を仕掛けているテレサに感謝しつつ、作戦開始を命じる。
「駆逐艦、発進!」
地球側の作戦はいたってシンプルだった。
テレサの能力で相手の目耳を撹乱している隙に、無人にした3隻の駆逐艦を超高速で重核子爆弾にぶつける。それだけだ。
ただし無人にした駆逐艦は波動エンジンを暴走させるようにセットしてある。つまり、駆逐艦は1種の巨大な爆弾になっているのだ。
無人化した駆逐艦なら、重核子爆弾の影響は受けない。さらにテレサの力で目耳を撹乱された敵艦隊ではまともに迎撃できない。
デザリアムの作戦が破綻した瞬間だった。
「た、大変です。地球の小型艦が重核子爆弾に突っ込んできます!」
前衛部隊は慌てふためいた。
「何?! 迎撃しろ!!」
「だ、ダメです。通信機から流れ込んだエネルギーが艦の他の回路にも流れて」
「こ、これが地球人の新兵器でも言うのか?!」
こうしてデザリアムの切り札であったはずの重核子爆弾は、呆気なく宇宙の塵と化した。
そして太陽系外縁での戦いは次の段階に移行する。
『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第57話
「……重核子爆弾の破壊に成功せり、か」
統合参謀本部でその吉報を聞いた議長は安堵した。
何しろ、これでデザリアム戦役で負ける可能性は大幅に減じたからだ。
しかしながら、この時点で議長は警戒を緩めつもりはなかった。デザリアム艦隊はステルス性に秀でている。
「あとは別働隊による地球本土直撃を警戒しなければ」
直前まで無人艦隊が発見できなかったほどのステルス性を考慮すれば、彼らが自分達の懐に潜り込んでいても
不思議ではないのだ。
「防衛衛星、無人艦隊、第01任務部隊。この組み合わせなら戦うことも可能だが、やはり奇襲は避けなければな」
こうして地球防衛軍は隙の無い防衛体制で、デザリアム艦隊による奇襲に警戒した。
この厳重な警戒態勢によってデザリアム艦隊は、想定よりも慎重な行動を強要されることになる。この時点で彼らが
反転していれば戦局は違う展開になっていたかも知れない。
だが奇襲のために無線封鎖を行っていた上、本隊はテレサによるジャミングで混乱していたため、本隊の状況など
知る由も無かったのである。
そして本隊はデザリアム帝国軍健軍以来最悪の状況で、戦闘民族(命名:ボラー)の襲来を受けることになった。
「ええい、落ち着け! 通信回線を遮断しろ! 予備に切り換えろ!!」
カザンは必死に体勢を立て直そうとするが、すでに流れた膨大なエネルギーはデザリアム艦隊の各艦の回路に
大きな打撃を与えていた。回復するにはもう暫くの時間が掛かると思われた。
だがその暫くの時間が彼らにとって致命傷となる。
「た、大変です! 地球軍の艦載機が11時の方向から接近しています!」
「何?! 迎撃しろ!!」
「ダメです。各艦、まだ回復しきっておらず、直掩機は先ほどの異常でまともに動けません!」
彼らが慌てふためく様子は、攻撃隊でもわかった。
「敵さんはまともに動けんようだ。ここで落とされたら末代までの恥だぞ!」
ヤマト戦闘機隊隊長の加藤を総隊長とした防衛軍攻撃隊は、まともに動けないデザリアム艦隊に襲い掛かった。
まばらに、それも照準も定かでない砲撃など歴戦のパイロット達からすれば、恐れるに足らないものだった。
加えて新型のコスモファントムはコスモタイガー以上の搭載量と機動力を有している。彼らは対空砲火を悠々と
掻い潜り、波動ミサイルを使って片っ端からデザリアム艦艇を撃沈していく。
「前衛部隊は何をしている?!」
カザンの疑問も最もだった。
だがその疑問に対する回答は過酷な物だった。彼らはネメシスの拡散波動砲によって壊滅させられ、残存艦は
第8艦隊によって包囲殲滅されていたのだ。
「もはや虐殺だが、叩けるときに叩かせてもらう」
8F司令は人の悪そうな笑みを浮かべて、さらなる攻撃を命じる。
偵察機の報告から、敵艦隊が防衛軍全艦隊よりも大規模であることが判明していた。故に手加減は不要だった。
そして艦載機によって散々に叩かれて炎上するデザリアム艦隊にトドメを刺すかのように波動砲の発射準備に掛かる。
「第8艦隊、及びα任務部隊は波動砲発射隊形を取れ!」
勿論、この動きを見たカザンは地球艦隊が波動砲を発射しようとしていることに気付く。
「ま、拙い。このままでは全滅する!」
カザンはこのとき、少しでも時間を稼ぐために地球側に降伏をつげ、相手の攻撃が弱まった内に体勢を立て直すことを
思いついた。卑劣な策としか言いようが無いのだが、それ以外の方策を彼は思いつかなかった。
「ち、地球艦隊に通信を繋げろ!」
だが、その彼の策はあっさり無に帰す。
「ダメです。まだ通信回線が復活していません!」
「何をしているのだ! すぐに連中と回線をつなげるのだ!」
総司令官の無様すぎる姿に多くの兵士は落胆した。そして同時に自分達の最後を悟った。
(もうダメか……)
こうして必死に体勢を立て直そうとしていた兵士達を巻き添えにして、巨大戦艦ガリアデスと共にカザンは宇宙の塵となった。
波動砲による攻撃でデザリアム艦隊は全体の半数近くを喪失した。だがそれでも尚、半分は残っている状況だ。
そして残された艦隊を掌握した第2特務艦隊司令官ミヨーズは、カザンとは比べ物にならない切れ者だった。
「無様な!」
怒りつつも、彼は指揮系統を立て直そうとした。彼らは漸く艦の機能を回復することが出来たのだ。
しかし艦の機能が回復したからと言って、ミヨーズは現状のまま戦い続けることはしなかった。
「全艦、反転。太陽系から撤退するぞ!」
「逃げるのですか?!」
「このままでは全滅するだけだ。ただし我が艦隊は殿となる。特に、この艦なら味方を逃す盾には十分な役割を果たせる」
彼が乗るガリアデス級戦艦は改装前のヤマトの主砲を弾き返すほどの防御力と、多数の艦載機を運用できる優秀な艦だった。
「我々が全滅するようなことがあれば、デザリアム帝国軍は大打撃を受ける。それだけは避けなければならん」
こうして不屈の闘志と驚異的な指揮能力で、ミヨーズは動ける艦を掌握して地球艦隊に戦いを挑む。
円盤型戦闘機、イモ型戦闘機を発進させて制空権の奪還に励む傍ら、重防御のガリアデス級戦艦を前面に立てて砲撃戦を
展開していく。加えて巡洋艦も懸命に第8艦隊に迫り、彼らを撹乱する。
「駆逐艦陽炎、沈没!」
「巡洋艦五十鈴大破! 戦列を離れます!!」
「戦艦加賀、速度低下!」
「くっ、さすがに簡単に負けてはくれないか」
8F司令官は舌打ちする。
「α任務部隊は?!」
「苦戦中とのことです」
それでもα任務部隊の動きは通常の部隊とは一線を画していた。
戦艦を護衛する戦艦『アーカンソー』と『ロイヤル・オーク』は波動砲を撤去した代償に得た高い防御力でヤマトやムサシと
共にデザリアム艦隊と渡り合い、ヤマトとムサシは信じられないほどの高い命中率で波動カードリッジ弾をデザリアム艦隊に撃ち込み
彼らを宇宙の塵としていく。
(主人公補正、恐るべし……性能的には、このネメシスや主力戦艦だってそんなに引けは取らないのに)
乾いた笑みを浮かべそうになる8F司令。
そんな彼の思いを他所に、主人公、いや主要キャラの貫禄を見せ付ける光景が広がることになる。
「第7艦隊が来援しました!」
そう、土方長官よりも先に太陽系外から沖田艦長率いる第7艦隊が駆けつけたのだ。
こうして地球防衛軍が誇る最新最大の巨大戦艦『タケミカヅチ』の初陣となる太陽系外縁海戦は最終幕を迎える。
『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第58話
駆けつけた第7艦隊は戦艦タケミカヅチ、主力戦艦6隻、戦闘空母3隻、巡洋艦8隻、駆逐艦24隻を中核とした大艦隊だった。
旗艦タケミカヅチは改アンドロメダ級であり、主力戦艦も主砲やエンジンを大幅に強化されている。その戦闘能力は防衛艦隊でも
最高峰と言えた。そしてそんな凶悪な打撃力を秘めた部隊が哀れにも逃げ惑うデザリアム艦隊に襲い掛かる。
「拡散波動砲発射!!」
沖田の指示の下、タケミカヅチの艦首に備え付けられている三門の拡散波動砲は、撤退しようとしていたデザリアム艦隊を狙い打った。
集束型波動砲ならまだ逃れることもできただろうが、アンドロメダ級を越える出力で、さらに散弾銃のように広範囲をカバーできる
タケミカヅチの拡散波動砲からは逃れることなど出来なかった。
「うわぁあああ!!」
「た、助けてくれ!」
脱出しようとしていたデザリアム艦艇は、タキオン粒子のシャワーを浴びて、次々に跡形も無く吹き飛ばされていく。
だがそれだけの破壊をなしても、タケミカヅチはすぐに戦場に躍り出る。防衛軍最高の出力を持つ波動エンジンを搭載するからこその
荒業であった。
「敵の残存戦力は?」
「戦艦8、巡洋艦33、護衛艦52です」
沖田はふむと頷くと、スクリーンに映る敵艦隊を凝視する。
そこにはα任務部隊と第8艦隊相手に、味方を逃そうと勇戦するデザリアム艦隊の姿があった。その戦いぶりはかつてガミラス戦役の
際に勇戦した地球艦隊に勝るとも劣らない果敢なものだった。
(ドメル将軍もそうだったが、宇宙にはあれほどの将がいるのか。宇宙は広いな)
沖田は彼らの姿に心を打たれるが、かといって手加減することはない。
「よし。トドメを刺す。全艦突撃!」
ガミラス戦役で勇名をはせ、イスカンダル遠征と言う史上最大の偉業を成し遂げた英雄『沖田十三』。そして勇将の下に弱兵なしと言う
言葉を体言した艦隊の将兵達は、その力を思う存分に招かざる客であるデザリアム艦隊に叩きつけた。
デザリアムが誇る巨大戦艦ガリアデス級戦艦であっても、タケミカヅチの51センチショックカノンは防ぎきれない。
さらに装甲を突き破って、内部で炸裂する波動カードリッジ弾は次々とデザリアム艦艇に致命的ダメージを与えていった。
「すごいな」
「ああ。これが新造戦艦か」
ヤマトクルーもタケミカヅチの戦闘力に感心した。
南部は51センチ砲の威力を見て羨ましげに言う。
「すごい威力ですよ。あれだけの破壊力があれば、大抵の敵の装甲は撃ちぬけます」
古代進も頷く。
「そうだな。それにあの艦には沖田艦長、いや沖田提督がいる。だからこそ、これだけ強いんだろう」
デザリアム側も必死にタケミカヅチを攻撃するが、戦略指揮戦艦であり、スペック上は防衛軍最高の防御力を持つ
タケミカヅチを黙らせることは出来ない。
「地球軍の戦艦は化物か!?」
デザリアム帝国軍将兵が慄き、恐慌状態になっていく。
そして恐怖に支配された軍隊が勇将率いる精鋭を止めることなどできる筈が無く、彼らは獲物に成り下がっていく。
「おいおい、呆けている場合じゃないぞ。沖田艦長の前だ。無様な真似は出来ないだろう?」
この真田の台詞に誰もが苦笑し、決意を新たにする。
「そうだな。よし、突撃開始! コスモファントム隊も補給完了後に直ちに発進する。俺も出るぞ!」
こうして心強い援軍を得たとばかりに、α任務部隊は再攻勢に出る。
哀れなのはデザリアム艦隊だった。脱出させようとした部隊の多くは、タケミカヅチの拡散波動砲によって灰燼と帰した。
残存部隊は必死に戦っているが、増援として現れた新手の艦隊(第7艦隊)によって後方を脅かされている。もはや勝敗は
明らかだった。
「機関出力低下!」
「全砲塔使用不能!」
「格納庫で火災発生!! 消火が間に合いません!!」
ミヨーズは目を瞑った。
もはや勝敗は明らかだった。加えて彼のが乗る艦の命脈ももはや尽きようとしている。
「……ミヨーズ司令、敵艦隊より入電が」
「つなげ」
モニターには第7艦隊司令官沖田の姿があった。そして沖田は通信が繋がったことを確認すると話し出す。
『もはや勝敗は決した。これ以上の戦いは我々も望まない。降伏して欲しい』
「……」
『我々は諸君を捕虜として丁重に扱う用意がある』
それは沖田の独断だけでなく、8F司令も同意したものだった。その証拠として第8艦隊やα任務部隊も攻撃を一時的にだが
停止させている。
それは彼らなりの誠意だったが、ミヨーズは簡単には頷かない。
「沖田提督、我々は祖国を守る義務がある。簡単に降伏は出来ん」
『……』
「……ただ残った艦から将兵を退艦させる時間は頂きたい」
こうして停戦が結ばれることになる。
辛うじて生き残ったデザリアム艦艇から多数の将兵が地球側の艦船の収納される。だがその中にミヨーズの姿はなかった。
「地球防衛軍は強かった。ガミラスとガトランティスを退けた実力は本物だったというわけか」
第2特務艦隊司令ミヨーズは自沈する乗艦と運命を共にする。
そしてこの巨大戦艦が沈む際に放った閃光が、太陽系外縁海戦の終幕を告げる。
デザリアム帝国軍は参加した全ての戦艦、巡洋艦を失った。6隻の護衛艦が何とか離脱できたが、それだけだった。
さらに太陽系に潜り込んでいた別働隊は、異常を察知して引き返そうとしたが、運悪く土方長官の太陽系防衛艦隊と遭遇し殲滅される。
こうしてデザリアム帝国の地球侵攻作戦は完全な失敗に終わった。
『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第59話
地球侵攻艦隊全滅……この凶報にデザリアム帝国本国では激震が走っていた。
「全滅だと?! 馬鹿な、あれほどの戦力で攻め込んで返り討ちにあっただと?!」
総統府で報告を受けた聖総統スカルダートは、衝撃のあまり暫しの間、呆然となった。
サーダもこの凶報には取り乱し何度も確認を取らせた。
「誤報ではないの?!」
しかし何度確認しても報告は変わらない。カザン、ミヨーズなど主だった将帥は討ち死にし、辛うじて生き残ったのは護衛艦のみ。
デザリアム帝国軍は健軍以来最悪の大敗を喫したのだ。
そしてこの大敗北はデザリアム帝国の戦略環境を一気に悪化させた。自由に動かせる戦力の大半が一気に失われたため、デザリアムが
抱える各戦線の戦況が急激に悪化したのだ。
「ゴルバを各戦線に分散して派遣するしかありません」
「地球侵攻は断念し、直ちに防衛体制を構築するしかありません。現状ではこちらから手出しをするのは不可能です」
デザリアム帝国軍参謀本部はそう結論を下した。
その報告にサーダはいきり立つが、どうすることも出来なかった。彼らは敗北を喫したのだ。それも最悪の敗北を。
「ボラーが手出し無用と判断した理由がよく判った。確かに地球人は恐ろしい存在だ」
「……如何しましょう?」
「無限β砲の配備を急がせよ。新造艦で防衛線を再構築する」
「それでは地球は?」
「暫くは手は出せぬ。全ては守りを固め、艦隊を再編してからだ」
デザリアムが受けた傷は深い。このためデザリアムは防衛に専念することにした。
しかしこれまで抱えていた戦線では次第に綻びが見え始めており、デザリアムを巡る状況は悪化しても改善する見込みはなかった。
一方、太陽系外縁海戦でデザリアムの大艦隊をほぼ一方的に全滅させたことで、地球ではお祭りモードだった。
「地球連邦万歳!!」
「防衛軍万歳!!」
史上稀に見るパーフェクトゲームで侵略者を叩き潰したという事実は、多くの地球人に勇気を与えていた。
その一方でこの大勝利の立役者となった第7艦隊、第8艦隊、α任務部隊は脚光を浴びた。沖田、8F司令、古代兄弟の武名は
世界中、いやボラー経由で銀河系各地に伝わった。
だがそれ以上に、デザリアム戦役を予期して、予め手を打っていた防衛軍統合参謀本部議長は賞賛を受けた。
「さすがだ。議長」
「いえ、当然のことをしたまでです」
連邦大統領や連邦政府関係者、連邦各州のお偉いさんとの会食やら会談で褒め称えられた議長だったが、内心では危機感が強かった。
(気のせいか、もう前線に出れない気がする)
夢の黒コートが遠ざかる光景が議長の脳裏に映し出される。しかしそんな光景を振り払うと議長は口を開く。
「いえいえ、賞賛は前線で命を賭けて勇戦した将兵が受けるものです。私は後方に居ただけです」
「謙遜かね?」
「いやいや本音ですよ」
そう言って彼は現場を持ち上げる。
「議長は攻勢部隊の編成を進めているようだが、やはりデザリアムに?」
「はい。やられっぱなしでは舐められます」
「しかし相手は40万光年彼方の暗黒銀河に居る帝国だ。まして3個艦隊による遠征となると問題が多い」
「判っています。ですがやらなければなりません。必要なら私は議長の職を辞し、遠征艦隊司令になっても良いと思っています」
「議長、それは降格人事になるぞ?」
「問題ありません」
実は議長の本音だったのだが、誰もがリップサービスにしか受け取らなかった。
ただしイザとなれば自ら死地に飛び込む覚悟はあるという決意表明は、さらに現場の支持を集めた。
防衛会議や参謀本部の面々は人気取りと言って陰口を叩いたが、議長が優れた戦略家であることは認めており、議長は後に
彼らから「戦術レベルの仕事は現場にさせ、議長は後方で全体を纏めるべき」と諫言されることになった。
「……もう私は前線に出れないかも知れん」
執務室で凹む議長。そんな議長に秘書が突っ込む。
「……いえ、恐らくかなり前からそうだったと思いますよ?」
「……マジで?」
「はい。前線の方々も議長の『デスクワークの能力』を信用されているようですし」
さらに落ち込む議長。
「どいつもこいつも……」
制服組TOPとは聞こえはいいが、厄介ごとを押し付けられる役職でもあった。
防衛会議と実戦部隊との関係を良好な物とするために奔走し、関係省庁や政財界とも付き合って軍の予算や発言力の確保に務め、
それでいてボラー連邦やデザリアムとの戦いに備えた戦略の立案などもしなければならない。
勿論、彼一人でするのではないのだが、激務であることには間違いない。だがその職務を誰からも望まれているとなれば、彼一人の
わがままなど通らないだろう。
「くっこうなったら仕方あるまい」
「後方で活躍されると?」
「ああ。くっ、さらば黒コート」
血涙を流して残念がる議長を見て、秘書官は「どれだけ艦隊司令官になりたかったんだ」と呆れたが、議長が艦隊司令官に
なることを夢見ていたことを知っていたので強くはいえなかった。
「ただし艦隊指揮は諦めても、観艦式の観閲官程度なら問題ないはずだ」
「それが譲歩ですか」
「そうだ。幸い、政府はこの大勝利を喧伝し、防衛軍の戦力を誇示するために大規模な観艦式の開催を考えているそうだ。
その観閲官に立候補する程度なら問題ないはずだ」
「どれだけ戦艦が好きなんですか……」
「軍人、いや宇宙戦士としてなら、まして前世の記憶があるのなら一度は夢見るものだろう? この大宇宙の中、大艦隊を指揮して戦うというのは」
「……」
「今では見果てぬ夢だがね。やれやれ、適性職種と希望する職種は一致しないことがあることは判っていたが……」
議長は苦笑した。
「まぁ良いさ。私は私にできることをする。それだけだ」
そして彼は動き出す。
『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第60話
地球とデザリアムが大騒ぎしている頃、ボラー連邦は今回の地球防衛軍の大勝を聞いて地球人=戦闘民族という認識をより
強固な物にしていた。
「負けないとは思っていたが、これほどの一方的勝利を得るとは」
べムラーゼは信じられんと言わんばかりの顔で、秘書に尋ねた。
「地球軍の損害は本当にこれだけなのか?」
「はい。地球防衛軍の戦艦、空母の損失は0です。巡洋艦3隻、駆逐艦7隻、パトロール艦6隻、航空機32機が失われたそうですが」
「………」
太陽系外縁海戦では地球防衛軍とデザリアム帝国の戦力比は1対5以上だった。
それにも関わらず、防衛軍は一方的にデザリアム艦隊を全滅に追いやったのだ。それは彼の常識を超える事象だった。
「我が軍で同じことが出来るかね?」
「……恐らく無理かと」
「ふん。あの役立たず共が地球防衛軍の半分でも仕事が出来れば、こうも無様なことにはならなかったものを!!」
ガルマン・ガミラス連合軍に大敗したことでボラー連邦はボロボロだった。
べムラーゼはその責任を追及されており、このままでは失脚すらあり得る状況だ。不甲斐無い軍部への怒りは頂点だった。
「連邦構成国は?」
「動揺が広がっています。反主流派の構成国の中には地球と独自の接触を望む国もあるようです。他にも不穏な動きが報告されています」
属国を守れぬ盟主に意味は無い。これまでボラーの支配を受け入れていた国々は自国の安全確保のため、そして万が一ボラー連邦が
崩壊した時に備えて地球連邦への接触を開始しようとしてた。
「押さえつけろ! 何としてもだ!!」
「はい」
「それと軍の再建状況は?」
「地球から購入した艦艇の訓練は順調です。またスターレン級戦艦の建造も進んでおり、後2ヶ月で3隻のスターレン級が配備できます」
「あと2ヶ月で4隻は完成させろ。機動要塞も用意を急げ。次はこのわし自らが出てガルマン・ガミラスを叩き潰す」
「デザリアムはどうしますか?」
「地球人が自分で何とかするだろう。ガミラスのように母星を壊滅させるか、白色彗星のように砕くかは判らないが」
ボラー連邦が慌しく動いている頃、旧ビーメラ星に築かれた第二帝星の総統府では、デスラーが今後の戦略を練っていた。
「デザリアム、我々に苦渋を舐めさせた連中が敗れたようだな」
「やはり我々の最大の敵は地球防衛軍、そしてヤマトのようです」
母星を壊滅させられたガミラスにとって、最大の怨敵は地球であった。
勿論、最初に手を出したのは彼らなので逆恨みもいい所なのだが……。
「ふむ。だが彼らとの決着は当面、後だ。ボラーとの戦いも、暫くは防御に専念し足場を築く」
旧ビーメラ星にはガルマン・ガミラス帝国が再建されつつあった。
またここを拠点として銀河系のあちこちに進出して、反ボラー連邦勢力の取り込みも進めている。ボラー連邦の弾圧のために
反ボラー勢力は弱体化を余儀なくされていたが、ボラー連邦自体がガミラスとの戦いで弱ったことで再び息を吹き返していた。
これらの勢力を糾合すれば一大勢力となる。
しかしその前に地球防衛軍が出てくると、デスラーの目算が狂うことになる。
「だが、地球人の目が銀河系中央に向くと面倒なことになる」
「はい。この場合、デザリアム帝国を応援しなければなりませんが……」
デスラーなどガミラス人にとってデザリアム帝国はヤマトには劣るものの、叩き潰すべき怨敵であった。
尤もその怨敵と再び合間見えることはないだろうと言うのが彼の考えだった。
「この調子では、デザリアムが敗れるのも時間の問題だろう」
ガミラス人、いやデスラーには、ヤマトが自分以外に敗北する姿が想像できなかった。
そしてもはやデザリアムの敗北(下手をすれば母星滅亡)は確定事項だった。
「地球人がデザリアムと戦っている内に、銀河系内部の足場を固めなければならん。工作を急がせよ。
それとボラーの動きに気を配れ。あれだけ負けたのだ。いずれ再戦を挑んでくるだろう」
デスラーはべムラーゼの意図を正確に見抜いていた。
「そのときが、奴らの最後だ」
デスラーは壁のモニターに映る銀河系を見上げて、ニヤリと笑った。
最終更新:2015年02月23日 04:51