嗚呼、我ら地球防衛軍』 第66話

 観艦式を終え、自国の存在と力を誇示し終えた地球連邦政府は地球防衛軍参謀本部に二重銀河にあるデザリアム帝国本星攻略の
ため3個艦隊を基幹とした遠征艦隊・『第1連合艦隊』の出撃を命じた。
 議長は出撃前に第1連合艦隊旗艦タケミカヅチの作戦室に第1連合艦隊の主だった幹部を集めた後、強い口調でそう言い放った。

「諸君の任務は、敵本星を直撃し、デザリアム首脳の心胆を寒からしめ、彼らを講和交渉の席に引きずり出すことだ」

 内心では(本当は二重銀河を吹き飛ばしたほうがありがたいが、本音は言えないからな~)などと考えていたが。

「仮に彼らが徹底抗戦の構えを崩さない場合は?」

 艦隊総司令官兼タケミカヅチ艦長の沖田の問いかけに対し、議長は苦々しい顔で返す。

「敵本星の政治・軍事中枢を徹底的に破壊し、デザリアム帝国の統治機構の頭を叩く。幸い、彼らは二重銀河でも多くの敵と交戦中だ。
 後始末は反デザリアム帝国勢力がやってくれるだろう。仮に帝国打倒が叶わなくとも、国家機能がマヒするのだ。ガトランティスの
 ように暫くはこちらに手を出せなくなる」

 そこで一息つくと、議長は作戦室の床にあるモニターに銀河系の各勢力圏を示す地図を映し出した。

「そしてデザリアムが動けない間、我々はガミラスの攻勢に備える」

 この言葉に衝撃が広がる。

「ガミラスが戦争を仕掛けてくるというんですか?」

 ヤマト艦長となった古代進の質問に対し、議長は首を横に振る。

「彼らが直接こちらに仕掛けてくる兆候はない。だがデスラーが率いるガミラス、いやガルマン・ガミラス帝国の進撃は破竹の勢いだ。
 彼らの矛先がこちらに絶対向かないとは限らない。我々は地球を再び赤茶けた惑星にする訳にはいかないのだ」
「では攻勢に備えるというのは?」

 α任務部隊司令官・古代守の問いかけに議長は「口外しないように」と前置きした後、答えた。

「我々は新たな宇宙艦隊整備計画を進めている。この計画を基に防衛艦隊の強化を推し進める。またガミラスに関する情報収集を強化する」
「ボラー連邦と何か取引を?」
「……我々はガミラスと休戦したが、ボラー連邦と交易をしてはいけないという取り決めまでした事実はない。そして我々防衛軍は民間人が
 大勢乗る交易船を守る義務がある」

 この言葉を聞いた古代守が「なるほど」という顔をする。



「護衛の名目で艦を送り情報収集を行う、と?」
「そうだ。我々は独自の情報源を確保する必要がある。地球は小さいながらも、独立勢力なのだ。ボラー連邦経由の情報に頼りきりに
 なるわけにはいかないのだ」

 古代進は単に「議長はボラーのことを信用していないのか?」などと思ったが、議長の真意を理解した沖田は深くうなずく。  
 そして政治に疎い若手にも判るように、深みのある声で諭すように言う。

「ボラー連邦が地球に特定の情報を流すということは、その特定の情報を地球に流すことがかの国にとって利益になると判断したということだ」
「ボラーから嘘の情報が流れくると?」
「彼らも我々の実力を理解している。完全な嘘は容易につかないだろう。だが、意図的に情報の一部を伏せることは十分に考えられる。我々の思考を
 誘導するために、だ」

 この沖田の言葉に古代進や島などは不愉快そうな顔をする。
 そんな若手の反応を見た議長は苦笑する。

「まぁ諸君の気持ちは分かる。薄汚いやり方だ。だがそれが政治であり、外交なのだ。だからこそ、我々は情報をあつめ、正しい判断を下す材料と
 しなければならない。まして相手は強敵・ガミラス。諸君ら、勇敢な防衛軍の戦士達を無為に失わないようにするために万全の態勢を整える必要がある」

 そう言って議長はヤマトクルーなどを持ちあげる。
 同時に議長は原作で自動化が進んだアンドロメダを古代や真田が批判していたことを思い出し、現状の防衛軍の方針(省力化・機械化)にあまり不満を
抱かせないようにフォローした。

「それに最近は復興や新領土の開発で人手が必要なおかげで防衛軍戦士を確保するのが大変だ。こちらも省力化や無人戦艦を建造するなど、試行錯誤を
 続けてはいるが、なかなか難しい。何しろ機械では熟練の戦士の判断力まで期待できないからな。当面は有人艦が主力で、無人艦はその補助となるだろう」

 議長は「無人艦は有人艦を守るための盾」であること、そして「防衛軍上層部は人の力を軽視していない」ことを伝える。

「今回の遠征では無人艦を同行させるが、これらはあくまで、防衛軍戦士を一人でも生きて地球に帰還させるために用意した。うまく使ってくれ」 

 堂々と言う態度とは裏腹に、内心では「ヤマトクルーの反応はどうかな?」と少しびくびくしていたが……その内心は悟られることはなかった。

「分かりました。一人でも多くの戦士を帰還させて見せましょう。明日の地球のためにも」

 威厳たっぷりの沖田の言葉に、議長は笑みを浮かべる。

「それは頼もしい」

 そう言って二人は握手を交わし、話を聞いていたヤマトクルーも士気を上げる。
 かくして士気を鼓舞された第1連合艦隊は出撃する。
 目標は40万光年先の二重銀河。
 かつて地球を救ったイスカンダルへの航海を遥かに超える大遠征が始まった。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2015年05月18日 11:20