『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第61話

 銀河の半分以上を支配下に置いていたボラー連邦。
 その高圧的と言っても良い支配に抵抗する者は少なくなかったが、ボラー連邦の圧倒的な軍事力を前にしては
反乱を起こしても短期間で鎮圧され、逆に締め付けが厳しくなるという悪循環を招くだけだった。
 だが反抗の意思までは完全に失われた訳ではなく、ボラー連邦が弱体化するようなことがあれば、ボラー連邦と
袂を分かちたいと思う者も少なくなかった。
 そんな彼らにとって、立て続けのボラー連邦軍の敗北と弱体化、そしてガルマン・ガミラスと地球連邦という
二大新興勢力の登場は願ってもないチャンスだった。

「彼らと接触できないだろうか?」

 そんな声は様々な国家や組織であがるようになっていた。
 ボラー連邦へ資源を輸出して仮初の平和を得ていたアマールでは、その圧倒的な軍事力を使って露骨な拡大政策をとろうと
せず、あくまで専守防衛に徹する地球連邦の姿勢に評価が高まりつつあった。

「彼らは平和を何よりも望んでいるのですね」

 アマール星女王は自分の後を継ぐ王女・イリヤの前でほっとした顔をした。

「イリヤ、貴方の世代でこの星は本当の平和を手に入れることができるかも知れませんよ」

 そのように地球連邦に期待する声は、地球連邦が他銀河からの侵略者『デザリアム帝国軍』を一方的に殲滅したという
情報から否応無く高まった。

「滅亡寸前の状態から、この短期間でここまで復活できるとは。地球連邦の底力は計り知れないな……彼らと接触するのも手か」
「最近、連邦軍は連戦連敗だ。果たしてボラー連邦は当てにできるのだろうか? 万が一の保険は必要かも知れない」
「ガミラス、ガトランティス、そしてデザリアム。この三大勢力と互角に戦える地球連邦と友誼を結ぶのは利益になる!」

 ボラー連邦はそのような浮ついた雰囲気をある程度掴んでいたが、ガルマン・ガミラスとの戦いで手一杯な今、地球連邦まで
敵に回す愚は犯せない。急進的な勢力を見せしめに殲滅することで、この浮ついた雰囲気に冷や水を浴びせるのが精一杯だった。


「いかん。このままでは地球連邦によってボラーの勢力圏が食荒らされる」

 ボラー連邦国内ではそんな焦りの声も出始めたが、彼らをさらに慌てさせる動きがあった。
 ガトランティス、ガルマン・ガミラスによって立て続けにコテンパンにされたことで、親ボラー連邦諸国ですらボラー連邦の
力に疑問を抱き、少しずつであるがボラーと距離をとる動きを見せていたのだ。
 彼らをつなぎとめるためには勝利しかないのだが、十分な戦力差を確保できない状態での遭遇戦では、ボラー連邦は連戦連敗を
喫していた。

「その程度で、勝てると思ったか!」

 ダゴン将軍率いる機甲艦隊はチョッカイを出してきたボラー連邦艦隊に対して所狭しと暴れ回り、悉く返り討ちにした。
 さらに次元潜航艇による通商破壊の被害も深刻であり、ボラー連邦の辺境惑星では物資不足から反ボラー連邦機運が高まりつつあった。
 そしてそんな状況だからこそ、ボラー連邦は地球連邦に対して対ガルマン・ガミラス戦への協力を要請できなかった。

「戦力は兎に角、あのような小国の力を借りなければ反乱分子や敗残兵の集まりにすら勝てないと思われる。そうなればボラーの威信は
完全に失墜してしまう」

 べムラーゼはそう主張して、あくまでもボラー単独でガルマン・ガミラスを打倒する道を選んだ。
 だが同時に彼は地球連邦の優れた軍事技術の導入を検討していた。

「地球の技術を導入すれば、勝算は上がるだろう」

 驚くべきことに、べムラーゼは地球に対してボラー連邦の幾つかの技術を供給するつもりでいた。 
 普通なら一方的に取り上げるだけだろうが、地球(正確にはヤマトだが)が挙げた戦果が彼を慎重にさせていたのだ。
 そんな中、地球連邦は大規模な観艦式の開催を告知した。
 こうして西暦2202年、地球どころか銀河中の注目を浴びる観艦式が開催されることとなる。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第62話

 デザリアム艦隊を叩きのめしたことで、地球圏の安全を確保した地球防衛軍は観艦式の準備と同時に反撃の準備も進めていた。
 その一環として捕獲したデザリアム帝国軍の兵器の解析を進めていた。戦争の基本は敵を知ることなのだ。
 そしてその中で、一つの兵器が注目を浴びていた。

「多脚戦車ができるなら、人型兵器だって出来る!」

 ヤマト世界ということで不遇な(出番無し)人型兵器の開発を望む一派はそう気炎を挙げた。

「ガン○ムを!」
「いや、A○だ!」
「まずは堅実にボ○ムズだろう。JK」
「異能生存体は?」
「ヤマトクルーがいる!」
「「「なるほど」」」

 今後の戦いでは空間騎兵隊の能力を向上させることが必要不可欠(ヤマトワールドだと突入・白兵戦が多い)との
主張もあって防衛軍統合参謀本部や防衛省は人型兵器開発に舵を切った。
 勿論、さすがに全長18メートルもあるような人型兵器の許可は下りなかった。許可が下りたのはボ○ムズのような
タイプのものだった。

「そんな物(ガンダムもどき)を作るんだったら、普通に航空隊と戦車部隊を増強する」

 議長の回答にかなりの数の防衛軍関係者が項垂れることになる。
 だが何はともあれ、ボ○ムズのような人型兵器開発にGoサインが出たのは間違いなく、ヤマトファンは気合を入れた。

「斉藤たちが生きて帰れるように、強力な奴を作るぞ!」



 気合を入れる面々を見て、議長は「若者は夢があっていいな~」などと思った。

「艦隊司令官の席が~」

 議長室でぼやく議長。
 諦めたとは言っても、長年追い求めていた夢なのだ。綺麗さっぱり忘れることは難しい。
 尤もぼやきつつも仕事のペースはあまり落ちていないのは、彼の責任感と高い事務処理能力を示していた。

「議長、α任務部隊と沖田提督、第8艦隊司令官の功績を考えると何らかの形で報いる必要があるのではないでしょうか?」

 そんな中、秘書官がそう具申する。

「判っている。昇給、昇進は勿論、勲章も用意するつもりだ……」

 そう言って、議長は少し手を止める。

「議長?」
「いや、原作では軍上層部や政府に厄介者扱いされた面々に、厄介者扱いした私が勲章を与えるように根回しするという
事態がとても皮肉のように思えてね」
(議長、議長が後方で指揮を取れるように働きかけているのは、その面々ですよ……)

 議長は指揮能力よりも事務処理や戦略立案などの後方での仕事が評価されていた。
 特に最前線で戦う人間からすれば、前線の言うことをよく聞き、必要な補給を手配し、政府が余計な横槍を
入れてこないように折衝してくれる議長は得がたい存在だった。

(……これも一種の主人公補正なのかも知れないな)

 秘書はそんなことを思いつつ仕事を進める。
 ボラー連邦を含め銀河系に存在する多くの恒星間国家が注目する観艦式が開催されるまで、そう時間はないのだから。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第63話


 地球防衛艦隊……かつてガミラス戦役で壊滅寸前に追いやられながらも、後に不死鳥のごとく復活した地球圏の防人達は、その威容を全銀河に
お披露目することになった。
 月面に集結した地球防衛軍艦隊は大型艦だけでも防衛軍の顔であり、銀河にその名をはせたヤマト、ムサシ、そして防衛軍最強最大のタケミカヅチ級戦艦2隻、
戦略指揮戦艦アンドロメダ級戦艦4隻、主力戦艦40隻、宇宙空母5隻、戦闘空母5隻というガミラス戦役時には考えられない規模の大艦隊であった。
 この大艦隊が集う観艦式の観閲官となったのが……地球防衛軍の頭脳と誉めそやされる地球防衛軍統合参謀本部議長であった。

(ふふふ。これが宇宙戦艦、宇宙艦隊か)

 観艦式に間に合わせるために、突貫工事で完成させたタケミカヅチ級2番艦『ワルキューレ』の艦橋で議長は非常に満足げな顔をしていた。 

「乗り心地はどうですか、議長?」
「最高だよ。タケミカヅチ級の建造を推進した甲斐があったというものだ」 

 ワルキューレ艦長に上機嫌にそう答えると、議長は表情を引き締めてメインパネルに映る大艦隊を見る。

「今後、これだけの大艦隊が集うのは、そうそうないだろうな」

 地球人類の生存圏が拡大しつつある今、地球防衛軍が守るべき領域も拡大の一途をたどっている。
 それは防衛軍もかつてのように太陽系だけを防衛すればよいような状況ではなくなることを意味する。

(沿岸海軍から外洋海軍への脱皮を急速に進めなくてはならない)

 防衛艦隊を外洋艦隊とするための魁が攻勢部隊の創設であった。
 当初は生存圏防衛のための戦力が不足するという声もあったが、北米出身者たちは諸手をあげて歓迎した。

「向こうから手を出してきたんだ。容赦する必要は無い!」

 今度はこっちの番だとばかり彼らは意気軒昂だった。

「一発殴ってきた以上、足腰が立たなくなるまで殴り返すべきだ! 相手に立ち直るスキを与えたらガミラス戦役の再来になる!」

 尤も同時に、彼らは完成したアリゾナを第9艦隊に入れるか、新たな独立部隊の創設を連邦議会で要求した。

「我が州の新型戦艦アリゾナ級は、極東州のヤマト級に勝るとも劣らないものです! 高い戦果を期待できます!!」


 アジア州、ユーラシア州もヤマト級の建造を進めていた。
 当初、彼らは遊星爆弾で自分達を弱体化させた忌々しいガミラスへの報復を進めたかったのだが、ハイペロン爆弾という最悪の兵器を
地球に打ち込もうとしたデザリアム帝国への報復を優先することにした。

「デザリアム帝国をどうにかしないと、枕を高くして眠れない」

 捕虜から得た情報で、相手が銀河一つを支配する超大国であり、ボラー連邦に勝るとも劣らない戦力を保有していることが判った。
 彼らの種としての力が衰えていることは朗報だったが、それが克服されないとも限らない。

「少なくとも攻勢部隊によってより(政治的に)インパクトがある打撃をデザリアム帝国に与えなければ対等以上の交渉は難しい」

 そう主張する者は少なくなかった。中にはガミラス本星、白色彗星のように敵の本星を砕いてしまえという人間さえいた。
 そのように好戦的になる政治家たちに憂慮したのが、ヤマトクルーだった。特にヤマト艦長となった古代進は地球連邦主要州の好戦的な考えを危惧した。

「力で何もかも叩き壊すのなら、政府の連中が嫌ったガミラスと何も変わらない」 

 デザリアム帝国軍の捕虜を訊問し、彼らも同じ人間であると考えている男らしい発言といえた。
 そして原作チートキャラの意見を無視する議長ではなかった。

「攻勢部隊には外交官、あるいはその権限をもった人間を同乗させ、現場の裁量で交渉を行うようにしておく必要があるか」

 下手に政府に不信感を持たれたら堪ったものではないので、議長はすぐに手を打つつもりだった。だがヤマトクルーに阿るだけに議長は動く気はない。
 防衛軍の活動範囲が拡大している以上、どこで外部の勢力と接するかわからない。そのためには外交に通じた人材を艦隊に置く必要もあるのも事実だ。
 尤も、その人材をどうにか調達しなければならないという問題があるが。

「い、今は忘れて観艦式に集中しよう」

 悠然と航行する宇宙艦隊を縫うように飛行する航空隊(新型機含む)を見つつ、議長は軽く咳払いをする。
 何しろこの後には議長が演説する予定になっていたのだ。晴れ舞台で失敗するわけにはいかない。

「さて、いよいよだな」

 こうして議長にとって初の晴れ舞台の幕が上がる。



 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第64話


 観艦式旗艦『ワルキューレ』に設置された演説会場には地球連邦のマスコミだけでなく、ボラー連邦からも多数の人間が議長の登場を待っていた。
 何しろ地球防衛軍統合参謀本部議長といえばガミラス戦役後半から地球の対外戦争を主導してきた人物であると目されており、その多大な功績によって
次期連邦大統領候補とさえ言われているほどの重要人物だった。
 その男が自身が開催を推進した観艦式で大々的な演説を行うのだ。気にならない訳がない。

「宇宙人の脅威を前面に出して、更なる軍拡を煽るつもりでは?」
「自身の功績を喧伝して、次期連邦大統領選挙に打って出る準備では?」
「いや議長に反抗的な守旧派への牽制だろう」

 地球だけでなく、ボラー連邦でさえ様々な憶測が飛び交った。
 議長は自身の発言が注目されていることを分かっているのか、慎重な物言いをすることを心がけていた。

(あまり下手なことを言うと、回りがうるさいからな……気をつけなければならない)

 議長の功績は誰もが知るところであったが、議長の栄達を誰もが歓迎している訳ではない。
 そのことを知る議長は、あまり警戒されるようなことは言わないことを決意していた。
 議長は軽い挨拶をした後、神妙そうな顔で口を開く。 

「まず、先の会戦で地球のために戦い、散っていた戦士たちの冥福を祈って、黙とうを捧げたい」

 そう言って1分間の冥福を祈った。 
 ボコボコにされたデザリアム帝国からすれば、「お前ら、ほとんど死んでないだろう」と言われることは間違いないが、とりあえずパフォーマンスは
重要だった。
 そして黙とうが終わった後、議長は話を再開する。

「我々は新たな侵略者『デザリアム帝国』の尖兵たちを撃退することに成功した。この輝かしい勝利はガミラス戦役後の宇宙戦士たちのたゆまぬ努力と
 戦場での奮闘、そして市民の協力の賜物であり、私はこのことを誇りに思う。だが戦いはこれで終わりではない。これは始まりに過ぎないのだ」

 そこで言葉を切った後、議長は強い口調で言う。

「デザリアム帝国は地球は勿論、ガミラスやガトランティス以上に進んだ文明を保持している。今回の結果を知れば、彼らは怒り狂い
 再び地球に魔の手を伸ばすだろう! そしてその魔の手は、今回派遣された艦隊の比ではないのは明らかだ!!」

 議長は回収した残骸や捕虜を訊問した結果、判明した情報(ただし言える範囲)のことを交えて、デザリアムがいかに侮りがたい敵であるかを
繰り返して表明した。
 さらにガミラスが再び動き出していたことやガトランティスの存在にも言及する。


「そして、かつて我々を滅亡寸前に追い詰めたガミラス帝国が再び、銀河系で活動を開始している。そして退けたとはいえ、ガトランティスも滅んだ
 訳ではない。銀河はかつてない戦乱の時代を迎えていると言って良いだろう。我々人類は自ら戦いを望むことはなかったが、ガミラスのような国々に
 備えなければならない。汝、平和を欲するなら、戦いに備えよ……この格言を忘れてはならない」

 地球の歴史を研究し、地球人類を戦闘種族扱いしているボラー連邦からすれば「いや、お前らの場合は異星人に接触する機会がなかったから、先制攻撃を
しなかっただけだろう」と突っ込みたかったが、敢えて黙った。何しろ表面上は間違いではないのだ。
 ちなみに古代など前線で戦っていたヤマトクルーは議長の台詞を聞いて賛意を示していた。
 ヤマトの第一艦橋では「さすが議長だな」との声があがった。 

「議長はどんな相手でも、まず交渉から始めるからな」

 島は改めて感心したかのように言うが、古代進は少し面白くない顔をする。

「ボラー連邦の圧制振りについては、いろいろと言いたいことはあるぞ」
「おいおい、古代。確かにボラーのやり方は俺たちからすれば鼻白むものだが、あちらにはあちらの事情がある。下手に口を出すのは拙いだろう」
「……分かってる。でも向こうの内情を知れば知るほど気に食わない。それだけさ」

 古代としてはボラー連邦もガミラスと似たようなものだった。だがガミラスと違って、ボラー連邦は地球に友好的だった。故に表立っては何も言えない。
 それにボラー連邦がどれだけ大量破壊兵器を持っているかも、ディンギルとの戦いで思い知っていた。

(ヤマトが勝てても、その間に地球を砕かれたら人類はお仕舞だ。地球はまだまだ銀河の小国というわけだ……)

 演説の中で議長は友好国と連携していく必要性を訴えていた。
 これで議長や政府が頼りなく、ボラーの傀儡になりそうなら古代も何かアクションを取る可能性があった。だが少なくとも今の防衛軍首脳部は
頼もしく、政府もボラーと互角に遣り合っていた。沖田、土方、山南というった頼りになる男たちも健在だ。このことが古代を冷静にさせていた。

(確か新しい教育プログラムで、外交についての学習もあったな。あれも学ぶべきなのかも知れない)

 防衛軍が新しい環境に対応しようとしている。それなら次世代を担う自分も色々と新しいことを学ぶべきでは……古代はそんなことを思った。
 古代がそんなことを思う中、演説は終わりを告げようとしていた。

「目下、最大の敵はデザリアムである。
 しかも彼らは、新たな生命を求めて、我々地球人の体を欲しているという。我々が侮りがたい敵であるとすれば、目標をほかの星々の住民に
 変えるかも知れない。デザリアムとの戦いは絶対に負けられない、人類、いや命ある者の存続をかけた戦いとなるだろう。
 だが防衛軍は市民を守るために、デザリアムを相手に一歩も引くつもりはない。防衛軍はあらゆる研鑽を怠らず、地球人類を守り、そしてボラー連邦や
 その友好国と共に銀河の平和を守っていく所存だ」

 そして演説は終わりをつげ、新たな銀河列強として名乗りを上げた地球連邦の力を見せつける観艦式が本格的に始まった。  
 観艦式の場にボラーのような機動要塞、ブラックホール砲のような戦略兵器こそなかったが、地球が持つ宇宙艦隊が如何に強大であるか……銀河系諸国は
それを知ることになった。



 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第65話


 観艦式において『人類の敵』であり、『命ある者の存続を脅かす脅威』とされたデザリアムの首脳部は「お前らのほうがよほど脅威だろうが」と
の思いを胸にした。
 何しろデザリアムが現状で遠征に使用できる機動戦力の大半を投入したにも関わらず、地球艦隊はこの大兵力を一方的に殲滅してのけたのだ。
これほどの大敗北は圧倒的な科学力と戦力で版図を拡大し続けてきたデザリアムでも初めての事だった。

「我々の艦隊を赤子の手をひねるかのように殲滅しておいて……」

 デザリアムの統治者たる聖総統スカルダートは、モニターに映し出される議長の映像に苦い顔をする。

「情報収集の結果、彼らはこの星を叩くために遠征軍を派遣するつもりのようです」

 スカルダートの側近たるサーダの報告に、集められた幕僚たちは顔をしかめる。
 何しろあれだけの遠征軍を文字通り全滅させた戦闘民族が送りだしてくる精鋭部隊なのだ。この対処が容易でないことは明らかだった。

「地球軍の戦力は?」
「ヤマトタイプの戦艦が2隻、それにヤマトを超える超大型戦艦も2~3隻は同行するかと」
「つまり波動砲搭載型の戦艦は最低でも10隻を超える、と」
「むむむ、敵の火力は侮れんな。バリアもどれだけ持つか」

 防衛軍議長を務める男は、使い方を誤ると防衛軍の戦艦は段ボール装甲になると考えていたが……遠征軍をあっさり壊滅させられたデザリアム
の軍人からすれば自軍艦艇のほうが段ボール装甲のように思えた。
 まぁ実際、頼りのバリアが破られたら、地球側艦艇の火力を前に段ボール装甲と化すのは事実であったが……。

「はい。加えて地球軍は巡洋艦やパトロール艦にも波動砲を搭載しています。彼らが一斉に波動砲を放てば恒星を一つ消し飛ばすこともできるかと」
「しかし彼らは数年前にガミラスに滅亡寸前まで追い詰められたはずだが」
「ですが彼らは狂ったように軍備を増強し、今や彼らの戦力は銀河系でもボラー連邦に次ぐものです」
「……」
「また彼らはガミラスに接触するまで、延々と同族同士で殺しあっていた民族です。特に今の地球防衛軍制服組トップは地球でも有名な侍という名の
戦闘集団がいた地方の出身だそうで」
「それほどか?」
「はい。ボラー連邦経由で入手した情報によれば、侍は後ろに向けて撤退するのではなく、前に向かって撤退するそうです」
「……それは撤退なのかね?」
「敵に勝つためではなく、拠点に帰還するために敵の正面を突破するので撤退になる……かと」

 少し自信なさげに言う情報将校の台詞に沈黙が広がる。

「特にヤマトはもともと侍がいた地方、今は極東州と呼ばれていますが、この地方政府主導で建造されたそうで」

 この報告に更に沈黙が深まった。

「ヤマト1隻にガミラス帝国本星や白色彗星が破壊され、アンドロメダ星雲で無敵を誇ったガトランティス艦隊が地球艦隊に完敗した理由がよく分かった」

 それがその場にいた者たちの共通した思いだった。
 しかしそうかと言って、ここで引き下がるわけにもいかない。何しろ彼らは種の存続が掛かっているのだ。

「地球艦隊が来るか……ならば迎え撃つしかあるまい」

 そうスカルダートが呟いた直後、一人の男が手を挙げる。

「地球防衛軍が反撃に転じた場合、私の指揮下にある7隻のゴルバで迎え撃ちます」

 要塞司令官グロータス准将は自信満々にそう言い放つ。

「ふむ、自信はあるのか?」
「無論です。こちらには地の利に加え、空間歪曲装置もあります。勢い勇んで突入してくる地球艦隊を、地獄に叩き込んで見せましょう」
「ふふふ、良かろう。任せるぞ」
「はい」

 グロータス准将はそう返答すると神妙な表情で首を垂れる。
 だがその内心では自分が戦功を立てる絶好の好機と考えていた。

(地球遠征艦隊が壊滅したのは痛かったが……地の利を利用すれば十分に戦える。地球艦隊を返り討ちにすれば反撃の機会も訪れよう)

 彼は今の地位で満足するつもりはなく、更なる上を目指すつもりだった。 
 しかし彼はまだ知らない。
 地球側が用意した部隊はとびっきりのエース部隊であり、ガミラスとガトランティスを葬り去った時より更に凶悪化していることを。
 デザリアムが侮れぬ敵将と考える地球防衛軍参謀本部議長でさえ、場合によっては持て余す恐るべき狂犬であることを。 

「この二重銀河を思いあがった地球艦隊の墓場にしてやります」

 そう言ってグロータスはその場を後にした。 
 後にデザリアム戦役の詳細を知ったボラー連邦軍の高官たちは一様にこう呟いたという。

「無茶しやがって」

 そんなボラー連邦政府の反応を知った地球防衛軍と地球連邦政府の数名の高官が『とあるAA』を思い出したのは言うまでもない。



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最終更新:2015年08月11日 21:28