ネタSS――「ホワイトスター・ブラッククロス外伝?」~帰郷~
――西暦1966年8月15日 日本皇国 帝都東京
『ご覧ください!東京湾に「陸奥」が帰ってきました!出迎えた「長門」と「大鳳」、「白鳳」、そして「大和」「武蔵」!姉妹艦が再び旭日旗のもとに揃うのは実に20年ぶりとなります!
あの恥知らずな鬼畜米英の収奪と奉天兵による悪逆非道を受けて以来20年。ついに・・・ついに帝国海軍はその魂を取り戻したのです!!』
テレビからは、興奮したアナウンサーの声が響いている。
画面の向こうでは、第3次世界大戦後の第2次高度経済成長期の波に乗る日本の力を象徴するかのような臨海工業地帯をバックに艦隊が単縦陣で進んでいる。
ヘリからの空撮だ。半国営とはいえ放送局がこうした中継を行えるほど、日本国内は安定していたのだった。
画面の奥まったところ、浦賀水道の向こうからは、戦塵にまみれた一隻の大型艦が進んできている。
港湾への入港時の儀礼としてマストトップに旭日旗を掲げ、申し訳程度に英国海軍旗を掲げているその艦は、もう既に英国海軍籍から抜かれていた。
「まさか、こんな形であの『ムツ』を再び見るとはな・・・。」
自宅の居間でウィリアム・ハルゼー元米海軍退役大将は苦笑した。
あの太平洋戦争最後の大海戦、第2次ハワイ沖海戦において合衆国海軍太平洋艦隊の総指揮をとり、そして敗れた彼は、日本本土を戦略爆撃という名の毒ガス乱れ打ちで屈服させたルメイ元帥とは打って変わって敗者として扱われ、日本本土へ送られた。
そこで彼を待っていたのは、彼らが頼みとしたはずの偉大なる中華の民が侍の末裔を暴行し、凌辱し、掠奪する姿だった。
彼らいわく、「三光作戦」。それにつられてか、田舎から出てきた合衆国の市民たる兵士たちも白人優位主義にかぶれ、それをまねて時には町ひとつを殺しつくし、犯しつくし、奪い尽くした。
良心のある者は敵意と殺意をこめられた視線にいたたまれずに本土に戻るか精神に異常をきたし、「日本の侵略的性向を変革する」と息巻いていたニューディーラーたちは日本人側のサボタージュで日本赤化と同義の「改革案」しか出せなかった。
中華民国を名乗る奉天軍閥の連中は日本の半分を自分のものとして既成事実化しようとしていたし、ソ連は樺太と神坂(カムチャッカ)はおろか北海道や本州までを領土として要求していた。
大韓帝国なる連中など、九州島に加えて奄美諸島を固有の領土と主張する始末だ(なんでもテコンドーなる格闘技がそれを証明しているらしい)。
ハルゼーは、アイゼンハワーGHQ総司令を通じて改善を求めたが、占領状態が終了する2年の間にできたのは、この帝国の国号を少しばかり穏健・・・に見える「皇国」に変えたことと、東京裁判という名のリンチで己の不正義性を暴露されただけだった。
320 :ひゅうが:2011/12/07(水) 18:55:17
『嶋田元帥が乗艦されます!あっ・・・山本元首相が涙を流して嶋田元帥を迎えています!そうでしょう。我々も同じ気持ちです。』
テレビジョンは、横須賀港内の引き渡し式典の中継を続けていた。
晴れがましく行進曲「軍艦」を演奏する日本海軍の軍楽隊。その後方では、わがもの顔で横須賀軍港を使っていた在日米海軍司令官という名の「臨時合衆国海軍長官」が作り笑いを浮かべていた。
「あの超音速戦略爆撃機B-72『バルキリーⅡ』を量産とルメイの野郎が決定してから海軍は冷や飯を食わされていたからな・・・エンタープライズ級原子力空母はおろか、やっと作った改タイホウ級の『キティーホークⅡ』型は3隻で打ち止め。そのかわりにタイホウを日本海軍に返却した・・・それがこうして生きてきたのか。」
戦後の日本海軍は空母の保有を制限され、伊吹型や長門型にかわって大和型戦艦2隻を建造していた。そこへ、第4次大戦直前に「大鳳」などの戦時賠償艦が返却された。こうして日本海軍は、戦後就役した「白鳳」と「天鳳」とあわせ、3隻の超大型空母を保有することになっていたが、日本国民からの要望でそれらが返却された後は博物館化する予定であったという。
そこへ、第4次大戦後困窮を極める英国から「陸奥」を返却するから食糧と機械をという悲痛な叫びが届く。
最初は無視していた日本政府は、「陸奥」と引き換えにならと備蓄食糧の期限切れ寸前のものと中古機械を輸送することにしたと聞いている。
もう、ハルゼーはこの土地になじんでいるから別だが、米英両国人が町を歩いていても殺意をこめた視線を送られることはない。
あるのは、ただ侮蔑のみだ。
「あの命令に救われるとはな・・・。」
ハワイ沖で、沈みゆく戦艦「ミズーリ」からハルゼーが全艦隊に出した命令。
それは、「敵味方を問わず漂流兵を救助せよ。」というものだった。
それが知られているうえ、彼の功績を合衆国政府――というより空軍連中――が無視したことを知っている日本人は、ハルゼーを栄光ある敗者として扱っている。
有る意味、石をもって放射能渦巻く北米大陸へ強制送還される海南島や台湾にいた米陸軍や在日米軍将兵とは一段も二段も違う。
「さて、大統領閣下に会いにいかねばな。」
ハルゼーは、日本海軍の名誉客員提督であることを示す黒いブレザー型の第1種軍装に袖を通した。
エアフォースワン上で日本皇国に「降伏」したケネディ臨時大統領は、ハルゼーを通じて米国復興のために日本の助力を求めようと考えているらしい。
「あなた。出かけるの?」
妻が言った。思えば随分苦労をさせたが、近所の御婦人がたとはうまくやっているようだった。息子も、日本海軍の江田島の海軍兵学校へ入ったことで随分周りの雑音は減ったという。
「ああ。少し遅くなる。帰りにシマダさんのところに寄っていくが、何かお土産の希望はあるか?」
「なら、五鉄の卵焼き。イノウエさんのところの息子さんが以前持ってきてくれたんだけれど――」
「ああ、わかったわかった。」
ハルゼーは笑った。
ひとまず、自分はこうしてここに生きていられるし、それなりに満足もしている。
自分を追い出したところが慈悲を求めていても、それに答えるほど俺は聖人君子ではないのだ――
321 :ひゅうが:2011/12/07(水) 18:57:24
【あとがき】――伊吹型戦艦は第7艦隊と第3艦隊につれられてあわれ特攻攻撃に繰り出されてしまったと考えています。
防空能力が高いので空母機動部隊に随伴していたのでしょう。それが日本人を余計に怒らせていることでしょうw
最終更新:2012年01月04日 08:48