938:奥羽人:2024/02/11(日) 23:35:18 HOST:sp49-96-46-242.msd.spmode.ne.jp
近似世界 地中海海戦5
勇敢に突撃してきたイタリア戦艦群が海底に送られた後、それを為した日本海軍の戦艦達もまた手酷い損害を受けていた。
長門、陸奥こそ小破であるが、航空機による散発的な攻撃や損傷した突入機によってレーダー類や測距艤がほぼ全滅していた。
山城、伊勢は至近距離砲戦の際に敵38cm砲弾が複数命中して中破、対空火器等が損壊し炎上。
扶桑に至っては、艦橋部に200kg級航空爆弾を被弾し指揮不能、更に魚雷による浸水も発生していた。
日本軍にとり想定以上の集中攻撃を受けた今回の戦い、航空優勢の喪失によって第二群の戦艦戦隊による不利な状況下で防空戦闘と対艦戦闘を同時にこなす無茶の結果がこれだった。
後方に居る空母群にも損害が出ており、護衛艦の広範な損害に加えて赤城が射出機付近に爆弾を受けており、艦載機の運用に支障をきたしていた。
とはいえ、それと引き換えに第二群から出撃した航空隊はエーゲ海およびイオニア海での大規模な航空戦を制して最終的に地中海沿岸の制空権を確保。
相手にした独伊航空戦力の殆どを殲滅、射程内に存在する敵航空基地を多数破壊して南欧の枢軸空軍を“消滅”させることに成功していたのは、辛うじて今回の損害が無駄ではなかったと、ある程度の慰めにはなった。
「西に新たな艦艇群!戦艦含む一個艦隊!」
「あれはフランス海軍……枢軸側仏海軍です!」
しかし、そこで長門の艦橋に立っていた見張り員が発見したのは、此方に全速力で突入してくる新たな敵……正統フランス(枢軸仏)海軍の艦隊だった。
電探類の損傷と、炎上による視界不良で日本側の索敵能力が極端に低下していた結果、逃げるにしても近すぎると言う距離まで接近されていたのだった。
「敵機多数!西から来ます!」
「各個に迎撃せよ!」
仏空母ジョッフルから発艦した航空隊が向かってくるのを認めた長門が、全艦に対して防空戦闘を発令する。
しかし、多数の対空砲および指揮装置が損傷している現状では、統一した防空指揮は不可能であり、健在な各砲座が各個に迎撃を行う場当たり的な対応にならざるおえなかった。
この時、第一群から援軍としてやって来た航空隊は、別方向から空母群に迫る重巡以下で構成された伊艦隊への対応に出払っており、改めて出し直された命令に従って第二群戦艦戦隊の援護を始めるまでに、少しのタイムラグが生まれていたのだった。
「フランス戦艦、リシュリュー級が三隻!リシュリュー、ジャン・バール、クレマンソーです」
「……それは、本当か?」
「長門からの報告では、間違いないとのことです」
「そうか……総司令部に暗号通信。“女神が降臨した”、“女神が降臨した”。」
939:奥羽人:2024/02/11(日) 23:36:32 HOST:sp49-96-46-242.msd.spmode.ne.jp
空に伸びる一本の線。
それは、人工衛星の打ち上げだった。
いくら日本とはいえ現在の技術では不可能……それは事実であるが、表向きの話でしかない。
既に、軌道上には複数機の低視認性処理を為された分解能30cm以下の偵察衛星が待機しており、一時間に一回程度という撮影ペースではあるが、船一隻を追うには十分だった。
終戦の際には、今後の諸外国の宇宙観測能力の向上を考慮して全機が大気圏突入処理される予定である。
その打ち上げの雲の下。
「シドニー、離陸を許可する。離陸完了後は速やかに先行したキャンベラに合流せよ」
荒野に引かれた滑走路に、一機の航空機が進入する。
「シドニー」とコールサインが振られたその機は、一言で言うと“異様”だった。
全体的な形状は「く」の字で、まるで飛行機から主翼だけを取ってきたような形である。
上下はエイを思わせるように薄く凹凸が少なく、その全体が黒色に塗装されている。
そして、腹には大型の“地中貫通型誘導爆弾”が搭載されていた。
「後ほどウェリントンが支援に付く、会合ポイントは追って通達する」
何事もなく離陸した「シドニー」は先行していた同型機の後方に位置取り、そのままインド洋を西進していった。
南方大陸 南西部
刈割郡
南方大陸、史実でいうところのパースから500kmほど北上したところに存在するこの郡は、その存在を知る大多数にとっては地域の区割りの都合上で出来た、取り敢えず名前を付けられただけの荒野でしかなかった。
陸空軍演習場とそれに付随する軍基地はあるものの、ただそれだけであり、軍が極秘の新兵器をここで試しているといった噂がまことしやかに囁かれるだけの場所であった。
そして、その噂はある程度正しかった。
その正体は軍の極秘工廠を含んだ軍事閉鎖工業都市であり、徹底した機密保持の元で他国に知られたくない最新鋭の軍事技術の開発が進められている。
そして、人目につかない演習場では日夜、他国があっと驚くような兵器の試験が行われていると本国の高級将校達は把握していた。
ここまでが、表向きの情報である。
実際の所、閉鎖都市であるというのは正しい。
違うのは、ここが単なる軍事都市であるというだけではなく、“転生者”を中心とした“先端技術都市”であることだ。
元来、転生者の持つ知識というのは先進性に過ぎるあまり、転生当時の日本が持つ技術力では再現および転用が不可能であり、尚且つ現用技術の向上にも役立て難い物が多々あった。
それらの未来知識が役立つ前に失われる事を惜しんだ
夢幻会は、未来において役立てる日まで知識を保存しておこうと、書物等に記したそれらを厳重な管理の元で保管していた。
(“
支援2_903名無しさま_資料室”などを参考)
しかし書物や記録などでの知識の保管では、頭の中の隅から隅まで書き出せる訳でも無い以上、有用な未来技術の伝達にとってはある種の限界がある事は明らかだった。
技術を保持するには、実際に作るノウハウを持たなければならない。
そこで夢幻会は、限定的に自重を止めることにした。
軍事基地および工廠と共に併設されている倉崎重工や南方企業連合会(表向きは地元企業の団体、実態は各世界線から流れてきた技術者と企業家のみで設立された「技術の受け皿」)の研究開発・生産施設を中心に、そこで働く職員が暮らす居住区、彼らが何不自由無く生活する為の商業区までが存在する、人口50万人(その過半が転生者)を超える歴とした都市であった。
都市のエネルギーは淡水生産施設と併設された原子炉によって賄われ、都市で消費する資源のサプライチェーンも南方大陸内で自己完結している。
産業構造も原材料加工から末端までをカバーしており、都市に運び込まれた鉱石から金属を精錬することや、それを各産業に適した形に加工することは当然として、それを実際に製品にするまでの製造過程、その製造過程を実現する製造機械類を作るための工作機械(マザーマシン)の製造までもが刈割郡内で完結している。
居住者である転生者の一人には、ここでは限定的に21世紀が再現されているとまで言われていた。
無論、費用対効果としてはかなり悪く、日本政府は毎年莫大な国費をここに吸い取られている。
しかし、ここで作られている存在が「切り札」となるタイミングが、時折やってくる事だけは確実だった。
940:奥羽人:2024/02/11(日) 23:38:58 HOST:sp49-96-46-242.msd.spmode.ne.jp
【戦艦リシュリュー爆沈事件】
地中海海戦において最後に発生した、フランス艦隊と日本戦艦部隊との戦闘では、先の戦闘によって損傷を受けていた日本艦隊に対してフランス側が奇襲を仕掛ける形で発生し、仏海軍ジャン・バール、クレマンソーの大破と引き換えに扶桑、山城、伊勢の大破を成し遂げていた。
この戦いにおいてリシュリューは、日本海軍航空隊の一部から爆撃を受けたものの、直撃した爆弾は不発のまま海に転落した為ほぼ無傷で海域を離脱することに成功していた。
その直後の深夜に、帰還途上のリシュリューは突如爆発を起こして沈没する。
僚艦の見張り員の証言によると、リシュリューの第二砲塔付近で爆発が発生し、艦橋がひしゃげて主砲塔が舞い上がると同時に船体が破断。
そのまま救助の時間も無く、リシュリューの船体は速やかに海中に没したとされている。
この爆発事件では潜水艦説、自然発火説、放火説等が提唱されているが、どの説も根拠に欠けており、統一された見解は今のところ無い。
艦そのものについても、沈没地点が地中海の中でも深い地点だった為、公的な機関を交えた有力な調査は今に至るまで実施されていない。
現状では、親独派と親連合派に別れていた艦内の政治的混乱を主因とした放火であるとの説が有力だが、これを肯定する証拠は何一つ発見されていない。
941:奥羽人:2024/02/11(日) 23:44:39 HOST:sp49-96-46-242.msd.spmode.ne.jp
以上となります。転載大丈夫です。
大分遠回りしましたが、ようやくここまで来ました。
近似世界の昭号計画は、自身に都合のいい世界を作る計画であると同時に、転生者そのものを統制する為の計画でもありました。
日本人的気質として、自分たちと同じような存在が昔から一つの計画に参加しており、尚且つそれは決定的な悪事ではないとすれば、あとは空気を読んだり流されやすい気質から……という具合です。
その結果として、夢幻会は昭号計画を完遂するためのある種の政治機械となり、そのために未来技術の超兵器を用いて邪魔な因果を力ずくで破壊する事も厭わない存在であるのです。
最終更新:2024年06月16日 23:30