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「ん・・・・・・ここは? 」
サンペーが目を覚ましたのは、さっきまでいたはずのラーメン屋ではなくて見知らぬ花畑だった。
すぐそばには川が流れている。
「そっか。やっぱりボク、死んだんだ」
不思議と、もう悔しくも悲しくもなかった。かといって解放感があるわけでもなく、心から安堵できるわけでもない。
そこは、そういった感情がまったく不要の場所のように思えた。
生きていた頃の全てのしがらみから解き放たれて、ただ「ここにいる」だけの存在になることがなれる世界。それが許される世界。
サンペーは、かぐわしい花の香りに目を細めながら、
「ギンペーさんたち、まだ頑張ってるかなあ・・・・・・」
とつぶやいた。そしてそのまま、もう一度眠ってしまった。


「ガチャピン、頑張るですぞ」
ムックは、川面を覗き込んで、そこに映る親友の顔にエールを送っていた。
川辺では、彼のほかにも多くの人が川面を覗き込んでいた。そこからは、わずかだが現世の様子を覗くことができた。
「ああ、ガチャピン、もっと・・・・・・もっと、そっちであなたと居たかったですぞ」
ムックの覗き込んでいた川面に、涙が一滴落ちてガチャピンの姿をふやけさせた。
こんな形で別れたくなんかなかった。もっともっと、一緒にいたかったのに。
「あんた・・・・・・あんたも、誰かを遺して来たのか」
ムックの隣にいた少年が、不意に話しかけてきた。ムックは涙を拭いて振り返る。
「ええ。いやはや、情けないものですな。そういうあなたも? 」
「ああ、妹が一人いたんだ。これがどうしようもない愚妹でさ、兄貴に操でも立ててなきゃいいけど」
「ならば、あなたも川を覗いてみれば? あなたが一番見たい人の顔が映るはずです」
「いや、」
少年―――朝倉純一は、首を横に振った。
「あいつなら、きっと大丈夫ですから」
嘘だ。本当は、あいつがどうなっているかを知るのが怖くて見れないだけだ。
当然純一が、隣にいる赤い雪男を殺したのが自分の妹であることも知らない。
「そうですな。死人がいくら心配したところで、向こうにまでは届きませんからなあ」
ムックはそう言って笑い、そしてこれから先、ガチャピンがこっちにくるまでの時間をここでどう過ごそうかと考え始めた。
きっと、彼がここに来るのは、ずっとずっと後のことになるはずだから。


花畑の中に、場違いも甚だしいような一台の屋台があった。
「野原君、まあまあもう一杯」
「課、課長、もう勘弁を」
その店の暖簾の中で、ベロンベロンに酔った課長が、野原ひろしに酒を勧める。
「いいじゃないか。ここじゃあもう酔ったまま家に帰って、奥さんに怒られることも無いんだしさ」
「・・・・・・ええ。もう息子の悪戯に困らされることも、妻の無鉄砲さに迷惑することもありません」
「野原くん、川を覗かなくていいのかい? 」
「いえ、もうしばらくは、家族のことも仕事のことも忘れて、こうしているのも悪くは無いなって思いまして。
それに・・・・・・これ以上泣いたら、涙が枯れてもう一回死んじまいますから」
その時、暖簾をくぐってもう一人の客が入ってきた。
「どうも、お隣よろしいでしょうか? 」
「あ、あんたは・・・・・・ゴジラ」
「へへへ、どうもすいません」
怪獣は、恥ずかしそうに頭を掻いた。
「驚いたなあ、あんたほどの奴まで死んじまうとは」
「いやあ、お恥ずかしい。何しろ、何も考えずにただ暴れまわっていたもので。
それに、自分でも知らないうちに沢山の人を殺してしまったので、当然の報いかもしれませんね」
ゴジラは、おでんのこんにゃくと卵を注文した。
(ゴジラでも殺されるほどの殺し合い・・・・・・みさえやしんのすけは大丈夫だろうか)
「野原くん、どうかしたのかい? 」
「いえ、何でもありませんよ。さ、もっと飲みましょうか!! 」
そう、今は何も心配したくない。
ここは、取引先との接待も残業も満員電車での通勤もご近所トラブルもない世界。
野原ひろしが、一生願い続けても手に入れられなかった世界なのだから。
「おやっさん、熱燗もおねがいね」
ゴジラが手を挙げて言った。


「なんだよ出木杉、キミももう負けちゃったの? 」
「いやあごめんスネ夫君、頑張ったけど駄目だったよ」
新たに花畑に現れた同級生を、スネ夫は軽蔑するような目で見る。
「よしなさいよスネ夫さん、私達だって出木杉さんより先に死んじゃったじゃない」
しずかがそう言うと、スネ夫は気まずそうに押し黙った。
自分なんて、のんきに北海道で釣りをしてるところをゴジラに踏み殺されたのだから格好もつかない。
「でも、ボクだって本当はもっと活躍するはずだったのに!! ゴジラが出てくるなんて反則だ!! 」
「もう、スネ夫さんったら」
出木杉は、そんな彼らのやり取りを見て笑った。
みんな、本当に、死んでもずっと変わらないんだ。
「三人とも、そんなこと言ってないでこっちに来てごらんよ。のび太くんやジャイアンはまだ頑張ってるよ」
ドラえもんが、川岸で手を振っていた。
三人は川面に走りよって水面を覗く。
「のび太さん、無理なんかしなくていいから、絶対に生き残ってね」
「ジャイアーン、君の歌の底力はそんなもんじゃないぞー!! 先生も頑張れー!! 」
かみなりさん・・・・・・メイド服の下はスク水だったなんて・・・・・・ハアハア」
そして、もう遠すぎる場所にいる人たちに、届くはずの無い声を送った。


「かかか、是非もなし
川に浮かんだ船に乗り込んだ織田信長は、最後に少しだけ、と思って川面を覗き込んだ。
と、そこに、
「やはり、行くのですね」
先生@サザエさんが、背後から声をかけた。
「おお、先生。お主も自らの生徒に殺されるとは笑止千万なことよ」
「全くですよ。でも信長さん、いいんですか? だって、この川を一度渡ってしまうともうこちら側には戻って来れませんよ。
永遠に『彼岸の住人』になってしまいます」
先生は、船に乗った信長を船着場から見下ろしていた。
「ふん、ワシは貴様らのような小物どもとは違う。もとより、もう戻る気などはないさ。
そもそもワシは一度はとっくに死んだ人間。こんな殺し合いの主催者などにされたことが間違いだったのだ」
「しかし信長さん、あなたはそれでいいのですか? 生きている人間達の身勝手によって殺し合いの主催になどされ、
そして身勝手にもあっさりと殺されてしまった。そんな扱いを受けて・・・・・・これからも、もしかしたら同じ目に何度
も遭わされるかもしれないのに・・・・・・それで、いいんですか? 」
「かっかっか、先生、お主もまだまだ現世の毒が抜けきっておらぬのう」
「な・・・・・・」
「よいか。もとより殺し合いに、そもそも規則などあるはずが無いのだ。例えば能力の制限だの、閉鎖空間に大勢の
人間を誘拐してきて殺し合わせるだの、そんな殺し合いが現実にどうして存在しえる?
そう、現実の世界の殺し合い、現実の世界の戦いというのは、すべからくルール無用の『カオス』だ。
おそらく、今回ワシが関わり、お主が関わり、その他老若男女から動物に至るまであらゆるものの運命を狂わせた此度の
バトルロワイアル・・・・・・これこそが、『バトロワ』として本来あるべき姿なのだ。もともと、殺し合いは『ゲーム』なんか
ではない。答えは一つ、『是非もなし』だ」
今日本全土で行われている殺し合いこそが、真の正しい姿なのだと言い残して。
信長は、櫂で船着場を突いた。
船はゆっくりと、川の上を進みだす。
「信長さん・・・・・・私も、ご一緒していいですか? 」
「ああ? 」
「私は生徒を守るという使命を果たせなかった。そんな私がここにいる意味は」
「いや、先生。あんたの使命は終わっておらん」
先生は、信長のその台詞に戸惑う。そんな彼の背後から、聞きなれた子供の声がした。
「せんせーえ!! 」
それは、死ぬ間際に聞いた、ついこの前まで聞いていた声。
でも、どうしようもないくらいに、懐かしい声だった。
「先生!! 」
「中島!! 」
再開の喜びからだろうか、抱き合う二人を岸に残して、信長は広い川を渡っていく。
向こう岸が見えないほどの、広い川。
そこに映るのは、現世の有象無象の人々の叫びで、悲しみで、希望で、強さで、輝きだった。
「ああ、浅ましきことよ。五百年経とうと、人の考えることは変わらぬか」
信長は、生涯で一番穏やかな気分だった。




最終更新:2007年01月10日 23:25