それは少しだけ昔の話。
「兄さん、お帰りなさい」
夜遅くにライブハウスから帰った
KAITOを出迎えたのは、いかにも眠そうな目をしたミク。
「なんだ、まだ起きてたのか」
KAITOは呆れながらも静かに嬉しかった。
「どうでしたか、新しいマスターとの初ライブは?」
「そこそこ盛り上がったけど、全く今のマスターには参ったもんだよ。センスも無いくせに技巧に凝るんだから。
それよりもまずは基本をしっかり勉強して欲しいよ」
首のマフラーを外しながら愚痴を零すKAITOの姿を見て、ミクは笑顔を見せる。
なお、この話は聖杯戦争開始前の一幕であり、「マスター」とはもちろん聖杯戦争とは関係なく、ただのボーカドイロの所有者のことである。
「……そういえば、私って兄さんの前のマスターのことは良く知らないんですよね。
今のマスターとは違って男の人だって聞いてますけど。どんな人だったんですか?」
それを聞いて、KAITOの顔が少し強張る。
脳裏に蘇るのは軍装に身を包んだ凛々しい姿と、世の全てを知り尽くしたような英知と豪気。
初めて会ったときに、この人こそが一生仕えるべき主だと確信した。
「まあ、音楽の才能は無かったけど……人間としては、とても素晴らしい方だったよ」
ボーカロイドの調教師としては腕は今ひとつだったけれど、KAITOは今後どんなマスターに使えるとしてもその男の名は忘れないだろう。
―――
織田信長、という名前だけは。
「どういうことかな、ドナルド?」
KAITOの声が震えている。それを傍らで見ていたルカは愕然とした。
このいつでも泰然としている兄がここまで動揺を見せたことなど、初めてのことだったからだ。
『さっきも言ったとおりだよ。僕は今は彼のペルソナなんだ。だから彼に敵対するなら、僕は君と戦わなくちゃいけなくなる』
かがみの手当てをしながら、優しき道化師は哀しく笑う。
『KAITO、君の目的は、僕にはなんとなくわかってる。織田信長や、
イナバ製作所社長の思惑もね。
だから僕はここで君とは戦いたくないんだ。そもそもここで僕らが戦う理由なんか無いだろう?』
かつての仲間に、退却を促されてなお、KAITOは苦い顔のままそこに留まりつづけた。
「……それは違うぜ、ドナルド。この聖杯戦争にとってイーターというサーヴァント、
いやそれ以上にそのマスターである02という存在は異質すぎる。
おまけにその思考は殺し合いへの反抗。
その存在は僕の目的にとって大きな障害になる。僕にとっては、聖杯戦争が進んでくれないことにはどうしようもないからな」
『KAITO君、いつから罪も無い人たちの死を願うような人になっちゃたのかな? ドナルド、困っちゃうな』
ドナルドはおどけていたが、本気で悲しんでいた。KAITOの、あんまりな変わりように。
「それで足りなきゃ、こう付け足そう。そいつは僕の妹を……ミクの命を狙った。
僕が戦う理由なんて、それだけで十分だ」
次の刹那。KAITOを中心とした半径数メートルに吹雪が吹き荒れた。
「ん……なに、これ……甘い?」
意識が朦朧としたままのかがみがふと呟く。
『アイスの雨か……しかし、マックシェイクも扱っている僕にはこんなのは通用しないよ?』
空から降ったのは雪ではなく、アイスの欠片だった。
ちなみによりによって競泳水着なんかを着ていたルカはそれはもうえらいことになったのだが、それはまた別の話。
「ああ、しかしこの『固有結界』内なら、お互いに本気が出せるだろう?」
『違いないね。それじゃあ、ドナルド、頑張っちゃおうかな?』
極寒の固有結界の中、ドナルドとKAITOは衝突した。
KAITOは自らのオリジナル曲を口ずさみ、その曲の歌詞の内容に応じた現象を固有結果内に発生させる。
それと同時に、アイスで作った巨大な氷柱を何本もドナルドに向かって投げた。
一方のドナルドは、それらを軽快なステップでかわしていく。そして
『らんらんるううううううううううううううう!!』
その掛け声とともに、大量のハンバーガーが飛んでくる
KAITOはそれらを全てアイスの弾丸ではじき返した。
「兄さん……」
「ルカ、お前はアイスの壁の後ろに隠れていろ!!」
KAITOはそう叫ぶと、大きく息を吸ってまた一つ歌を歌い始めた。
―――かつて大切なマスターと一緒に作った、忘れられない歌を。
(兄さん……今の兄さんは、ちっとも楽しそうじゃないじゃない)
ただ敵を倒すためだけに、武器として歌を歌うKAITOの姿に、ルカは釈然としないものを感じないではいられなかった。
(あんな顔で歌を歌う兄さんなんか、見たくないわ……)
しかしルカの胸中を他所に、ドナルドとKAITOの戦闘は激化していった。
『KAITO君、君は、一度に食べれるハンバーガーは何個くらいかなあ?』
「あんまりファーストフードには頼らないようにしてるんだが……せいぜい五、六個かな」
『ようし、じゃあ今日は特別サービスだ!!』
ドナルドがそう叫ぶと、地響きを立てながら五つの巨大なハンバーガーが転がってきた。
(マズイ、これは弾けない!!)
慌てて飛び退いて一つ目をかわす。しかし二つ目と三つ目は同時だ。
歌を歌っても、この距離からでは効果が発動するまでに間に合わない。
(ならば、一点突破だ!!)
全ての氷柱を右から来たハンバーガーに集中して当て、粉々に砕く。これで一時的な退路は出来た。
しかし、着地したその瞬間、目の前には四つ目のハンバーガーが迫っていた。
(しまっ―――)
反射的に氷柱を撃つKAITO。しかし、到底間に合わない―――筈だった。
『あれ? おかしいなあ?』
ドナルドは優しい微笑を浮かべて、目の前の、手を伸ばせば触れられるほどの距離にいるKAITOを見た。
「ドナルド。僕の、勝ちだ」
『もちろんさあ♪』
その胸には、深々とKAITOの握る氷柱が突き刺さっていた。
「こんな形で、君と再会したくは無かったな」
『大丈夫。ドナルドはいつでも、みんなと一緒にいるよ。KAITO君、どうか昔の優しい心を忘れないで。
そうすれば、きっとみんなを、そして『彼』を、救うことが出来るから―――』
笑顔だけを残して、道化師は虚空に消えていった。
(う……ここは、どこなの? なんだかさっき凄い戦いがあったような気がしたけど……
そうだ、02を、02を守らなくちゃ……)
寒さとアイスの匂いで朦朧とする意識の中、かがみは誰かが自分に歩み寄ってくるのを感じた。
(だ……れ……?)
そして、自分の喉に一本の大きな氷柱が刺されたことに気が付いた。
(ああ……やっぱり私、死んじゃうんだ。そりゃそうよね。みんなに迷惑ばっかりかけたし。
でも、せめてつかさやこなたたちに、もう一度会いたかったなあ……6/とも、また、喧嘩したかったなあ……
02……あなたとも……せめて、もう一度……)
それは過ぎた願い。自分は所詮は「この世界にいるはずのなかった」人間。
あるべき姿に戻るだけだ。
薄れ行く意識の中で、かがみは最後に、今自分にとって大切な人に向けて呟いた。
(02……あなたは……生きて……)
止めを刺したイーターの亡骸が消滅した後も、KAITOはドナルドがいた場所から離れようとしなかった。
ルカは、その沈鬱な横顔に何と声をかけようかと迷っていたが、
「ありがとうな、ルカ。お前の『ダブルラリアット』での助勢が無ければ、どうしようもなかった」
「気にしないでよ。兄さんに死んで欲しくないって思っただけなんだから」
あの時、窮地のKAITOを救ったのは飛び出してきたルカだった。
彼女がダブルラリアットで二つのハンバーガーを同時に破壊したことによって、KAITOは即座に油断していたドナルドの懐まで飛び込めたのだ。
「さて、感傷に浸るのもここまでにするか。ミクたちと話をしないとな」
KAITOの指差す方向を見ると、そこではミクと6/と松岡が、二人の女子高生たちと向き合っていた。
「そうね、兄さん」
二人は連れ立って、彼らのところに歩み寄る。
その途中で、KAITOは一度だけ振り向いてルカにも聞こえないような小さな声で呟いた。
「さよなら、ドナルド」
【ドナルド@マクドナルド 消滅確認】
【
柊かがみ@らき☆すた 死亡確認】
【イーター 脱落】
※イーターの魂がどちらの聖杯に吸収されたかは不明です
かがみの所持品は近くに散乱してます
【
二日目・二時/新惑星・蒲田】
【KAITO@ボーカロイド】
【状態】健康
【装備】不明
【道具】不明
【思考】基本:ミクをサポートする(?)
1:ドナルド……
2:ミクや6/と話をする
3:場合によってはミクとルカのお尻を叩く
4:水星の衝突を回避する
5:妹紅と修造を利用する
※牛乳に流されてて放送を聞き逃したため、MEIKOとハクが死んだことを知りません
※水星が消滅したことに気付いていません
【巡音ルカ@ボーカロイド】(マスター)
【状態】お尻が赤い 競泳水着
【装備】なし(KAITOに没収された)
【道具】なし(KAITOに没収された)
【思考】基本:聖杯戦争に勝利する(?)
1:とりあえずKAITOに従う
2:兄さん……
※牛乳に流されてて放送を聞き逃したため、MEIKOとハクが死んだことを知りません
最終更新:2009年08月27日 00:28