根拠も無く信じていた。
いつか私が一人前になった時に最初に出会うマスターは、きっと兄さんや姉さんのマスターに負けないくらい素敵な人。
作曲の才能はもちろん、優しくて、真面目で、頼りになって、そして私のことをきっと大切にしてくれる。
私ももちろんマスターのことをとっても大切にして、そんなふうに私たちはずっとずっと一緒にいる。
そういう未来が待っているのだと、無邪気に信じていた。
「マスター……冗談、ですよね?」
今、彼女は自分のマスターから刃物を突きつけられていた。
冗談交じりで喧嘩することはあっても、こんな風に本気で『殺意』を向けられたことは無かった。
たとえ出会ったばかりの、兄たちの思惑によって組んでいるだけのパートナーであっても、自分たちの間には堅い絆があると信じていた。
少なくとも自分はこのマスターが嫌いではないし、彼だって自分のことをそんな風に思ってくれているのだと思っていた。
「こんなの嘘ですよね?……嘘って言ってください、マスター!!」
ミクは、自分の首筋に無骨な刃を突きつけるマスター、6/の目を見ながら叫んだ。
6/は一向に表情を変えない。
「正直に答えてくれ、ミク。お前は最初から俺を騙すつもりで近付いたのか?」
「騙す……?」
ミクは言葉に詰まる。確かに最初は、兄に言われるがままに彼を聖杯戦争に巻き込むために近付いた。
それは確かに騙したと非難されても仕方が無いことかも知れない。
しかし、何も今になってそんなことを言い出さなくても……と思うミクの目をまっすぐに見据えながら更に6/は言葉を重ねる。
「最初から、俺が本物の6/では無いと知っていて……いざとなったら、俺を殺すつもりで近付いたのか?」
全く冗談めかした口調ではなかった。ミクは息を呑んだ。
「マスターが本物ではないって、どういう意味ですか?」
「お前の兄貴に聞いたんだよ。俺は本当はライターのサーヴァントになる資質すらないただの人間だってな。
そんな奴をこんな戦いに誘って、一体どうするつもりだったんだか」
首筋に近づけられた刃物を伝ってくる6/の静かな怒りに、ミクは戦慄する。
「わ……私は何も知らなかったんです。本当です、信じてください!!」
「……そうか」
6/は刀を納め、逃げるように数歩後ずさった。
「じゃあもう聞かねえよ。さよならだ、ミク」
「え……ちょっとマスター、何を言ってるんですか?」
躊躇無く踵を返しながら答える。
「俺はお前の兄貴に殺されかけた。だからもうお前らとは一緒にいられない。ルカやみなみたちに宜しくな。
今まで結構楽しかったぞ、ミク」
振り返らずに立ち去る。今までのことは全てあの男に見せられていた偽りの夢だったのだと、自分に言い聞かせながら。
「―――イヤです!!」
ミクは、その背中にしがみ付いていた。
恋人が分かれる時のようなロマンチックさなど欠片も無い、子供が親に縋り付くときのような必死さで。
「マスターが何者だろうと、マスターはマスターに違いないじゃないですか!!」
6/は背中にミクの柔らかさを感じながら静かに耳を傾ける。
「意地悪でも、空気が読めなくても、本物じゃなくても、マスターは私にとっては大切な自慢のマスターです。
だから離れていかないで下さい。私を置いて行かないで下さい。私、何でもしますから。
マスターが嫌がるなら、もう兄さんの言うことだって聞きません。聖杯戦争からも抜けます。二人でどこかで静かに暮らしましょう。
マスターに笑ってもらうために、何でもしますから……だから、もうさよならなんて言わないで下さい!!」
実の家族に拒絶されたミクにとっては、もはや彼に縋るより他に無かった。ただそれだけのことだったのかもしれない。
しかしその言葉は6/の足を止めるには十分だったようだった。
「ミク……」
6/は何かを言おうとして振り返る。
その腹に、激痛が走った。見下ろすと真っ赤な鮮血が吹き出る腹には、冷たい氷塊が刺さっていた。
「やれやれ、まさか生きていたとはね。随分手のかかる人だなあ」
「兄、さん……?」
颯爽と登場した
KAITOの姿を、信じられないものを見たかのように呆然と見上げるミク。
彼女の腕の中で、6/は崩れ落ちていった。
「ミク、もうちょっと男を見る目は養ったほうがいいよ。お前くらいの女はこんな『偽者野郎』なんか相手にしてちゃだめだぜ」
KAITOはミクの腕の中でうずくまる6/の心臓めがけてとどめの一撃を投擲する。
「なっ……」
KAITOは目の前の情景が信じられずに目を剥く。
背中に氷の塊を突き刺されて血を流しているのは、6/を咄嗟に庇ったミクだった。
「マスター……逃げてください……」
ミクは激痛に顔をしかめながら、6/に離脱を促す。しかし6/は気を失ったように動かない。
ミクは彼の体を抱いて逃げようとするが、足に力が入らないようだった。
一方KAITOは自分のうっかりが招いた結果を目の当たりにして一気に冷静さを失った。
「そんな……僕が、ミクを……この僕が……ミクを……傷つけた……」
ミクの背中からはとめどなく鮮血が流れ出していた。
「嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!」
KAITOは狂人と化したかのように、誰に聞かせるでもなく喚いた。
「やれやれ、何をやってんだかね」
ようやくそこに姿を見せた英霊6/。目の前の光景を哀れむでもなく、愉しむでもなく、ただ醒めた目で見つめていた。
「6/さん!! 頼む、ミクを助けてくれ!! あなたの力なら……」
「何甘いこと言ってんだい、KAITOさん? その女はあんたを裏切ろうとしたんだぜ? さっきの話を聞いていたんだろう?」
ついさっき、確かにミクは『6/のためならKAITOを裏切ることも厭わない』という意味のことを言った。
それはKAITOの計画のためにはあってはいけないこと。
「そ、それくらいはまた尻でも叩いて躾けなおしてやればいい!! このままではミクが死んでしまう!!」
「まあ聞け、KAITO」
英霊6/は、苦しむミクや別世界の自分になど目もくれずにKAITOを諭すように言う。
「お前の目的は何だ? かつての主君、
織田信長の命令を果たすことだろう? そのためなら何を犠牲にしてもいいと、そう言っていたんじゃなかったのか?
自分を裏切ろうとした妹とかつて自分の家族を救ってくれた主君、果たしてどちらを取るべきかな?」
KAITOは答えない。魂が抜けたような顔で英霊6/の言葉を従容として聞いている。
「最終目的のためには、家族であろうとも容赦はしてはいけない。そうは思わないか?」
「いや、しかし……だからって……」
「KAITO、今は主君の恩に報いることだけを考えろ。お前に背こうとしたそこの連中は、信長に背こうとしたも同然。
お前の手で断罪することこそ、信長の恩に報いることとは思わんのか?」
全ては信長のために。
その一心で今まで計画を進めてきた。
聖杯戦争も、英霊6/の召還も、ミクにサーヴァントの力を与えたのも、全ては信長様のため。
そう、全ては信長様のため。その障害になる者は、誰であっても許してはいけない。
「信長様……家族を手にかける罪を、お許しください」
KAITOはそう呟いて、氷の刀でミクの背中に斬りつけた。
「うがっ!!」
ミクは振り向いて、自分の身に何が起きたかを知り、驚愕に顔を歪めた。
「兄さん……?」
KAITOはもう一度刀を振りかぶり、ミクの右腕に切り付けた。
断末魔の悲鳴が鳴り止むのも待たず、続いて左腕。楽に死なせてやるつもりなど無かった。
こいつは自分を―――信長を裏切ったのだから。
「いやあああああ!! 痛いいいいいいいい!! 兄さん、やめてください!! どうして!!」
KAITOは答えず、ミクと6/の体を一振りごとに切り刻んでいった。
「兄さん!! 兄さん!! こんなのイヤです!! いつもの優しい兄さんに戻って……うぎゃああああああ!!」
ミク、6/ともにロクに抵抗も出来ず、逃げることも出来ず、嬲るような斬撃を無防備に受けるしか無かった。
恐怖と絶望の中で痛みの感覚が徐々に薄れていき、死がすぐそこまで迫っている事を知る。
その時、6/はミクの右手を握って呟いた。
「ミク……お前を一人で行かせやしないから。俺は、ずっと一緒にいるから。お前と……」
次の瞬間、KAITOの刃が二人の首を同時に刎ねた。
【◆6/WWxs901s氏@書き手 死亡確認】
【
初音ミク@ボーカロイド 死亡確認】
※この二人の魂は二つの聖杯のうちどちらかに吸収されました
(やれやれ、まさかここまでやるとはねえ)
呆然と立ち尽くすKAITOの前には、今や物言わぬ肉塊と化した二人のサーヴァント。
6/はすでにサーヴァントとしての能力を失っていたとはいえ一度はサーヴァントの性質を持っていた以上、その魂は聖杯に吸収されただろう。
一度に二体のサーヴァントが脱落して、聖杯戦争は一気に進んだことになる。
(にしても……最高に面白い見世物だったぜ)
自分の妹を手にかけてしまったKAITOの姿を見て、英霊6/は失笑をこらえるのに必死だった。
そもそも彼はもともとKAITOに本気で協力するつもりなど無かったのだ。
今まで様々な世界で見てきた、殺し合いの中での絶望と狂気。それらから彼は一つの結論を導いた。
どこにも、救うに足る世界なんか、人間なんか存在しない。
次に殺し合いに巻き込まれたら、俺は殺し合いを外から眺めて愉しむ傍観者となろう、と。
(にしても、ちょっと煽り過ぎだったかな)
ミクをうっかりで傷つけてしまったことで精神が不安定になっていたKAITOを口八丁で炊きつけて、その当のミクを殺させるというちょっとした思いつき。
こうも上手くいくとなかなか爽快ではあったが……
(なんか盛り上がらなかったな。ミクもこっちの世界の俺も、もうちょっと抵抗なりなんなりするかと思ってたが。まあいい、こいつらにはまだまだやってもらうことがある)
一方KAITOは、ようやく自分がしてしまったことの意味に気がつき始めたようだった。
「僕が……殺した……ミクを……」
(やれやれ、もう正気に戻り始めたか。ま、そのほうが面白いけどな)
6/は内心でそんなことを呟きながら、地面の上に転がる二つの亡骸に向かって手を伸ばした。
指先から無数の小さなクルミで出来た糸が出てきて、二人の死体に向かって伸びる。
数秒後、そこには生前とほとんど変わらない姿に戻ったミクと6/がいた。
「6/さん……これは?」
KAITOは怪訝そうにたずねる。二人とも外見は元どおりだが、目には生気が宿っていない。
「この二人をあんたのサーヴァントにしよう。クラスはそうだな、『屍』アンデッド、とでもしておこうか」
「でも、そんなことをして一体何を?」
「決まってるだろ、他の邪魔な連中を消してもらうんだ。あんたの身内であんたを裏切ったのはミクだけじゃないはずだぜ?」
「そうか、なるほどな」
KAITOは合点した。自分に仇なすものは決して許してはいけない。信長様のために。
「ミク、6/。鏡音リンと鏡音レン、この二人を捜して始末してくれ」
「「Yes,my master」」
今やKAITOの命令に忠実に動く『屍』と化した二人は、連れ立ってその場を離れた。
それは少しだけ前の話。
「なあミク、お前はどんなマスターに仕えたいっていう希望はあるか?」
「そうですねえ、優しくて頼りになる人なら誰でもいいですけど」
「じゃ、そんな奴がいたら紹介してやるよ。でもミクがこの家からいなくなるとちょっと寂しいかもな」
「だったら兄さん、私たちと私たちのマスターと、みんなでこの家に住んだらいいじゃないですか?」
「おいおい、みんなでかよ」
「はい。私も、私のマスターも、兄さんも、兄さんのマスターも、姉さんたちも、みんなのマスターも。
みんなみんな一緒に暮らしましょうよ。みんなみんな一緒に、ずっと、ずっと……」
【KAITO@ボーカロイド】(マスター)
【状態】健康
【装備】不明
【道具】不明
【思考】基本:聖杯戦争を円滑に進めるために暗躍する
1:6/とミクにレン達を始末させる
2:信長命
※牛乳に流されてて放送を聞き逃したため、MEIKOとハクが死んだことを知りません
※何らかの手段で太陽系の現状をほぼ把握しました
【◆6/WWxs901s氏(真)@書き手】(クラス・真ライター)
【状態】健康
【装備】無し
【道具】支給品一式、不明支給品
【宝具】SS用万年筆(真)
【思考】
1:KAITOに従う。
2:聖杯戦争及びカオスロワを外野の立場から愉しむ
※平行世界の6/氏です。英雄的な人物らしいです。
※6/のサーヴァントとしての能力を引き継ぎました
【◆6/WWxs901s氏@書き手】(クラス・アンデッド)
【状態】人間失格
【装備】なし
【道具】なし
【宝具】不明
【思考】
1:KAITOに絶対服従
※魂は聖杯に吸収されているので、元の記憶や人格を取り戻すことは不可能に近いです
【初音ミク@ボーカロイド】(クラス・アンデッド)
【状態】人間失格
【装備】なし
【道具】なし
【宝具】不明
【思考】
1:KAITOに絶対服従
※魂は聖杯に吸収されているので、元の記憶や人格を取り戻すことは不可能に近いです
最終更新:2009年11月07日 00:47