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蒲田近郊の廃ビルの中で、ルカはたった一人でがくぽとレンの攻撃を必死で凌いでいた。
二人ともS&W(拳銃)と剣戟だけで無く、持ち歌を歌って攻撃を繰り出す。
見通しのいい場所では的にされるだけなので公園の近くにあったこのビルの中に逃げ込んだが、装備でも人数でも不利なことは変わりない。
ちなみに修造は
「頑張れ頑張れできるできるもっとできるどうして諦めるんだそこで!!」
などと応援しているだけだった。はっきりいっていないほうがいい。
(ったく、兄さんもこんな格好させるもんだから動きにくくて仕方が無いわ!!)
競泳水着も汗を吸って蒸れてきた上に、激しく動き回ったせいで胸とか股間とかがちょっと痛くなってきた。
とは言え、歌を武器にしての戦闘となれば持ち歌の多いルカのほうが有利ではある。
挟み撃ちにしようとするがくぽとレンに、ダブルラリアットを喰らわせたり巨大マグロを召還したりしてなんとか応戦していた。
「いいぞ、その調子、ネバーギブアップ!!」
「修造、あんたも少しは手を貸しなさいよ!!」
ひとまず安全な場所に身を隠し、むきだしのコンクリの壁に背を預けながら休息を取るルカと修造。
どこからともなくスピーカーを通した声が聞こえてきたのはその時だった。

『キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン 、鳴かぬなら 鳴くまで 待とう ホトトギス―――
 皆様方ご機嫌麗しゅう。放送の時間ですぞ』

死者を告げる定時放送。聞くものに心構えをする暇さえ与えず、淡々と機械的に名前の羅列が読み上げられていく。

『重音テト、――亞北ネル、――』

(テト……ネル……死んだのね……)
数多の死者に紛れてついでのように読み上げられた、知り合いの少女たちの名前。
ルカたちは結局彼女たちを裏切ったまま死なせてしまったことになる。
今更ながらに後悔の念が襲ったが、その後にもっと大きな衝撃が待っていた。

『――、◆6/WWxs901s氏、初音ミク、――』

「なっ……」
ついさっきまで一緒にいたはずの、ミクとそのマスターの名前だった。
「おいおいなんてこったおい……」
さすがに修造も衝撃を隠せないようだ。
「冗談でしょ……嘘よ、こんなの嘘よ……」
確かに自分は一度は嫉妬のあまりミクを殺そうとしたが、もうそんな暗い感情に囚われて生きるのはやめよう、
ミクとも新しい関係を築こうと決意した矢先のことだった。
そして自分にその決意をさせてくれたのが、他ならぬ6/だった。
その二人が、なぜ死ななければいけないのか。ミクを一人で逃がした判断は間違っていたということか。
戦闘の最中ということも忘れて呆然としていたルカの背後で物音がした。
はっとして振り向くと、そこにいたのはS&Wを手に提げて同じくらい呆然とした顔をしているレン。
「ミク姉が、死んだ……この手で殺してやりたかったのに……」
「レン……」
「ははは、何かおかしいんだよね。ミク姉が死んで、本当なら嬉しいはずなのに、なんか素直に喜べないんだ。
なんていうか、人生の目的が無くなっちゃったような感覚かなあ」
レンはそう言うと自嘲気味に笑う。
「ねえ、もうそんな考えをするのはやめなさいよ。ミクはミクで、私たちは私たち、それでいいじゃない?
死んだミクだって、きっと私たちがそうすることを望んでいるだろうし」
ルカは沈んだ心を奮い立たせてレンを説得しようとした。今、放送で聞いたミクの死をきっかけにしてお互いに戦意を失っている。
これは多分ミクが自分たちにくれた最後のプレゼントだ。あの子はきっと、家族みんなで仲良く暮らすことを望んでいたようだから。

だが、その思いは最愛の弟には届かなかった。
「……そんな奇麗事を聞きに着たんじゃねえぜ、ルカ姉」

レンは右手を上げて拳銃の銃口をルカに突きつける。
「レン!?」
「ちょっとばかし計画が狂ったが、まあ結果オーライだ。ミク姉は死んだし、あとはあんたを殺すだけだぜ、ルカ姉」
「なんですって!? まさか、あんたたち最初から……」
「さすがに察しがいいねルカ姉。あたまの軽いパンチラ葱女とはえらい差だ。ルカ姉もミク姉ほどじゃないけど俺よりはよっぽど人気あるしなあ。
つーかニコ動の扱いとか雲泥の差だし。後から来た新参の癖にムカつくんだよ。目立つのは俺とリンだけでいいんだ」
つまり彼はもとから最終的にはルカを殺すつもりで、彼女を自分たちの仲間に引き込んだのだった。
自分の前に立ちはだかる壁は全て潰さなければいけないからだ。
「待ちなさいよ、あんたたち、今までそんな考えで歌を歌ってきたの!?」
レンに銃口を向けられながらも、ルカは毅然として口を開く。
「『歌い手は自分自身も楽しまないと意味が無い』。私は兄さんに、そう教わったわ」
脳裏に、ドナルドと戦っていた時の、悲痛な顔で歌を歌うKAITOの姿が浮かんできて胸が痛くなる。
それでもルカは続ける。
「あんたはそんな気持ちで歌って、本当に楽しい? 人に勝つことばっかり考えて、本当にいい歌が歌えると思うの?
あんたの歌はあんたにしか歌えないものでしょうが!! どうしてそれを誇りに思わないの!!」
「黙れ!! 俺たちと一緒にミク姉を殺すことに賛成しておいて、今更何を――」
激昂に任せて引き金にかけた指に力を込める。が、弾丸は発射されなかった。
それどころか、レンは引き金を引くことすら出来なかった。
(あれ、何で……)
戸惑いを顔に出すレンの耳に、この世で最も恐れている人物の声が聞こえた。

「すまないねレン。ちょっとばかし、その銃の銃口と引き金を凍らせてもらったよ」
ハーゲンダッ○のアイスクリームをペロペロ食べながら登場したのは、マフラーを巻いた青きボーカロイド、KAITO。
「兄さん、どうしてここが……」
「ひっ……うう……兄さん、これには深いわけが……」
一様に兄の登場に驚く二人だが、特にレンのほうは体を思いっきりがくがく震わせていた。
KAITOを裏切りミクを殺そうとしたことがバレているとしたら、どんなお仕置きをされるかわかったもんではない。
だがKAITOはレンにはまるで興味が無いような素振りでルカのほうへと歩み寄った。
「兄さん……その、ミクが……」
「ああ、わかってるよ。さっき放送でも言ってたけどさ、そもそもミクを殺したのって――僕だもん」

「―――嘘よね、兄さん?」
そうたずねながらも、ルカは自分の耳のほうを疑っていた。それはレンにおいてさえも同じだった。
ありえない。自分たち家族の間に何が起こったとしても、それだけは絶対にありえない。
「ああそうそう、さっきそこでこんな『ゴミ』をみつけたからちょっと始末しておいたけどさあ、ひょっとしてこいつはレンの連れ?」
そう言いながらKAITOが懐から取り出したのは、がくぽの生首だった。
「ひっ!!」
レンは衝撃のあまり尻餅を付く。
「なんか僕に斬りかかってきたから殺しちゃったよ。困るねえ、こんな奴は」
そう言いながら、まるで空き缶でも捨てるかのようにがくぽの生首を床に打ち捨てる。
「ああそれとさ、あの人もうるさそうだったから凍らせちゃったけどいいよね?」
はっとしてルカが隣にいた修造を見ると、すでに彼の全身は氷漬けにされていた。
随分前からセリフを発していないと思ったが、いつからこんなことになっていたのだろうか。
「有名な話だけどさ、カエルを熱湯の中に入れちゃうとすぐに飛び出すけど、水に入れてから徐々に加熱すればそのまま茹でガエルになっちゃうらしいじゃん?
それと同じでさ、一気に凍らせるんじゃなくて徐々に凍らせれば彼みたいな熱い男でも氷像になっちゃうってわけさ」
いつものような穏やかな笑顔で解説するKAITO。
違う。こんなのは自分の知っている兄さんじゃない。
確かにいつもドSで意地悪なところはあったが、こんなことをするような男ではない。ましてやミクを殺したなど、とても信じられるわけが無い。
「……どういうことよ。何なのよ、一体!! 修造は私たちの味方だったじゃない!! どうしてこんなことをしないといけないのよ!!」
「何、邪魔者を排除しただけだよ。裏切り者を罰するためにね」
「私なら、もうお尻叩きは受けたけど……」
「違うよルカ。僕を裏切った罰じゃなく、信長様を裏切った罰を受けてもらわないとなあ!!」
KAITOはそう言うが早いか、ルカの鳩尾に拳をめり込ませた。吹き飛ばされるように後ろに倒れるルカ。
その水着一枚に守られた肌に、KAITOは容赦なく蹴りを加える。
「たとえ改心しようが、一度でも信長様を裏切った罪はこの僕が許さない……絶対にだ!!」
床の上を転がされ、壁に叩きつけられて、瞬く間にボロ雑巾のようになったルカ。
心のどこかでこんなのは夢だと思っていたが、痛みの一つ一つがこれが現実だと教えてくれた。
息も絶え絶えになりながら、ルカは辛うじて声を絞り出す。
「兄さん……一つだけ教えて。私を傷つける理由はわかったけど……ミクは……なんであの子を、殺してしまったの?」
「もちろん、あいつが信長様を裏切るそぶりを見せたからだ」
「……兄さん。今の兄さんには、自分のマスターを満足させる歌なんか歌うことは出来ないわ……ぐふっ!!」
腹にKAITOのつま先蹴りが深々と刺さる。そしてKAITOはルカの顔を両手で掴むと自分の顔に引き寄せた。
「ふん、じゃあお前は二度と歌なんか歌えないようにしてやるか」
どんな目に遭わされるかを悟ったルカは出来る限りの力で抵抗しようとする。
「イヤ、兄さん、それだけは……」

グシャ。

KAITOの膝蹴りが、ルカの顎をいとも容易く砕いた。

コンクリートの床の上に血と折れた歯を吐きながら泣き声ともつかない泣き声を上げるルカを見て、KAITOは高笑いする。
「はっはっは、そんな口じゃあもう歌どころかしゃべることさえも出来ないねえ!! 歌も歌えないボーカロイドなんか存在価値があるのかな? かな?」
「ああう……うううう……」
もはや動物のような唸り声しか上げることが出来なくなったルカ。その瞳にあるのは、もはやKAITOへの絶対的な恐怖でしかなかった。
そしてその時すでに、レンの姿はそこには無かった。
「ふん、やっぱり逃げたか……まあ予定通りだし別にいいや。あいつとリンは6/とミクの手にかかってもっと悲惨な死に方をすればいい。
まあせっかくだし僕が手を下すのも悪くは無いけど……まあそれは後回しでいいや。さて、お前は僕と一緒に来てもらうよ。
なにしろまだまだ聖杯戦争は終わりそうもないからね。少しでも早く聖杯が完成して信長様の願いが叶うように、お前にも色々協力してもらうよ。
そしてその後、ゆっくりと殺してやる。覚悟しな」
もはやルカにはKAITOに反駁するだけの力は残っていなかった。肉体的にだけではなく精神的にも蹂躙され、彼女は完全にKAITOに屈服したのだ。
そしてKAITOはルカを連れて廃ビルを後にし、そこには一人の男の氷像と一人の男の生首だけが残された。

二日目・16時/新惑星・蒲田郊外】


【KAITO@ボーカロイド】(マスター)
【状態】健康
【装備】不明
【道具】不明
【思考】基本:聖杯戦争を円滑に進めるために暗躍する
1:6/とミクにレン達を始末させる
2:ルカと一緒に聖杯戦争に干渉する
3:信長命
※牛乳に流されてて放送を聞き逃したため、MEIKOとハクが死んだことを知りません
※何らかの手段で太陽系の現状をほぼ把握しました

【巡音ルカ@ボーカロイド】
【状態】お尻が赤い 競泳水着 全身に怪我 下顎を砕かれた
【装備】なし(KAITOに没収された)
【道具】なし(KAITOに没収された)
【思考】基本:ミクをサポートする
1:KAITOに絶対服従
※牛乳に流されてて放送を聞き逃したため、MEIKOとハクが死んだことを知りません
※ライダーとの契約を解除し、聖杯戦争から離脱しました

【鏡音レン@ボーカロイド】
【状態】肉の芽
【装備】S&W
【道具】支給品一式
【思考】 基本:ルカも始末する
1:少しでも遠くに逃げる

【神威がくぽ@ボーカロイド  死亡確認】



「うおおおおおおおおお!! お米食べろおおおおおおおおおおおおお!!」
あれから数分後。
松岡はそんな叫び声とともに体表面から熱を発し、自力で氷漬け状態から復帰した。

松岡修造@現実】
【状態】健康 熱血
【装備】なし
【道具】支給品一式 蜆×97 米の苗 不明支給品
【思考】
1:もっと熱くなれよ!
最終更新:2009年11月21日 00:24