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 蓬莱山輝夜、八意永琳の弓兵組、範馬勇次郎、真・最終防衛システムの攻撃を何とか凌ぎきった空気王達。
 だが、さらなる敵が彼らを襲う―――国家権力大石蔵人、世界で一番いい男阿部高和の来襲である。

「大石さん、約束はちゃんと守ってくれよ?」
「ええ、彼の逮捕にさえ協力して頂ければ、あなたの方の罪はどうにかしましょう」
「ありがたいね。それじゃあ、そこのお前 や ら な い か 」

 捕まれば、ブタ箱にぶち込まれる。
 さらに言えば、ケツにも熱い何かをぶち込まれる。
 一瞬の内にそれを察し、裸の王様は隠すモノも隠さずに目黒を駆ける。

「くっ……何故だ! 私が何をしたというのだ!」

 哀れにも、黒化中の記憶を完全に喪っている空気王には他の参加者に追われる理由すらわかってはいない。
 彼に理解できることと言えば、もし彼ら彼女らに捕まってしまえば、塵も残ることは無いだろうということだけだ。
 そして―――さらなる不幸。

「い、行き止まりだと!?」

 入り組んだ路地裏に入り込み、追撃者を撒こうとしたのが裏目に出た。
 角を曲がった空気王の前に立ちはだかるのは、ただただ壁。
 クリーム色に塗られたコンクリートの壁が、突き当たりを示していた。
 隠れられそうな物陰は無く、追手の足音はどんどん近付いてくる。

「万事……休すか……!」

 壁は高く、とても越えられるような高さでは無い。壊している暇も無い。
 笑点のピンクに視線を向けるも、打開策を見い出せていないのはピンクも同じ。
 もはやこれまでか、と空気王は自身の運命を悟る。
 掘られて殺されるか、逮捕され死刑となるか、それともそれ以外の何かか。
 何れにしろ、死は避けられないだろう、と。
 奴らに無惨に殺されるぐらいならば、せめて自ら死を選んだ方がマシだと言わんばかりに、空気王は鏡花水月の柄を握りしめ、



「あら、諦めるにはまだ早いわよ?」






「な……!?」

 大石蔵人は驚愕する。
 空気王を追って角を曲がれば、そこに居たのは空気王では無く。






「こ、こいつは……!」

 阿部高和は驚愕する。
 空気王を追って角を曲がれば、そこに居たのは空気王では無く。

* *




「バニ~さんとか大好きなんですよ私~」
「ウホッ、いい男がたくさん……パラダイスじゃねえか」

「あ、危ないところだった……」

 永琳や勇次郎には効かなかったとはいえ、鏡花水月の完全催眠が失われた訳では無い。
 常人である大石には普通に効果があるし、阿部さんには先刻実際に幻覚を見せている。
 空気王はギリギリのところで二人に完全催眠を発動し、窮地を脱したのだ。
 具体的には数十人のバニーさんと数十人のいい男の幻覚を見せて。

「催眠は解いちゃ駄目よ、永続的にかけ続けておきなさい」

 もっとも、そのことに気付かなければ今頃空気王は地獄を見ていただろうが。
 故に、笑点のピンクは彼女に礼を言う。

「ありがとうございます、間一髪で助かりましたよ」
「お礼なんていいわよ、笑点のピンク」

 セーラー服に身を包み、長い髪を揺らし、デコを光らせるその少女。
 峰岸あや―――もとい『らき☆すたのデコ』に。

「ピンク、彼女は何者だ?
 彼女に言われなければ、私は鏡花水月を使うのをすっかり忘れていた」
「知り合いですよ。とても古い、ね」
「知り合いなんて他人行儀な言い方しないでよ。
 私達は、『背景コンビ』でしょう?」

 背景コンビとは。
 1196話『背景コンビ結成 あとデコ誕生日記念+α』にて結成された、
 メインキャラへの復讐を目的とした、らき☆すたのデコと笑点のピンクのコンビ名である。
 もっとも、結成直後にピンクがズガンの憂き目に逢ってしまったため、特に出番らしい出番も無かったのだが。

「で、色々あって数百話ほど前に私もこの世界に来たわけなんだけど、そしたら追われてるあんたらを見かけてね。
 知らない仲じゃないし、ちょっと協力してあげようかなと思ったのよ」
「はあ……それは非常にありがたいお話しですが、あなたは構わないのですか?」
「いいのよ。どうせ相変わらず空気脱却を目指してるんでしょ?
 人気キャラを殺すなら、私にとってもメリットはあるしね。実に千数百話ぶりの、背景コンビ再動といきましょう」
「しかし……」
「何よ、歯切れの悪い返事ね。最初に人気キャラを殺そうとか言い出したのはあんたの癖に」

 実はそうなのである。
 人気キャラへの復讐を提案したのも、そのために背景コンビの結成を持ちかけたのも、デコではなくピンク。
 今こそ落ち着いたキャラになっているものの、人に歴史ありとはよく言ったものだ。

「別に構わないだろう。私達が今陥っている危機を乗り切るためにも、味方は多ければ多いほどいい
 ……というか何故私がここまで他の参加者に嫌われているのかいい加減私に教えてくれ。そろそろ泣きそうだ」
「……そう、ですね」
「じゃあ決まりね。
 ピンク、こいつへの説明も兼ねて、あんたたちの今の状況を正確に教えなさい」


* * *




「……あら、自分から出てくるなんて殊勝な心掛けじゃない」

 永琳と私の前に、その男は姿を現す。
 空気王、ウッドロウ―――02達の仇。

「殺される覚悟ができたのかしら?」
「違うな、蓬莱山輝夜。勝つ算段があるからだ」
「勝つ算段ねえ……バーサーカーも仮面ライダーももう居ないのに?」

 私の指摘に、空気王の顔が歪む。
 まあ、私達にとっては好都合なんだけど。
 あいつらのパワー、タフネスは相手にするにはきついしね。
 タフネスさなら私と永琳も相当なものとはいえ、バーサーカーやライダーの一撃をまともに喰らえば回復するまでは動けないだろうし。
 いくら蓬莱の薬の力で再生するとは言っても、ダメージ次第では完全に回復するまでにそれなりの時間がかかるのだから。

(永琳、わざわざ自分から現れたってことは……)
(大方、完全催眠で新たな手駒を調達してきたのでしょうね)

 小声で、永琳に確認を取る。
 まあ、それくらいしかないでしょうしね。
 この状況を引っくり返す手なんて、鏡花水月以外には。

(……しかし、それは既に読めています)

 けれど、永琳はその可能性を予測し手を打っていた。
 薬師という永琳の立場を利用し、新型インフルエンザを撲滅しようとする鬼(オーガ)を味方につけたのだ。
 そう、地上最強の生物範馬勇次ろ「 ア ッ ー ! 」うを―――!?

 背後から聞こえた奇声に振り向けば。
 地上最強の生物と、ランサーのマスター阿部が―――繋がっていた。

「な……」
「如何にその男が強かろうと、男である以上は阿部の獲物。
 完全催眠を使うまでも無かった……阿部にすれば勇次郎とやらは私よりもずっと『いい男』だろうからな」
「そ、そんな……掘られた程度であの鬼が殺られるはずが……」

 すぐに復活して阿部を殴り殺すはず、そう願いたかったが。
 しかし、実際に勇次郎は微動だにしていない。勇次郎だけでなく、阿部も同じだ。

「死因はショック死でしょうね……最強のグラップラーと言えども、そっちの方は未経験だったようで」
「ええええ……じゃあ、阿部まで動かないのはどうして?」
「おそらくは範馬勇次郎の鍛えあげられた内肛門括約筋による締め付けに、アレが耐えきれずプチッと潰r」
「解ったもういいそれ以上言わないで」

 とっさに永琳の口を塞ぐ。
 ……とりあえずその先は聞きたくない。
 そんな私達に冷ややかな視線を送りながら、空気王は淡々と述べる。

「……さて、そちらの切札だろう勇次郎ももういない。
 できることならば、この辺りで休戦といきたいところだが―――」
「断る」

 空気王が最後まで言い切るよりも早く、その提案を却下する。
 範馬勇次郎を失ったところで、戦力的にはこちらに利がある。
 空気王側とて、貴重な戦力だろう阿部高和を失っているのだから。
 鏡花水月の完全催眠を永琳の秘薬で封じている以上、空気王自身の力も高が知れている。
 空気王にどんな隠し玉があったところで、私達の力なら対処は可能なはず。
 一考にも値しない、馬鹿げた提案―――そんなの誰が飲むものですか。
 02を、10/を―――私と永琳の友を殺したお前を、私は絶対に許さない!

「永琳、援護をお願い!」
「了解です、姫様!」
「交渉決裂か―――出番だ大石!」

 爆音。
 戦闘開始とともに、一台のパトカーが猛スピードでこちらに突っ込んでくる。
 運転席には血走った眼をした小太りの中年―――鏡花水月に毒されているのかしら?

「洗脳というやつだ……よく解らないが、正気を失っている内に使ったのを体が覚えていたらしいな」

 素早いバックステップで後方へ飛び退きながら、律儀にもそんな説明をしてくる空気王。
 洗脳、か……そんな厄介な能力も持っていたとはね。
 この距離、あの速度では、暴走パトカーが私を撥ね飛ばすまで、然程の猶予は無いだろう。
 それまでに車内の運転手への洗脳を解く方法は……駄目だ思い付かない。
 ならば、運転手には罪は無いけれど。

「姫様!」
「貴女が手を汚す必要は無いわ、私がやる!」

 取り出すのは、永遠に燃え続ける一重の衣。
 せめてこの炎に焼かれ、天へと昇りなさい!

「難題『火鼠の皮衣 -焦れぬ心-』!」

 衣より放たれるのは赤く燃え盛る炎の弾幕。
 避ける間も無く火の海へと突入したパトカーを、瞬く間に炎が包み込む。
 そのような状態で真っ直ぐに走れるはずも無く、パトカーは狙いから大きく逸れて脇のビルへと突っ込み。
 直後、おそらくは炎が燃料に引火したのだろう。派手な音を立てて爆散した。
 そして、炎とともに黒い煙がもくもくと周囲に広がっていく。
 視界が多少悪くなったけれど、こちらにはアーチャーこと永琳の千里眼がある。
 空気王に、煙に紛れて逃げる隙は与えない!

「今度は、こちらからいかせて貰うわよ!」

 続いて取り出すは、五つの色に光る宝玉。
 龍の首元にあると言われるその宝玉を空気王へと向け、五色に光り輝く弾幕をバラまく。

「難題『龍の頸の玉 -五色の弾丸-』!」

 放たれる弾幕は、宝玉そのものと同様にとても美麗。
 けれど、それに見惚れるだけの余裕は空気王には無い。
 どれだけ美しかろうと弾幕は弾幕。まともに食らえばタダでは済まないのだから。
 さあ、この戦いにはいつものルールが適用されない以上、どんどんやってやろうじゃない。
 流石に永琳の弾幕を避けきっただけの事はあり、今のところは何とか避けられてはいるようだけど。
 避けるべき弾の量が二倍になって尚、避けられるかしら?

「難題『燕の子安が―――」

 私の言葉は、そこで止まる。
 鈍い痛み。
 聖杯戦争に参加するにあたり、動きやすさを重視したが故のジャージに、朱の色が広がっていく。
 ゆっくりと振り向けば、パトカーの残骸の横に、先程の中年が立っていた。
 全身から私とは比べ物にならない量の血を流しながら、焼け焦げた手にまだ煙の残る銃を構えて。
 その時ようやく、私は理解した。
 私は撃たれたのだと。

「ああ……まだ、死んでなかったのね」
「輝夜ッ!」

 次の瞬間、永琳の射った矢が頭に刺さり、中年はばたりと地面に倒れた。
 今度こそ、完全に死んだ。永琳がとどめを刺さずとも、あの状態では長くはなかっただろうが。

「傷は!? 大丈夫ですか!?」

 大層動揺した様子で、永琳がこちらに駆け寄る。
 ああもう、そんなに慌てなくても平気よ。拳銃で撃たれた程度の傷なら、私の身体はすぐに治してしまうのだから。
 永琳だってそれは解っているでしょうに……私の心配をする暇があったら空気王が何かしないか警戒しなさいよ全く。
 まあ……こうして私を心配してくれること自体は、嬉しくないわけじゃないけどね。

「……腹に当たったわ。ちょっとばかし血が出たけど、別に平気よ」
「そ、そうですか」

 私の事はいいから、空気王を。そう言いかけて、私は気付く。
 周囲にあるのは炎上する車、もう動かない三つの死体、そして永琳の姿のみ―――空気王がいない?
 私が撃たれて、永琳が動揺している隙に逃げた……?
 少し遅れて永琳も空気王の不在に気付いたらしく、辺りを見回している。
 私は彼女に尋ねた。

「永琳、あなたの千里眼で空気王の姿は見える?」
「いえ……捉えられません。これはおそらくアサシンの能力」
「ああ、さっきも使ってたアレね」

 気配を完全に絶ち、姿を消す。
 実に暗殺者のサーヴァントらしい、ステルスに特化した能力だ。
 私達が目を離している内に、空気王はその能力を発動したのだろう。

「参ったわね……アサシンに本気で気配を消されたら、私達アーチャーにはどうにもならないわ」
「ええ……姿が見えなくては、射ろうにも射れませんから」
「今のところは逃亡時にしか使われてないけど、攻撃で使われたら厄介よね」
「対抗手段がありませんからね……」
「気配を消したまま忍び寄られ、私達が気付いたときにはもう遅い」
「何も出来ないままに、まんまと寝首を掻かれる、と」
「汚いなさすが暗殺者きたない」
「まあ、暗殺者ですからね」
「怖いわねー」
「怖いですねー」

「「―――なんて、言うとでも思ったかしら?」」



「神宝『ブリリアントドラゴンバレッタ』
 神宝『ブディストダイアモンド』
 神宝『サラマンダーシールド』
 神宝『ライフスプリングインフィニティ』
 神宝『蓬莱の玉の枝 -夢色の郷-』」

 龍の頸の玉、仏の御石の鉢、火鼠の皮衣、燕の子安貝、蓬莱の玉の枝。五つの宝を、全て同時に展開。
 炎が、レーザーが、五種類の色とりどりの弾幕がそれぞれ絡み合い、全てを埋め尽くしていく。
 先程、空気王達が消える光景を目撃した後、永琳は私にこう言った。

『相手の姿が見えないのなら、相手が何処にいても関係ない程の弾幕を張ればいいんです』

 と。
 気配を消された場合の対策なんて、とっくに考え済みだったのだ。

「ぁああああああああああああッ!!」

 叫び声とともに、弾幕の嵐の中に空気王の姿が現れた。
 あまりの痛みに、ステルス状態を維持できなくなったのだろう。
 避けられるはずも無い、避けるだけのスペースも残されていない弾幕をその身に浴びせられ、空気王の体は既にボロボロ。
 その隣には、同じくボロボロの、桃色の着物を羽織った男の姿もあった。
 まず間違いなく男は空気王のサーヴァント、アサシンだろう。
 サーヴァントだけあって普通の人間よりは丈夫なようだが……それでもダメージは大きいように見える。

「くっ……寿限無寿限無五劫の擦り切れ!」

 呪文のようなものを唱えながら、アサシンは光の玉を操り何とか私の弾幕を相殺していく。
 しかし、弾数に差があるために全ては除去しきれず。
 一部を除き、弾幕はアサシンの身体に直撃し、その細身の肉体を傷つけていく。
 いける―――このまま押せば勝てる!
 スペルカード、発動!

「新難題『金閣寺の一枚天井』!」

 発動とともに、私の頭上に現れる金色の天板。
 ただ、ただ、ひたすらに巨大な一枚板。
 五つの宝に加えて、この金閣寺ならば……耐えきれる道理は無い!
 私は天板を両手で支え、空気王達に投げつけ―――

「―――今だ、マーラッ!!」

 ……!?
 空気王の手が光っ―――あれは、令呪!?
 直後、私の目の前に、とてもとても大きな『アレ』が召喚される。
 マーラ―――ランサーのサーヴァントが、私を即攻撃できる距離に現れてしまった。

「しまっ……!」

 まさか、更なる奥の手を隠していただなんて。
 今、私の両腕は天井を支えている。
 つまり……ランサーの攻撃をガードする事も、新たに弾幕を放ち迎撃する事も不可能。
 体勢的に避ける事も厳しく、ランサーに天井の狙いを変えようにも、ランサーの攻撃はそれよりも疾く。
 私という標的に向けて、悪夢の如き突撃―――ゲイボルグ―――が、放たれた。

「―――しかし、その攻撃は読めています」

 だが、私が何もしなくとも、マーラの突撃が私を傷つける事は無かった。
 一瞬の内に、数十本ではきかない程の矢が、マーラの雄雄しい肉体を貫いていたから。
 矢の突き刺さった部位から盛大に血を噴き出し、マーラは地にその身を沈ませる。
 射手は弓を構えながら、私の隣に立つ。

「最初に、マーラのマスターである阿部を手駒としていた時点で、マーラをそちらが切札として有している事は気付いていました。
 サーヴァントはマスターには逆らえませんしね……大方阿部から令呪を奪い、新たなマスターとなりマーラを従わせたのでしょう。
 ……さあ、アサシン。そして空気王。これでそちらの切札は完全に破りました」
「永琳……」
「ば、馬鹿な……」

 絶句する空気王とアサシン。
 ……やっぱり永琳は凄いと、しみじみ思う。
 彼女をこの聖杯戦争のパートナーに、そして永遠の従者にできた幸運を、私は改めて感謝した。

「では、姫様。彼らにとどめを」
「……私でいいの?」

 02を喪ってショックを受けたのは、永琳も同じだというのに。
 きっと、自分の手で敵を討ちたいと思っているはずなのに。
 そんな想いを欠片も顔に出さずに、永琳はその権利を私に譲った。

「ええ……構いません。
 姫様の弾幕が彼らの逃亡を防いでいる内に」

 そう言い切った永琳を見て、私はこれから何百、何千年と生きたところで、彼女には敵わないのだろうな、とふと思った。
 ありがとう、永琳。
 せめて、私はその想いに応えよう。

「塵も残さない……徹底的に、殺し尽くしてあげるわ。
 あの世で02達に悔いなさい―――新難題『金閣寺の一枚天井』!!」













 ―――あら?

 世界が―――暗く―――?

* * * *




「いやはや、ギリギリでしたねえ……お二人の助けがあと数秒遅れていたら、私達はあの天井に潰されていましたよ」
「……というかだな、私達に前もって段取りを教えておいてくれてもよかったのでは?
 マーラが破られたときは、背筋が凍りついた」
「別にいいでしょ、敵を騙すにはまず味方から騙さないと」
「そうですよ。間に合ったんだから別にいいじゃないですか」

 暗闇。
 何も見えない。
 声だけが聴こえる。

「しかし、よく成功したものです」
まったくだ……阿部、大石、空気化発動、マーラの強襲……全て破られ万策尽きたと思わせたところで、お前達が奇襲するなど」
「アンタ達に作戦を教えなかったからうまくいったのよ。もし教えていたら、あの月の頭脳に察知されていてもおかしくなかったわ」
「空気化に定評のある私達が背後から接近し、私のみくるビームとデコさんのデコレーザーで一撃で仕留める……。
 アーチャーが私とデコさんの存在を知らなかったからこそできた作戦ですね」

 会話には聞き覚えのある声と、聞いたことのない声が混ざっている。
 アーチャー……それは誰のことだったかしら?
 何故かしら、頭がジンジンして思い出せない。

「では、マスター。そろそろ約束のものを彼女達に」
「ああ、既に洗脳は終えている。後は令呪を移植するだけだ―――『何、気にすることはない』」
「ああ、やったわ! これで私も、今日からマスターよ! サーヴァントを従えて、聖杯戦争で大暴れできるのよ!」
「おめでとうございます、デコさん」

 聖杯戦争―――令呪―――サーヴァント―――マスター?
 大事な言葉、だと思う。なのにどうして、意味が思い出せないの?

「……で、こちらの元■スターはどうするのですか?」
「私達は■う彼女に用は■い。処遇はそち■に任■る」
「うーん……■そうにもこいつ殺せな■のよね……レー■ーで脳を貫■たのに、どん■ん回復し■■てるし」
「いっその■と、■復■待っ■、拷■■て、情報■集■■み■■■う■しょ■?」

 言葉に、ノイズが。
 うまく、聞き取れない。
 助けて。

「いい■ね■れ。じゃ■、■っそ■初仕■とい■わよ!
 ■ー■■ー、そ■■の身■を■■■壊■■■■■■■心■壊■■」
「■■■■■■■■、わかりました、マスター」



 助けて、永琳。


* * * * *




「さあ、情報収集も終わったことだし、目立ってやるわよー!」

 弓兵を従え、らき☆すたのデコは叫ぶ。
 ついに彼女念願の聖杯戦争に参加できるのだ。
 しかも早々サーチャー、ヒーロー、キャスターといった他のサーヴァントについての情報まで手に入り絶好調。テンションが上がるのも無理は無い。

「そういえば、サーチャーは鴉で情報を仕入れているってあの女が言ってたけど、それについての対策は大丈夫なの?」
「ええ、マスターの鏡花水月による催眠を、鴉に対して常時発動させています。先程の戦闘も、鴉は感知できていません」
「へえ……便利な能力ね。……う~ん」
「どうかしましたか?」

 途端に顔を歪めるデコに、ピンクが尋ねる。

「いや……私はアーチャーのマスターで、空気王はアサシンのマスター。
 ってことは、いつかは戦わなくちゃいけないわけじゃない? 面倒そうじゃない、鏡花水月を相手にするのって」
「ああ……成程」

 納得するピンク。
 今回、八意永琳と蓬莱山輝夜には封じられたとはいえ、鏡花水月の能力は強力。
 いまいち効果的な使い方をできていないものの、使い方次第では一方的な虐殺も十分可能な武器なのだ。

「しかし、私の目指すものも聖杯戦争の優勝ですから。こればかりは―――」
「で、提案なんだけど」



* * * * * *




 ……何が起こった?
 何故―――ピンクの『言霊』が、マスターの私を襲ったのだ?

「マスター交替よ、空気王。
 アンタみたいな不幸なキャラと組んでちゃ、ピンクも優勝狙えないからね」

 無言のままのピンクの背後から、一人の少女が現れる。
 光り輝くデコが特徴的な、我々と同盟を組んでいたはずの少女。

「何故……お前がピンクのマスターになっている!」

 いつの間にか、私の令呪が消え失せていた。
 有り得ない……『何、気にすることはない』は私にしか使えないはずだ!

「『何、気にすることはない』」
「……!?」
「こんなものただの台詞だし。誰にだって言えるに決まってるでしょ」

 馬鹿な……こんな事がありえていいのか!
 おっと、それを言ったら声優同じってだけで破道や鏡花水月使えたり、
 『何、気にすることはない』の一言で令呪剥がしたりもありえていいわけないだろう、とかいうツッコミはノーサンキューだ。

「それはともかく……裏切ったな、らき☆すたのデコ!」
「あら? 先に裏切ってたのはアンタの方でしょ?」

 ? どういうことだ?

「アンタねえ―――二十話近くも出てやりたい放題して本筋に絡みまくってる奴が、空気キャラのわけないでしょうがあああああああああっ!」
「な、なんとぉおおおおおおおおおおっ!!」

 らき☆すたのデコが輝き、レーザービームが放たれる。
 決して避けられない攻撃では無かった―――無かったが、何故だろうか、避けたらいけない気がした。



* * * * * * *




「さあ……裏切り者は成敗したし、精々大暴れしてやるわよ!」
「それでデコさん、これから何処へ向かう気ですか?」
「……申し訳無いです、空気王さん」

 意気揚々と、らき☆すたのデコは目黒を行く。
 少し遅れて、朝比奈みくるがそれを追う。
 そのさらに後から、本当にこれでよかったのだろうか、と悩む笑点のピンク。最後尾には、寡黙な弓兵。



 生存者、五名。
 死亡者、四名。
 再起不能、一名。

 そんな戦いを終えて、カオスロワはさらに加速する。
 二日目の終了まで、あと三時間。


【二日目・21時00分/新惑星・東京都目黒区】

真・空気組
【らき☆すたのデコ@らき☆すた】(マスター)
【状態】健康、令呪残り六個
【装備】額のレーザービーム
【道具】支給品一式
【思考】
基本:目 立 つ
0:朝比奈みくると手を組み、目立つために殺す。
1:泉こなた達をより楽しく殺す
2:聖杯戦争に優勝して目立つ
3:もう1人の自分については……
※アサシン、アーチャーのマスターです
※蓬莱山輝夜より、輝夜が知る限りの情報を入手しました

【朝比奈みくる@涼宮ハルヒの憂鬱】
【状態】健康
【装備】拳銃
【道具】支給品一式  不明支給品
【思考】
基本:目 立 つ
1:らき☆すたのデコと手を組み、目立つために殺す。
2:自分より目立つSOS団のメンバーを殺す
3:というか自分より目立ってる奴は皆殺す

【笑点のピンク@現実】 (クラス・アサシン)
【状態】健康
【装備】無し
【道具】支給品一式、不明支給品
【宝具】落語家の言霊
【思考】
基本:らき☆すたのデコに従って活躍し空気脱却
0:これでよかったのでしょうか……?
1:やるからには優勝を目指す


【八意永琳@東方Project】(クラス・アーチャー)
【状態】健康 首輪なし、催眠・幻影の類は無効化、洗脳
【装備】無し
【道具】支給品一式、不明支給品
【宝具】不明
【思考】 基本:らき☆すたのデコに従う
1:――――――


【範馬勇次郎@範馬刃牙 死亡確認】
【大石蔵人@ひぐらしのなく頃に 死亡確認】

【阿部高和@くそみそテクニック 死亡確認】
マーラ様@女神転生シリーズ 死亡確認】

【ランサー組 脱落】


「ところでマスター、アーチャーの元マスターのことは……」
「ああ、何やっても死なないから困ってたんだけど、アーチャー使って色々やってみたら壊れたわ、色々な意味で。
 ちょっと斬って殴って蹴って削いで刺して絞めて削って刻んで焙って潰して焼いてみただけなんだけどねえ。
 まあ情報は十分手に入ったからどうでもいいわよ、あんな奴」
「………………」


【蓬莱山輝夜@東方Project 破壊確認】





 笑点のピンク、らき☆すたのデコ。
 私は―――お前達を絶対に許さない。
 どんな包囲網だろうと必ず突破し―――お前達に復讐してみせる。

【空気王@テイルズオブデスティニー】
【状態】全裸、魔力減(大)、全身裂傷、背中に火傷、体中を打撲
【装備】斬魄刀『鏡花水月』@ブリーチ、ソーディアン・イクティノス(ヒビ有り)@TOD、拳銃
【道具】支給品一式
【思考】基本:笑点のピンク達への復讐
1:必ず生き残り、復讐を成し遂げる。
2:何、気にすることはない
※闇化している間の記憶を失いましたが、ピンク達の説明で大体の事は解っています。
※自分が既に空気で無いと気付きました。
最終更新:2010年01月01日 11:30