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バトルロワイアル三日目
東京都多摩市では6つの正義が対立していた。
朝倉音夢、玄野計、ガチャピン、ジョーンズ、ハクオロ、長門有希
復讐、平穏、約束、和解、救助、救援。
6人がそれぞれ別の思惑を持って戦っている。

そしてその上空、彼らからそう遠く離れていない位置の空で、
その戦いを観察するように見守る影があった。
一万年以上生きたと言われる竜の末裔である、レッドドラゴンのアンヘル。
そして、帝国への復讐のだけのために生きてきた王子、カイム。
その二人が、一瞬即発の状態にある6人を見つめ続けていた。

「カイムよ。我等は何をすべきなのだろうか」
ドラゴンがカイムに問いかける。
(愚問だ。この世界の人間に殺された俺達がすることなどただ一つだ)
カイムはドラゴンの問いに念話で答える。
別に喋るのが億劫だったわけではない。
カイムはドラゴンとの契約の代償として、声を失っている。
だから契約者同士にのみ使う事ができる念話で答えた。
「お主ならそう言うと思った……」
呆れた様に呟きながら、ドラゴンは自分達がこの世界に来たときのことを思い出す。
カイムたちの世界を破滅に導いた元凶。
その母体を追って、時空の狭間を抜けてやって来たこの異世界。
そして死力を振り絞り、敵の母体を撃破したのも束の間、
突如飛来した鉄の鳥の攻撃によりドラゴンとカイムは死んだ筈だった。
しかし次の瞬間には、二人は戦いで負った傷も全て消え、無傷の状態で空を飛んでいた。
そして彼等は見た、人間が生き残るために醜く争い続ける姿を。
たとえどんな世界であろうと、やはり生きとし生けるものは戦う運命にあるのだろう。
(我等もそう言う運命にあるようだな)
ドラゴンは表向きは嘆息した風に見せながらも、其の実内心では喜んでいた。
またこの男と共に戦えるのだと。
「……良いだろう。一度死んだこの命、再びそなたに預けようぞ!」
ドラゴンは己を鼓舞するかのように大きく雄たけびを上げる。
カイムはそれを見て、悪魔よりも邪悪な笑みを顔に浮かべる。
(始めるぞ、この世界への復讐を!開戦の狼煙を上げろ!)
カイムの声に呼応するかのように、ドラゴンの口内が禍々しい紅色に発光する。
そこから放たれるのは岩をも溶かす灼熱の火の玉。
狙いは今も対峙し続ける6つの正義。
ドラゴンは攻撃の威力を極限まで高め、目標に向って攻撃を開始した。


「私は君の兄の仇などではない!」
ジョーンズが必死に音夢に訴えかける。
「嘘。極悪宇宙人なんかに騙されないわよ」
しかし、馬耳東風状態の音夢にその声は届かない。
(だめだこの子……完全にニヴェに洗脳されている。早く何とかしてあげなければ)
ハクオロは音夢の誤解を解くために、その手立てを講ずる。
「心配しなくてもいいよ。君達みたいな悪者は僕がやっつけるから」
対主催者となったガチャピンは、殺し合いに乗っている(と思っている)ハクオロ、長門、ジョーンズを挑発する。
「私達に殺し合いの意思は無い。それよりもあなたの体から検出された大量の血液……これをどう説明する?」
安い挑発にも動じず、長門はガチャピンに確かな殺人の証拠に対する弁明を求める。
その質問に対するガチャピンの答えは沈黙。
思い出したくない過去を、自分の口から言う事を躊躇っていた。
(誰が正しいんだ、誰が間違っているんだ、俺はどうすればいいんだ?)
その様子を一人傍観していた玄野は、未だに答えを見つけ出せていなかった。

いつしか6人は言葉を発することを止め、緊迫した面持ちで睨みあっていた。
その場の空気が三味線の弦の様にピンと張り詰める。
まるで、先に動いたほうが負ける。とでも言うかのように誰も身動き一つしない。
もはや戦いを止めるのは不可能。
そう悟って、全員が武器を構える。
守るため、殺すため、助けるため、終わらせるため。
それぞれの思いが交差し、誤解を生み、悲劇を招く。
避けられたはずの戦いは、避けられない戦いへと変わろうとしていた。
だがその時、誰もが予想しなかった事態が起こることになる。


最初に気が付いたのは長門だった。
突然ガチャピン達から視線を外し、しかし決して隙を作らないようにしながら空の一点を凝視する。
「ここは危険。すぐに避難したほうがいい」
空から目を離さずに、長門が短くそう呟く。
ハクオロは怪訝な顔をしながら長門の見ている方向を見て、言葉を失った。
そのハクオロの表情を見て、全員が一斉に同じ方向を見る。
そして同じように言葉を失った。
「ドラゴン!?」
ガチャピンが驚きの声を上げる。
「気を付けて、攻撃してくる」
長門がそう言っている間に、空に浮く紅いドラゴンの口が赤く輝き、
そこから轟々と燃える火の玉が撃ち出された。
「全員逃げろ!死ぬぞ!」
玄野が我を取り戻し、叫ぶ。
それを合図に、全員が行動を開始した。


「離れないで」
長門は一瞬にしてハクオロとジョーンズを自分の場所に集め、続いて早口で奇妙な言葉を唱える。
その直後、ドーム状の透明な壁が三人を取り囲むように出現した。


「全員逃げろ!死ぬぞ!」
「嫌、私は逃げない!兄さんの仇を討つって決めたんだから!」
音夢は玄野の叫びを無視して、巨大な火の玉が飛んでくるのにも関わらず、
敵である三人に向って、単身で突撃しようとしていた。
「あの馬鹿……!」
その姿を見て玄野は舌打ちをする。
自分と音夢の着ているガンツスーツの防御力は確かに高い、炎などからも身を守ってくれる。
だが完全無敵と言うわけではない。
一定のダメージを受ければ機能を失うし、弱点も存在する。
あのまま何も考えずに突っ込んでいけば、あの火の玉に焼かれ死ぬ。
玄野がそう考えている間に一つ目の火の玉が着弾してしまった。
着弾地点の地面が粉砕し、瓦礫と熱風が戦場に飛び散る。
玄野は飛んできた小岩を弾きながら、音夢の姿を探す。
「どこだ!?どこに行った!?」
さっきまで走っていた音夢は忽然とその姿を消していた。
潰されたか、吹き飛ばされたか、燃え尽きたか、逃げたか。
それを確かめる暇も玄野には与えられなかった。
最初の火球に続き、第二第三の火の玉が次々と飛んでくる。
玄野はその場から撤退を余儀なくされた。


薄暗い路地裏に緑色の怪物が、ドタドタと豪快な足音を立てながら入ってくる。
「ふう、流石にあれには驚いたな」
ガチャピンは火球による狙撃ポイントから十分に離れたことを確認し、安堵の息を漏らした。
「……この子はどうしようかな」
小脇に抱えた音夢を見て、今度は憂鬱そうに息を吐く。
一発目の火球が着弾した際に、突撃を試みていた音夢は爆風に吹き飛ばされ気を失っていた。
着用しているスーツからはゲル状の物質が漏れ出している。
「まぁ、とりあえず目が覚めるまで待ってみるか」
音夢を地面に降ろしてから、ガチャピンは壁を背にして座り込む。
敵の敵は味方。
そんな単純な理由でガチャピンは音夢を助けた。
(主催者と戦うためにも仲間は多いほうがいいからね……。
 この子の復讐を手伝ってあげたら、この子も僕の手伝いをしてくれるかもしれないし……。
 まあもっとも、仇はもう死んでるかもしれないけどね)
火の玉が降ってきた時、あの三人は逃げずに一箇所に留まっていた。
あれほどの攻撃だ、死んでいてもおかしくは無い。
むしろ死んでいないほうが不自然。
そう思うと緊張の糸が切れ、急激な睡魔がガチャピンを襲ってきた。
「眠たいなあ……ずっと寝てなかったからなあ」
万能戦士のガチャピンも睡魔には勝てずに、デイパックを枕に深い眠りについてしまった。


多摩市の町が、次々と降り注ぐ火の玉によって破壊されてゆく。
草木が焼かれ、建物は片っ端から崩れ、ガラスの破片が周囲に飛び散る。
その集中攻撃を物ともせずに、三人の人間がそこに立ち尽くしていた。
「ふん……しぶとい奴等よ」
一向に倒れる様子のない人間達を見て、楽しそうにドラゴンは呟く。
「この世界の人間達は、どうやら然程腑抜けばかりではなさそうだな」
(そうこなくては面白くない)
カイムもまた、ドラゴンと同じように楽しそうに笑う。
(俺が直接行く、貴様はここで待っているがいい)
カイムはデイパックから一振りの剣を取り出し、眼下からこちらを見上げる三人を見下ろす。
「行けカイム!契約者の力を見せ付けてやれ!」
カイムはドラゴンの背中から高く跳躍し、戦場へと飛び降りた。


「止まった……?」
火の雨が不意に止んだことに気付きハクオロが、声を漏らす。
彼等の周囲30Mは、これ以上破壊できない程に破壊しつくされ、元の町の面影がまるで無い。
あのドラゴンは、もう満足して別の場所に移動したのか。
そう思いながら、粉塵の舞う空を見上げる。
「くっ!まだ諦めてはくれないようだな」
見上げた先には、依然として真紅のドラゴンが宙に浮かんでいた。
「長門有希、あとどのぐらい持ちそうだ?」
「一時間。それ以上は私の構成情報が持たない」
ジョーンズに尋ねられ、長門は起伏のない声でそれに答える。
「……それほどの情報操作能力を持っているなら、あの生き物の有機情報連結を解除することはできるのでは?
 いや、そもそもこの殺し合い自体を止めることもできるのではないか?」
「そうなのか有希?」
ジョーンズとハクオロが長門を見つめる。
そして一瞬の沈黙の後、長門が口を開く。
「それはできない」
「何故だ?」
ジョーンズが疑問の声を投げかける。
「情報統合思念体は、今回の件に対して強い関心を抱いている。
 今から三日前に大規模な情報爆発フレアが観測された。
 その情報爆発はこの世界……主に今私達がいる日本を、本来とは全く別の物へと変えてしまった。
 しかもその情報爆発は涼宮ハルヒが起こしたものではないと判明。
 情報統合思念体はこれが自立進化の可能性へと繋がると判断。
 私に今回の件についての調査を命じた……。
 そしてそれと同時に、情報爆発が原因で並行世界より介入した不特定多数の有機生命体の調査も任ぜられた」
長門が早口で言う理解不能な言葉を、ハクオロは呆けた顔で聞いている。
「それはつまり――」
そんなハクオロを置いてけぼりにして、ジョーンズが深刻な顔つきで口を挟む。
「情報統合思念体は、貴重な資料である並行世界の住人を無駄に殺さない。
 勿論、この殺し合いを止める事もしない。そう言うことか?」
「そういうこと」
「馬鹿な……」
ジョーンズは苦虫を噛み潰したような顔をする。
「だから私達は、現時点で使える力を駆使して敵を倒すことしか出来ない。
 ……気を付けて、来る」

「……?」
ドラゴンは空の高さを飛翔しているのに、長門は自分達と同じ高さを見ながら言う。
ジョーンズ、ハクオロの両名が訝しみながらその一点を注視する。
そこには禍々しい巨剣を手に持った男がいた。
「彼は先程あのドラゴンの背から飛び降りてきた。恐らく彼はドラゴンの仲間。
 しかも戦闘能力はドラゴン以上。今の私達に勝ち目は無い」
思わぬ強敵の来襲に場の空気が凍る。
三人がかりでも勝てない。
それは全滅するしか道が残されていないということ。
「私が――」
いや、もう一つ方法がある。
「私が奴を足止めする」


カイムは敵となる男を目の前に、静かに剣を構えた。
後方に逃げていく二人の敵が見えたが、カイムには既にジョーンズしか見えていない。
「何故、私達を襲った?」
脅すような口調で敵はカイムに言葉を投げかけてくる。
しかしカイムは答えない。
その代わり、常人なら卒倒してしまう程の殺気を放ち、剣を構える。

ジョーンズは日本刀を鞘から抜きながら歯噛みする。
時間稼ぎをする。
そのために残ったのに、この相手の反応はまずい。
戦闘になれば自分では数十分程度しか足止めできない。

ザクッ

「な……!?」
違った。
数分も足止めできなかった。
自分の胸から生えた剣を見てジョーンズは驚愕に目を見開いて、そのまま息絶えた。



「ジョーンズがやられた」
「なんだと!?」
ジョーンズと別れてまだ3分程度しか立っていない。
それなのに長門は冷静に、顔色一つ変えずに事実を告げた。
「直に追いつかれる。ここは二手に分かれるべき」
ハクオロはその提案に眉を顰めたが、仕方が無いなと相槌を打った。
それほどまでに彼も切羽詰っていた。


長門と別れて数分。
ハクオロは全力で敵から逃れようと疾駆していた。
背後に殺気を感じる。
どうやら完全にハクオロを狙っているようだ。
(これで有希が生き延びれる確立が上がったか)
後は自分が逃げ切ることができればいい。
そう考え、敵を振り切るために路地裏へと駆け込む。
「!」
思わずハクオロは息を呑んだ。
そこにいる少女と怪物を見て。
あのドラゴンに襲われる前に対峙していた少女と怪物。
自分の予想では、ニヴェに操られている筈の少女。
ジョーンズと対峙していた正義の心を持つ怪物。
その二人が路地裏で静かに眠っていた。
「まずい……早く起こさなければ!」
このままでは追跡者にこの子達も殺されてしまう。
自分の所為で巻き込んでしまう。
そんな自責の念に駆られ、ハクオロは二人を叩き起こそうとして、

「か……はっ」

それもできないまま背後から刺され、死んだ。


カイムは体中に付いた血を気にも留めないで、既に絶命している三つの死体へと剣を刺し続ける。
ジョーンズ、朝倉音夢、ガチャピン、ハクオロ。
四人は何が起こったかもわからぬまま、凶刃に倒れてしまった。
『もうその辺にしてけ、カイムよ』
頭の中に響いた声に反応し、刃をつき立てるのを止める。
契約者同士の念での会話だ。
『次に行くぞ。早く戻れ』
ドラゴンは短くそう告げたが、カイムはその場を離れようとしなかった。
どす黒く血塗られた剣を、新たな訪問客に刺すためだ。


玄野はあの後、隙を見計らって襲撃された場所に戻っていた。
そこで見たのは宇宙人と呼ばれていた男の死体。
宇宙人は死んでいる。
なら何故自分はガンツの部屋に呼び戻されないのか。
多分まだ宇宙人が残っているのだろう。
「あいつの死体がない……」
玄野は音夢の死体が無い事に気付き、こう結論付けた。
この宇宙人を殺したのは音夢かもしれない。
そうだとしたら、残りの宇宙人かもしれないあの二人も殺そうとするだろう。
ジョーンズの死体からまるで道標の様に、何処かへと血の跡が点々続いている。
「この先か?」
玄野はゆっくりと血の跡を追いかけ、やがて薄暗い路地裏へと辿り着いた。
そこにいたのは音夢だった、ガチャピンだった、ハクオロだった、死に体となった三人だった。
そして西洋の甲冑を身に着け、夥しい量の返り血を浴びて立っている男だった。

プツンと、玄野の中で何かが切れた。

「ぉ、お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
今まで溜め込んできた思いが、迷いが、嘘のように晴れてゆく。
「テメェは俺がブッ殺す!!!!」
何を悩んでたんだ。
最初から何も迷う必要は無かった。
この狂った殺し合いを止めるために動けば良かったんだ。
(加藤なら……、あいつならそうするに決まっている!)
復讐に燃える少女が死んだのは、自分が迷っていた所為。
会った時に説得して止めさせれば良かった。
復讐に燃える少女が死んだのは、この男の所為。
自分がこの殺し合いをさっさと止めていれば……。

「誰も死なないで……!全員生きて帰れたんじゃねぇのかよ!」


玄野の腕の筋肉が増強し、その拳はカイムを破壊しようと一直線に飛ぶ。
カイムはそれを剣で受け止める。
金属同士がぶつかり合う音が路地裏に響いた。
両者の力は互角。
どちらも怯むことなく、拳と剣で鍔迫り合う。
「……!」
剣を制していたカイムが、唐突に刃を引く。
そして引いた直後の刃を、一瞬で再び振り下ろし、玄野の右手を奪い取る。
それでも玄野は臆さず、残った左手でXガンを構える。
「これで終わりだ!」
カメラのフラッシュに似た光が、カイムの邪悪に染まった顔を照らす。
何も起こらない。
カイムは怪訝な顔をしながらも隙だらけになった玄野の懐に潜り込み、
胸板をガンツスーツごと切り裂いた。
「ざまぁ……見やがれ……!」
胸部から大量の血を噴出しながらも、玄野は顔に勝利の笑みが浮かべ、地に伏して二度と動かなくなった。

終わった。
力尽きた少年を見下ろして、カイムはその場を去ろうと踵を返した。

バァン!

その直後カイムの頭は風船みたいに膨らんで、木っ端微塵に弾けとんだ。


カイムの帰りを待ち望んでいたドラゴンは、何の前触れもなく墜落した。
契約者は運命共同体。
片方が死ねば、もう片方も死ぬ。
それが自然の摂理とでも言うかのように。

東京都多摩市に生きているものは誰一人としていなくなった。

【東京都多摩市・三日目・13時】

【カイム@ドラッグオンドラグーン 死亡確認】
【アンヘル@ドラッグオンドラグーン 死亡確認】
【ジョーンズ@サントリー缶コーヒーのボス 死亡確認】
【ハクオロ@うたわれるもの 死亡確認 】
【ガチャピン@ひらけ!ポンキッキ 死亡確認】
【朝倉音夢@D.C. 死亡確認】
【玄野計@GANTZ 死亡確認】











私はあれから情報統合思念体の端末にアクセスし、事の顛末を知った。
あの場にいた私以外の全員が死んだ。
一人残らず。
次いで、SOS団の安否を確認した。
古泉一樹は第一放送の通り死亡。
朝比奈みくるは瀕死の重傷を負っている。
涼宮ハルヒは支給品扱い。
そして彼は何故か4人に増えているらしい。

何もかもが狂っている。
彼の完全同位体が4人も出現したり、人間が道具扱いになったり、
数時間前まで確かに生きていた人間が、次の瞬間にはみんな死んでいる。
何もかもがあの日常とはかけ離れている。
それでも尚、思念体は私に調査の続行を命じた。

もう、終わりにしよう。
情報など集める必要はもうない。
本当は既に知っていた、この殺し合いを止める方法を。
情報統合思念体の力を借りることなく、全てを終結させる方法を。
それをやれば、私はきっと処分されるだろう。

だけどそれでもいいと思った。
自己を犠牲にして仲間を救えるのなら。



「のび太、ご飯が出来たぞ」
「うん。今行くよ」
僕は現在、萌えっ子ツンデレ魔法少女となったかみなりさんと同棲している。
何かとても大事な、普通では絶対に忘れないようなことを忘れているような気がしたが、
今はかみなりさんの手料理を早く食べたいので、僕は真っ直ぐ居間へと向った。

「おいしい!さすがかみなりさん!」
僕はかみなりさんの手料理を褒めちぎった。
実際に美味しかったし、かみなりさんの姿を見れば、
相乗効果でさらに美味しくなる。
だけどそれなのに、かみなりさんはずっと浮かない顔をしている。
どうしたんだろう?
まさかマンネリか……!

「なぁ……のび太……」
かみなりさんが箸を止め、僕を正面から見つめてくる。
「もういい加減……この殺し合いを止めにいかないか?」
「……あ」
すっかり忘れていた。
そういえば日本は今、殺し合いの真っ最中なんだった。
出番があまりに少ないから記憶から消去されていた。
「そうだ……」
それと同時にもっと重要な、この殺し合いを完全に止める方法を思い出した。
主催者を倒すよりも簡単で、時間もそんなにかからない。
「もしもボックス!」

僕は間抜けだ。
どうしようもないくらいの馬鹿だ。
全部、僕が始めたんじゃないか。
みんな僕の所為で死んだんじゃないか。
全部、僕が終わらせられるじゃないか。
「のび太!何処へ行く!?」
まだ半分しか食べていないご飯とかみなりさんを残したまま、僕は一目散に駆け出した。
家に帰るために。

「ハァハァ……」
準備運動もしないで走ったせいで、動悸が激しくビートだ。
それでも僕の足は止まらない。
一刻も早く殺し合いを止めなきゃいけないから。
「着いた!」
数日振りの我が家を前に、歓喜の声を上げた。
これで終わるんだ!何もかもが!
僕は意気揚々と家に入ろうと歩を進めて、ドアを開けようとした。

そして気が付いたら、地面に張り倒されていた。
「現在このエリアは禁止区域に指定されている。侵入すれば即座にあなたの首輪が爆発する」
僕を張り倒した女の人は、感情の篭っていない声でそう言った。
そういえばそうだった。
一回目の放送の時に僕の家は禁止エリアに……。
「なんてこった……。やっと終わると思ったのに」
自分の声が信じられないぐらい霞んでいるのが解る。
もうどうしようもないや。
僕が家でしたい何て言わなきゃこんな事にはならなかったのに。
「大丈夫」
女の人が僕を立たせながら呟く。
大丈夫なもんか、もう止まらないんだぞ。
そんな僕の気持ちを他所に、女の人は言った。

「禁止エリアは間も無く解除される」

バキン!
女の人の言葉に続いて、ガラスの割れるような音が聞こえきた。
僕が何事かと音の方を振り向くと、そこには今度は男の人がいた。
「これでいいのか長門?」
高校生ぐらいの男の人は、女の人――長門さんに話しかける。
「いい。あなたの能力の御蔭で禁止エリアは解除された。礼を言う」
「いいって、これで全部終わるってんなら安いもんだ。
 最初に話しかけられたときは、半信半疑だったけどな」
禁止エリアが解除された?
二人はそう言っている。
それが本当なら……。
「早く行って」
長門さんと男の人が僕を見る。
「……」
僕は無言のまま、ガチャリと家のドアノブを回して、開いたドアの隙間から中に入った。
首輪は爆発しない。

「ふぅ……。後は二階に行くだけだ」
土足のまま家に上がって、階段を駆け上る。
僕の部屋の襖は開いたままだった。

中にはもしもボックスと、何故か知らない男の人の首無し死体があった。
胃から込み上げてくる物を必死に堪え、僕はもしもボックスに入った。
震える手で受話器を取り、口元に近づける。
そして僕は、大声で叫んだ。




「元の世界に戻してーーーーーーーーーー!!!!!」





直後、世界が暗転した。




「……び太…きろ!のび太起きろ!」
「は、はい!」

僕はかみなりさんの声で起こされた。
全く、うるさいなぁ……って、あれ?
なんでかみなりさんがここに?
全部終わった筈なんじゃ?
確かにもしもボックスに願いをいったはず。

「……っそれよりここ何処?」

僕は改めて辺りを見渡す。
来たことも無い島のような場所に僕はいた。
「それはわしが聞きたい。気が付いたらこんな場所に……一体全体どういうことだ?」
かみなりさんが何かぶつぶつと言ってるが、僕の耳には入っていない。
僕は周囲の異様な状況に唖然としていた。

この島のこの場所には、僕とかみなりさんだけでなく、他にもたくさんの人間がいたのだ。
皆一様に、わけのわからないといった表情をしている。
その中に長門さんとあの男の人もいた。
二人とも僕に気が付き、こちらに近寄ってきた。

「一体どうなってるの?」
僕は間髪を容れずに二人に聞いた。
「主催者側からの抵抗があった。彼らは別の情報改竄装置を使い世界の修正を食い止めている」
情報改竄装置は多分、もしもボックスのことだろう。
「どうするんだ?」
男の人が不安そうに尋ねる。
「簡単なこと。主催者側の装置を破壊すればいい」



「それができるのならな!!!」



島に集められていた人間全員が声の方を見る。
そこには威厳溢れる中年の外国人がいた。

「参加者のみなさん始めまして。わたしが現主催者のアドルフ・ヒトラーです」

僕を含めた参加者全員の間に緊張が走る。

「既に気付いているものもおる様だが一応言っておく。
 これは君等の世界、あのくだらない平和な世界と、
 私の世界、つまりさっきまでのバトルロワイアルの世界、
 そのどちらかが生き残るためのラストバトル、即ち」

ヒトラーは唇の端を醜く吊り上げる。

ラスボス戦だ」

ラスボス戦。
つまり泣いても笑ってもこれが最後ってことか。
僕はそう解釈した。

「それではさっそく終わらせましょう」

誰かが先走って、一人でヒトラーに挑むのが見えた。
……ってあれは!
「先生!!」
先生は僕の方を振り返る。
「野比!無事だったのか!」
先生は僕に近寄ってくる、

「はぁああああ!!」

と見せかけて、ヒトラーに金属バットを持って突進した。
どうやら先生はこの殺し合いをとっとと止めたいらしい。
轟!と先生のバットが振り下ろされる。
それを目の前にしても、ヒトラーは不敵な笑みを浮かべたまま立っている。

ガキン

先生の金属バットが折れて宙を舞っていた。
金属音が島内に反響し、同時に巨大な影がヒトラーと先生の間に現れる。
異形の化け物達。
生き物としての究極に辿り着いているとでも言ったらいいのだろうか。
そんな奴等が合計で7体。
ヒトラーを守るようにその場に姿を現していた。

「ふははははははははは!!驚いたかね?これが私の切り札なのだよ!!
 桃太郎印のきび団子とやらは本当に素晴らしい!!!
 行くのだ!全てを超えし者、デア・リヒター、ヤズマット、トレマ、ラヴォス、イセリア・クイーン、キングのぞうよ!
 奴等を一人残らず根絶やしにしろ!!」

ヒトラーの一声に反応し、7体の隠しボス軍団が襲い掛かってきた。


もう、ダメだ。
この戦力差はどう足掻いても埋められそうに無い。
終わりだ。
僕は深くうな垂れて、その場に座り込んだ。

「しっかりせんかい!!!のび太!」

頬を強く殴られて、僕は正気を取り戻した。
魔法少女のままのかみなりさんが、僕を怒鳴りつけている。
「お前はこの殺し合いを止めるために今まで頑張ってきたのだろう!
 ここで諦めてどうするんじゃ!!!あと少しだろう!?
 ほんの少し、そこの妖怪達の間を通り抜ければいいだけだ!!
 だから早く走れ!!全部終わらせて来い!!」
「で、でも!あんな強そうな奴等の間を通り抜けるなんてできないよ!!」
そうだ、僕はただの小学生。
そんなことできるはずが……。
「何を言ってるんだ野比、私達がいるだろう!」
いつの間にか、先生が近くに来ていた。
「そう、あなたは一人ではない。私や上条当麻もついている」
長門さんと上条さんも頷く。

「行くんだのび太!あいつ等はわし達が食い止める!」

気が付いたら僕は走っていた。
あの強大で巨大な化け物達の群れに。

「みんな!信じてるからね!」


「面白くなってきたな、いーたん」
潤さんがシニカルに笑いながら僕たちに同意を求めてくる。
「そうですかね。なんかやばいですよ、これ」
「僕もそう思う」
カツオくんも僕と同意見のようだ。
だけど人類最強の赤色は、本当に楽しそうに笑っている。
「何か物凄く出番が少なかった気がするが、これで全部終わるらしいからな。気合入れていこうぜ!
 あとこれが終わったら、玖渚ちゃんも連れてみんなで飯でも食いに行くか」
カツオくんは元気ハツラツに、「はい!」と答えていた。
たまにはこんな脇役もいいかな。
僕はそんな風に考えて、それも戯言だなと呟いて。
潤さんの横に並んだ。


「いよいよ俺の武器が役に立つときが来たな」
スコールはおもむろに自分のデイパックを持ち上げ、中身をぶちまけた。
「さあ使え!ラスボス戦には持って来いの武器が選り取り緑だ!!」


アーカードよ、これをどう見る」
範馬勇次郎は隣に立つアーカードに問う。
「間違いない。この背後には必ずノロウイルスが隠れ潜んでいる」
勝手に見当違いな判断をして、アーカードと勇次郎は怪物たちの前に立ち塞がった。
「「ノロウイルス撲滅隊、参る!!!」」


「ひい~~~、風花君!た、助けてくれ~!」
「あぁ!総統さんが危ない!」
総統にヒトラーの下僕となったトレマが襲い掛かる。
その光景に山岸風花が悲鳴を上げる。
「……俺に任せろ」
手塚国光が雷音竜の時のように宇宙空間を創造し、トレマを撃退する。

トレマはリバース・ドールで生き返った!

「ま、まずい!」
驚きのあまりスペランカーの残機が一つ減る。
「どうしよう!」

「アイテムなんぞ使ってんじゃねえ!!」
そこに荒い声を上げながらバルバトス・ゲーティアが乱入、トレマは塵と化した。
「あれ?総統じゃあないですか」
「む?その声は吉田君!」


何の力も持たない一般人が、最強の力を持つ超人が、
ノロウイルス撲滅隊が、テニスマンが、鷹の爪団が、
シマリスが、先生達が、宇宙人が、超能力者が、

一人の少年を走り続かせるために、自分達の世界を守るために、次々に敵へと挑んでいく。
誰一人、決して諦めることなく。
絶望の淵に立たされながらも、前に進んでゆく。
人はその戦いを後にこう呼んだという。


テラカオスバトルロワイアル、と……。




バタンと、僕はアルバムを閉じた。

「こんなことも昔はあったけなぁ」

アルバムを本棚に戻しながら、誰にも聞こえないように小さく呟いた。


明日は結婚式だ。
思い出に耽るのはまた今度にして、さっさと寝よう。

翌日、僕は結婚した。
相手は誰かって?
それは――――





テラカオスバトルロワイアル 完


最終更新:2007年03月05日 11:58