豊臣秀吉は、別にそういう趣味がある訳ではない。
もちろん主催は許せないと思っているし、かつて仕えた
織田信長や、部下の黒田官兵衛との合流も視野に入れている。
ただ、彼にとってそれは、あまりにも刺激が強すぎた。単にそれだけの話だったのだ。
わかりやすく一言で表すならば、
『
カルチャーショック』
とでも言えば理解も容易だろう。
繰り返す、豊臣秀吉にはそっち方面の嗜好があるのではない。
全盛期の時に見られたカミソリの様な頭の冴えこそ見えないが、れっきとした関白なのだから。
≪ああ、なんということでしょう! 少女(しょうじょ)はその裸体(らたい)に、ぺたぺたと枯葉(かれは)を
貼(は)り付(つ)け始(はじ)めたではありませんか! いったいなにを考(かんが)えているのでしょうか!?≫
「ほほう……これはなかなか……」
植物園の一角に備え付けられたベンチ。
本来歩き疲れた人が
小休止するための席に、一人の老いた権力者――豊臣秀吉が腰を下ろしていた。
秀吉は、ハァハァしながら両手で開いている『それ』を読み進めている。
指が勝手に動き続ける。
目が離せない。
数ある南蛮渡来の品々、その中でさえ目にしたことがない、魔性の娯楽。
≪少女(しょうじょ)はどうやら、裸(はだか)の体(からだ)を隠(かく)すため、枯葉(かれは)を用(もち)いて恥(は)ずかしい所(ところ)
遮(さえぎ)ろうと考(かんが)えています! 逆(ぎゃく)に、それが局所(きょくしょ)を強調(きょうちょう)するとも知(し)らずに!≫
秀吉が取り憑かれたように見入っているものは、一見するとどこにでもあるような絵本だった。
表紙にはクレヨンで可愛らしいひらがなが彩られており、子供受けしそうな外観を持つ上、登場する人物たちも子供ばかりである。
小さな年の子でも読めるように――との配慮か、絵本の本文に使われている漢字には、全て平仮名でルビが振られていた。
はっきり言って過剰な振り仮名は読む者が読めばうざったいだけなのだが、そんな現代事情は秀吉の知ったことではない。
次々と予想を覆す展開。魅力的な登場人物達。文字と絵のコンビネーション。いずれも、戦国の世とは無縁のものである。
安土・桃山の最中に生きた秀吉は、完全に支給された絵本の魅力にのめりこんだ。何時しか、時間を忘れてしまう程に。
先が読みたい。
この空想へと漕ぎ出したい。
やるべきことはあるが、それでも止まらない。止められない。
≪かろうじて隠(かく)すべき所(ところ)を隠(かく)した少女(しょうじょ)ですが、ほとんど透明(とうめい)と言っていい服(ふく)なので、あまり
よろしい姿(すがた)とはとてもいえません。はたして彼女(かのじょ)のすすむさき、いったいいかなる困難(こんなん)がまつのか! つづく≫
「む、続くだと! このワシを焦らすとは、恐るべき読み物じゃ……!」
秀吉は理性と本能の狭間で葛藤しつつも、ひたすらにページをめくり続けていた。
傍目から見ると、淫らな本を読んで盛っている変態にしか見えないというのは、本人のみが知らぬ話である。
因みに読破状況については、勇者の少年と魔法少女が全身全霊で踊っている辺りまで進んでいる。
【一日目 0時50分 E-4:動植物園】
【豊臣秀吉@歴史】
[状態]:興奮状態 本に夢中のあまり、まるで警戒していない
[装備]:やけに幼い外見の人ばかり出てくる物語の絵本
[道具]:支給品一式
[思考]:も、もう少しだけ読んでから、もう少しだけなら、待っても構わんじゃろう……。
基本方針:信長、官兵衛との合流を目指す
最終更新:2007年02月24日 13:40