「ミクトラン様、仙豆です。食べてください」
「うっ……」
追跡者を振り切ったハクはようやくミクトランに仙豆を食べさせることに成功した。
今、ハク達がいるのは山梨県だ。
ミクトランが参加者から強奪した品の中にあったウイングドブーツを使ったためである。
※ウイングドブーツ――他ロワに倣い、使用したエリアと隣接するエリアにランダムワープ効果。
「ハク……お前はどうして……」
仙豆の効果で、多少の傷は残っているものの体力は全回復したミクトラン。
自分が一瞬で回復したことにも驚いたが、やはりハクの行動の方がずっと驚きだった。
自分は、ハクの家族であるMEIKOを斬殺したのに。
自分は、ハクやその他大勢を洗脳し、破壊と殺戮を行わせたというのに。
自分は、ハクを無理やりホテルに連れ込み、その体を弄りたおしたというのに。
普通なら、自分を殺すであろう少女が、何故家族を手にかけてまで自分を守ってくれたのか?
天才的な頭脳を持つミクトランであっても、どんなに考えてもその答えが出てこなかった。
「私のとった行動が……理解できませんか?」
そんな悩むミクトランに、ハク自身が答えた。
「私……昔からどう頑張っても、何に対しても自信が持てなかったんです。
家族から励まされても、褒められても……みんなの歌を聴くと……すぐに自信を無くしました。
兄さんが前に、私の性格を謙虚だといいました。でも、違う。私は、もう一歩が踏み出せない臆病な女なんです。
このバトルロワイアルが始まってからも、同じです。生き残る自信はすぐに消え失せました。
前に、歌が駄目なら他の特技を身に着けようとして銃の扱いを学んだことがありましたけど……
そんなもの、本当のプロの前には何の役にもたたない、勝てるわけがないとあきらめたんです」
「……」
「だけど……ベジータさんや海馬さんは違いました。あきらめた私を励まし、主催者を倒すとまで言いました。
正直、とても羨ましかった。そのどこから沸いているのか根拠のない無限の自信の一部でもいいから分けて欲しかった。
でも、私にはそれに触ることが出来なかった。どうしてもあと一歩、それが踏み出せなかったんです。
そんな時です。ミクトラン様が私の前に現れたのは……」
ミクトランの頬の傷にそっと触れて、ハクは思い出すように言葉を続ける。
「最初は本当に洗脳されていましたけど……実はすぐに自分の意識は取り戻していました。
そして、その時にみたミクトラン様の姿は……誰よりも眩しかったです。
主催者を倒すどころか、逆にこの世界を支配しようなんて無謀なことを、微塵の迷いも無く言っていた貴方は。
気づけば、私も自分では出したことのないような声をあげて次々に逃げる人を撃っていました。
生まれて初めてでした。今までの私なら、確実に引き金をひけずに、逆に銃を奪われ殺されていた。
洗脳の余韻か、踏み出せなかった一歩を、自信を確かに私は手に入れてました。
貴方の労いの言葉があっただけで、たとえそれが間違った行為であれ、私は人の役にたてたんだと自信が持てました。
そして、もっともっと自信を持ちたいという気持ちは、もっともっとこの方の役にたちたいという気持ちになった……」
「ハク……」
「誰よりも戦果をあげて、ミクトラン様に褒めてもらいたい、今の私にならできるに違いない……
だから、ユキちゃんとリツちゃんを殺せと言われた時も……そっちの感情が優先されたんです。
ホテルに連れられた時、怖くなかったといえば嘘になります。ミクトラン様の眼、殺人の時より本気でしたし。
でも……私
みたいな女でも、この方を満足させることが出来るんだって……そんなところも自信に変換しました」
「だが、私は……」
「ええ、わかっています。たまたま傍にいたのが私だから……ですよね?
大丈夫です。私に与えてくれたこの自信も愛もニセモノでかまいません。それでも私は……ミクトラン様を愛しています。
たとえどんな理由や行為でも、貴方が、家族にもできなかった私のあと一歩を踏ませてくれた事実は変わりません。
付き纏う邪魔な女だと思えば、その剣でいつ私をバラバラにしてもかまいません。
敵に奇襲された時、私を人質にするのも盾にするのもかまいません。
ミクトラン様が望むまで……私は貴方の傍らで、貴方を守ります」
ハクの唇が、そっとミクトランに触れる。
以前のミクトランであれば、そのままハクを押し倒してそのまま行為を続けていただろう。
だが、今のミクトランにはとてもそんなことはできなかった。
(私は……何をやっているのだ……)
ミクトラン。天上の王。彼は自分の行動を悔いていた。
機に乗じて世界を支配しようだとか、自分の思い通りの巨乳王国を造ろうだとか……
自分の軽い決意に、恥じていた。
彼はハク達、ボーカロイドの家族を詳しくは知らない。
だが、信長やルカ、MEIKOやハクの言葉から、その絆がとても深いことはわかった。
第三者からみてもわかるその絆を……ハクは捨てたのだ。ミクトランを守る、ただそれだけのために。
先に撃ち殺した二人だけではない。姉を撃ち、少し前に再開した妹をも撃った。完全な家族との離別の覚悟。
いや、あの放送事故を聞いた者の中には、七期参加者や正義感の強い者もいることだろう。
彼らはハクを助け、ミクトランを討たんとするかもしれない。ハクは、そんな彼らをも討つ覚悟でいる。
すなわち、この世界そのものを敵にまわす覚悟さえしているのだ。
(ハク……違うんだ。私が最初に東京を制圧して、やがては全てを支配しようとしたのは……自信などではない。
天上王である私が、下等な地上の民に負けるはずなどないという……自信や覚悟とは無縁の、ただの驕りなんだ……
その結果が、半死半生で不様に転がり……お前に命を救われるというものだった。
確かに、その気になれば私はいつでもお前を殺せる。肉体の強さは私のほうが上だ。
だが、心の強さは……お前の方が遥かに上だ……
すまない……ハク……私は……)
「っ!? ミクトラン様、しばらく中でお休みになっていてください」
その時、突然ハクが運転を止めて銃を装備した。
そのままハクは車から素早く降りる。
一体何事かと、ミクトランはフロントガラス越しに前方を見た。
その先にいたのは、とても人間とは思えないほどの筋肉に包まれた一人の少女だった。
「……ネルちゃん……前に言っていたこと、本当に実現させたんだね……」
「ハク、
第三回放送は聞いたわ。私の名前が呼ばれていたのもどうでもよくなるくらいの内容だった。
ミクトランって男を、挽肉にしてハンバーグにでもしてやろうかと思っていたんだけど……
その車に乗っているのが多分ミクトランよね? そしてあんたは私に銃を向けている……
どういうことか、説明してもらえるかしら?」
一台の車の前で。
弱音ハク、亞北ネルの二人が再会した。
だが、あたりにながれるのは、再会を祝うものではなく……怒りと疑問と悲しみとが入り混じったものだった。
「ごめんねネルちゃん……私はミクトラン様を愛しているの。ミクトラン様を殺すつもりなら……私は容赦しない」
「……随分と饒舌になったわねハク。
その男を愛した? あの放送を聞いて、私が、他の家族のみんながそれを信用できると思う?
仮に本当にそうだとして……いきなり家族の私にも銃を向けるのはどういうつもりなの?」
ハクとネルの間に、ピリピリとした空気がひろがる。
ネルの言葉には、怒りが込められていた。
「世界にミクトラン様の敵は増えすぎた……それはネルちゃん、貴女や他の家族も同じこと。
それにもう私は引き返せないし、その気もない。
ユキちゃんもリツちゃんも、ルカ姉さんも殺したんだから……」
「なっ……!? ハク……あんた……ッ!」
「だから、今更ネルちゃんを撃つことにも、なんの躊躇いもないの……」
憤るネルに対して、ハクはあくまで冷静に銃をネルに向けた。
「あんたどうかしてるわよ!? そんな無理矢理あんたを襲った男なんかのために、家族を殺したっていうの!?
あのなんでも弱気な、でも優しかったあんたにそんなことが出来る筈がない! あんた操られて……」
「これは私の選んだ道。私はミクトラン様が好き、愛しているから」
「っ! 本当に愛したとしてっ! 邪魔だからって家族を撃てるの!? そんなの、愛なんて呼べやしないわ!」
「……ネルちゃんも、レンくんのためにその体を手に入れたんでしょう? 愛する人のためなら、なんだってする。
それはお互い様よ。あなたも、レンくんを守るためなら、人を殺すことぐらい平気でできる。
私も、ミクトラン様を守るためなら、家族も世界も敵にまわせる……!」
「ぐっ……私は、師匠に教えられた! 愛する人まで不幸にさせちゃ、それは愛とは言えない!」
「ネルちゃん、甘いわ。私は幸せになんてなろうとは思っていないし、ミクトランさまは現状もう不幸よ」
「あんた、それでいいわけ!?」
「そうね……もし幸せになれるとしたら、誰も私とミクトラン様を知らない世界に行ければ幸せになれるかも……
あるいは、私とミクトラン様以外の全員を殺せば……誰も文句は言えなくなるわね……」
「ハク……あんた……自分が何を言っているかわかってるの!? レンきゅんだけじゃない、リンや他の……」
「リンちゃんはさっき撃った。レンくんも、見つけたら……撃つわ」
「!!? こっ……の……!!!」
「嫌なら……私を殺して止めるといいわ……」
「で……できるわけないでしょ! レンきゅんもみんなも、私も! あんたを大切な家族だと……」
「私は家族を捨てたの。もう元には戻れないの。
あなたの愛は所詮その程度……家族が敵にまわった場合、殺すことを躊躇う程度の覚悟。
でも私の愛は違う……もう、なにも躊躇わない……っ!」
先に動いたのはハクだった。
正確にネルの関節と急所部分を狙っての速射攻撃。
(ごめんね……レンきゅん、みんな……)
「ハクッ! もういいわ! 私はレンきゅんが好き、家族のみんなが好き!
愛する者への想いも、覚悟も! 守るべき人の数も! あんたより上よ!
せめてもの情けよ! 私の愛の力で、あんたの歪んだ愛を焼き尽くす!」
叫ぶネルは、地面を強く蹴り銃弾をかわす。
その眼からは、涙が零れていた。
それは、ハクも同じくだった。
「あの世でルカ達に謝ってきなさい! 猛れ私の愛の炎! イグニスブレイズ!」
「!?」
ハクは、目を疑った。
ネルに向けて、再び銃撃をしかけようとした瞬間。
自分の目の前に炎の塊が現れ、それが瞬間的に大爆発を起こしたのだ。
爆風によりハクは吹き飛ばされ、その身を強く打ち、銃も手を離れてどこかへといってしまった。
「な……ネル……ちゃん……なに……今の……?」
「……こんな世界だから、私はレンきゅんを守るために魔法少女になった。
そして師匠にも会って、魔力をわけて貰った。使い方を誤るなとも教わった……これは家族になんて使いたくなかった……
これは……愛する人を守るためだから……許してね……」
ネルは、道中出会った愛の魔法の師匠であるアルティから魔力を渡されている。
その力を借り、ネルは白焔の魔女の得意とする魔法を発現させたのだ。
ボロボロになったハクを見下ろしながら、嗚咽を漏らしながら、ネルはとどめの一撃を決めようとする。
「メテオスォーム!」
「「!?」」
その瞬間に、ネルを隕石が襲った。
「セラフィックフェザー!」
両腕で隕石を砕いているネルのがらあきになった体に迫る追撃。
「
光と闇の狭間に消えろ! アンビバレンス!」
そして、天地から放たれた無数の雷が、ネルを貫いた。
「ぐっ……くっ……あん……た……は……」
「ミクトラン……様……?」
地面に倒れるネルの前に立っていたのは、天上王ミクトラン。
ネルに容赦なく攻撃をしかけたのも彼だった。
「喋るな、ハク……!」
「どう……して……?」
「元は、私のせいだ……お前が私を守るというのなら、私もお前を守る!」
「!!」
「待っていろ、すぐに傷を治せる場所を探す! どんな手を使ってもだ!」
そういうとミクトランはハクの体を抱えてスポーツカーへと乗り込み、走り去った。
【一日目・11時50分/山梨県/天候・曇り】
【弱音ハク@VOCALOID】
【状態】健康、覚悟 、ダメージ(大・火傷)
【装備】機関銃@現実、縄、高級スポーツカー
【道具】支給品一式
【思考】
0:ミクトランを守る
1:ミクトラン様……
※7期とは別人です
※べジータからDBの世界を聞きました
【ミクトラン@テイルズオブデスティニー】
【状態】健康、ハクに対する罪悪感 、疲労(中)
【装備】ストームブリンガー@テイルズオブデスティニー2
【道具】支給品一式、参加者からの強奪品×2
【思考】
0:ハクを守る
1:ハクを治療できる場所を探す
※7期とは別人です
「う……う……」
瀕死の重傷……いや死に直結する傷を負ったはずのネルは、まだ生きていた。
「ぐ……『情熱の愛(ヒートヒール)』」
回復魔法で、自分に応急処置を施したネルは、よろよろと立ち上がった。
「あの魔法少女の先輩だとかいう人の話……ちゃんと聞いておいてよかったわね……」
ネルは、握られた拳の中から小さな宝玉を取り出した。
少し前に突然自分の前に現れた、魔法少女の先輩を名乗る存在――
巴マミからこれの説明を受けていた。
ソウルジェム……魂はこの中で、肉体はどれだけ損傷しようと、決して死ぬことはなくなると。
これを破壊されないかぎり、自分達魔法少女は死ぬことはないのだと……
「まさかキュゥべえとの契約で人間じゃなくなるなんてね……あーあ、もうレンきゅんとの結婚は無理かぁ……」
乾いた笑いとともに血を吐き出すネルだが、その眼の光は失われていなかった。
この傷では、回復が済む頃にはスポーツカーを完全に見失っているだろう。
それでも、ネルはすぐさま歩きだした。
「でも……レンきゅんを、家族を守るためなら……むしろこの体は好都合だわ……
師匠……愛の魔法は……みんなを幸せにするためにあるんだよね……?
ちょっと未練はあるけど、私とレンきゅんが結ばれても、幸せなのは私だけ……
でもレンきゅんと家族を私の手で守れたら……みんな幸せ……これ以上、減らせるわけにはいかない……
…………ハクがいなくなるのは幸せじゃないけれど、それでも……私は……あんたを…………」
【一日目・11時52分/山梨県/天候・曇り】
【亞北ネル@VOCALOID派生】
【状態】魔法少女、ダメージ(大)魔力消費(中)、首から下は超肉体、魔力上昇、覚悟
【装備】妖しく光る肉体、金のブーメランパンツとマント
【道具】支給品一式、他不明
【思考】基本:自分の肉体と魔法を正しく使い、レンきゅんと家族を守る
1:ハクの追跡より、家族の安全を優先する
2:ハクとミクトランは、倒す
3:ミクトランの強さに警戒
最終更新:2011年02月21日 00:35