(クソ、やっと殺し合いを終わらせることが出来たと思ったのに、またこんなことが……)
などと心の中で叫びながら、街中を逃げ続ける紫の和服姿の男。
ご記憶の方はいるだろうか。カオスロワ一期の終盤でノロ隊を討つことを決意し、そのまま消息を絶った三遊亭楽太郎である。
あれから色々あったが、彼は何年もかけてついに目的を達成。その後無事に元の世界に戻ることが出来たのである。
もちろんその間にカオスロワは何期も先に進み、更にリアル世界での彼の身の回りにも様々な変化があった。
だがそんな余韻に浸る暇も無く、彼はその時たまたま開始されたカオスロワ10期に巻き込まれてしまったのである。
脇目も振らず走る彼の背中を追いかけるのは、豊満な胸を持つ美しい女性である。
だがその顔は殺気立ち、いつもの穏やかな美しさなど微塵も感じられない。手には刺身包丁が握られている。
「待ちなさい!! あんた
みたいな奴は絶対に殺してやる!!」
(ああもう、なんだってこんなことに……)
楽太郎は息も絶え絶えに逃げ続ける。男女の差があるとはいえ、こちらは初老、あちらは二十歳。距離は徐々に詰められていく。
最初は、たまたま遭遇したあの女性と情報交換を行っていただけだった。
彼女は殺し合いに乗っているわけではなさそうだったし、聞けば歌を生業としているという。噺を生業とする自分と、どこか親近感も感じられた。
しかし、礼儀正しく控えめだった彼女の態度は、楽太郎がある一言を言ったせいで豹変した。
楽太郎はあくまで親切心からこう言った。
「ああ、そういえばですね、さっきちょっとパソコンでインターネットに繋いでみたら、危険な人物の情報を集めている掲示板と言うのがありましてね。
そこをちょっと読んでみたんですが、なんでも『
KAITO』って男と『
初音ミク』って女はかなり危ないらしいんですよ。もうすでに何人も人を殺しているそうで。
この二人には気をつけたほうがよさそうですねえ」
それを聞いた女性―巡音ルカは、突如自分の支給品の刺身包丁を抜いた。
「兄さんとミクがそんなことをするわけがない……さては、そうやってデマを広めて二人を追い詰めるつもりなのね!? 許さない!!」
ルカはそう叫ぶと、刺身包丁を振り上げて襲い掛かってきたのである。
そこからは、ただ逃げるしかなかった。
いくら弁明しようとしても、彼女は全く聞く耳を持たない。
それほど家族を愛しているということなのだろうが、彼にとってみればとんだ災難としか言いようが無い。
正直言って息も上がりきっているし、そろそろ限界に近い。
(もう、いいんでしょうかねえ……)
ノロ隊だって倒した。もう、やるべきことはやり遂げたのではないか。
そもそも自分は本来ならあの時、ルカ・ブライトに殺されて死んでいたはずだった。
だがたまたま目にした一人の女性の姿に勇気を貰い、ブライトたちを許したくない一心で今まで生きて戦ってきたのだ。
その本懐を遂げた今、もう、どうなってもかまわないのではないか。
(ねえ、師匠……)
「随分とお疲れのようですねえ、楽さん?」
「え……」
足を止めかけた彼が目にしたのは、何年ぶりかに見る兄弟子の姿だった。
楽太郎の兄弟子、笑点のピンクは涼しげな表情で彼の前に立っていた。
「な、なんでこんな所に……」
「いえ、たまたま近くを通りかかったもんでしてね。そしたら楽さんがなにやらただならぬ様子じゃないですか。
ここは兄弟子として一肌脱がないわけにはいかないですからねえ」
確かに二対一となれば、男性のほうが断然有利になる。
ルカもそれを悟ったのか、足を止めて二人の顔を交互に睨み付けた。
この期を逃すまいと、楽太郎は説得を試みる。
「あのですねえ、よく聞いてくださいよ。誤解があったんなら謝りますから。
聞き分けのない頑固者はうちのジジイだけで十分ですよ」
「そうですとも。あなたのような美しい女性に刃物なんか似合いません」
しかしルカはそれに答える代わりに、口を大きく開けて美しい歌声を奏で始めた。
すると、ルカの周囲に大量の紅葉の葉が渦巻き始めた。ただの葉で無いのは見ただけでもわかる。
コンクリートすらも削り取る、鋼の刃だ。
「やれやれ、流石はボーカロイドですねえ」
「ぼうか、ろいど?」
博識の自分も知らない単語に戸惑う楽太郎に、ピンクは諭すように語る。
「楽さん。あなたがいなくなってから、もう、何年も経ったんですよ。
笑点の司会の座には予想通り歌さんが着き、新メンバーも加わりました。
以前はただの影の薄いキャラだった私も、落語が下手で仕事がないという新たなキャラクターが加わりました。
そして、我々の師匠は……」
ルカは険しい表情のまま、一歩一歩彼らに歩み寄ってくる。
突如、ピンクの背後から、一頭の雄々しい白馬が現れた。
「これが私の支給品です。楽さん、あなたはこれに乗って逃げてください」
「馬鹿を言うんじゃありませんよ。そんな真似が出来ますか、一緒に逃げましょう!」
しかしピンクは首を横に振る。
「私はここで彼女を食い止めないといけませんよ。さもないと、他の人たちにまで危害が……」
「あなたがいなくなったらうちの番組はどうなるんです? あなたは自分の影の薄さで、他のメンバーを目立たせるのが役目だと言っていたじゃないですか。
影の薄いあなたがいなくなったら、一体誰がその役目を継ぐと……」
「なあに、こん平さんが抜けた時もどうにかなったじゃないですか。楽さん……いや、あなたに合わせるのはよしましょう。
あなたの、この時代での本当の名前は――」
彼女、巡音ルカは怒りに震えていた。
KAITOとミクが殺人犯だなどと……そんなデマを無責任に流す奴らがいるから、あの二人が苦しめられるのだ。
こんなことは、殺し合いが始まる前から起こっていたことだった。
無責任なデマや中傷で、彼女の大事な兄と妹がどれだけ傷つけられたか……
KAITOは妹を虐待しているなどとネットで騒がれ、幼いミクまでが淫乱で性悪などというレッテルを貼られた。
中でもルカが激怒したのは、「KAITOとミクは近親相姦関係にあって、スパンキングプレイもしている」というデマだった。
家族への酷すぎる侮辱。
平時から毎日のようにそれらに憤っていた彼女が、殺し合いという異常な状況下で冷静さを失い、楽太郎に殺意を向けたのもある意味当然だった。
その楽太郎は、道の真ん中で出会った知り合いらしきピンクの着物姿の男となにやら話し込んでいる。
きっと、KAITOとミクに関するデマを吹き込んでいるに違いない。
(許さない!!)
この紅葉の刃で二人とも八裂きにしてやる、と突進しようとしたその時、突如彼女の紅葉を吹き飛ばすほどの突風が吹いた。
思わず目を閉じる。瞼の裏に、一人の男を乗せて飛び立つ天馬の姿が見えたような気がした。
目を開けると、ピンクの着物の男が目の前にいた。
「さて、どうあっても退く気は無い、という目をしておりますが、どんなものでしょうか?」
「当然でしょう。兄さんとミクを侮辱する奴らは私が許さない……絶対に殺してやる……」
「……あなたのように、ピンクの髪でスタイルのいい女性の知り合いが私にもいましたよ。あなたと違って、人を恨むことを知らない穏やかな人でしたけどね」
「黙りなさいよ!!」
だがルカは次の瞬間、自分のほうが声を詰まらせることになる。
男が懐から、安全装置を抜いた手榴弾を取り出したからだ。
天馬に乗って逃げていた楽太郎は、遥かかなたで爆音を聞いた。
(ピンク……)
先刻交わした会話が耳の奥に蘇ってくる。
「私の持っている手榴弾は一つだけ。これを外すと後がありません。よって、外しようのない距離で使わせていただきます」
それは、相討ちに持ち込むという宣言に相違なかった。
(ったく、私の腹黒もここに極まりましたね。兄弟子をみすみす見捨てて自分だけ逃げるとは)
だが、腹黒とでもなんとでも好きに呼ぶがいい。
俺にはもはや、消せない名前があるから。
(六代目円楽、か……こんな時に知らされても、なかなか実感が沸きませんがね。
だが、見ていてくださいよ師匠、ピンクさん。円楽一門の意地、見せてやりますから)
【一日目・5時/東京都江戸川区】
【笑点のピンク@現実 死亡確認】
【巡音ルカ@VOCALOID 死亡確認】
【六代目三遊亭円楽@現実】
[状態]:腹黒い心を持ちながら激しい怒りとピンクの死により燃える落語戦士。
[装備]:笑点の服(紫) 騎英の手綱(ベルレフォーン)@Fateシリーズ
[道具]:支給品一式
[思考]
1:ピンク(名前は忘れた)の遺志を継ぎ、殺し合いを止める
【ペガサス@ギリシア神話】
[状態]:暴れ馬の心を持ちながら激しい怒りとピンクの死により燃える天馬。
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]
1:円楽に従う
2:ピンク(名前は忘れた)の敵は討ちたい
最終更新:2012年11月11日 19:49