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ハクが急性アルコール中毒で死亡し、レンが一人暴走する車に取り残されてから二時間。
未だ走り続ける装甲車の中には、虚ろな目でハンドルを握るレンの姿があった。

「俺が……俺が何したって言うんだよ……」

二時間前。
ハクが死んだ後、レンは何よりもまず運転席から死体をどかすことを優先した。
ハクの死が悲しくなかったわけではないが、ひとまずこの車を止めなければ自分まであの世行きだからだ。
どうにか死体をどかし、急ブレーキの衝撃に備えながら、レンは力いっぱいブレーキペダルを踏み込んだ。
だが――装甲車はいっこうに減速する気配を見せず、それどころか変わらぬスピードのまま人を、物を撥ね飛ばしていた。
それが意図的かそうでないかはわからないが、ハクに支給されたこの装甲車は欠陥車だったのだ。
どうして俺ばかりこんな目に。レンは自身の不幸を嘆かずにはいられなかった。

そして、現在。
依然として装甲車は暴走を続けている。
レンはなんとか被害を最小限にしようと努めるが、何せレンはまだ子供だ。運転経験なんてロードローラーくらいしかない。
高速で走る装甲車を満足に制御できるはずもなく、撥ね飛ばした人の数は三桁から先は数えてもいない。
もちろんその間、レンは幾度となく車を止めようと試みた。
だがどれだけペダルを踏んでもブレーキはきかず、減速させようと壁に車体をぶつければ壁の方が崩れる始末。打つ手なしだ。
もういっそ、自分もこの装甲車のように狂ってしまった方が楽かもしれない――そんなことをレンが思った瞬間のことだった。

「ボハハハハハーッ!」
「っ!?」

突如響いた、耳をつんざくような奇声。
レンは驚いて声のした方向に視線を向け、再度驚愕する。
いつの間にか、一台のオープンカーが装甲車の隣を並走しており――その運転席には、レンの知る顔があった。

「ドン・観音寺さん!?」
「無事かねボーイ!」

ドン・観音寺。
ドレッドヘアにサングラス、狂ったファッションセンスが特徴的な、自他共に認めるカリスマ霊媒師だ。
看板番組『ぶらり霊場突撃の旅』は毎回25%超えの高視聴率を誇り、レンも何度か共演した経験がある。
そのドン・観音寺が、何故ここにいるのか。

「か、観音寺さん! この車、ブレーキが……」
「安心したまえボーイ! 状況はだいたい把握している! 私の車に飛び移るのだ!」
「ええっ!?」

飛び移る――幸いなことに装甲車のドアはスライド式だったため、並走するオープンカーとの距離は大したことはない。
しかしうまく乗り移ることが出来ればいいが、この速度だ。失敗すれば確実にミンチより酷いことになるだろう。
香港映画のアクションスターでもない自分に、果たしてそんなマネができるのか。

「私のドライビング・テクニックを信じたまえ! 命に代えても、このドン・観音寺がユーを助けてみせるっ!」
「……っ!」

このまま暴走車に乗っていてもどうにもならない――レンは、覚悟を決めることにした。






人気の無い駐車場に、二人の人間を乗せたオープンカーが停車する。
助手席から降りたレンは、数時間ぶりに踏み締めた動かない地面に、そのありがたみを実感する。できることならもう車には乗りたくない。

「……ふう。人間、死ぬ気になれば何でもできるんだな」
「うむ……だからこそ一度死んだ彼ら――バッド・スピリッツは恐ろしいのだよ」
「観音寺さん……ありがとうございました」

運転席に座る観音寺に、レンはあらためて先ほどの救出劇の礼を言う。
飛び移る際に多少の打撲こそしたものの、あの男――虐待おじさんにされたことを思えば、この程度の怪我は気にならない。
さすがに持っていく余裕がなかったため、装甲車がハクの遺体を載せたまま暴走を続けていることは気がかりだったが、レンにはもうどうしようもなかった。

「気にすることはないボーイ! 助けを呼ぶ声に応えるのがヒーローの使命なのだから!」

そう言って、観音寺は両腕をクロスさせ『ボハハハハー!』と笑う。
殺し合いの最中だというのにあまりにもいつも通りな観音寺の姿に、レンはわけもなく安心させられる。
レンにとってはバトルロワイアルが始まって以来、はじめての心から安らげる時間だった。

「あ……安心したら、なんだか眠気が……」
「疲れたのだろう。私が周囲を見張っているから、ボーイは助手席を倒して少し眠りたまえ」
「ありがとうございます……あ、その前に一つだけ」
「ム?」

レンには一つだけ疑問があった。
何故、観音寺はああもタイミングよく、自分を助けに現れることができたのだろうか。
状況が状況だったためスルーしていたが、観音寺は明らかにレンが装甲車に乗っていることを知っていたように思える。
そんなことをレンが尋ねると、一瞬の間を置いて観音寺は叫ぶ。

「……ボーイ、それは私がヒーローだからだ!」
「……そうですか」

別に今じゃなくてもいいか。
レンは目を閉じ、しばらく体を休めることにした。






「……許してくれ、ボーイ」

レンが完全に眠りに落ちたのを確認すると、観音寺は一人贖罪の言葉を呟いた。
観音寺はレンに嘘をついた。彼がレンを助けに現れることができたのには、理由があったのだ。

『――誰でもいい。レンを、私の家族を、助けてください――』

一時間ほど前に聞いたスピリッツの声を、観音寺は思い出す。
それは祈りにも似た、人並み外れた霊圧感知能力を持つ観音寺ですら聞き逃してしまいそうなほどに微かな囁きだった。
その『声』によって観音寺はレンが危機的状況にあることを知ったのだが、それを正直にレンに明かすわけにはいかなかった。
観音寺は、その『声』の主が誰なのか気付いている。彼女とも、観音寺は共演したことがあったから。
そして、観音寺の霊力がその『声』を捉えたということは、彼女はもうすでに――

「嘘をついてすまないボーイ……私にはどうしても、今のユーに真実を話すことはできないのだ……」

観音寺の目から見て、レンは明らかに疲弊していた。それは小さな体のあちこちに刻まれた数々の傷からも明らかだ。
心身ともに傷ついた今のレンに彼女の死を伝えることは、レンにトドメを刺すも同然だった。
だから、たとえ後でどんな罵りを受けようが、少なくともこの殺し合いが終わるまでは、観音寺はレンに真実を隠すことにした。
きっと彼女も、そう望んでいるだろうから。

「レディ……ユーの家族は、私が絶対に守ってみせよう。だからどうか、安らかに眠りたまえ――」


【一日目・6時00分/日本・群馬県】

【鏡音レン@VOCALOID】
【状態】睡眠中、恐怖、超疲労
【装備】なし
【道具】支給品一式、その他不明
【思考】
基本:生き延びて家族と再会する
1:KAITOとミクとなんとか連絡を取る
2:ZZZ…

【ドン・観音寺@BLEACH】
【状態】健康
【装備】超スピリッツ・ステッキ @BLEACH
【道具】支給品一式
【思考】
基本:殺し合いを止める
1:レンを守る
2:他の家族も探し、守りたい

※弱音ハクの死体を載せた装甲車がどこかを暴走してます
最終更新:2012年11月15日 15:04