アットウィキロゴ
「この分だと、既にこの日本でも参加者の諸君は勝手に散っているだろうな」
 朱色に染まった太陽が地平線の彼方に沈んでいき、辺りが徐々に暗くなっていく中で一人の男はそう呟く。闇に同調しそうな衣服を身に纏う男の名前は乃木怜治。その正体は、乃木怜治と言う男に擬態したワームの首領・カッシスワームだった。
 人間同士で互いに殺し合い、生き残った者達だけを国民として認めるバトルロワイアル。それに対して、乃木は大して関心を向けていなかった。
「同じ地球に生きる人間同士が醜い本性を曝け出し、殺し合う……やはり人間とは実に愚かで悲しい生き物だ。そして、哀れすぎるよ」
 フン、と鼻を鳴らしながら乃木はつまらなそうに呟く。
 存亡の危機に陥ったのならば、普通は同族同士で助け合うべきだろう。互いに潰し合っている場合ではないのに、主催陣営は殺し合いを強いる。そんな方法で生き延びたとしても、生き残った群れがいずれ破綻するだけだ。こんな下らない戦いで平和を得たとしても、疑心暗鬼に駆られた末に同じ戦いが起こるだけ。その程度のことにも気付けないくらいに、人間は落ちぶれてしまったのか。
 だが、例えそうだとしても関係ない。そんな人間どもを駆逐してワームが残った日本を占領すればいいだけのこと。
「どうやら、君達みたいな人間にこの地球を任せるわけにはいかなくなったな。我々ワームが頂き、そしてよりよい世界を築き上げていこう……世界はワームの物だ」
 乃木の方針は今までと何も変わらない。日本に跋扈する低俗な人間どもを一人残らず狩って、それからワームが支配権を握る。その為にも、首領である自分自身が進んで動かなければならなかった。
 同胞がこの日本にいるかどうかはわからないが、今は関係ない。いるならこれまでのように指令を出せばいいだけで、例えいなかったとしても一人で戦うだけ。
 どんな相手がいようとも負けるわけにはいかなかった。
「その為にも、まずは見つけなければならないな……俺の餌となるべき人間と、有能な配下が」
 愚かで弱い人間は餌にする。また、強者でも反抗的な態度を取るのならば餌にする。餌となった存在の力を己の物にできるのだから。反対に、もしも利益になる参加者がいれば配下にする。切れ者ならば参謀にするし、それなりに戦闘力を誇るのならば兵士にすればいい。どちらを選ぶにしても損はなかった。
 だが、戦うにしても油断はできない。日本のどこかにはZECTが生み出したマスクドライダー達もいるはずだった。奴らにはこれまで何度も煮え湯を飲まされた。小賢しい策を弄して戦いを挑んでくるかもしれない。負けるつもりはないがその対策もする必要があった。
 今は他の参加者を探しながらワームが支配を握る地盤を固めなければならない。道のりは長いかもしれないが、苦にならなかった。
「もうすぐ、戦場は再び闇に包まれる……その時、どれだけの参加者が生きていられるだろうね……」
 誰かに問いかけるかのような口調で呟きながら乃木は歩く。
 人の気配が一切感じられず、ゴーストタウンにいるかと錯覚させてしまうような道路。普段ならば人間どもの活気で溢れているのだろうが、今は誰の姿も見られない。もしや、主催陣営が殺し合いの為に前もって住民達を駆逐したのだろうか? だとしたら、尚更愚かだった。貴重な労働力を自ら刈り取るなんて普通の神経ならばありえない。尤も、それは人間の問題でワームには関係の無い話だが。
「死んだ人間の諸君は実に哀れだ。信じていた国のトップに裏切られ、命を終える羽目になるなんて……」
 乃木は静かに紡ぐ。
 その瞬間、どこからともなく二つの足音が響いてきた。場所はそれほど遠くない。それに気付いた乃木は瞬時に振り向き、そして笑みを浮かべた。
「おやおや、ようやく現れてくれるか……待ちくたびれたよ」
 漆黒のコートを翻しながら、乃木は高く跳び上がる。
 闘いの時はもうすぐだった。




 佐倉杏子は高町ヴィヴィオを連れて歩いていた。ヴィヴィオの母親である高町なのはを見つける為にホテルの中を捜索している。
 先程、何故か小さな子供に性的な虐待をしようとしていた。子どもの方は怯えていたのを見る限り、もしかしたら性行為は無理矢理しようとしていたのかもしれない。逃げるヴィヴィオを追ってしまったが、助けた方がよかったかと今になって思う。後悔してももう遅いので、一刻も早くなのはと会わなければならないが。
 そうしてホテルへ戻ったが、そこには誰もいない。ホテルの中を隅から隅まで探しても、誰も見つからなかった。きっと、すれ違いになってしまったのだろう。
「見つからないな、お前の母親は」
ごめんなさい、杏子さん……私が何時間も落ち込んでいたせいで……」
「気にするな。あの状況だったら、誰だってショックを受けるよ。ヴィヴィオが謝る必要なんてある訳ないだろ」
「でも……」
「ストップ! ヴィヴィオ、落ち込んでいる暇があるのなら二人を探すことを考えろ! いいな」
 杏子はヴィヴィオが吐く弱音を遮る。すると、ヴィヴィオは一瞬だけ驚いたような表情を浮かべたが、すぐに笑顔になった。
「……はい! ありがとうございます、杏子さん!」
「いいってことよ」
 やはり、落ち込んでいるよりも笑っている方が杏子としても気分が良かった。いつまでもウジウジしていたって何にもならないし、杏子だって落ち込んでしまうかもしれない。
 亡くなった妹のモモだって、ヴィヴィオのように笑っている頃があった。もう少し大きくなったら、ヴィヴィオと同じ活発な少女になっていたのだろうか……そう、杏子は思ってしまう。
「さて、ホテルにいないとなったらいつまでもここにいたって仕方がないし……どこか他の所に行くか」
「わかりました!」
 杏子とヴィヴィオの声がホテルのロビーで響き渡る。
 それからホテルの正門を潜ると冷たい風が肌に突き刺さる。何か温かい服をホテルで探せばよかったかもしれないが、今から探すのは面倒だ。それにこの程度の寒さならコートを羽織る必要もないし、耐えられないほど寒くなってから考えればいい。
 今はなのはを見つけることが最優先だった。
(あの放送じゃ呼ばれていなかったけど、安心はできないな……どうか無事でいてくれよ)
「おやおや、ようやく見つけたと思ったら小娘が二人か……」
 杏子は思案していたが、それを阻害するかのように男の声が耳に入る。
 それに気付いた杏子が振り向くと、黒い衣服を纏った男を見つけた。
「だが、ただの小娘ではなさそうだ……もっとも、俺の配下になりうる人材ではなさそうだが」
 開口一番、男は意味のわからないことを言ってくる。その態度はとても高圧的で、杏子は表情を顰めた。
 何故、見知らぬ男から上から目線でそんなことを言われなければならないのかがわからない。一体、何の権利があるのか?
 偉そうな相手が好きになれない杏子に、目の前の男と仲良くなるのは無理な話だった。
「いきなり何だよ、オッサン」
「だが安心したまえ。君達はもうこの愚かな戦いに怯える必要はない……俺の餌にしてあげよう」
 冷たい目線を突き刺してくる男は静かにそう呟く。すると、男の身体から紫色のオーラが噴き出された。
 薄気味悪い音が響き渡り、男の体は変わっていく。瞬く間に、カブトムシのような姿へと怪物へと変貌した。
「なっ……!?」
 刹那、怪物から物凄い勢いで殺気が放たれ、杏子は反射的に魔法少女に変身する。
 目の前の怪物・カッシスワーム グラディウスはあたし達のことを殺そうとしているし、話し合いの余地などない。一目見ただけで杏子はそう確信した。
 ならば、相手が何かを仕掛けてくる前に叩き潰すしかない。そう思った杏子は槍を振りかぶりながら突貫し、勢い良く振るう。だが、それはカッシスワームの左腕から生えた刃によって軽々と受け止められてしまった。
 杏子は力づくで押し込もうとするがカッシスワームは微動だにしない。
「おやおや、随分と凶暴だねぇ……」
 嘲るような声がカッシスワームから聞こえてきて、杏子の中で怒りが湧きあがっていく。
 その直後、カッシスワームが腕を振るったことで槍は弾かれてしまい、そこから杏子の身体は切り裂かれてしまう。
 身体に激痛が走り、杏子は声にもならない悲鳴をあげてしまった。それを好機と見たのかカッシスワームは攻撃を続ける。その勢いは凄まじく、歴戦を乗り越えた魔法少女である杏子でも見切ることができなかった。
「杏子さん!」
 度重なる攻撃によってよろめいた後、後ろからヴィヴィオの声が聞こえてくる。
 それに振り向いた直後、いつの間にか変身していたヴィヴィオも拳を掲げながらカッシスワームに突貫したが、カッシスワームは背後に跳んだことでその一撃を避けた。
 だが、そのおかげで杏子はカッシスワームの攻撃から解放される。そんな杏子の元にヴィヴィオは駆け寄った。
「大丈夫ですか、杏子さん!?」
「ああ……」
 心配そうな表情を浮かべるヴィヴィオに杏子は勝気な笑みで答えるが、それはあまりにも力が溢れていなかった。
 目の前の怪物・カッシスワームはあまりにも強すぎた。それこそ、これまで戦ったどの魔獣も凌駕してしまいそうなほどに。
 これまでの戦いで養われた経験から、カッシスワームは自分達二人を圧倒的に上回る強さを誇っていると杏子は察する。認めるのは癪だが、それだけのオーラを発していた。
「お喋りはそこまでだ……」
 戦慄する杏子の耳に、カッシスワームの声が響く。
「終わらせて貰おう……ライダースラッシュ!」
 カッシスワームの腕から二発の鋭い衝撃波が放たれていき、杏子とヴィヴィオを標的に進んだ。
 その速度は音を遥かに凌駕して、二人に反応する暇を与えない。
「ヴィヴィオ――!」
 杏子はヴィヴィオに言葉をかけようとしたが、それが最後まで紡がれることはなかった。
 何故なら、杏子の身体はカッシスワームの放つライダースラッシュによって切り裂かれてしまうのだから。




 高町ヴィヴィオには抵抗をする余裕すらなかった。
 カッシスワーム グラディウスによる死の斬撃が彼女の身体を容赦なく切り裂き、そこからあらゆる力を奪われてしまう。起き上がろうとしても身体が言うことを聞かない。
 首も動かない。そのせいで、ヴィヴィオの視界には暗くなっていく空しか映らなかった。
 まるで、その闇が自分を引きずり込もうとしているかのように見えてしまい、ヴィヴィオは不安になってしまう。
(私……死んじゃうの?)
 意識がどんどん薄れていく中、ヴィヴィオの鼻に生臭い血の匂いが届く。
 それに伴って身体がどんどん冷たくなっていくのを感じてしまい、自分の死が近づいてきているのをヴィヴィオは察した。その瞬間、ヴィヴィオの脳裏にこれまでの人生が見てきた光景が走馬灯のように過っていく。
 愛する母親である高町なのはと出会い、そして戦った幼い日々。たくさんの人と出会い、そして絆を深めあった学園の毎日。アインハルト・ストラトスと拳を交わし合って、互いに色々なことを語り合った日常。
 どれもかけがえのない時間であり、宝石よりも輝いて見えた。そんな毎日がこれからも続いて欲しかったが、それはもう訪れることはない。
 そう思うと、全ての思い出がこの上なく愛しく感じられてしまった。
 ヴィヴィオはどこかにいるはずのなのはのことを考える。
 どうして小さな子どもにあんな変なことをしたのかがわからない。なのはに何があったのかが知りたかったけど、もう叶わないだろう。
 きっと、なのはは自分の死を知ってしまう。そうなったら、なのはは泣いてしまうかもしれなかった。
 それがヴィヴィオにとって何よりも心残りだった。
 そして、自分を守ってくれた杏子はどうなったのか? 無事でいて欲しいけど、確かめる術はない。
 ヴィヴィオが杏子の為にできることは、生きていることを祈るだけだった。
(ママ……)
 ヴィヴィオは願う。
 高町なのはが元に戻って、こんな殺し合いを止めてたくさんの人を助けてくれることを。強くて優しいママだったら、簡単にできるはずだから。
「ヴィヴィ、オ……」
 ヴィヴィオの耳に震えるような杏子の声が届く。
 それを聞き取ったヴィヴィオは、最後の力を振り絞って首を動かす。そこには、自分と同じように横たわる佐倉杏子の姿が見えた。
 既に杏子も身体の半分が切り裂かれていて、とても助かる様には見えない。だけど、今のヴィヴィオにはそれを気にする余裕などなかった。
「杏子、さん……」
 最後に杏子を見ることができて、ヴィヴィオは思わず微笑む。
 佐倉杏子が腕を伸ばしてきたので、それに答える為にヴィヴィオも腕を伸ばす。
 二人の掌が触れ合うまで、そう遠くはなかった。
「おやおや、こんな身体になっても互いを気遣うとは……泣かせるじゃないか」
 しかしそんな最後の想いさえも打ち砕くかのような、冷酷な声が響く。
 それに気付くことのないまま、高町ヴィヴィオの世界は闇に飲み込まれてしまった。




「俺としたことが、少しばかり大人げなかったかな……? 今まで誰にも会えなかったとはいえ、やりすぎたようだ」
 カッシスワーム グラディウスの変身を解除した乃木怜治は能面のように硬い表情で呟く。
 たった今、二人の少女を糧としたが何の感慨も抱かない。ある程度の力は得られたかもしれないが、それだけでこの戦いを生き残れるとは限らなかった。
 高町ヴィヴィオと佐倉杏子という奇妙な力を持った小娘。そんな二人を勝利したところで余韻に浸れるわけがない。この程度で酔うなど小物のすることだ。
「悔やむことはない。この俺の糧となれたのだから、むしろ誇るといいさ」
 もうこの世にいないヴィヴィオと杏子に言い聞かせるかのように言葉を残しながら、乃木はその場を去っていく。
 食事の時間は終わった。次の訪れるのは主催者による放送の時間だ。
 その時には何人の参加者が呼ばれるか……そんなことを、乃木怜治は考えていた。
【一日目・17時50分/日本・千葉県 ホテル】

【乃木怜治@仮面ライダーカブト】
【状態】健康、
【装備】なし
【道具】基本支給品一式、不明支給品
【思考】
基本:愚かな参加者の諸君を始末し、最後には主催者の諸君も始末する。
  1:さて、どうするか……?
  2:利用出来る参加者がいるなら利用するが、そうでないなら餌にする。
〔備考〕
※佐倉杏子と高町ヴィヴィオの肉体を吸収しました。




【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ 死亡確認】
【高町ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはVivid 死亡確認】
※杏子とヴィヴィオの肉体は乃木によって吸収されました。
最終更新:2014年01月03日 21:00