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世界を滅ぼす大災害を阻止するべく動いていた私たちは最悪の敵と出くわしてしまった。

「ぐああああぁああああぁあああ!!!」
「神樹!!」

OVERや戸愚呂兄、複数のクローンヤクザを一撃で粉砕してきたあの神樹が、鮮血のように大量の樹液を吹き出しながら崩折れる。
幸いにもまだ絶命に至るほどのダメージではなかったが虫の息だ……
いや、虫の息なのは彼だけじゃない。
私も、ユーノ君も、ハス太君も桑原さんもレオリオさんもエリカさんも、みんな生きてはいるものの重症を負っていた。

そんな満身創痍の私たち相手に“敵”は容赦なくトドメを刺そうとしてくる。
敵が何者なのかは視界がボヤけてわからない、一人か集団なのかもわからない。
わかるのは敵は神樹よりも遥かに強大な力を持ち、まともに動けないほどのダメージがある以上、誰ひとり“敵”からは逃れられないのだ。
万事休す……私たちの誰もが生存を諦めかけていた。


だけど、倒れ伏していた私たちの中でただ一人だけ、立ち上がる者がいた。

「ユーノ君……?」

金髪の長い髪を持った眼鏡の青年……見間違えるはずもない、ユーノ君その人であった。
でも彼の様子はどこかおかしかった。
その瞳は思わず後ずさりしたくなるほどの、ギラギラした何か恐ろしいをはらんでいた……
私の知るユーノ君はこんな怖い顔ができる人じゃなかったハズだ。
そして。

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!!」

ユーノ君はまるで野獣のように叫んだ。
その咆哮と同時に彼の体に変化が現れる。
金色の毛皮を全身を覆い、加えて胴が細長くなり長い尻尾が長くなった。
シルエットだけは彼がよく変身するフェレットの姿に似ている。
しかし、全体的なサイズは大柄な桑原さんレオリオさんの何倍もあり、牙も爪も一目で危険とわかるくらい鋭く、目は赤い複眼の恐ろしい姿だった。
ユーノ君はフェレットによく似た謎の怪物になってしまった……
こうなった理由?
私にわかるハズがない。

突然、怪物に変身した彼に他のみんなは混乱にしている。
“敵”も一時は驚くも、すぐに私たちに攻撃を加えようとしていた。
神樹を倒した一撃が、私たちに襲いかかる。

しかし、その一撃が私たちに届く前にユーノ君は私たちの前に躍り出て、怪物の姿のまま防御結界を張った。
するとどうだろうか。
強力な攻撃は結界によっていとも容易く弾かれ、ユーノ君も彼の後ろにいた私たちも無傷だった。
彼は元々結界魔法に関して天才的な技術を持っていたけど、それでもあの一撃を防ぐのは不可能だったハズだ。
きっと怪物の姿になったことで魔力が大きく増大したのかもしれない。

「グラアアアアアアアアッ!!!」

攻撃を凌いだユーノ君が反撃に出る。
口からシュートバレット……らしき光弾が放たれた。
その光弾の威力も速度も、これまた私が知っている彼の技とは桁違いであり、私のスターライトブレイカーが花火に見えるくらいであった。
光弾で“敵”は粉砕し、この世から跡形もなく消滅した。
神樹すら勝てなかった相手を、ユーノ君はたった一撃で仕留めたのだ。

「やりましたね、ユーノさん!」
「こいつめ、こんな隠し玉あるんなら最初から使えよ」

敵を倒したユーノ君を私たちは賞賛し、褒め讃えた。



だけど、私たちは気づくべきだった……



今のユーノ君は敵味方の区別がつかない“怪物”になってしまったということに。



「え?」

ユーノ君と最も近くにいた誰かの首根っこが、彼にガブリと噛み付かれ、鋭い牙によって体と頭を切断させた。
体が外れてしまった頭が地面に落ちてコロコロと私の足元まで転がってきた。
……その首の持ち主は確か――

「いやあああああああああああああああああああああ!!!」



――のは! なのは!



 ☆


「なのは!」
「はっ」

ユーノの呼びかけになのはは覚醒した。
彼女が目覚めた先にいたのはユーノ……恐ろしい怪物となったユーノではなく、心配そうに彼女の名前を呼ぶ心優しき青年のユーノであった。

「ゆ、ユーノ君?」
「酷くうなされていたよ。 怖い夢でも見たの?」
「夢……そうだ、私は……」

頭が徐々にハッキリしていく中、なのはは状況を整理する。
彼女とユーノがいるのは首相官邸地下の、ハス太たちがいる情報室とは別の個室。
一行はその個室で、なのはとユーノ・ハス太とエリカ・桑原とレオリオの順番に三時間ずつの交代で休憩する手筈だ。
そして娘の死に多大なショックを受けた彼女は、部屋のベッドの上で泣きつかれて寝てしまったのである。
その際にあの悪夢を見たようだ。

「夢……? あれはただの夢だったのね……良かっ、た……?」

おびただしい量の汗を流しながらも安堵したなのはだったが、片手に何かヒンヤリしたものが触れていることに気づく。
接触していたのはデイパックから漏れていた千年タクウ――未来を予知するアイテムだった。
睡眠時の寝返りの際に手に触れてしまったと推測できる。
そして千年タクウに触れるということは、未来を垣間見ることができるということ、すなわち――

(嘘……あれが現実に……ユーノ君が怪物になるっていうの?)

千年タクウが見せた血塗られた未来になのはの額から再び冷や汗が流れてくる。
しかし、その不安はすぐに彼女自身で払拭した。

(……いや、ホテルの時の仮面ライダーに殺される未来をユーノ君が変えてくれた。
第一、みんなの支給品にも人を怪物に変える物はなかったし、いくらなんでもユーノ君がいきなり怪物になるのは脈絡がなさすぎるの。
千年タクウの予知も完璧じゃないのかもしれない……)

彼女は千年タクウが見せた未来を信じないことにした。
普通に考えれば、ユーノが怪物になる展開自体ありえないのだから。
そう、“普通”ならば考えられないのだ……


 ★

それからなのはは、ただベッドに腰掛けてジッとしていた。
眠りたくとも先に千年タクウが見せた悪夢のせいで眠れないのだ。
されど、起きていたところで愛娘や親友が死んだ現実だけが彼女に暗い影を落とし、無力感と罪悪感に苛ませ、うなだれるさせるだけであった。
そんな中、ユーノが飲み物が入った二つのマグカップを持って部屋に戻ってきた。
飲み物は地下官邸のキッチン冷蔵庫から持ち出したものだ。

「……」
「なのは、ホットミルクを作っておいたよ。
千葉のホテルを出て以来、まともな食事もとってなかったしね。
これで君の気分が少しでも落ち着けばと思ったけど……どうかな?」
「……」

彼なりに気を使ったつもりだったが、なのはからの返答はなかった。
ユーノは二つのマグカップを適当なテーブルの上に乗せる。

ごめん、今は食事なんて取れる気分じゃないよね……」
「……ねえ、ユーノ君」
「ん?」

彼女からの言葉は遅れてやってきた。
ただし、ホットミルクに対する返答が無いようだ。

「もし良ければ、私の話をちょっと聞いてくれる?
ユーノ君にしか話せない話なの……」
「僕にしか話せない話?」
「そう、誰よりも信頼してる……あなたにしか話せないこと」

なのはの表情は神妙であった。
そんな彼女からは冗談を言う雰囲気など微塵も感じられない。
本当にユーノにしか話せない事のようだ。

「わかった、聞こう。
それで話っていうのはどんなことなんだい?」
「それはね、未来の話……いや、“起こりえた未来”の話なの……」


 ☆ ★


なのはの語った千年タクウによってもたらされた未来の話。
それは近い将来では闇の書事件が待っていて、プレシアとの戦いよりも遥かに過酷な激戦を経験するも、事件解決の後に八神はやてやヴォルケンリッターたちと親交を持つことになる。
11歳の時に待ち受ける戦いでは、それまでの無茶が祟って復帰までに半年かかる重症を負うこと。
エースオブエースとうたわれるようになった19歳の折にはストライカーズ結成とJS事件という大きな戦いが待っている。
JS事件を乗り越えた後にヴィヴィオという愛すべき娘ができる。
その後も様々な出会いや戦いが彼女を待っているとユーノは彼女に伝えられる。
ちなみにユーノとなのはの関係は、先に語れれた11の時になのはが重症を負う事件をきっかけにユーノは負い目を感じ、彼女と距離を置くようになってしまったそうだ。
娘の授業参観になのはと一緒に付き合うなど、親交は厚くとも恋人関係にはならないらしい。

ほとんどを訓練か仕事をするか戦ってばかりの人生であるが、その分の見返りは十分であり、沢山の友人や後輩たちに恵まれ、若年でありながらエースオブエースという管理局でも誉れ高い名誉を持ち、血の繋がりはないとはいえ愛娘もできる。
英雄を志す者ならば憧れる未来であろう……恋愛ができない側面を除けば。
なのはは未来の明るい部分より、暗い部分に目が行ってしまったのだ。
年不相応にしっかりしているとはいえ、所詮は視野の狭い9歳児。
視点を変えれば仕事や戦いに明け暮れ、喪女や行き遅れや魔法少女(笑)だの陰口を叩かれ、育児や仕事でやつれていく中で支えてくれる伴侶もいない、そんな未来の悪い側面にばかり目がいってしまったのだ。

そしてカオスロワ開始直後に、この未来を知ってしまった彼女は暴走してユーノを逆レイプしたのであった。

「そして私は未来を都合の良い方向に変えようとユーノ君との子供を作ろうとした」
「そうだったのか……」
「でも、変えなきゃよかった。 変えようとしなきゃよかった……」

ロワが始まってから何度目かの涙をなのはは流す。
自分が淫行にさえ走りさえしなければ、ヴィヴィオが同行して今でも生きていたかもしれないのだから。
戦いづくめで喪女な未来の中でも、娘はなのはにとっても大きな希望であった。
その希望を自分で壊してしまったと、なのはは思っているのだ。

「フェイトちゃんだってカオスロワが始まってからすぐに探しに行けば助けられたかもしれない。
はやてちゃんはまだ生きてるけど、シャマルとザフィーラが死んでしまった以上、闇の書事件と同じ出会い方をできるかわからない……」
「それはなのはのせいじゃない、フェイトたちに至ってはどこにいたかもわからないんだ。
自分を責めるのは止すべきだ」
「それでも!
私の未来には大切な友達も娘もいなくなったちゃった事実は変わりないよ!
例え殺し合いを終わらせても、大災害からこの世界を救ったとしても二人はもう帰ってこない……」

彼女らの喪失により二人がいた部分が空白になり、その空白部分がなのはの中で絶望に染まる。
なのはにとって二人は人生でも紛れもなく大きな存在だったが、彼女らはなのはの未来像から消えてしまった。
絶望しないために動いていたつもりが、最悪の方向に未来の天秤は傾いた。
こんなハズじゃなかったのに、そう悔いた所で失った希望を取り戻せるわけではない。
それでもなのはは、19歳の姿をした幼い少女は、己の行いを恥じて感情のままに嘆くことしかできないのであった。
二人の死に比べれば、喪女になる自分の未来への不安などくだらないもの、そう思えば尚更である。

「これは未来を変えようとした私への罰なの?
だとしたらあんまり過ぎる……私じゃなくて、どうして二人が犠牲にならなきゃいけないの?」
「気負い過ぎだ、なのは!」
「ごめんねユーノ君、こんな話に付き合ってくれて……
どれだけ悔いても嘆いても何も変わりはしない、わかっていても、あなたには話さなきゃいけない気がしたの。
同じ私でも“未来”の私と違って“ここにいる”私はこんなにも弱い女だということを。
……馬鹿だよね、私一人が未来を受け止められるくらい強くあれば良かったのに」

彼女の言う“弱い”とは戦闘力ではなく、心の強さの話であった。
なのはの中ではヴィヴィオの死は、未来を受け入れられなかった自分の弱さが原因であると思っているようだ。
そして、その弱さを曝け出せるのは特に信頼しているユーノだけであった。


「ユーノ君も…私の勝手な都合であなたの初めてを奪ってごめんなさい……
無理やり抱かされるのはとても迷惑だったよね……本当に酷い女で、ごめんなさい」

嫌がるユーノを強引に操を奪わせた件をなのはは涙と共に謝罪する。
しかし、そんな彼女をユーノは力強く抱きしめた。

「ユーノ…君?」
「謝る必要なんかないよ、なのは」

そして彼女の耳元で優しい言葉を囁くのだった。

「なのはの気持ちはよくわかった。
君がヴィヴィオやフェイトの死に責任を感じてることも、二人のいない未来に不安を感じていることもね」
「……」

瞳から涙を零し続けるなのはと目を合わせながらユーノは告げる。

「でも言わせてくれ。
まず第一にヴィヴィオたちの死はやっぱりなのはのせいじゃない。
悪いのは彼女たちを殺したマーダーや、この殺し合いを開いた野田総理やダース・ベイダーだ!」
「でも私がホテルで変な事をしなければ……」
「君は千年タクウで過酷な未来を見て、取り乱してしまっただけだ。
極論になるけど、例えば“自動車に轢かれる”という未来を知って自分から道路に近づきたいと思う人はいないでしょ?
そんな風に君はただ危険が待つ未来に対して安全策を取ろうとしただけだ……方法はちょっとアレだったけど。
未来をより良い方向にしようとするのは誰だって一緒さ。それを弱さというのも違う気がする。
それから、君が千年タクウで未来を見てくれなければ、このままだと大災害で世界が滅ぶ一大事を知ることができた。
君が教えてくれなければ、桑原たちと勘違いで戦闘になってたかもしれないし、エリカさんだってついてこなかったかもしれない。
今、僕ら6人が一つの目的を胸にまとまって行動できているのは君のおかげなんだよ」
「でも……でも……」

ユーノはなのはの行動を責めず、優しく諭す。
しかし、彼の訴えでなのはにできた心の闇を溶かすにはひと押し足りなかった。
そこでユーノは――

「第二に、僕が君に貞操を奪われて全然嬉しくなかったと思うのかい?」
「……え?」

――顔を赤くしながら告白するのであった。

「ああ、うん、最初は戸惑ったし、こんな緊急時に何をするんだとか、なのはの豹変を怖く思ってた事もあった。
だけど、今思うと結構気持ちよかったというか、男として嬉しかったというか……その、うん。
なのはの事は嫌いじゃなかったし、女の子として意識してたし、むしろ、えっと……
……うわあ、だんだん自分でも何言ってるかわからなくなってきたよ!」

赤くなった顔を更に赤くし、半ば勢い混じりだったため、理知的な彼にしては酷く歯切れの悪く台詞を連ねる。
一旦なのはから視線を逸らし、咳こみと深呼吸で恥じらいを振り払い、再び自分の想いの丈を述べるのであった。

「一つ聞いて良いかな? 僕以外の人でも君は喪女を卒業するために純潔を捨てられたかい?」
「え? それは……」
「お願いだ、怒らないから素直に答えて。僕を選んだ理由を教えて欲しいんだ」
「……それは無いと思う。
“今”においても、“未来”でも一番信頼していた男の人はユーノ君だったから……」

喪女を捨てたいだけなら、そこら辺にいる誰かでも良かったハズだ。
異性の知り合いならフェイトの義理の兄であるクロノもいる。
しかし、彼女はあくまで数多くいる男の中から、一番信頼できる男を選んだのだ。
思考は暴走していたとはいえ理性の全ては失っておらず、自分の夫になるかもしれない男には最も信頼できる男――ユーノに純潔を捧げたのだ。

「それからホテルというシチュエーションもあって、チャンスはここしかないと思って……気持ちを抑えられずにあなたを襲ってしまったの」
「そうか……形がどうあれ、僕としてもはじめての相手がなのはで良かったよ」
「ユーノ君……」


なのはに穏やかな笑顔を向けるユーノ。

「不謹慎な言い方かもしれないけど、このロワのおかげで君の事をもっとよく知ることができたと思う。
君は魔法の才能があるし、ある程度のことはなんでもできる……今まではそう思ってたけど、誰かが守ってあげないといけないか弱くて脆い部分もあると悟ったよ」
「……」
「だけど、弱い部分があってもいいんだ、脆い部分があってもいいんだ。
その欠点を支えあって助け合うのが人間ってものだと思う。
それに君が困った時には僕が助けにいくよ」
「ユーノ君が助けてくれるの?」
「ああ、なのはの話を聞いて思ったんだけど、未来の僕が君の伴侶にならなかったのは、11歳の時に君が負う重症の件で責任を感じている件に加えて、大親友であるフェイトと愛娘のヴィヴィオがいたから僕から支える必要が無いと判断したんだと思う」

本来の未来ならば心身共に支えてくれたフェイトとヴィヴィオの存在があったからこそ、なのはには伴侶が必要なかった。
なのはの未来についてユーノはそう結論づける。
だが、その二人は無常にも死んでしまい、未来は二人を欠いたものに変わったのだ。
それでもユーノは、なのはに希望を与えようとする。

「これからは亡くなったヴィヴィオたちの分も僕がなのはを支えるよ。
二人の代わりが務まるかはわからないけど、君の未来が明るくなるように努力する。
君が僕に純潔を奪わせたことを間違いだったと思わせないように頑張る。
だから――僕を信頼して欲しい」

ユーノはただひたすらに熱く、力強く、なのはに訴えかけた。
しかし、なのはからの答えはすぐに返ってこず、なのはの顔は俯いていた。

「ごめんね、僕が君にとって大切だった人たちの代わりになろうなんて、おこがましいこと言っちゃって迷惑だったかな……」
「……いいえ、ユーノ君」

ふと、俯いていたなのはの顔がユーノと向き合う。
彼女の表情に闇は感じられず、ただ恍惚と尊敬の視線でユーノと目を合わせる。
そして、ゆっくりと顔を近づけ、そっと唇を合わせた。
これがユーノに対するなのはの答えであった。

「なのは……!」
「私もユーノ君の事を見ていたよ。
元々あなたのことを信頼はしていた、だけどこのカオスロワで見せたあなたの姿は今まで見たことないくらい頼もしかった」

ある時はなのはを守るために強大な力を持つ仮面ライダーに一人で立ち向かう勇敢さ。
ある時は七人の仲間をまとめるリーダーシップ。
ある時はマーダー出現の不自然さから主催の介入を考察できる聡明さ。
ある時は逆レイプを受けても、弱みを見せても、相手を許し受け入れる懐の広さ。
非常時こそ、その者の本性が顕になるというが、ユーノは良い意味で内に秘めていた人間性をさらけ出したのだ。
いつしか男としてなのはは彼に心惹かれていたのかもしれない。

「千年タクウの映す未来でも見れなかったあなたの強さと優しさ。
普通の未来ではきっと気付けなかったあなたの良さを知ることができたの。
ヴィヴィオもフェイトちゃんがいない未来でも、あなたがいれば何も怖くない……そんな気にさせてくれるの」
「なのは……」
「ユーノ……」

この過酷な殺し合いを経てユーノとなのはは、互いが必要な存在になったのだ。
その感情は緊急時における不安からの依存や吊り橋効果によるものかもしれない。
それど、二人の間にカオスロワ以前よりも深い絆が生まれたのは確かであった。

その絆を人は愛と呼ぶ。


「絶対に、絶対に君を守ると誓うよ」
「愛してる、ユーノ君」

二人は見つめ合い、二度目のキスを交わす。
今度は舌を絡ませ合うほどであり、相手と深く繋がりたい故の接吻であった。

「んん……」
「んはぁ……」

両者とも艶かしい声を上げながら、ユーノはゆっくりとなのはをベッドに押し倒す。
そして、これからする行為の邪魔になる服やズボンについているボタンやベルトを外そうとする。
なのはとしては、自分の淫行で招いた悲しい出来事を忘れたわけではない。
だが、今の内に相手と繋がらなければ離れてしまうような、後悔を生むような錯覚を覚えている。
ユーノもその気持ちは同じであり、彼女の心の傷を癒すために交じり合う必要があるとも思っていた。
とにかく今は愛を確めあいたい、その感情が二人を支配している。
仲間たちは情報室にいて、この部屋には監視カメラがないのも確認済み、神樹の存在によりマーダーはおそらく地下官邸に入ってこれない、つまり止める者は誰もいない、ベッドの上に二人だけの楽園が築かれていた。


ベッドを背に、お互いの手と手とを重ね合う。
繰り返す接吻で唾液を交換しあい、キスの味を覚える。
行為は次第にエスカレートし……





『マスター、水を差すようで恐縮ですが三時になりました。交代のお時間です』
「「!!」」

レイジングハートが時刻を通知した。
部屋の時計を見ると彼女の言うとおりに時刻は午前三時を回っており、休憩交代の時間である。
これによって二人の性交は未遂で終わったのだ。
我に返った二人は直前までの自分たちが勢いのままに淫らになっていたことと、レイジングハートの存在を忘れていたこと……告白や交じり合いかけるところを見られたことに羞恥心が蘇り、顔を真っ赤にしていた。

「は、ハス太たちと交代だね、戻ろうかなのは」
「そ、そうだね、ユーノ君。
あ、レイジングハート、私とユーノ君が……していたことはみんなには秘密にしておいてね」
『イエスサー、ご心配なさらずともプライベートの件は口外しません』

しどろもどろになりながらも、急いで外れかけた服のボタンやベルトを直す。
直し終わった頃になのははユーノに微笑みかけていった。

「ありがとう、ユーノ君。
あなたのおかげで気分が楽になったよ」
「なのは……」

次には強い意思を持って彼女は宣誓した。

「あなたがいれば、未来にどんなことがあっても乗り越えられる気がするの。
あなたがいればこそ私は生きていける、戦っていける!
だからこそ、必ずこの殺し合いを終わらせて、大災害から世界を救って、生き延びよう。
そうすることが死んでしまったヴィヴィオたちのためにもなるとも私は思うから……」
「……ああ!
殺し合いの破壊も世界の滅亡阻止も成し遂げよう!
そして僕たちは亡くなった人たちの分も生きるんだ」

ユーノの訴えはなのはを悲しみからふっきらせ、心に巣食っていた闇を払ったのだ。
こうして、高町なのはは魔法少女として再起した。

「よし、そろそろ行こうか、なのは。
ハス太たちが官邸の調査で何かわかったかもしれない」
「うん」

支度が整ったところで恋人たちは部屋を後にするのであった。

 ☆★



情報室に向かうまでの廊下を、ユーノの後をついていくようになのはは歩いていた。

(そういえば、さっきの千年タクウが見せた未来……)

千年タクウが見せたユーノが怪物になる出来事、それについてはまだユーノに話してはいない。
話すには内容があまりにも荒唐無稽で滅茶苦茶過ぎると判断したからだ。

(いや、あれはひょっとすると私の不安が形になった夢を、千年タクウが見せた未来と思い込んでいただけかもしれない。
ユーノ君が怪物になるなんてありえないしね)

なのはから見て、ユーノの背中は実際の身長以上に大きく見えた。
彼女には、その背中を持つ男が恐ろしい怪物になるとはとても思えなかった。


一方、なのはがユーノの事を考えているように、彼女の前を歩いていたユーノもなのはの事を考えていた。
ただし、視点が少々、彼女と異なっていた。

(なのはが立ち直ってくれて良かった……
だけど、僕の愛しい人を悲しませた主催たちは許せない)

ユーノの脳裏にはカオスロワを開くことで、なのはにとって大切な人たちを死なせた元凶である主催の者たち――放送で姿を見せたダース・ベイダーやバーダック、既に故人となった総理のシルエットが映っている。
その者たちに対してユーノにしては珍しく強い憎しみを抱いている。
強い憎しみは、言い換えれば殺意だ。

(なのはをこれ以上悲しませないためにも、殺し合いを終わらせるためにも。
必ず報いを受けさせてやる……奴らをこの手で引き裂いてやる)

なのはを傷つけた者を絶対に許さない――怒りの感情がピークに達した瞬間、ユーノの片目が複眼に変化した。
奇しくもそれは千年タクウがなのはに見せた、ユーノが変身する怪物の複眼と全く同じであった。
しかし、次にユーノの脳裏に現れたのはなのはの笑顔が映る。

(……いけない、なのはを守るためにも怒りに因われずに冷静でいなきゃ。
彼女のためにも怒りは沈めて、いかにこの殺し合いを打破するかを考えなくては……この官邸の調査で殺し合いを打破できる何かが見つかればいいけど)

彼女の表情が頭に浮かんだ瞬間、複眼は元の瞳の形に戻ったのであった。
複眼への変化は一瞬であり、後ろにいるなのは気づかず、レイジングハートも感知できず、監視カメラは死角で映らず、本人すら気づいていない。
本人を含めた誰もが変異に気づくことはなかったのだ。



――ユーノの身に何が起きているのか?
答えは、テラカオス化の進行による肉体の変化である。
カオスロワという過酷な環境下によるストレスで、テラカオス化が進行したのである。
もっとも、風鳴翼やフレミングのような積極的に殺し合いをしているマーダーに比べれば、進行度は極めて遅いものである。
しかし、その進行は僅かながらもユーノの精神と肉体に影響を及ぼし始めている。
一例になのはを確実に守るためとはいえ、仮面ライダーディエンド・海東を説得や無力化で済まさずに惨殺したのも、穏やかな彼の性格からは考えづらい行動であろう。
千葉のホテルに滞在していた時点で、進行は既に始まっていたのかもしれない。

彼の進行度は遅い部類であると述べたが、何かの弾みで進行を早める可能性は十分にあり、多くの勢力がひしめき強大なマーダーが多数存在する激戦区東京にいる限りは、その可能性が格段に上がるのは想像に苦しくない。

そして千年タクウがなのはに見せた未来。
過去にユーノがなのは諸とも仮面ライダーに殺される未来を変えたように、カオスロワ下における千年タクウが見せる未来が確実に訪れる保証はどこにもない。
だが、その未来が変わる保証もどこにもないのだ。

もし千年タクウが示した未来が回避できなかった場合、近い将来、なのは組に試練の時が訪れるであろう……



二日目・3時00分/首相官邸地下の廊下】

【高町なのは@魔法少女リリカルなのは】
【状態】健康、19歳の身体
【装備】レイジングハート@魔法少女リリカルなのは、千年タウク@遊戯王
【道具】基本支給品一式、タイムふろしき@ドラえもん
【思考】基本:大災害による世界滅亡を防ぐ
0:ハス太君、エリカさんと休憩を交代する
1:死んでしまったヴィヴィオたちのためにもこの殺し合いを終わらせる
2:ユーノ君がいれば何も怖くない!
3:それにしても怖い夢を見たの……
※千年タウクの効果によって、高町ヴィヴィオの存在と日本に世界を襲った大災害が起こる未来を知っています。
※タイムふろしきを使ったので、19歳の肉体に成長しました。
※未来の自分が使っていた技の一部が使用可能です。


【ユーノ・スクライア@魔法少女リリカルなのは】
【状態】健康、19歳の身体、僅かにテラカオス化進行
【装備】なし
【道具】基本支給品一式
【思考】基本:大災害による世界滅亡を防ぐ
0:ハス太君、エリカさんと休憩を交代する
1:なのはを絶対に護る!
2:大災害の情報を集める
3:野田総理の死の原因を探りたい
4:なのはを悲しませた主催者たちは絶対に許さない
※タイムふろしきを使ったので、19歳の肉体に成長しました。
※PSP版の技が使えます。
※本人の知らない内にテラカオス化が進行しています。
※千年タクウによると将来的に“強大な敵”に襲撃され、その際のピンチに伴ってテラカオス化の進行が早まり、膨大な戦闘力を持った怪物に変身するようです。また、仲間の内の誰かを殺してしまう可能性があります。
実際にそうなるか、強大な敵は誰なのか、死ぬ仲間は誰なのかは次の書き手氏にお任せします。
最終更新:2014年06月23日 19:53