「うぅー……」
さやかは、考えた。
目の前に転がるのは、瀕死の少女と化物。
フォレスト・セルがすぐそばにいる以上、負担はかかるが自分の回復魔法を惜しみなく使って助けることは可能だろう。
だが、どちらを助ける?
元は美しかったであろう着物を真っ赤に染め上げた少女は、早く回復しなければ失血死する。
ぐったりとした化物は、体液なのか不気味な色の液体を垂れ流している。生物なのであれば、おそらくこちらも失血死する。
さて、ここで問題がある。
自慢ではないが、さやかは回復魔法と再生には自信があった。これに関してだけは先輩のマミ以上であると胸を張れた。
目の前の重傷の少女を助けることは、確実にできる。
だが、そちらを回復している最中は化物を回復することはできない。
少女を助ければ、化物はこのまま死ぬのだ。
(ああもう、何を迷ってんのよあたしは!)
少し前の自分なら、化物の命などなんとも思わずに少女を助け、化物は見殺しにしたはずだ。
人を魔女(化物)から守る。それが正義の魔法少女だから。
だが……この世界樹において、不覚にもさやかは魔物に命を救われた。
そしてネットの情報により、魔物以上に暴れまわっている拳王連合の存在も知ってしまった。
助けるべき者の基準が、揺らいでしまったことをさやかは自覚している。
(自分よりも先にこの化物を回復してくれって言ってたけど……本当にあなたはそれでいいの?)
倒れ伏す少女からの頼みは、自分よりも化物の回復を優先してくれというもの。
だがそんなことをすれば、間違いなくその間に少女は死んでしまう。
救える少女の命を見捨てて、得体のしれない化物を救う……それは本当に、正義の魔法少女がとるべき行動か。
さやかは、考える。
(まどか……)
ふと、頭の中に親友の顔がよぎった。
魔物との共存を願い、このフォレスト・セルをも従える巫女となった少女の顔が。
三竜ですら若干引く程恐ろしい化物をかわいいと言ってのける、ちょっと世間ずれした彼女の顔が。
――どことなく、目の前の少女と親友の少女が、だぶって見えた。
「ああぁぁぁぁぁ、もうっ!」
一度、何かを吐き出すようにさやかは叫ぶ。
「あんた!」
「にしゃ?」
「そうよあんた! 言葉わかる!? わかるんだったらまどか呼んできて! それとついでにあいつ……レストも!」
その叫び声のまま、さやかは勢いに任せてフォレスト・セルへと命令を下した。
さやかが選んだ選択は、両方を救うというもの。
自分の回復魔法だけで足りないのであれば、他の者の手を借りればいい。
当たり前のことではあるが、さやかにとっては初めての決断だ。
それはすなわち、正義の魔法少女が化物を救うということなのだから。
「マドカ―」
「喋った!?」
そんなさやかの意思を汲みとったのか、フォレスト・セルはまどかを呼び寄せた。
「お待たせさやかちゃん!」
「……これはまた、凄い状態だね」
「って早いなおい!?」
そして僅か数秒もたたないうちに、まどかとレストがさやかの目の前へと現れた。
何の前触れもなく、一瞬で。
「いや、早く来てくれたのはいいんだけどどうなってんの!?」
「変なことを言うね。首輪を外したから僕の魔法で瞬間移動しただけだよ。
一度訪れた開けた場所の座標さえ覚えておけば、ダンジョンの最奥だろうが自宅だろうが一瞬で移動できて便利だからね」
「あんたどんだけチートなのよ!?」
「僕の住んでた町では住人全員が使える初期魔法だよ? 同行者二人までなら一緒に移動できるからまどかも連れてきてあげたのに」
「あーもう、色々言いたいけどとにかく今はこっち!」
顔をひきつらせながらも、さやかは二人に倒れ伏した少女と化物を見せる。
「突然降って来た人だから、よくは知らないけど……悪い人じゃないと思う。
この人にこの化物の回復も頼まれたから、ちょっと回復を二人にも手伝って欲しくてさ……
ま、まあ? この程度の傷、さやかちゃんならすぐに治せるんだけど――
「かわいそう……この子もかわいいのに、こんなにボロボロになって……今治してあげるね。
世界樹の癒し『エタニティツリー』!」
まどかが祈りを捧げると、倒れた化物の傷がみるみるうちに塞がっていく。
その再生速度にさやかは呆然としてしまうが、彼女はこの魔法を知らないのだから無理もない。
本来この魔法は世界樹と一体化した『世界樹の王』にしか使用できない魔法であり、その効果は対象者の体力を割合で継続回復するもの。
化物こと歪みし豊穣の神樹の体力は膨大であり、それに比例して自動回復量も増しているのである。
「こ、これがまどかが手に入れた世界樹の力か……! な、ならさやかちゃんはこっちを――」
「あっちはまどかに任せて平気そうだね。それじゃあ僕はこっちの子……体力は普通そうだし、キュアでいいか。ついでに首輪もぱぱっと」
「なにケチってるのよ!? ここは最高の回復魔法で――」
「……はっ!? 神樹は!?」
「起きたぁ!?」
さやかが倒れていた少女、エリカに駆け寄ろうとした頃にはもう治療は終わっていた。
破れた着物こそそのままだが、痛々しく抉り取られていたはずの腹部は綺麗に元通りになっている。
これまたさやかは知る由もないが、レストが扱う回復魔法は使用者の知力に依存している。
極限レベルのレストの魔法は、初歩のものですら回復量に9の数字がいくつもつくとんでもない代物なのである。
「…………くやしくなんか、ないもん」
お株を奪われ、さやかはちょっと凹んだ。
「…………あ、ソウルジェムちょっと濁った」
※濁りはこの後スタッフ(フォレスト・セル)がおいしく頂きました
「本当に、ありがとうございました」
程なくして、突然の来訪者の治療は済んだ。
エリカは深々と頭を下げ、そして……
「ヒャッハ―! なんか知らないが他の蕾まで成長したぜー!」
そこには元気に動き回る神樹の姿が!
「元気になってよかったよ。やっぱり元気に動いている方がかわいいよね!」
「あら……あなたも神樹のよさがわかりますか? そちらも随分とかわいらしい子を抱えているようですが」
「ですよね!? セルちゃんかわいいですよね!?」
「ええ、つぶらな瞳が特に」
「ねぇ、もしかしなくてもあの人、まどかと同類?」
「だろうね。というか、あの神樹って呼ばれてる子もフォレスト・セルと同類だよ多分。
……いや、この光景おかしくない? 僕も長年魔物使いとしても活動してきたけどさ、あんなの懐かせる自信ないよ」
「珍しく気が合うわね。あたしはもう、この光景が地獄だと言われても信じるよ?」
少女達の語らい、それは平和な世界でも争いに満ちた世界でさえも、どこでも見ることが出来る。
うちのペットのここがかわいいー、などといった会話も普通にある。
「にしゃしゃーん」
「そうか……お前もこのまどかって奴に存在を認めて貰えたのか。……まぁでも、うちのエリカの方が心は広いだろうがな」
「にしゃ!? にしゃぁっ」
「あん? 自分はまどかと一緒でピンクがメインカラーで瞳の色も同じ金だと!?
舐めんなよ、だったら俺だってこの漆黒のボディはエリカの髪と同じだわ!」
そのペットが、普通じゃないことを除けば本当によくある会話だ。
首相官邸を一薙ぎで瓦礫にする化物に、新宿中央公園を地図から消す化物。
巨体も巨体、そして撒き散らされる瘴気に、この世の生き物とは思えない恐ろしい姿。
本来であれば、人類に牙剥く禍そのものである歪んでしまった世界樹の力の化身。
それをあっという間に手懐け、あまつさえかわいいと断言してみせる少女達の姿は、化物以上にある種の恐ろしさを感じさせた。
さらにどうやら飼い主のことで張り合っているらしい化物共も、より一層この光景を混沌としたものに変えている。
「あー……あのさ。エリカさん、だっけ? とりあえずその黒い奴のことは置いておくとして、どうして降ってきたの?」
「っ!」
そんな狂った光景に耐えきれなくなったさやかが、話題を変えようと話を振った。
その瞬間に、恐らく和やかであっただろう空気が一変した。
神樹が放つは凄まじいまでの殺気。唇を噛みしめたエリカから感じ取れるのは悔しさ。
無残に抉られた腹、フォレスト・セルと同じく強大な力を持ちながらもボロボロであった神樹。
それは、彼女達が強力な力を持っていながらも――さらに強力な力を持つ者に敗れ去ったということを物語っている。
「本当に、突然のことでした。全裸の殿方が率いる機械の軍勢に襲われて……」
「なんで全裸!? って、機械の軍勢てもしかして、リーダー格が三つ目のオカマとかだったりした!?」
「ああそうだよ、よく知ってるな。俺としたことが、あんな変態にやられちまうなんて……」
「……
天魔王軍!」
そして神樹を打ち破った強力な軍勢は、さやか達が所属する都庁の同盟においても因縁の相手。
天魔王軍――情報操作をする狡猾な知恵と、神をも打ち砕く力を持つ軍勢。
都庁の敵を必要以上に生み出した、決して無視はできない存在だった。
※
「……どうしたものかな」
都庁の入り口から少し離れた位置をレストは散策していた。
突然の来訪者からもたらされた怨敵の情報と強さは、都庁全体を揺るがすには十分すぎた。
赤竜は憤り、いますぐに八つ裂きにしに行くべきだと吠える。
彼以外も、多くの魔物が濡れ衣を着せてきた天魔王軍に対して強い怒りを剥きだしにしていた。
だが同時刻、スマホで情報収集をしていた面々から、拳王連合が大阪の街を焼き払い始めたという情報まで伝えられた。
ロックオンによれば、街を焼き払っているガンダムと呼ばれる兵器はあからさまな魔改造を施されているらしい。
カオスロワちゃんねるに投稿された動画を見る限り、攻撃対象は完全に無差別であり、目的は街の破壊以外には考えられないとも言う。
さらに小町と氷竜の情報も合わせると、数時間前に一度大阪を滅ぼそうとした砲撃も、そのガンダムが放った可能性が高い。
付近を偵察していた魔物から、マンホールの蓋を持ち上げて地下に潜る美味しそうな仮面ライダーを見かけたとの報告もあった。
特徴などから判断して、この仮面ライダー一行が内部爆破を企んでいるテロリスト共で間違いないだろう。
既に多くの魔物が配置につき確保の準備は整っているが、油断はできない。
なにしろあれだけ自信満々に書き込んでいるのだ、相当な戦闘力の持ち主であるに違いない。
そうなると近いうちに、DMC狂信者の再襲撃の可能性もある。
仮面ライダーの書き込みを信じるのであれば、DMC襲撃のどさくさに紛れて爆弾を使用するつもりなのだから当然だろう。
あの狂った連中は未だにその勢力の正確な人数が把握できていない。あと何回襲撃を返り討ちにすれば攻撃は止むのかわからない。
同時刻に、これだけ敵対勢力に動きがあるというのは正直予想外の事態であった。
どれを優先的に叩くべきなのか、などとは言っていられない。
事は急を要する。所在がわかっている今のうちに、全ての勢力を潰しておかなければならないのだから。
あくまで最終的な敵は主催者及び風鳴翼であり、またその特性から早急な討伐が必要な相手でもある。
そうなるとその戦いの邪魔になりそうな連中を全て排除し、拠点の完全な安全の確保が必要となってくる。
幸いにして人間と魔物を合わせれば都庁の勢力は中々のものであり、いくつかに分けたとして十分な力を持つ。
どのように部隊を分け、誰がどの勢力を叩くのか。これは今後の都庁の同盟の行方を左右する、大事な判断である。
現状都庁が抱える戦力の中で、フォレスト・セルを除けばレストが最大戦力であるというのは誰もが認めるところだ。
だからこそ彼には、多くの者が声をかけた。天魔王を、拳王を、仮面ライダーを、DMCを、一緒に倒そうと。
とはいえ、これでも彼は人間であり分身などはできない。討伐を手伝えるのはどこか一部隊のみだ。故にレストも悩む。
「……サクヤ、君はどうすべきだと思う?」
「いえ、私なんかの意見では……」
後ろからついてくる従者に問いを投げかけても、彼女は首を横に振るのみ。
「レスト様を、これ以上危険な目にあわせたくないですから……」
「危険、か」
ただ続けられた言葉に、レストも頷いて肯定する。
そう、レストをもってしてもどの勢力も油断などできない存在なのだから。
オオナズチの情報によれば、あの黒い神樹はかつての世界樹の成れの果て。
グンマ―の民ですら制御しきれずに蟲に封じ込めて、その蟲も遺跡に封じ込めて、さらに門番として最凶の黒龍を配置したというのだ。
それほどまでの大いなる存在を、天魔王軍は打ち倒している。
エリカもどうやってそんな奴を捕まえたのかは気になるところではあったが、今はその問題は置いておくこととする。
大方、まどかに譲られたボールの中にあのフォレスト・セルがすっぽりと入ったことが関係しているのだろう。
「……そういえば、ダオスさんのメガボスゴドラも普段はあのボールの中だったな。
つまり、フォレスト・セルも神樹も今はまどかとエリカのポケモン扱いに……?」
『よし、ピカチュウ! 君に決めた!』
『なら俺はプリン! かわいいタッグの前に敵はない!』
『ピッピカチュー!』
『プリュッ!』
『行って、セルちゃん!』
『神樹、お相手をしてさしあげて』
『 に し ゃ あ あ あ あ あ ! 』
『 シ ン ジ ュ ― ッ ! 』
「対戦相手が流石に哀れだよ!」
「ど、どうしたんですかレスト様!?」
「
ごめん、ちょっと脱線した」
少し恐ろしい光景を考えてしまったが、とにかくその神樹が敗れている以上、天魔王軍は特に警戒すべきであるということだ。
拳王連合はもはや説明不要だろう。あれを理不尽と言わずになんと言えばいいのか。
遡って情報収集をしていた小鳥からは、なんか電車ごっこで遊び半分に人を轢き殺したとかいう情報を得た。
まず、電車ごっこをする意味がわからないし、それで人を轢けるというのも意味が分からない。
常識が通用しない相手であることは間違いなく、こちらも油断はできない相手だ。
しかし同時に現在はホワイトベースと呼ばれる集団が交戦状態に入っているようで、彼らと共闘できればあるいは……
仮面ライダーは実力は未知数だが、書き込みの内容から残念臭がぷんぷんするので、ここは他に任せてもいいだろう。
最後にDMC……狂信者が果たして何人いるのか、その全貌は未だにわからない。
前回の襲撃の際に葬った狂信者の数はおよそ3000。これだけでも相当な数だが、次はさらに増えるだろう。
一人一人は弱くとも、数の暴力とはいつの時代も恐ろしいものだ。
「うん、ちょうどここから直進すれば、首相官邸か。
全速力で向かって天魔王軍を片づけて、転移魔法で都庁入り口に帰還。
そのまま地下に向かって仮面ライダーを捕獲、引きずって地上で狂信者を迎撃、大阪に向かって拳王連合を殲滅……
理論上は可能だけど、やっぱりきついなぁ」
首相官邸の方角を眺めながらも、現実的ではないその考えを自身で却下する。
このポイントからダオスに頼んでレーザーを撃ってもらえば、直線最短距離で首相官邸への道は出来上がるのだが。
「まいったね――もう時間が残されていないかもしれないのに、決められないや」
そうして首相官邸の方角を眺めながら、レストは深いため息をついた。
左手で、右肩を押さえながら、悔しげに。
「レスト様、やはり……」
「あれ、やっぱりサクヤにはばれてたかな?」
少し驚いたという表情を浮かべながら、レストはおもむろに上着を脱ぎ始める。
少女の前で突然脱衣を始めるなど変質者の行う行為だが、見せられているサクヤはそれを止めようとはしない。
その表情は変質者に対する怯えではなく、嘘であってくれと願うような、そんな切ないものだった。
「……他のみんなには隠し通せてたんだけどね」
「私は能力の関係上、闇や悪しき気配には敏感ですから……」
晒されるレストの上半身。
細身であり、無駄なく引き締まってはいるが筋骨隆々というわけではない。
ただ刻まれた無数の傷痕が、彼が過ごしてきた人生の壮絶さを物語る。
そんな傷痕の中で二ヶ所だけ、異質な物があった。
「ちょっと迂闊だったかな。おかげでこのありさまだよ」
右肩と、右肘付近。
そこの傷痕から僅かながら黒い霧のようなものが溢れだしていた。
――ここはかつて、風鳴翼の攻撃によって傷を負った箇所。
――そして溢れる霧は、彼女のものと同じ。
「吸血鬼か何か、多分そんな能力もあったんだろうね。噛まれた時に流し込まれてたらしい」
レストの推察通り、確かに風鳴翼――その前身である四条貴音は吸血鬼の特性を得ていた。
噛みつき、血を啜った相手を同族へと変える吸血鬼の牙。
だが四条貴音から風鳴翼へ、そして風鳴翼から
テラカオスへと変異していく中で、その牙の特性も変異していた。
その牙で噛まれれば、その混沌の力を纏わせた剣で斬られれば、その箇所にテラカオスの因子が残留するのだ。
それが蓄積されれば、感染が加速すれば、どうなるか。もはや答えはわかりきっている。第二、第三のテラカオス候補となる。
テラカオスの一定以上の攻撃を受けた者は、同じテラカオスへと誘われる……この能力は、主催者達ですら把握してはいなかった。
何故、テラカオスが持つこの能力が今まで明らかになっていなかったのか。
答えは実に単純なものであり、現在のテラカオス・ディーヴァの行動方針に原因があった。
全てを食べて取り込む。自分に食べられた者は救われる。救済対象(食材)に対する敬意は失わず、残さず喰らう。
現時点において、テラカオスと対峙した者は一部の例外を除いて全員が喰い殺されている。
その例外は二人。ガオウライナーに撥ねられたキュイと、テラカオス・ディーヴァと化す寸前の風鳴翼と戦ったレストのみ。
キュイは噛まれたり、斬撃などで葬られていないためにそもそもこの能力の対象外だ。
レストのみ、テラカオスの一撃を受けて生存している希少な参加者なのである。
そんな彼もしばらくは腕を切断されたままであり、噛まれた右腕は氷竜の手で冷凍保存され、テラカオスの因子も休眠状態だった。
首輪が外され、腕の結合が可能となり、それから時間が経過して……切断された右腕の中で眠っていたそれは目覚めたということだ。
「なんとか、治療することはできないんでしょうか?」
「無理だね。気づくのが遅れたせいで、多分微量でももう全身にまわってるよ。
フォレスト・セルの穢れ浄化が効くかもしれないけど、勢い余って全身食べられるかもだし」
「そんな……」
「ブリーフ博士が、この黒い何かに対する特効薬を作ってくれれば話は別だけど……
薬学も嗜んでる僕に言わせれば、こんな意味不明な存在に対する特効薬なんてどんな天才でもすぐには作れない」
沈んだ様子のサクヤに対して、当のレストは悔しさこそ滲ませるが比較的落ち着いていた。
自分の傷口から漏れ出す霧を触ってみながら、どことなく他人事のように。
「今はまだ、特に体にも精神にも異常は感じないから大丈夫だよ。
これも鍛えて状態異常耐性も上げておいたおかげかな? とにかく皆との約束だけは守ってみせるよ」
「約束、ですか?」
「ほら、僕の力をもう一度人間に貸すって言ったでしょ。言ったからには最低限……そうだね、どこかの勢力だけでも滅ぼすよ。
まあそれで、どこに向かうべきかと悩んでいるんだけどね。でもどうせ死ぬなら、やっぱ無理してでも全勢力を高速で……」
「死ぬって……どういう意味ですか!?」
なんでもないと言わんばかりに、自然と混ぜられた死という言葉に、サクヤが噛みつく。
「言葉通りだよ。今は平気でも、いずれ僕もあの風鳴翼のようになるかもしれない。
君も見ただろう、あれの危険性は異常だ。同類になる前に命を絶たないと、みんなに迷惑かかるでしょ。
とりあえず危ないなーと感じたら、サクヤが四源の舞でフォレスト・セルを強化して、僕を集中的に爆撃してくれればいい。
その間は無抵抗で受け入れるから、耐性があっても多分数十発撃ちこめば死ねるんじゃないかな? だから……」
「嫌です!」
主の言葉を、従者が遮り拒絶する。
その様子に一瞬驚いた顔をしながらも、すぐさま表情を戻して主は従者の頭に手を置いた。
「ほら、いい子だから落ち着いて」
「っ、今撫でていただいても、嫌なものは嫌です! どうして、レスト様が死ぬ必要があるんですか!」
「……まどかはさ、僕が思っていた以上にすごい子だった。
甘い子なのに、躊躇いもせずに世界樹の巫女になった。ああなっちゃえば、もう元の生活になんて戻れやしない。
あのフォレスト・セルにまで慈愛の感情を向けるっていうのは、魔物を大切だと言っておきながら、僕には真似できなかったと思う」
撫でる手は動かしたまま、独白は続く。
「あのエリカって子もすごいよね。グンマ―の民ですら諦めた存在をあそこまで手懐けて愛情を向けられるんだから。
彼女達だけじゃない。あかりも、モモも、黒子もそうだ。本当の一般人だろうに、僕も魔物も恐れた様子がない。
会うことはできなかったけど、赤竜さんとフレクザィードの心を動かしたバサラという人もすごいよ。
赤竜さんはわからないけど、フレクザィードとは長いこと一緒にいたからわかる。彼は僕以上に人間に憎悪の感情を持っていたのに。
ああ、小鳥さんもすごいね。どういった経緯であの赤竜さんを怖がらずに着いていく気になったんだろう」
「それと、レスト様が、どう関係するんですか……」
以前は撫でられたら尻尾を揺らしていたサクヤも、今は尻尾が垂れたままだ。
はぐらかすような主の態度と事の問題が大きいだけに、喜びよりも悲しみの感情が勝ってしまう。
「……まどかや彼女達なら、きっとこの殺し合いが終わった後に、本当に人間と魔物の共存関係を築き上げてくれそうな気がする。
僕は、魔物への理解を示す人間なんていないと決めて、多くの人間を斬ってきた。僕が、魔物達を守らなきゃって思ってた。
でももう――僕の役目は終わりなんだよ。僕がいなくても、もっと心優しく人間にも魔物にも手を差し伸べられる子がいるんだから」
役目の終わり。
少し寂しげに、しかしそれを受け入れたように穏やかな声でレストはそれを口にする。
ここの魔物は、多くの人間を排除して自然を取り戻す道より、協力しあっていく共存の道を選んだ。
たとえそれが現状による一時的なものであるにしろ、一時的とはいえその道を歩んでいるということが重要なのだ。
今その道を歩めるということは、この後も歩むことは可能だということなのだから。
「僕の元々の思想は砕かれた。そんな僕に、今なにができるのか。
決まっているよね? 魔物達やまどかが望んだ、そしてかつての僕が望んだ……人と魔物が共に暮らせる未来を切り開く。
戦いに明け暮れ、行く先々で化物と言われ、そして今度は正真正銘の化物になってしまいそうな僕の居場所は戦場しかない。
平和な未来に、僕みたいに穢れきった人間は必要ないし、彼女たちが戦いの中でこれ以上手を汚す必要もない――限界まで僕が殺る」
「……少なくとも、私はあなたを必要としています」
「ふふ、嘘でも嬉しいね」
「大丈夫です。まだ共に過ごした時間は短いですけれど、レスト様が優しい方だということははっきりわかります。
きっともう少し時間をかければ、人間も魔物も関係なくわかってくれます」
「その時間がなさそうだけどね」
「そしてレスト様は強いです。そんな瘴気なんかに呑まれる人ではありません」
「これは僕にとっても未知の状態異常だ。克服できる確証はないよ」
「……頼りないかもしれませんが、私は聖光の神で、五行説では土を象徴する存在です。
大地の守り人であるあなたに、闇を払う加護と土の恩恵をもたらしてみせます」
「ふっ……君の本来の主を、目の前で叩き斬ったいわば仇に、よくここまで肩入れしてくれるね」
「本当はあの時、私も死んでいるはずでした。私をこんな風にしたのは、レスト様なんですよ?」
「ちょっと全身撫でただけじゃないか。それでここまでするのは、尻軽ってやつじゃないかな」
「なんとでも言ってください。前のマスターからのあだ名が開幕欠損即イキビッチの私にはその程度の言葉責めは効きませんよ?」
「ぶっ!? ビッチなの!?」
「ビビビビッチ違います! あくまであだ名ですから!」
しばらく続いた主と従者の受け答えが、なんとも言えない言葉で一度終局を迎える。
どこか張りつめていた空気も、間抜けなまでに解されていく。
「やれやれ、折れないねサクヤも……」
「ええ。誰がなんと言おうと、私はあなたにつきます。万が一、闇に呑まれてしまったとしても」
「そっか……ありがとう」
くしゃりと頭を撫でながら、感謝の言葉が伝えられる。
「少し、救われたよ。だからこそ――僕は君も守りたい」
「え――」
次の瞬間、触れていた掌から淡い光が放たれる。
それに反応することもできないまま、サクヤは光の粒となってその場から掻き消えた。
現在、レストの管理下にある魔物はサクヤとウォークライの二人。魔物と明確な主従関係が構成されている場合……
アースマイトは従者の魔物に対して、主の身代わりとなるか、拠点への強制帰還を命じることができるのだ。
レストが今行使したのは後者、すなわち都庁の世界樹への強制帰還だった。
「さーて……そろそろ出てきなよ。あの意味不明な歌を歌わないで隠密行動ってのは成長したとは思うけど、殺気が隠せてないよ?」
誰もいないはずの場所に声を投げかけると、景色が揺らいだ。
影薄組のような気配の薄さ、ではない。
「「SATUGAIセヨ! SATUGAIセヨ!」」
光学迷彩服を纏った、DMC狂信者だ。
しかしその手には何も持っていない。
機動兵器に乗るでも、魔界魔法を放つでも、銃を持つでもない。
ただ、他の狂信者達と比べて明らかに発達した肉体を持つ――マッスル狂信者の群れだった。
彼らは狂信者ではあるが、馬鹿ではない。
前回の襲撃の際にレストに属性魔法が効果をなさないことを知った彼らは、純粋な力で挑みかかってきたのだ。
「はは、思ったより早くきたね。――手間が省けて助かるよ」
無数の襲い掛かるマッスル狂信者の大群の中に、レストはただ一人で身を踊りいれた。
入れ替わり、立ち代わり、怒涛の勢いで押し寄せる肉弾の嵐。
その攻撃に流派は感じない。柔道、空手、喧嘩殺法、ボクシング……あらゆる格闘技の技が織り交ぜられている。
彼らはクラウザーさん復活のためだけに、肉体の限界を超えて技を短期間で習得した狂信者達であった。
「あっははははははは! やっぱり首輪がないのはいいね!」
だが、その鍛えられたマッスル狂信者達はわけもわからなかっただろう。
確かに報告を聞いたはずだ。都庁の最大戦力、冥闇に堕した者を一撃粉砕してみせた青年の弱点は物理攻撃だと。
それだというのに、何故技を繰り出した自分たちの拳や脚が、逆に見るも無残な潰れたザクロに成り果てるのか。
彼らは知らない。制限状態であっても、鬼の顔面陥没パンチを平然と耐える程にレストの肉体は異常に硬いことを。
「ひ――」
ある狂信者は、確かに恐怖を感じた。
自分達が死ねば、それはそれでクラウザーさん復活へ近づくということは理解している筈の狂信者がである。
触れれば潰され、触れられたら粉微塵にされる。
白い服を返り血で染め上げながら、レストは流れるような動きで、素手で相手の身体を容易く抉り取る。
戦いなどとは言えない、ただの殺戮。まるで何かの鬱憤を晴らすような、理不尽な暴力が狂信者を狩りつくす。
「ちっ……どいてろ貴様ら」
「へぇ、君がこの格闘家軍団の頭かな? 随分と化物染みた格好だね」
「ほざけっ!」
そんな暴虐の宴の中に、一人の男が文字通りに舞い降りた。
悪魔のような角、悪魔のような翼、悪魔のような尻尾……否、悪魔そのものであり、DMC狂信者幹部の一人――三島一八その人だった。
一八こそ、このマッスル狂信者を率いてきた存在だ。
先の襲撃で冥竜が敗れた以上、生半可な力の持ち主では都庁を倒せないと知った彼らは作戦を練った。
明智光秀より仮面ライダーとの共同計画を聞かされてはいたが、その仮面ライダーもいずれ殺すのだ。
そんな相手の協力をわざわざしなければならないというのは癪であったし、なによりも一八は惜しいと思ったのだ。
冥竜を一撃で消し飛ばす程の格闘家、爆弾で殺す前に自分の手で討ち取ってみたいと、格闘家としての血が騒いでしまった。
この男の弱点は意外にも物理攻撃だという。だからこそ特に覚えのよかった狂信者を引き連れて、戦いを挑んだ。
だが技を教えた付け焼き刃の狂信者はご覧のザマ、やはり俺自身が奴の首をとってクラウザーさんに捧げるべきだと……
「――もう、容赦も、遠慮もしないよ?」
にやりと笑ったその顔を見た瞬間、一八は本能的に全ての思考を放棄した。
ただただ、走馬灯のように流れる聞きなれたクラウザーさんの歌声を脳内へ求めて旅立ったのだ。
格闘家としてだとか、デビルとしてのプライドだとか、そんなものは投げ捨てた。
一八が強者だからこそ、彼は目の前の青年から繰り出される、首輪の制限も遠慮もない拳の異常さを感じ取ってしまった。
一八に付き従っていた狂信者は、一八の行動が理解できない。
彼らは一八ほどの域に達していないためだからだ。
振るわれる、レストの拳。その威力を数値化し、何かと比べた場合、どうなるか。
かつて彼と同郷であり、世界を支配できるだけの力を持つ大いなる神と呼ばれるドラゴンがいた。
彼女の神竜としての腕力はおよそ3000。神を名乗れるだけの存在の腕力3000を基準とするならば。
限界までレベルを上げ、ドーピング薬に頼っていなかった場合のレストの腕力は。
表面上の測定限界値は99999、そして内部値においてはその上昇は実は止まっておらず、およそ200000である。
とてもではないが、人間が持っていい腕力でなければ、デビルとはいえ一応分類は人間の一八に対して打ち込んでいい代物ではない。
もっとも、その無慈悲な拳を止める気をレストが持ち合わせているわけもなく。
その力を察した一八も、察せなかったマッスル狂信者も、仲良く屑肉以下の細かな深紅の飛沫となって緑の大地を彩った。
【三島一八@鉄拳6】死亡確認
【マッスル狂信者の群れ@デトロイト・メタル・シティ】死亡確認
「……この程度か。再襲撃にしては随分と弱いね」
「ウヲヲヲヲヲヲヲヲヲッ!」
だが、敵は一八の率いる軍団だけではなかった。
第二波、おそらくは格闘集団が敗れた際に備えていたのであろう軍勢が飛び出してきた。
今度はあからさまな悪魔、一つ眼の象が猛然とレストに突進をぶちかます。
だが今更象の悪魔の突進程度で動ずるレストではない。カウンターの拳打で、一八達と同じように葬り去ろうとする。
「っ!? ごほっ!?」
だが、ダメージによりぐらついたのはレストの方であった。
そして吐血こそないものの、不可視の一撃を受けた彼は困惑してさらに一歩後ずさる。
一度脱いでいた上着を纏い――僅かに減少していた装備品分の耐性を元に戻してなお、攻めあぐねていた。
(今の一撃は……あの象のものじゃない。まるで、自分で自分を殴った時のような……)
「なるほど、確かに貴様の弱点が物理攻撃というのは間違ってはいないらしいな」
「やれやれ、あっさり逝ってしまって一八め……だから最初から、僕らに任せておけと言ったんだ」
象の悪魔の後ろには、二人の青年が立っていた。
白い学ランの青年と、逆に全身黒づくめのコートの青年が。
「ふん、たかがファン歴が長いだけの野蛮な男が幹部などとは笑わせる。
連れていた信者も有象無象の類では、勝てる戦も勝てぬというものよ……」
「まあそういうな大和。君だって最初はクラウザーさんの歌のことを、愚民どものくだらない娯楽だと言っていただろう?」
「ち……あれは私の人生において最も恥ずべき汚点だ。もっと早くからクラウザーさんと出会えていれば……」
「まあ今の君のクラウザーさんへの想いと、悪魔使いとしての強さは認めてるよ。だからこうしてここに来たんだからね」
一人は、一八と同じく狂信者幹部を務める狭間偉出夫。
もう一人は、その狭間が認める高位の悪魔使い狂信者、峰津院大和。
狭間はアームターミナル型COMPから、大和は携帯に内蔵された召喚アプリから悪魔を呼び出す所謂デビルサマナーだ。
彼らの後ろに控える狂信者も召喚アプリに適応した者であったり、狭間から直々に魔界魔法を叩き込まれたサマナー揃いであった。
「さて……今の様子を見る限りでは、奴のふざけた攻撃も所詮は物理攻撃の範疇。このままギリメカラで完封できるやもしれんが……」
そして大和が繰り出した悪魔の名はギリメカラ。
この名前を聞くだけで露骨に嫌な顔をするメガテニストもいるというほど悪名高い悪魔である。
その特性はシリーズ毎に微妙に変わるが、後期のものには揃って最悪な能力を引っ提げている。
それが――物理攻撃の完全反射である。よってオート戦闘をしたプレイヤーはそのままゲームオーバー。
完全なる反射であり、どれだけ高威力の物理攻撃でもダメージはそのまま跳ね返り『貫通は絶対に不可能』である。
これを貫くには、物理攻撃の枠を飛び出した、神の炎を纏わせた万能属性の一撃しかない。
「物理反射とはやってくれるね――ぺネトレイトソニック」
「ヴォォォッ!?」
しかしギリメカラは、レストが放った風の刃に切り刻まれてあっさりと死んだ。
物理反射と呪殺以外の耐性はザルなのがギリメカラ、オート戦闘さえしなければ言う程苦労はしないのだ。
【ギリメカラ@女神転生シリーズ】死亡確認
「ち……やはりこの程度の悪魔では物理反射も活かしきれないか」
「だが今の攻撃で確信したよ、大和。この勝負――僕らの勝ちだ」
だが、ギリメカラが倒されてもリーダー格の二人はまるで動じない。
それどころか、勝利すら確信していた。
「その機械から悪魔を呼び出しているのか。なら君らもろともそれを壊せば……!」
「無駄だ愚民。私も、そして狭間のCOMPにも召喚アプリを流用して物理反射のスキルをセットしてある」
「なっ!?」
「そして今、君はギリメカラを倒すのに風の魔法を使った。悪魔は同名でもスキルや弱点、種族まで変化するおもしろい生き物だ。
そんな彼らを確実に倒すなら、ある程度強さをもった悪魔使いは無属性、万能属性の魔法を使う。
それをしないってことは……君は、そういった魔法は使えないってことだ」
大和と狭間の言葉に、レストは一度退いて態勢を立て直した。
狭間の言うとおり、レストが操れる魔法は火、水、土、風、光、闇のみ。
いわゆるどんな敵にも通用する無や万能属性の魔法は使えない。
だが腕力が異常な時点で察せそうだが、彼は魔法攻撃力まで異常な値となっている。
「まさか、君らまで風鳴翼のように全属性吸収ってことはないだろう? なら普通に焼き尽くすまでだ!」
爆炎が放たれ――
「絶一門・火炎!」
ることなく、魔力を練る段階でそれは封じられた。
今の叫び声は、後ろに控えるサマナー狂信者のものだろう。
「物理反射を貫けるのは万能、無属性のみ。それ以外の魔法は全て絶一門スキルで封ずることができる」
「まあ僕らも絶一門時はその属性魔法が使えなくなるけど、それは大した問題じゃあない。何故なら……」
「「 メ ギ ド ラ オ ン 」」
狭間と大和が、同時に叫ぶ。
その魔法こそが、万能属性の魔法。
いかなる手段をもってしても、防ぎきることも封印することも吸収することもできない、最強の属性たる魔法。
神の紫炎は、全てを飲みこんでいく。
「手を休めるな! 貴様らも続け!」
「「SATUGAIセヨ! SATUGAIセヨ!」」
「「奴をレイプ! レイプ! レイプ!」」
「「クラウザーさんへの生贄にするんだー!」」
「「「「 メギド メギド メギド メギド メギド メギド メギド メギド メギド メギド メギド メギド 」」」」
「「「「 メギド メギド メギド メギド メギド メギド メギド メギド メギド メギド メギド メギド 」」」」
二人ほどではないが、しごかれた狂信者達からも神の炎が絶え間なく放たれていく。
無敵とも言えるこのメギド系魔法の唯一の欠点は消費魔力が馬鹿にならない点であるが、彼らはそれさえ克服している。
狂信者必須アイテム、スマホ。その中に入っているクラウザーさんの歌を聞くだけで彼らには魔力切れという概念とは無縁だ。
「「「「 メギド メギド メギド メギド メギド メギド メギド メギド メギド メギド メギド メギド 」」」」
相手が普通ではないことは冥竜や一八の犠牲で嫌という程理解している。
だが物理反射+属性魔法封印or吸収は、万能属性攻撃を持たない相手には完封状態を生み出せる。
相手も全属性を吸収する化物だが、万能属性はその吸収対象外。このまま撃ち続ければいつかは撃破できるのである。
狭間の作戦は、一八のものとは異なり、盤石の構えであった。
さらに新入りとはいえ類い稀な統率力と力を持つ大和を連れてくることにより、他の狂信者達の統率も可能となった。
「ああ、クラウザーさん。今あなたに極上の生贄を捧げます」
「「「「 メギド メギド メギド メギド メギド メギド メギド メギ――
「 始 原 の 印 術 ! 」
メギドを放っていた狂信者の一角が、突然の大爆発により吹き飛ばされる。
「これ以上は、やらせません!」
「グオオオオオォォォォォウ!」
何事だと狭間と大和が構えれば、ウォークライの背に乗ったサクヤが魔道書を構えていた。
さらにウォークライも両手で何かを持っており、彼らがレストの援軍で再び駆けつけたということは明らかだった。
「ふん、雑魚共が私達に立てつこうというのか? そこで無様に燃えている男と金色の魔王以外は私達の敵ですらない」
「大和、油断はするな。奴らは悪魔に分類すれば龍王と神獣。おそらくこの二匹があの男の連れている手勢と考えていいだろう」
「いまさら雑魚共を呼び寄せ、メギド部隊の一部を倒したとしても既に召喚者は死に――」
「ふー……どうして戻ってきちゃうかなサクヤは。それにウォークライまで連れて」
「だからなんでレスト様は一人で戦おうとするんですか! ご自身の弱点を把握されていないわけではないでしょう!?」
「いやー、ははは……うん、正直こうも簡単に僕への対策が練られるとは思ってなかったんだ。情けない主でごめん」
「もう……急いで世界樹の不思議のダンジョンから、無属性魔法の始原の印術書を拾ってきましたから、お使いください」
「いやいや、折角拾ってきたならそれは拾ったサクヤのものだよ。四源と始原で噛みあってるし」
「「なっ……!?」」
狭間と大和も、控えているサマナー狂信者も、誰もが絶句した。
あれだけ神の炎で焼き払ったというのに、その相手はぴんぴんして普通に増援と会話をしている。
その増援も動じた様子はなく、主人が生きているのは当たり前であるといった様子である。
「どうせまた強制送還しても戻ってくるんだろうけど……結構派手な殺し合いになるよ?、それでも二人とも来るのかい?」
「勿論です」
「グォウ!」
「ち……私と同じく、奴も万能属性に耐性を持っているということか。
だがその左右の龍王と神獣を葬れば、サマリカームが機能しない今、奴は再び攻撃の手段を失う」
「全員、絶一門を維持したまま左右の悪魔を片づけることに専念しろ!」
狂信者と、世界樹の門番三人が再び対峙する。
お互いが強力な耐性を持ち、攻撃の手段が限られている現状では数の多い狂信者が有利。
そして先にも言った通り、狭間のこの襲撃作戦は盤石のものであった。
メギドの嵐を浴びてほとんどダメージを受けていない相手の体力値こそ想定外ではあったものの。
相手がこちらの物理反射及び絶一門の構えを突破する無、万能属性の攻撃を持っていた場合への対処も。
しっかりと、考えられていた。
「こうなったら仕方がない。プランCで行くよ大和」
「わかっている」
狭間と大和が、常人にはわからない何かを呟く。
すると二人の身体が宙へと浮いた。
「私は峰津院家の長、峰津院大和。この大地を巡る龍脈を操ることができる。龍脈にも色々な使い道があってな……
一つは、大阪の通天閣とクラウザーさんのライブ会場から流れる龍脈とクラウザニウムを我が体に宿すことで私を超強化……
そしてもう一つ、ここが東京都庁ということが幸いした。都庁の地下に奥の手を隠し持っているのは、貴様らだけではないのだよ!」
「僕はクラウザーさんを奪ったこの世に罰を下さなければならない。クラウザーさんが生き返っても罰を与え続けなければならない。
クラウザーさんは――神だ。あの方は謙遜して魔王を自称されているが、あの方こそ魔界神。
だから僕は……同じ位に立つことはおこがましくてできないから、その一つ下の階級『魔神皇』として、罰を与える……!」
大和が、黄金の光に包まれる。彼の変化はそれだけだ。
だが狭間の方は、人の姿から巨大な顔と手を持つ異形の存在――『魔神皇ハザマ』と化していく。
そしてハザマの手から、強力なエネルギーの槍が間髪入れずに放たれた。
狙うのはレストでも護衛の二匹でも世界樹でもなく、地面であった。
「目覚めろ――龍脈の龍よ。そして手始めに、あのセプテントリオンを始末しろ」
※
最終更新:2015年04月07日 19:17