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「暁王と剣姫」  第一章 暁の目覚め      紺の海も薄らぎ、山の端より夜の終わりを告げるあかとき。 暁の円卓国の王都の端に位置するところに一つの学園がある。 一般的には金持ちの通う学校だと知られているが大きく違うところが一つある。 この学校には曙士王が通っているのである。  暁の地では王のことを曙士王と呼ぶ。国内で唯一の唯の士では終わらないものであることを象徴するという。 王は剣を携える。 そしてその剣は暁を代表する使い手であるとされる。  静謐な闇の中では場違いな 「うーん、むにゃむにゃ……すー」 この学園には王専用に与えられた宿舎がある。 その一室から、寝息が聞こえてきた。 まるで胎児のように体を丸めてシーツの上に横たわる少年。その横には抱き合うかのように少女が寝息を立てている。こうしてみるとまるで年の離れた姉弟のようであった。 ちょうど一月前のこの時間、 ……彼らは戦っていた。 夜も更けて丑三つ時を過ぎようとしている。王として選ばれたその日に襲撃をうけることになるとは、思っても見なかった。未だ剣を持たない王である少年は剣たり得る人物を今一番必要としていたのだ。  王候補として睦月の家に召し上げられた時から死は身近なものであったから、すでに覚悟は決めている。とはいえ、剣も持たないのでは王としての責務を全うしたとはとてもいえないだろう。 唐突な襲撃より逃げ始めて数時間、隠れ続けるのもすでに限界だ。だが見つかったが最後、体力の限界が近いこともあり逃げ切れるはずがない。他人事のようにその事実を理解で着てしまう少年の顔には憂いの表情しか浮かばなかった。 意を決して廃教室を飛び出した。逃げ切りさえすれば、まだチャンスは残されている。 何も始まらないまま廃校舎裏に立ち並ぶのだけはいやだった。  少年は必死に駆ける。まだ、幼さを残す顔立ちと華奢な体に必死さを浮かべながら、廊下を走り抜けた。  出口が見えた。少年の瞳に希望の光が宿る。 だが、それも一瞬だった。 「見つけたぞ」  出口の脇にある階段から物凄い勢いで、剣が降ってきたのだ。  急転回。まっすぐ抜ける廊下では背を向ければいい的だ。少年は階段を駆け上がることを選んだ。  しかし、階段を上りきったところで、自ら命を絶つか、追い詰められて殺されるかの二択しか残っていない。それでも易々と首を渡すよりはいいか、と考え少年は駆け上がる。 屋上の非常扉を開け放ったとき、ふわりと、風が変わった。 山際が明るい。闇に沈んでいた濃紺の空が少しずつ軽くなっていくようだ。 (最後に見る風景がきれいでよかった……) 少年が目を瞑り、意を決してフェンスを越えようとした時、乱暴に扉が開いた。 「いたぞっ!」 そこには大きな剣を持った粗暴そうな男とその傍らに苦笑いを湛えた男が立ってる。 (―もはやこれまでか) せめて最後までその目に全ての光景を焼き付けよう、と少年は覚悟した。 近づいてくる男の剣が届かんとするその刹那、一陣の風が吹いた。 山の端が明るくなりゆく空を背景に耳障りな金属と金属がぶつかり合う鈍い音が響く。 いつまでもその刃は届くことはなかった。 目の前には巨大な鉄の塊とも言うべき剣が見えた。 「年端もいかぬ子どもではないですか!」 上空から降りてきた女はその剣の重量をものともせず、怒気とともに押し返す。そのまま数太刀交わすと、少年の手を取り駆け出した。 向かう先は、時計台。 その女は少年を抱えながらであるのに器用に上っていく。 そしてその中央に辿り着くと、少年の前に女は跪いた。 「そこの君は王とお見受けする」 じっと面を伏せ跪く女。 少年には分かった。それがどれほどの覚悟を持ってこの場に臨んでいたのかが。 キッと下の様子に一瞥をくれ少年はその体に似合わぬ威風を持ち、宣告した。 「僕の剣となってくださいますか?」 「この命尽きるまで、貴方の剣としてお使い下さい」 「よろしい、では面を上げて下さい。これからの貴方の名は剣姫です」 息を呑む二人、契約はなされた。 自然と笑みが浮かぶ。二人なら負ける気はしない。 「では目の前の敵から片付けることにしましょう。剣姫、いきなさい!」 「御意!」  王の名を受け、剣姫は時計台の上より一息で跳んだ。それは跳んだというより水平方向へ飛んでいるかにも見える。ただ自由落下に身を任せるのではなく、時計台の上端を蹴り出し最速で敵の王の下へ切りかかる。 常人では避わしきれないスピードで飛来する凶悪な鉄塊と敵の王との間に黒き疾風が駆け抜けた。 敵の剣が戻ってきたのだ。 再び屋上に鈍い音が響き渡る。だが、先ほどとは違う。明らかに剣姫のほうが押しているのだ。軽く着地すると一足に間合いを開ける。その力のかかり方ゆえ根元では物が切れないのが長剣の特徴だ。最近接距離よりは少々離れた間合いのほうを得意とする。 「シャァッ」 敵の剣が吼えた。粗暴そうな容貌ではあるが、その技術・力は本物だ。白兵最強に数えられる暁士である。決して侮れるものではない。 「ハァッ!」 裂帛の気合を込めて、剣姫がその手のものを振るうと、剣と剣がぶつかり合い凄絶な火花が散る。そして数合にわたって剣戟をあわせると、剣の腹で腕を薙ぎ、決着がついた。 その痛みでのた打ち回る男を尻目に敵の王と、相対した。 少年が駆け寄り、そして剣姫を手で制した。 「もう勝負は決しました、退いて下さい」 堂々と宣言するようにそう述べる。 しばらくの間睨み合っていたが、しばらくして何もしないのを確認すると敵の王は剣を起こし、その場を去っていった。そして少年は剣をつれて男が逃げるように去るのを見送ると糸が切れた操り人形のようにその場にへたり込んでしまった。 「ありがとうございます。僕の名は……暁」 暁と名乗った少年は憔悴しきった表情で笑みを浮かべるのが精一杯のようだ。そして、緊張の糸が切れたのかその場に倒れこむ。 あわてて抱きとめる剣姫。 その顔を覗き込むが、穏やかな寝息を立てているのを見て安堵した。 「我が王、我が君、か」  剣姫、その名を明野桜という。  当代きっての剣の使い手で有りながら、捧げるべき王を持たないがゆえに、王無き者と蔑まれた少女は今、その剣を捧げるべき王ができた。その内心はとても推し量れる者ではないが、翌日の日記の文字が躍っていたことだけはここに記そう。
「暁王と剣姫」  第一章 暁の目覚め      紺の海も薄らぎ、山の端より夜の終わりを告げるあかとき。 暁の円卓国の王都の端に位置するところに一つの学園がある。 一般的には金持ちの通う学校だと知られているが大きく違うところが一つある。 この学校には曙士王が通っているのである。  暁の地では王のことを曙士王と呼ぶ。国内で唯一の唯の士では終わらないものであることを象徴するという。 王は剣を携える。 そしてその剣は暁を代表する使い手であるとされる。  静謐な闇の中では場違いな 「うーん、むにゃむにゃ……すー」 この学園には王専用に与えられた宿舎がある。 その一室から、寝息が聞こえてきた。 まるで胎児のように体を丸めてシーツの上に横たわる少年。その横には抱き合うかのように少女が寝息を立てている。こうしてみるとまるで年の離れた姉弟のようであった。 ちょうど一月前のこの時間、 ……彼らは戦っていた。 夜も更けて丑三つ時を過ぎようとしている。王として選ばれたその日に襲撃をうけることになるとは、思っても見なかった。未だ剣を持たない王である少年は剣たり得る人物を今一番必要としていたのだ。  王候補として睦月の家に召し上げられた時から死は身近なものであったから、すでに覚悟は決めている。とはいえ、剣も持たないのでは王としての責務を全うしたとはとてもいえないだろう。 唐突な襲撃より逃げ始めて数時間、隠れ続けるのもすでに限界だ。だが見つかったが最後、体力の限界が近いこともあり逃げ切れるはずがない。他人事のようにその事実を理解で着てしまう少年の顔には憂いの表情しか浮かばなかった。 意を決して廃教室を飛び出した。逃げ切りさえすれば、まだチャンスは残されている。 何も始まらないまま廃校舎裏に立ち並ぶのだけはいやだった。  少年は必死に駆ける。まだ、幼さを残す顔立ちと華奢な体に必死さを浮かべながら、廊下を走り抜けた。  出口が見えた。少年の瞳に希望の光が宿る。 だが、それも一瞬だった。 「見つけたぞ」  出口の脇にある階段から物凄い勢いで、剣が降ってきたのだ。  急転回。まっすぐ抜ける廊下では背を向ければいい的だ。少年は階段を駆け上がることを選んだ。  しかし、階段を上りきったところで、自ら命を絶つか、追い詰められて殺されるかの二択しか残っていない。それでも易々と首を渡すよりはいいか、と考え少年は駆け上がる。 屋上の非常扉を開け放ったとき、ふわりと、風が変わった。 山際が明るい。闇に沈んでいた濃紺の空が少しずつ軽くなっていくようだ。 (最後に見る風景がきれいでよかった……) 少年が目を瞑り、意を決してフェンスを越えようとした時、乱暴に扉が開いた。 「いたぞっ!」 そこには大きな剣を持った粗暴そうな男とその傍らに苦笑いを湛えた男が立ってる。 (―もはやこれまでか) せめて最後までその目に全ての光景を焼き付けよう、と少年は覚悟した。 近づいてくる男の剣が届かんとするその刹那、一陣の風が吹いた。 山の端が明るくなりゆく空を背景に耳障りな金属と金属がぶつかり合う鈍い音が響く。 いつまでもその刃は届くことはなかった。 目の前には巨大な鉄の塊とも言うべき剣が見えた。 「年端もいかぬ子どもではないですか!」 上空から降りてきた女はその剣の重量をものともせず、怒気とともに押し返す。そのまま数太刀交わすと、少年の手を取り駆け出した。 向かう先は、時計台。 その女は少年を抱えながらであるのに器用に上っていく。 そしてその中央に辿り着くと、少年の前に女は跪いた。 「そこの君は王とお見受けする」 じっと面を伏せ跪く女。 少年には分かった。それがどれほどの覚悟を持ってこの場に臨んでいたのかが。 キッと下の様子に一瞥をくれ少年はその体に似合わぬ威風を持ち、宣告した。 「僕の剣となってくださいますか?」 「この命尽きるまで、貴方の剣としてお使い下さい」 「よろしい、では面を上げて下さい。これからの貴方の名は剣姫です」 息を呑む二人、契約はなされた。 自然と笑みが浮かぶ。二人なら負ける気はしない。 「では目の前の敵から片付けることにしましょう。剣姫、いきなさい!」 「御意!」  王の名を受け、剣姫は時計台の上より一息で跳んだ。それは跳んだというより水平方向へ飛んでいるかにも見える。ただ自由落下に身を任せるのではなく、時計台の上端を蹴り出し最速で敵の王の下へ切りかかる。 常人では避わしきれないスピードで飛来する凶悪な鉄塊と敵の王との間に黒き疾風が駆け抜けた。 敵の剣が戻ってきたのだ。 再び屋上に鈍い音が響き渡る。だが、先ほどとは違う。明らかに剣姫のほうが押しているのだ。軽く着地すると一足に間合いを開ける。その力のかかり方ゆえ根元では物が切れないのが長剣の特徴だ。最近接距離よりは少々離れた間合いのほうを得意とする。 「シャァッ」 敵の剣が吼えた。粗暴そうな容貌ではあるが、その技術・力は本物だ。白兵最強に数えられる暁士である。決して侮れるものではない。 「ハァッ!」 裂帛の気合を込めて、剣姫がその手のものを振るうと、剣と剣がぶつかり合い凄絶な火花が散る。そして数合にわたって剣戟をあわせると、剣の腹で腕を薙ぎ、決着がついた。 その痛みでのた打ち回る男を尻目に敵の王と、相対した。 少年が駆け寄り、そして剣姫を手で制した。 「もう勝負は決しました、退いて下さい」 堂々と宣言するようにそう述べる。 しばらくの間睨み合っていたが、しばらくして何もしないのを確認すると敵の王は剣を起こし、その場を去っていった。そして少年は剣をつれて男が逃げるように去るのを見送ると糸が切れた操り人形のようにその場にへたり込んでしまった。 「ありがとうございます。僕の名は……暁」 暁と名乗った少年は憔悴しきった表情で笑みを浮かべるのが精一杯のようだ。そして、緊張の糸が切れたのかその場に倒れこむ。 あわてて抱きとめる剣姫。 その顔を覗き込むが、穏やかな寝息を立てているのを見て安堵した。 「我が王、我が君、か」  剣姫、その名を明野桜という。  当代きっての剣の使い手で有りながら、捧げるべき王を持たないがゆえに、王無き者と蔑まれた少女は今、その剣を捧げるべき王ができた。その内心はとても推し量れる者ではないが、翌日の日記の文字が躍っていたことだけはここに記そう。 [[暁王と剣姫第二章]]

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