「あれが海上プラントです、大尉。」
パイロットの声で窓の外を見る。少し荒れた海、蒼一色の中にまるで原油施設のように巨大なプラントがそこにあった。
「たいした規模だな、国連側が資金源なだけはある。」「いえ、あれでもまだ完成はしてないんですよ。海上設備、海中内施設の一部が出来た程度で…」
まあ安保理で正式にTR部隊の認可が下りてまだ1年程らしいからな、些か急ごしらえに見えても仕方はない。
甲板のヘリポートに着陸し、降りる。天気には昔から恵まれているからかは謎だが非常に快晴、厚いくらいだ。
「こちらです大尉。」一緒に乗っていた国連側事務官に呼ばれるがまま昇降機に乗り込んだ。
「まずこれから我々からの最後の経歴確認、審査を行わさせていただきます。その後に部隊長からの部隊説明がありますので
隊長の部屋へご案内します。」各国の兵士が集まる場所だ、2重、3重の審査は当然か…「了承した。」
昇降機を降り、長い廊下を越え、質素な部屋に通される。なんともまた…
部屋には簡易的な机と椅子2つ、その後ろにPCを構えた女性が一名。「お座り下さい。」
まるで取り調べ…いや尋問か
「では大尉、これから国と我々が報告、調査した貴方の経歴、情報を貴方にお聞かせします。間違いがありましたら訂正しますので仰って下さい。」
「セルゲイ イリーノスカヤ ヴァシリ、家族無し、国籍はロシア、士官育成高を卒業後FSBに配属、2年間国外での単独任務に準じ。
その後功績からGRUに転属、その後しば…」ドアが開き一人の男が入ってくる。男は俺の後ろの壁にもたれ呟いた。
「問題なかろう?同席させてもらう。」事務官は驚いていたようだがすぐ持ち直し同席を了承した。
何度も見たことのある男…なんの事はない、俺をTRに推薦したのはこの男だ。アルバートラッセル
「続けましょう。GRU転属後の活動や任務内容は貴方の御国から機密扱いと報告されているので伏せます。しかし我々の調査で貴方がGRU内でも特秘のザスローンの
初期隊員だったという事だけは調べられました。お間違いでしょうか?」「機密なんだろう?なら答える義務もあるまい。」
「そうですね、話を続けます。その後貴方は国内で起きたあの有名な事件の現場にいましたね?」成程な、審査とはいい響きだ。
連中(国連)、この気に及んで好奇心から各国の機密情報を知りたい訳だ。
「答える義務は無いと言ったはずだが?」少し強めに答える。向こうは怯えたようですぐ話を戻した。
「…事件後少佐に昇進、しかしその後2週間程で軍を退役。中東に渡り傭兵企業を開業、しかしその間も国からの依頼で何度も本土の
特殊部隊訓練などにSVR教官として参加し、本国との繋がりを維持。その一年後TRと誤報により戦闘、2ヶ月後TRに推薦により入隊。以上でお間違い御座いませんか?」
少し心配そうに此方を見る。「問題ない。」安心したように安堵の息を漏らした。
「ではセルゲイ大尉、審査確認はこれで終わりです。今から貴方の部隊の責任者の下に案な…」「それは私が引き受けよう。」後ろからの声だった
「しかしラッセル大尉、それは我々のしごt…」事務官は口を誤漏らせた。殺気に近い視線、まあガン見だ…無言の圧力と言ってもいい。
「問題…ない…何も問題ない…。」まるで呪いのような一言一言に圧倒された事務官はそそくさと後をコイツに任せて去って行った。哀れだ…
「ここにいる全員が受ける審査と言う名の質問攻めだ…気にするな、お前は既にここの審査を通っている。」淡々と話す。
「気にしてはいない、慣れている。」そう言うとアルバートはドアを開け「案内する。」一言呟いた。
アルバートに案内され行った場所は俺の入る部隊の隊長室、彼に会うのはあの誤報戦以来だ。
「来たかアル。それとセルゲイ大尉。」山のような報告書が積んであるデスクからの声。サングラスを外し此方に手を差し伸べた。
「改めて、TR01部隊隊長のアレンフォスターだ、宜しく頼む。」笑顔で握手する。似合うな、笑顔が
「本日付けで此方に配属になったセルゲイイリーノスカヤヴァシリだ。此方こそよろしく頼む。」
「まさか同じ部隊で戦う事になるとはあの時は思わなかったよ。」「そうだな、一度対峙した身だ、何か役に立てれば幸いだ。」
「大丈夫だ、なんたってアルが直々に推薦してきたんだからな、始めてなんだ。それに俺も一度対峙しているんだ、申し分無しだよ。」
そうだったか。しかし何故わざわざ推薦など…
「ともかく隊員紹介や施設の案内はまた明日にして今日はゆっくりしてくれセルゲイ。」「助かる、それと隊長、前みたいにゲイリーでいい。」
「俺もアレンでいいよゲイリー、一応階級は同じなんだしな。」そういうとアレンは再び書類に目を通しはじめた。
アルバートに案内され自分の部屋に向かう。ふと昇降機から3人程男が降りて来た。サイドの二人はまるでSPだ。真ん中の男は…見覚えがある
「今日から配属なんだろセルゲイ大尉。」少し冷たい声だ「あの時はアンタに目をやられたが今日からこちら側というわけだな。」
「そうだったな、あの時はすまなかった。」「謝る必要はないだろ、久々にいい体験だったよ。あの時何をしたんだ?」純粋な質問だ
「簡単な事だが教えられないな。不本意な異名だがれっきとした私の技術のつもりだ。第一に簡単にネタ晴らしをしても君は信じないだろう。」
「何故…そう言いきれる?」「君の目はそう言っているが?」少し青年がはにかんでいたように見えた「アンタ、以外と面白いな。また模擬戦でもしようよ。」
「ああ、喜んで。改めてゲイリーだ。」「ああ、よろしく大尉、ヴァインベルグだ。」
ロイドと別れた後、いくつかの施設をアルバートに案内され無事俺の部屋についた。
「今日はここまでだ。明日はまた別の人間がお前を案内するだろう…。」部屋の入り口からそう呟くとアルバートは去ろうとした。
「ひとつ聞きたい。」足を止め背中を向けたままアルバートは返答した「なんだ?」「何故俺を推薦した。」
10秒程の暗黙が続いた後答えは返ってきた。
「人間にはそれぞれ何かを思ったりしたり大事にしたり千差万別の感情がある。私の頭は数年前までそのような事とは一切無縁だった。
しかし硬化しかかった私の頭はある男と出会った事により揺らぎだした。冬のあの事件の夜からずっと…な」意外と喋るんだな…予想以上だ
お前はやはりあの日の幻ではなく本当にいたんだな、あの現場に。「ちなみにその揺らぎとはなんだ?」一言間をおきアルは答えた
「好奇心」
それだけ言うとアルはどこかに歩いて言った。「アルがあんなに話すの初めて見たな..」入れ替わりにアレンが顔を出した
「さっきロイドとも会ったみたいだな。今から会議に出るから部屋に無事ついたかついでに見に来たんだ。」
「あいつに道案内されて無事じゃないとでも思うか?」「120%無事だろうな(笑)ロイド曰くアルは天才でお前は努力家な感じだそうだ。」なんの事だか…
「まあ今日はゆっくり休んでくれ、じゃあな。」そういうとアレンも会議へと消えていった。
部屋の隅の机の上の書類に目を通しながらタバコに火をつける。ジタンの葉巻のような独特の香りが部屋を包む。
一度は戦った部隊、今は俺もその一人だ。荒廃に満ちた感情は今日からどう変わっていくか
願わくば過去や過ちを正す機会でありますよう…
最終更新:2013年09月18日 14:48