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序章 -めぐみ-

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「──先輩、このファイルですか?」

村田めぐみは、棚から捜し出した古いファイルを手に、尋ねた。
火を点けていない煙草をくわえたまま、中澤裕子は「そうや」と言い、ファイルを受け取る。
椅子に座り、黙々と読み耽る裕子。特別資料室の空気が重苦しくなっていく。

「……コーヒー、煎れますか?」
「いらん」

めぐみは立ち上がりかけた腰を再び下ろし、うつむいてしまう。
ため息をつき、先程のファイルのあった位置に目を向ける。
『九州地方連続殺人事件』と『釧路沖漁船爆破事件』の間にあったファイル。
裕子が記入した、貸し出しリストには、こう印されていた。

『霧雨村事件』

「そんな気になるんか?」
ドキッとして顔を上げると、裕子がめぐみを見ていた。眉間にしわを寄せている。いつの間にか、煙草には火が点いていて、即席灰皿である空き缶に置かれていた。

「……気に、なります」
「そうか」

裕子は立ち上がると、めぐみに向かって歩み寄る。
カウンターにファイルを置くと、「読んでみ」と言った。

「それを読んでから、まだ詳しく知りたいと思うようなら、あたしに連絡せぇや」
「えっ、あの……」
「邪魔したな」

裕子は足早に、特別資料室を出ていった。
めぐみは、残されたファイルを、手にした。
そして──後悔するとわかっていながら──そっと開いた。

──数時間後。めぐみは、吐き気を堪えながら、携帯電話を取り出した。
「……もしもし。先輩ですか?あの……」
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