電脳空間、聖杯戦争の舞台として造られた冬木の町。
 20を超える数の折り紙でできた鶴のような物体が、寒空を静かに駆ける。
 陰陽師の系譜を組むとあるキャスターが市中を監視するために飛ばした式神は、さながら自在に動かせる高性能監視カメラだ。
 キャスターの指示のもと町中をかけ、冬木を暮らすマスターの居場所やサーヴァントの能力を調べ続けていた。

 一般学生に紛れ込み、笑顔の裏で震えているマスターを見た。
 元の世界で強大な力を持ち、サーヴァントに比肩する異能を持つマスターを見た。
  同盟を結び協力しようとして、裏切られたマスターを見た。
 サーヴァントと意思をそろえることができず、初戦であっさり敗退したマスターを見た。

 この電脳の世界に呼び出された主従の総数はいまだ不明。キャスターが把握しているだけでもマスターの数は三十を超えている。
 全容の見えない舞台において、何よりの武器は情報だ。
 予選段階で可能な限り情報を集め、来る本選で優位に立つ。
 それがキャスターの狙いだった。

「…む?」

 無数の式神が送る映像を閲覧していたキャスターの意識が、ある一つの光景に向いた。
 冬木の平凡なアパートの一室。
 キャスターの記憶によれば、偉丈夫のランサーを引き当てた学生マスターがいたはずだ。
 サーヴァント同士の戦闘では勝ちの目はないが、マスターの能力は凡人以下。警戒に値する陣営ではないとキャスターは判断していた。
 部屋の中を見ても震えて籠る青年が見えるだけ。そのはずだった。

『いやだ…死にたくない』
 カーテンの閉まった部屋の中から、情けない声が響いた。
 式神を操作し隙間から覗くキャスターに、声の主であろう青年が床に倒れ伏す姿が見えた。
 胸と口、加えて手首より先が無くなっていた右腕から赤い液体が垂れ流しになっていて、漆黒の剣が胸を貫いたままびくびく痙攣する姿は、昆虫の標本を思わせた。

 令呪は切り落とされ、サーヴァントを呼び出すこともかなわない。
 事実、彼のサーヴァントは遠く離れた別の地点でサーヴァントの襲撃を受け交戦中だった。
 異変を察したのか、相手の猛攻をかいくぐり何とか引き返そうと足掻くランサーの姿を別の式神が納める。
 キャスターの見る限り、ランサーの献身は無駄なあがきで終わるだろう。

 ひとしきり嗤ったキャスターが部屋に視線を戻す頃には、青年の痙攣は止まっていた。

 死体を貫いていた黒い剣を下手人が無造作に引き抜いた。
 ぐじゅりと嫌な音をたて、女の顔に血が跳ねる。
 ぬぐった拍子に少し後ろに動いたからか、カーテンの隙間から頬に血の付いた顔が見えた。
 緋色の髪をした、若い女だ。
 頭部には犬のような三角の耳が生え、冬木のNPCとは種族からして異なっていた。
 その全身には端麗なスタイルをそのまま見せつけるような黒と金のボディスーツを身に着けている。

「…また、この集団か」
 映像を睨みつけ舌打ちするキャスター。
 この格好をした女がマスター殺しをする様子を目撃したのは、実に4度目だ。
 声も姿も毎度異なっていたが、方法はいつも同じ。
 真っ先に令呪のある腕を不意打ちで切り落とし――この時点でこの女たちが聖杯戦争と無関係な殺し屋という線は消える――、漆黒の剣で迅速にマスターを殺害する。

『たしか…この番号よね?』
 暗い部屋の中、女が慣れない手つきでスマートフォンを操作する。
 難しそうに額にしわを寄せた顔がブルーライトに照らされた。
 どこにしまったのか、先ほどまで握っていた漆黒の剣は持っていないように見えた。

 足元の死体が電子の藻屑に帰らんと崩れ始めるさまには興味さえ示さず、女はどこかに電話を掛けている。
 これもまた、この女たちの動きであった。

「…まただ。なぜこいつらは携帯電話を用いる」
 キャスターからすれば、彼女たちの行動は不可解だ。
 キャスターの見立てでは、彼女らはアサシンのサーヴァント。もしくは、いずれかのマスターの指揮下にある殺し屋である。
 だが、彼女らがサーヴァントであるのならば、連絡に携帯電話など用いる必要はない。
 逆に一般人の殺し屋だというのならば、携帯電話の扱いが拙いうえに、獣人の姿をする意味がない。

 正体は分からず、しかし聖杯戦争の関係者なのは確実。
 キャスターにとって、黒衣の女たちは目下警戒すべき相手であった。

「今日こそ、貴様らの主暴かせてもらうぞ。」
 警戒すべき相手であるからこそ、キャスターは手を抜かない。
 彼女らは実行犯だ、マスターにしろそうでないにしろ命令を下す“主”がいるはず。
 おそらく、この女と今連絡を取っている相手だろう。

 すぐさまキャスターは、拠点周囲の警戒と女の監視を除いた式神すべてに、黒衣の女の首魁を探すよう命令を下す。

 式神の奥で電話する女が、にたりと笑ったことに。キャスターはまだ気づいていなかった。

 殺し屋の女が残した微かな魔力の残滓を辿り、式神がたどり着いたのは冬木都心部のオフィスビル。
 その最上階に位置する企業の会長室にその姿はあった。

 気品ある女が、高そうな黒い椅子に座ってどこかと通話している。
 金色の髪を腰まで伸ばした姿は、モデルや女優だといわれてもうなずけるプロポーション。
 冷たい光をたたえた碧眼の鋭さも、上に立つ人特有の気品を際立たせるのに一役買っていた。
 スーツと赤いネクタイをつけ座るだけなのに絵になる女だとキャスターは感嘆する。
 街を歩けば10人が10人振り返っただろう。

 その姿は会長の椅子に座るには非常に若い。年が20を超えているかも疑わしい。
 キャリアウーマンというよりは、大人びた学生という方が近い。
 そんな不相応さは感じさせず、通話を続けながらも右手ではよどみなくデスクトップを操作し部下からのメールに目を通している。
 彼女が座る大きな机の上には、金色の文字が彫り込まれた黒の卓上札が堂々と置かれていた。

『カイ・オペレーションズ会長代行 オリヴィエ』

 代行かよ。思わずそう言いかけたが。それでも立派なものだろう。
 オフィスビルの入り口の案内板を見る限り、このカイ・オペレーションズなる人材育成企業は上階層を5階ほど占有している。
 零細には程遠くむしろ大企業の部類に入る。
 それの代表ともなると、代理とはいえ黒い羽根に選ばれ聖杯戦争に呼ばれるのも納得の人材といえる。

「だが、それもここまでだ。この俺を敵に回したのが運の尽きよ。」

 笑みを浮かべるキャスターが指を動かす。
 会長室の外側に張り付いた式神が、キャスターの操作に従い窓の隙間を潜り抜け部屋に入り込む。

 10m…8m…6m…
 音もなく忍び込んだ式神が、オリヴィエとの距離を縮める。
 両手に長手袋をつけているため、マスターかどうかは分からない。もはやそんなことはどうでもよかった。

 キャスターが送り込んだ式神には、高度な呪詛が仕込まれている。
 高ランクの対魔力がなければ、大ダメージは避けられない。サーヴァントでないならば即死もあり得る代物だ。

 5m…4m…3m…。
 キャスターの式神が近づくにつれ、通話の内容はより鮮明に。
 勝利を確信していたキャスターの耳に、美女たちの会話がひどくはっきり聞こえた。



『…そろそろ。『オウル』による探知が終了したころでしょうか。アルファ様』
『ええ、ご苦労様。“式神使い”には『インビジブル』…559番が向かったわ』


 ―――え?
 疑問符が浮かび、呆けた顔で固まるキャスター。
 式神使いとはなんだ?決まっている。俺のことだ。
 終了したとはなんだ?わからない。だがただ事ではない。

 集中が途切れ、羽をもがれたようにすべての式神がポトリと落ちた。

 それでも機能は失わず、動かないままに女たちの姿を映し続ける。
 マンションの一室で通話する獣人の女が、カーテンの隙間から外を見た。
 電話先から『アルファ』と呼ばれたオリヴィエが、部屋に入り込んだ侵入者を見た。
 二つの式神。離れた場所。
 通話する二人の女の目が、式神を見た。
 式神の奥にいる、キャスターを見た。

「ひっ!」
 座り込んだまま思わず後ずさるキャスター。だが、数歩と進まずに透明な何かにぶつかる。
 柔らかな温かい感触。それはクッションというより、まるで人の脚のようで。

「インビジブル」

 背後から男の声のような電子音が響く。
 腰が抜けたキャスターがどうにか首を動かし音のする先を見上げた。
 ピンクブロンドの髪で左目を隠した美女が、豚を見るかのような冷たい視線でそこにいた。
 黒と金のボディスーツを身に着け、漆黒の剣を振り上げて。
 マスターを殺してきた死神と同じ姿が、キャスターの背後に立っていた。

「馬鹿な!式神による監視も防御の術式もすり抜けただと!」
 工房には無数の魔術防壁がある。
 大量の式神が、中どころか建物の外まで監視している。
 そのすべてが、この女の侵入を捉えられなかった。

「あの程度の防護、我らの前に意味はない。」
 至極当たり前だと言わんばかりに、女が吐き捨てる。
 その言葉を聞いて、キャスターは自身の敗北を悟った。

 自分が、追い詰めたと思っていた。
 黒衣の女たちの首魁を見つけ、魔力を辿り、あと一息で呪い殺せる。
 ちがう。前提から間違っていた。
 魔力で足跡を辿れたのが、自分を誘導するための罠だったとしたら?
 ここまでの動きが、自分の意識を“捜索”に向けるための行動だとしたら?

 まるで街に落ちる影のように、彼女らは速やかに仕事を果たした。
 掴めない影を探った。戦ってはいけない相手に勝負を仕掛けた。
 この『組織』を相手にした時点で、キャスターは負けていた。


『「『我らはシャドウガーデン』」』


 二つの式神、背後の死神。
 そのすべてが、まったく同時に語る名前。
 それがこのキャスターの、最後に聞く言葉だった。
 何か言葉を返す前に、黒い剣が力任せに下され。霊核ごとキャスターの体は縦に両断された。

 巻き上げられた血が、赤い雨が降り注いだように工房を染め上げる。
 キャスターの二つに分かれた頭脳に、疑問が浮かんだ。
 ―――シャドウガーデンとは、何だ。
 その答えをキャスターが知ることは、ついぞなかった。


 ◆

 カイ・オペレーションズの会長室では、日が沈んだ後でも金髪の女会長(代行)はデスクトップと向かい続けていた。
 部下の報告に目を通し、取引先とのアポイントを取り、提出された書類に印字する。
 『自分の役割(ロール)ではない仕事』を涼しい顔で女はこなし続ける。

「遅くまで精が出るね。アサシン」

 集中していた彼女の意識を引き戻す声が、後ろから響いた。
 椅子を180度回転させた女の前には、巨大なガラスに映る夜景を背に微笑む若い男が優雅な笑みを浮かべて立っていた。
 地上15階の会長室 ただ一つの出入口は微動だにしていない。
 どこから入ってきたのか、そんなことを女は聞かない。
 目の前の男(マスター)ならそのくらい造作もないと、この女(サーヴァント)は知っている。

 アサシンと呼ばれた女が秀麗な美女であるように、男もまた端麗な美青年であった。
 左に伸ばした前髪の一部分に虹色のメッシュを入れ、編み込んだその先に金色のリングを留めている。
 奇抜ともいえる姿ながら、すらりとした体躯も上下ともに染み一つない純白のスーツも相まって。ギリシアの彫刻のような美麗さとどこか隔世的な雰囲気を漂わせる。

 黒と金が美しく形を成した女がアサシンだとするのなら。
 白と虹が美しく形を成したのがこの男であった。

「随分な重役出勤じゃない、万灯『会長』さん。」

 会長という言葉だけ、明らかに強調されていた。
 本来『カイ・オペレーションズの会長という役割』を電脳の世界に与えられたのは、アサシンとクラス名で呼ばれた女ではなくそのマスター。
『万灯雪侍』という名の、この男だ。
 アサシンの言葉には、『人に仕事を押し付けるな』というマスターに対する鬱憤が存分に含まれていたが、当の万灯は優雅な笑みのままの素知らぬ様子である。

「そういう君も、『会長代行』が板についてきたようじゃないか。
『アルファ』。いやここではあえてオリヴィエと呼んだほうがよかったかな?」

 万灯の指先にはオリヴィエと書かれた卓上札。
 滅魔の英雄の名を拝借した偽名が刻まれる卓上札に女会長は手を伸ばし、会長としての時間は終わりだと告げるように力強く倒した。

「ただの偽名よ。こんな目立つ役割(ロール)をするのに、真名を使うわけがないでしょう。
 それで何の用かしら。おかげさまで、仕事を押し付けられて忙しいのだけれど。」
「何を言う。君たちならその程度の仕事は難しくないはずだ。
『ガンマ』や『ニュー』はいないのかい?彼女たちがいればとっくに終わってもおかしくないだろうに。」
「茶々を入れに来たのなら帰ってくれないかしら?」
「気を悪くしたのなら失礼したね、褒めに来たのさ。
 街を張っていた式神使いを殺したのだろう?おかげで互いに動きやすくなった。
 流石は『シャドウガーデン』。とでも言っておこうか。」

 シャドウガーデン。
 世界を裏から牛耳る悪魔の教団。唯一その存在に気が付いた男を筆頭に、彼に救われた才女たちが教団の壊滅のために裏表問わず勢力を広げ続けた、国家規模の秘密組織。
 その組織の幹部筆頭…首魁である男は組織運営に全く関わらないでいたために、事実上のトップを務めた女こそが、アルファと呼ばれたこのサーヴァントだ。
 英霊になった際にその逸話は宝具となり、相応の魔力こそ要するものの秘密結社の構成員たちを呼び出すことを可能にした。
 街をかける黒衣の女たちの正体も、万灯が言った『ガンマ』や『ニュー』も、シャドウガーデンのメンバーである。

 ―――つまるところ、この万灯という男は自分の押し付けた仕事をさせるために秘密結社の精鋭たちを呼び出せと言っていることになる。
 決して軽んじているわけではない。むしろ万灯はシャドウガーデンという組織の能力を高く評価していた。
 陰に潜んでの暗殺能力、市政に紛れる諜報能力、表社会にも権力を持った逸話からなる経営能力。
 シャドウガーデンの力はどれをとっても高水準だ。
 万灯のいう通り、彼女たちがその気になれば一企業の運営だろうと容易にこなすだろう。
 呼び出すために消費されるマスターである万灯の魔力も馬鹿にならないが、それだけの価値があると万灯は判断していた。

 評価のうえでの発言なのはアルファにも分かるが、傲慢な言い回しにむっとさせられるのは仕方がないことだろう。
 そうした思いは出さず涼しい顔でアルファは返す。

「…言いたいことはあるけど、素直に受け取ることにするわ。
 あなたの玩具も、役立ったのは事実だし。」

「それはよかった。
 君たちのような優秀な者がメモリを気に入ってくれるのは、私としても喜ばしい。」

 万灯が胸ポケットから何かを取り出した。
 上げられた左手の中で、握られた二本の小箱かぶつかる音が響いた。
 手のひらほどの大きさの黄と水色のUSBメモリ。
 冬木の町にはないはずの、人を超人に変貌させる魔性の小箱。
 ガイアメモリと呼称される道具を見せつける万灯の顔は、アルファにはどこか誇らしげなものに見えた。

「いつの間に回収したのよ。」
 黄色の『オウルメモリ』と水色の『インビジブルメモリ』。
 どちらもアルファが万灯から手渡され、シャドウガーデンのメンバーに貸し与えたものだ。

 梟の記憶を宿したメモリにより飛行能力と察知能力を得た者が、隠れ潜むキャスターのねぐらを探し出した。
 不可視の記憶を宿したメモリにより視覚探知をすり抜けた者が、キャスターをその手で暗殺した。
 陰陽師のキャスターを暗殺するにあたって、どちらも大きく役立った。
 いずれ万灯に返却しようと探してはいたが、既に万灯自身が回収していた。
 見つからないわけだとアルファは肩をすくめる。

「君が呼び出した者たちがこの世界にとどまれる時間は限られる。
 メモリを持ったまま彼女たちが退去し、行方知れずのメモリが街に残るのは私としても本意ではないのでね。回収させてもらったよ。」

 随分と手が早い。大方どこかでシャドウガーデンの暗躍を監視していたのだろう。
 黙って話を聞くアルファをよそに、「オウルにインビジブルか、いい選択だ」とアルファの選択を評価した。
 万灯がアルファに貸し出したメモリは他にも数本、使えば広範囲を破壊できるような派手なメモリもあったのだが。アルファが選んだのはこの二つだった。

「余計な破壊や戦闘を生まず、暗殺と探知にこれほど適したメモリはない、私でもこの二つを選ぶだろうね。」
「超人になる道具を使う割にずいぶんと慎重じゃない。」
「当然だとも。警戒すべき相手が多数いる中で、リスクをとる必要はない。
 君もそうだろう?同じ『裏の街』に動く者として、不要な戦いはすべきではない」

 君たちならば、『街の影』といったほうが適切かな。などと万灯は軽口を続ける。

 アルファがシャドウガーデンという秘密結社に属していたように、万灯も表社会だけに収まる人間ではなかった。
 二人で一人の探偵が活躍する、風の吹く街。
 その裏にある、才ある超人のみが住むことを許される町。『裏風都』
『街』とはずいぶん大きく出たなというのがアルファの率直な感想ではあったが、ガイアメモリの力を実感した今となってはその言葉も誇大なものではないのだろう。
 アルファをしてそう思わせる力が、その小箱にはあった。

 企業の会長という役割を捨て―――元々いた街でも、万灯は会長という役職を裏風都での暗躍のために捨てていたのだが―――、
 電脳の街でサーヴァントと離れて活動する裏で、メモリの力に呑まれた才ある超人たちを集めているのだろう。
 万灯雪侍というマスターもまた、サーヴァントであるアルファとは違う形でこの町に根を張る『陰』であることに間違いなかった。

「ではそろそろ失礼するよ。必要な時は連絡してくれたまえ」

 スーツの内ポケットから、万灯は二つのものを取り出す。
 一つは楕円形の白い機械。
 その中央には黄金色の球体が埋め込まれ、万灯が臍下に機械をつけると腰と固定するようベルトが生成された。
 もう一つは、これまたガイアメモリだ。
 黄金色の塗装が全体に施され、オウルやインビジブルとはそもそものランクとして異なる逸品であることは容易に想像ができた。
 万灯本人が愛用する。極光の記憶を宿したメモリであった。

「オーロラ」
 重々しいボイスが、メモリから流れた。

 メモリに刻まれた銘は、天幕のごときA。
 記された記憶は、Aurora。
 白いベルトの右側からメモリを挿入した万灯、その全身を光が包む。
 アルファの知る災厄の魔女と同じ名をした記憶が、万灯雪侍を超人に変える。


 顔のない、隆々とした肉体の怪人が立っていた。


 その全身が星のない夜空を思わせる紫紺に染まり、頭頂部には長く伸びた金色の髪が一本に束ねられている。
 その名の通りオーロラのごとき腰布を身に着け。掌があるはずの両手首から先は揺らめく虹色の靄のようにで、物質の形を成していなかった。
 オーロラ・ドーパント。それが万灯雪侍のもう一つの名前だ。

「最後に一つ。君はメモリを玩具といったが、私はそうは言わない。」

 怪人となった万灯が、虹色に揺らめく指を立てる。
 目も鼻もない顔で、口角を上げて男は笑う。

「“切り札”さ。
 裏でも陰でも、我々が勝つためのね。」

 オーロラの手からまばゆい光が放たれ、アルファの視界を奪う。
 彼女が目を開けると、怪人の姿はそこにはない。
 地上15階にある会長室に音もなく入り込んだように、痕跡さえ残さず消え去った。
 これもまたガイアメモリの力の一端なのだろう。



「眩しい街ね
 夜はもっと、静かであるべき。
 彼なら…きっとそう言うわ。」

 それは、ただ光が多いからの言葉ではなかった。

 暴虐をふるい、牙を研ぐ。
 願いをかなえる黒羽に唆された者たちが、この地には無数にいる。
 万灯の様な欲望を持ったマスターたちが、この町にはあふれている。
 アルファもまた無欲を是とするような高潔な人物ではないが、力を求める人間が行き着く先はよく知っている。

 好きになれない街だと、アルファは思う。
 ぎらぎらと力を求める存在が、この電脳の町には多すぎる。
 魔人の力を求め、無辜の娘たちを苦しめ続けた教団のように。
 魔性の小箱を手にした、超人の束ねる男のように。

 アルファは、万灯雪侍はマスターだと認めてはいなかった。
 協力者としての関係性は良好ではあるが、主従としての関係は成立さえしていない。
 魔力のパスは繋がっているし、令呪の効果対象でもある。だがそれは万灯を主と呼び慕う理由にはならない。

 万灯もまたそれを容認していた。無関心といったほうが近いようにさえ思えたが、互いにそのほうが都合がよかった。
 万灯は『裏風都』、アルファは『シャドウガーデン』
 両組織は味方であり事実上のトップ同士が主従でも、思想も願いも異なり、仲間ではなかった。

「シャドウ…」
 アルファの宝具をもってしても、唯一呼び出せないシャドウガーデン。
 本来の首魁である男の名を、少女は儚げにつぶやいた。

 英霊となった今もなお、彼女の主は天に広がる極光(オーロラ)ではなく。
 街を密やかに駆ける、どこまでも深く遠い影(シャドウ)なのだから。


【クラス】
アサシン
【真名】
アルファ@陰の実力者になりたくて!
【ステータス】
筋力C 耐久D 敏捷C 魔力B 幸運A 宝具C++
【属性】
中立・悪・地
【クラススキル】
気配遮断:B+ サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
単独行動:B マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
【固有スキル】
陰の実力者A+ 表の顔を持ちながら裏では秘密結社の幹部として活動していたことを示すスキル。 
看破能力を持たない相手にアサシンは普通の人間と認識され、自ら正体を明かした場合を除いてサーヴァントとして認識することは出来ない。 気配遮断とカリスマと統合される特殊スキル

悪魔憑き(偽) B+ 後天的な魔力の過剰暴走を原因とする奇病を受け、社会から排斥された経歴を表すスキル。
過剰な魔力は完璧にコントロールされ、アサシンの肉体強度及び魔力量が大幅に強化されている。無辜の怪物に類するスキル。

万能の才女 A 超人集うシャドウガーデンにおいて、その筆頭としてあらゆる分野・技能に精通し。事実上の統括として活動したことを示す。
当人の才覚の高さ、シャドウに与えられた技術・知識を基盤に、裏表問わず国家に根を張る秘密結社として活動したことを示すスキル
【宝具】
『陰園の刃・主命に駆けよ(シャドウガーデン・シャドウオーダー)』
ランク:EX 種別:対都宝具 レンジ:1~99 最大補足:666人

秘密結社『シャドウガーデン』のメンバーを呼び出し、指揮する宝具
召喚される者達は全員が女性。D~Cランクの『悪魔憑き(偽)』『陰の実力者』『単独行動』のスキルを有し、市政に紛れて独立して行動する。
現界している1日程度の時間に、個々の裁量で暗殺や諜報といった行動を行う。
半日から一日ほどで彼女たちは退去するためそのたびに再発動する必要はあるが、常時活動できる配下を呼び出せる破格の宝具。

欠点として、召喚行為そのものには人数に比例して莫大な魔力を要すること。
彼女たちとの連絡には携帯電話など別の手段を求められ、マスター・アサシンともどもその状況を把握することはできないことがあげられる。
加えて、この宝具で召喚した者たちに令呪の効果は適用されない。
マスターとアサシンの関係が悪い場合、令呪を無視してマスターに刃を向ける可能性がある

シャドウガーデンの幹部 七陰全員が所有する宝具であるが、呼び出せる数・性質は使用者によって変化する
アルファの場合は特にランクが高く、常時活動できる個体が10名前後 『単独行動』のスキルを排して短時間のみ呼び出す場合は40名程が上限となる。
呼ばれるものも特に多様であり、戦闘・隠密・経営・諜報と幅広い
ランクが高まった結果、この宝具で『七陰』と呼ばれるシャドウガーデンの幹部を務める才女たちを召喚することも可能になる

【weapon】
スライムボディスーツ及びスライムソード
魔力を流すことで強化・変形されるシャドウガーデンの共通武装
【人物背景】
金髪に青い目をしたエルフの美女
ディアボロス教団の壊滅のために活動する秘密結社『シャドウガーデン』の幹部筆頭
頭目であるシド・カゲノーはシャドウガーデン・ディアボロス教団ともどもその存在を把握していないため、同組織の事実上のトップ
戦闘力・頭脳・統率力・美貌とあらゆる面で高いスペックを持つ完璧超人
あるいは、憧れの恩人に追いつきたい、一人の少女

電脳の冬木においては、万灯の役割を代行し『オリヴィエ』という偽名でカイ・オペレーションの会長を務めている。
『陰の実力者』のスキルにより、この状態のアルファはサーヴァントだと認識されない。
【サーヴァントとしての願い】
シャドウの幸福
ディアボロス教団及び類似した思想の組織の根絶

【マスター】
万灯雪侍@風都探偵
【マスターとしての願い】
計画の成就
【能力・技能】
怪人に変身する能力を持った超人たちをまとめ上げるカリスマ性

所持するガイアメモリ『オーロラメモリ』及びガイアドライバーrexを用いた。『オーロラ・ドーパント』としての高い殺傷能力・隠密移動
【人物背景】
人材育成企業 カイ・オペレーションズのCEOだった男
財団Xの母体の一部であったこの企業で、ガイアメモリの存在を知った。
現在は会社からはなれ、ガイアメモリにより超人的な能力を得た集団を束ねる組織『裏風都』の首魁として活動している

寛容かつ優雅さを忘れないが、自身に不要だと判断した存在を一切の容赦なく切り捨てる冷徹な完璧主義者。
天使を名乗る悪魔

令呪は、揺らめく天幕の形
【補足】
参戦時期は原作9巻にて、ヒカルが裏風都に加入した後

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最終更新:2023年11月06日 21:22