私、アーリシアは聖杯に何を願いたいのだろうか。
そもそも聖杯が欲しいのだろうか。
それすら、今の私には分からない。
私の人生が方向づけられたのは、五歳の時だったと思う。
優しくて大好きだったお父さんとお母さんが魔物の襲撃で死んでしまい、私は孤児院に送られた。
だけどその孤児院は酷いものだった。
孤児院を管理する老婆は朝と晩に食事のスープとパンを与えるだけであとは何もせず、孤児院のことや他の関係ない仕事を押し付けてきた。
おまけにその食事や寝具代わりの毛布も、前からいる他の孤児に奪われ続けた。
殺されると思ったことは一度や二度じゃないが、誰も助けてくれたりしない。
孤児なんて、関係ない人からすれば厄介でしかないからだ。
それでも二年間耐えてきたけど、七歳になった時私は大事な人が来るから身ぎれいにするよう老婆に言われた。
この意味が分からない私じゃない。人買いに売られると思った私は孤児院から逃げ出した。
でも生きる術なんて何も持っていなかったから、裏路地で膝を抱えるしかなかった。
そんな時、あの女が現れた。
女はナイフで私を殺そうとしながらこう語った。
私がいるこの世界は女曰く、乙女ゲーム『銀色の翼に恋して』という物語の世界で、私はその主人公らしい。
女は前世でそのゲームのファンだったらしく、転生したからにはなんらかの形で物語に関わりたかったが、出来なかったらしい。
だから女は私に記憶と人格を映して、『アーリシア』に成り代わろうとした。
その為に使う魔石というものに私が触れた瞬間、女が持っていた知識が流れ込んできた。
それは私が住んでいる世界の常識や知識だけでなく、今聖杯戦争をしている日本という国についてや、他にも様々なものだ。
その時、私が思ったことは猛烈な怒りだった。
この世界に来て調べれば、製作にはお金や労力がかかることは理解できても『乙女ゲーム』がくだらないものにしか見えなかった。
いや、乙女ゲームだけじゃない。
あの古いだけの孤児院も、小賢しい孤児たちも、強欲なだけの老婆も、虐待を知りながらも目を背ける町の人間も、あの女が抱えていた想いも。
なにもかもが、くだらなかった。
そして、そんなくだらないものの為に私が生まれたのかと、そんなことの為に私のお父さんもお母さんも死んだのか!? と、腹立たしくて仕方なかった。
私は私を乗っ取ろうとする女を殺して、持ち物を奪った。
次に孤児院の老婆を殺した。
もし生かしていれば、売り飛ばそうとしているのに逃げ出した私をいつまでも追い続けるだろう。
しかし死んでしまえば後始末で精一杯になり、私を探すどころではなくなる。
私は『乙女ゲーム』を拒絶する。
私を彩る運命なんてなくなって、人は生きていける。
それは、聖杯に対しても同じだ。
最初は、馬鹿にされているのかと思った。
私の思いは間違いで、縋ればいいと、運命に従っていればいいんだと言っているのかと思った。
だから、聖杯なんて必要ないと思っていた。
でもここには、死んだお父さんとお母さんがいる。
無論、本物じゃない。これがNPCと呼ばれる、ただの舞台装置だと頭では理解している。
だけど偽物のお父さんとお母さんを見ていると、本物に会いたくなってしまう。
生き返らせる手段なんて知らなければ、ただの優しい夢幻で済むのに。
その為に敵ならまだしも、何の関係も罪もない人を殺したいとは思わないのに。
ねえライダー。私のサーヴァント。
私は次、どうすればいい?
死んだ人を生き返らせるために人を殺していいと思う?
それとも、そんなことは許されない?
どっちだと思う?
そんな私の縋るような言葉を
「それを決めるのは俺じゃないよ」
ライダーは切り捨てた。
「それは、あんたが決めることだ。
あんたが考えて、あんたが答えを出さなきゃいけないことだ」
ライダーは、自分で決めろと言ってきた。
だけど彼の言っていることは全くもって、その通りとしか言いようがなかった。
◆
そもそもなぜこんなことを話したかというと、最初はライダーが私に願いの確認をしてきたことがきっかけだった。
ライダーとしては、私の願いが万が一にも自分の家族を害さないかを確かめたかったらしい。
場合によっては自分が消滅しても私を殺すかもしれない。そう思わせる眼つきをしていた。
でも私の話を聞いて、ライダーはとりあえずその気は失せたらしい。
「ライダーは、会いたい人とかいないの?」
「俺も、死んだ人間に会いたくないわけじゃないよ。
ビスケット、シノ、オルガ。鉄華団の皆。俺にとっての、家族。
でもさ――」
ここでライダーは一度話を切り、私の方を見てこう言った。
「あんたの話で出てきた転生者って奴に鉄華団の皆もなってて、前より幸せになってるのなら、俺はそれでいいよ。
……いや、それとは別に会いたい奴はいるな」
「……誰?」
「俺の子供」
ライダーの言葉に、私は思わず驚く。
目の前の私のサーヴァントは、死んだお父さんよりもずっと若い。なのに子供がいるとは思わなかったのだ。
「アトラやクーデリアがいるから、多分俺達とは違って大丈夫だと思うけど、それでも一回くらいは会ってみたいな。
俺、その子供が生まれる前に死んだから。
その為に俺は聖杯戦争に来たんだ」
「じゃあ、私が戦うのに迷ってるのは都合が悪いんじゃないの?」
「まあね」
ライダーの言葉に、私は気落ちしそうになる。
最初は拒絶するはずだった聖杯に願いを託すことは、当たり前だがサーヴァントには都合が悪いのだから。
サーヴァントに全部渡せば私は聖杯がいらないと言いきれるけど、今はそんな気にはならない。
「でも俺は、子供を無理矢理戦わせるなんてのは、嫌だな。
オルガなら、絶対無理強いはさせないから。
そりゃ、最初は殺す気で聖杯戦争に来たのにやっぱりやめるとかだったら俺も怒るかもしれないけど、そうじゃないしさ」
「じゃあ私が聖杯戦争したくないって言ってもいいの?」
「いいよ。別にここで聖杯取れなくても、俺は他の聖杯戦争に召喚されればいいだけだし」
ライダーの言葉は、強かった。
迷いがない。恐れがない。いつだって前を見据えている。
私の理想は、もしかしたら目の前のライダーかもしれない。
……そういえば、私はまだあることを聞いていなかった。
「ねえライダー」
「何?」
「ライダーの真名、教えて」
真名。それはサーヴァント本来の名前。
迂闊に明かせば逸話から弱点を突かれるらしいから、あまり明かさないことが望ましいらしい。
それでも私は、思わず聞いてしまった。
だけどライダーは特に悩むことなく、すんなり答えてくれた。
「三日月・オーガス」
【クラス】
ライダー
【真名】
三日月・オーガス@機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ
【パラメーター】
筋力A 耐久B 敏捷D 魔力D 幸運D 宝具C(バルバトス騎乗時)
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
対魔力:C
魔術への耐性を得る能力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
Cランクでは、魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。
騎乗:‐
このスキルは機能しておらず、後述の阿頼耶識システムが代わりとなっている。
【保有スキル】
鉄華団の悪魔:A
ライダーが生前称された悪名がスキルとなったもの。
このスキルは同ランクの戦闘続行と無冠の武勇として扱われる。
また、このスキルの持ち主は反体制やアウトロー。あるいは混沌属性のサーヴァントから良い印象を持たれやすくなる。
逆に警察などの秩序側。あるいは秩序属性のサーヴァントからは悪印象を抱かれやすくなる。
なお、どちらの印象であってもあくまで抱かれやすくなる程度で、必ずしも厚遇や敵対されるわけではない。
阿頼耶識システム:A
脊髄にナノマシンを注入し、パイロットの神経と機体のシステムを直結させることができるようになるインプラント機器。
このスキルの持ち主は、阿頼耶識のシステムと連結できるのならばどのような機器類でも操縦が可能となる。
単独行動:C
本来ならアーチャーのクラススキル。ライダーは生前遊撃隊長として単独、あるいは少数で戦い続けていたためこのスキルを得た。
マスターとの繋がりを解除しても長時間現界していられる能力。
Cランクならば1日は現界可能。
心眼(偽):B
直感・第六感による危険回避。虫の知らせとも言われる、天性の才能による危険予知。
視覚妨害による補正への耐性も併せ持つ。
【宝具】
『悪魔を冠する狼の王(ガンダム・バルバトスルプスレクス)』
ランク:C 種別:対艦宝具 レンジ:1~100 最大補足:1000
三百年前、厄祭戦にて用いられた七十二機のガンダム・フレームのうち一つ。
天使の名を冠するモビルアーマーに対抗するために作られた兵器。
宝具展開時は魔力を多大に消費するが、反永久機関であるエイハブ・リアクターを内蔵しているため、宝具展開中の魔力は自力で捻出可能。
捻出した魔力をマスターに還元することでマスターの魔力も回復できる。
また、エイハブ・リアクターの効果で宝具展開中は、レーダーなど電波や電気を用いた機材が使用不可となる。
さらに、宝具展開中はライダーが生前ハシュマルというモビルアーマーを単独で撃破した逸話から、天使の名を冠する存在に与えるダメージが上昇し、勝率も本来より上昇する。
【weapon】
ライダーが生前使用していた銃。本物は最終的にライドが所持者となった銃。
サーヴァントとなった彼の武装なので多少の神秘は宿っているが、対魔力スキルの持ち主には通用しない。
ライダーの好物である食べ物。植物の種のような外見の携行食。
たまにハズレが混ざっている。
【人物背景】
破滅の運命に抗った少年。
【サーヴァントとしての願い】
自分の子供に少しでも会いたい。
けど、マスターが聖杯戦争に乗り気じゃないなら自衛程度にしか戦わない。
【マスター】
アーリシア@乙女ゲームのヒロインで最強サバイバル(漫画版)
【マスターとしての願い】
お父さんとお母さんとまた一緒に暮らしたい……?
【weapon】
”あの女”が持っていたナイフを奪ったもの。貴族の自決用なので切れ味はあまりよくない。
【能力・技能】
”あの女”が持っている知識の一部。
転生者である彼女にあるのは現代日本で生きていた時に得たものと、アーリシアの元の世界で得た知識。
ただし、乙女ゲーム『銀色の翼に恋して』の本質部分、ストーリーや登場キャラに関してと、”あの女”の前世部分に関してはかなり曖昧。
知識幅は広いが、あくまで一個人の物なので興味がなければいい加減だったり、間違って認識している物もある。
また、あくまで知識でしかないので、実践できるかは別問題。
見る者を見惚れさせる美しい外見の持ち主。
アーリシアは本来なら多くの男性に好かれ、同性であっても見惚れさせるほどの美少女となるはずだった。
とはいえ今の彼女は七歳。見惚れさせることができるのは精々同世代くらいだろう。
【人物背景】
運命に抗い始めた少女。
【方針】
ライダーの宝具は出すと目立つので、あまり使わないように立ち回る。
だがそもそも、今はまだ聖杯を狙うかどうか迷っている最中。
【備考】
参戦時期は1話終了後です
最終更新:2023年11月06日 21:42