【注意!】
※このSSは、現在公開中である映画『プリキュアオールスターズF』のネタバレを大いに含んでいます。閲覧の際はどうかよくご注意ください。
それはまさしく、"絶望"と形容する他ないものだった。
『天体制圧用最終兵器ゼットン』、そう呼ばれるものが、視界に映っている。
それは、1TK(1テラケルビン)の熱量の火球をもって、地球を太陽系ごと消滅させるために起動された兵器。
たとえ火球の発射前に破壊しようとしても、巨大であることと備え付けられた様々な防御兵器等がそれを阻む。
―――きっと、『みんな』には、僕もこんな風に見えていたのだろう。
―――まあ、流石に太陽系ごと破壊する力はなかったと思うけど。
けれども、そんな絶望の化身を相手に立ち向かった者がいた。
今見ているのは、その者が見ていた光景だった。
そいつは、たった一人で"絶望"へと突撃していった。
地球の人々の、想いを背負って。
宇宙空間で空を飛びながら、拳を突き出して。
―――これが、彼の「強さ」か。
―――まるで、人数は違えど、あの時僕に向かってきた『みんな』のようだった。
その拳は、ゼットンに届いた。
そして、地球人の英知も借りていたことにより、その拳がゼットンを倒した。
けれども、その代わりに……
◆◇
「……ター、マスター」
「ん…」
人のいない時間帯である、夜の公園でのことだった。
ベンチの上で、一人の少女が寝ていた。
少女は淡く緑がかった髪色をしており、服はフード付きの黒っぽいパーカーを着ている。
彼女は、呼び掛けられたことにより目を覚ます。
彼女を起こしたのは、スーツ姿の成人男性だった。
「……フォーリナー」
「マスター、そろそろ時間だ。休息はここまでとしよう」
フォーリナーと呼ばれた成人男性は少女の言葉に応える。
彼は、少女の聖杯戦争におけるサーヴァントだ。
「…もうそんな時間か。体を定期的に休ませないといけないなんて、これが人間になるってことなのかな」
少女はそんなことを呟く。
その内容通り、彼女は元々は人間ではなかったが、それについてはまた後述する。
彼女の名はプリム、『プリキュア』だ。
それも、まだなったばかりの新米だ。
プリムがこんなところで寝ていたのは、帰るための家が存在しないため。
彼女には、ここ電脳世界の冬木市において、ロールが割り当てられてなかった。
生活基盤が、整っていなかった。
おかげで夜中に街中を歩いていた時なんかは、警察から補導されそうになったこともあった。
そういうのは面倒なため、そういう時は走って逃げて回避した。
「……ねえ、フォーリナー。何で君は、僕に召喚されたのかな」
プリムは起き上がり、ベンチの上に腰掛けながら、フォーリナーにふと声をかける。
ちなみに、実はサーヴァントとしてのクラス名を呼ぶのは、プリムとしては少し歯がゆい気持ちがあった。
フォーリナー(降臨者)だなんて、まるで自分のことも言っているかのような感覚があるためだ。
「僕と君とじゃ…やったことがまるで正反対だ」
プリムは表情に少し影を落としながらそんなことを言う。
「ねえ、どういうことなんだろうね……『ウルトラマン』」
そうして彼女は、自らのサーヴァントを真名で呼んだ。
「きっと僕は、本当なら君みたいのが倒しに来るような存在だったのだろうに」
◇
本来のプリムは、人間ではなかった。
遠い宇宙から来た、怪物だった。
それも、様々な星を滅ぼしてきた、とても危険な存在だった。
元々の名は、シュプリームといった。
目的は、自分が宇宙最強であることを確かめることだった。
けれども、地球で『プリキュア』に出会ったことで、変化が起きてしまった。
一度はプリキュアに勝ったが、これまで戦ってきた中で最も強かった彼らの力に興味を抱いた。
そして、自分もプリキュアになろうとした。
そのために、一度地球を破壊して、実験場として作り直した。
自らの肉体も、形は人と同じに作り替えた。
けれども、形だけの真似事で、プリキュアになれるはずがなかった。
理解できるはずも、なかった。
◆
「だから僕は、復活したプリキュア達に負けた。今こうして生きていられるのは奇跡か、それとも、あいつがいたからか…」
その言葉には、後ろ向きめな感情が含まれているようだった。
契約のラインを通して見たサーヴァントの記憶と、自分とを、比較してしまっているためにそうなった部分もあるようだった。
一度地球を破壊した自分と、地球を守ったフォーリナー。
それぞれ別宇宙の出来事とは言え、全く逆の行いだ。
それにそもそも、彼は宇宙の脅威を排除することが仕事のようだった。
「マスター、君はもしや、罪の意識というものを感じているのか」
「…そうなのかな」
これが罪の意識というのなら、それはきっと初めての感覚だ。
プリムは…シュプリームは確かに、これまで本当に酷いことをした。
様々な星々を無差別に襲い、滅ぼしてきた。
しかも、プリキュア以外はそれまで戦ってきた者達がどんな者達だったか、覚えていない。
こんなことを意識してしまうのもまた、自分のサーヴァント…ウルトラマンの記憶を見てしまった影響だろうか。
「僕はこう思ってしまっているのかな……僕は本当に、プリキュアになっていいのかと」
プリキュア達に敗北して初めて、ようやくプリキュアのことを理解し始めた。
そして、自分はプリキュアの仲間と共にある姿に憧れていたことを自覚した。
それを、自分が作り、一度は役に立たないからと捨てた妖精…プーカに分からされた。
それにプーカは、自分より先にプリキュアになれた。
そんなプーカから手を差し伸べられたからこそ、改めて本当のプリキュアをやろうとも思えた。
しかし、ここにそのプーカはいない。
プーカのいない自分に、本当に今度こそがあるのか、そんなことを心の片隅で思ってしまっていたのかもしれない。
◆◇
「マスター、一応言っておこう。私と君の言うプリキュアとやらを、混同するべきじゃない」
「……なるほど。確かに、それもあるかもね」
夢で見たフォーリナーは、プリキュア達と違いたった一人ではあれど、宙に浮かぶ星を滅ぼす存在へと立ち向かっていった。
それにその前には、仲間に送り出されていた。
たとえその時の場にはいなくとも、彼は一人ではなかったということだ。
そんな姿に、プリキュア達に見出だしたものと同じものを少し感じていたのかもしれない。
「…私が何故、君に召喚されたのかと言っていたな。確かに我々は、人間へのアプローチは真逆だったと言えるかもしれない。だが、君も人間を知ろうとした」
「そこは一致していたからってこと?僕がやったことには何も思わないの?」
「何も思わないわけじゃない。けれども、君はもう変わっているだろう。それとも、叱ってほしいのか?」
「さあ…どうなんだろうね」
二人の会話は平行線上になってかみ合わなくなってきていた。
それを感じ取ったフォーリナーが、話題を変える。
「…そういえば、この話をまだしていなかった。私はそもそも、人間を殺している」
「え?」
その告白に、プリムは意外性を感じた。
これまでにプリムがフォーリナーについて知らされていたのは、地球とそこに住む人々を守っていたことまでだった。
夢で見た光景も、そんな場面だけ見れた。
けれども、プリムがまだ知ることのできていないオリジンがあることを、知らされた。
これまで感じていたほど、フォーリナー…ウルトラマンは完全に近い存在ではないことを示されてきた。
「私が最初に地球に降り立った際、その衝撃で巻き上げた岩石を衝突させて死なせてしまった。その人物こそ、私が融合したこの人間「神永新二」だ。私は、神永と融合していた時期を全盛期とみなされ、この状態で召喚された」
「……そうだったんだ」
フォーリナーが人間と融合している状態だったということ、それも今初めて知ることになった話だ。
今までの会話が無ければ、本人の口からこの話を引き出すことはなかったかもしれない。
「神永は死の直前、自分より弱い個体である子供を守ったこと。当時の私はその行動を理解できなかった。だから、私は人間に興味を抱き、融合した。そうして私は、人間社会の中で過ごすことになった」
「…なるほどね」
以前の自分であれば、神永の行動を理解できないのは同じだっただろうなと、プリムは思う。
同時に、フォーリナーの言葉の意味と、彼が何故自分の下に来たのか少し分かりかけてくる。
自分たちは確かに対照的だが、根元の部分で僅かに何か、通じる部分を感じてきた。
「だが私は、結局人間を理解することはできなかった。いや、何も分からないからこそ、人間なのだと思った」
「ん?そうなの?」
「ああ。だからこそ、人間のことをもっと知りたいと願った」
これもまた意外な答えが出てきた。
本物の人間を守っておきながら、そんな言葉が出るとは思ってなかった。
「マスター…君だって、本当に人間のことを理解できているのだろうか。例えば、負の側面等といったものは認識できているか?」
「それは…」
そう言われてみると、少し反論できないところもあった。
プリムの知る人間像は、あくまでプリキュアを通じて見たものがほとんどだ。
プリキュアのことは、理解することが出来始めてきていた。
けれども確かに、人間全体についてはまだ知らないことが多い。
人間社会での暮らし方なんかも、全く分かっていない。
それにプリキュアについても、流石に全部を知っているとは言えない状態であった。
「マスター、私が君の下に来ることになったのは、人間をもっと知るためであると私は解釈している。人間になったばかりの君を、先人として、共に学ぶ者として、手助けをすることが私に求められている役割かもしれない」
「………そういうこと、なのかな」
フォーリナーはプリムに対し、励ますように声をかける。
「それと、君がご執心にしている『プリキュア』というものについても、私はもっと知りたいと考えている。それもよく知れば、人間の新たな一面が見えるかもしれない」
「!……いや、君が想像しているよりも、プリキュアは単純なものじゃないかもよ」
「それは望むところだな」
プリムが発した言葉は挑発的なところもあったが、口角が少し上がっていた。
自分が憧れた存在に興味を持ってもらえたことを、自覚無しに、嬉しそうにしているようだった。
そうして自分のマスターが僅かながらも気力が戻ったような状態になったことに、フォーリナーも微かに笑みを浮かべる。
「……本来の相棒ではないが、我々は同じ道を行くことは可能だと考えられる。たとえ、元は対照的であってもだ。とりあえずは、この聖杯戦争の間は互いに"相棒"ということにしておいてくれ」
「………分かったよ。それじゃあ、改めてよろしく。『ウルトラマン』」
「ああ、こちらこそだ。『シュプリーム』」
「ちょっと、そっちで呼ばないでよ。変身後ならともかく」
「すまなかった。言い直そう。『プリム』」
「…うん」
☆
遥か宙の彼方に、2つの星があった。
それらはどちらも、『花』を見た。
1つは、花をその場で見守ろうとした。
1つは、花を摘み取り自らに飾り付けようとした。
残そうとした星は、花を知るために花になろうとして散った。
奪おうとした星は、花に滅ぼされ自らの衛星と共に花となった。
いや、もしかしたら花と星は、逆だったかもしれない。
如何にせよ、どちらも、本来の衛星はここにはない。
それでも、彼らは共に行くしかない。
彼らは痛みを知った。
それが、彼らを引き寄せたのかもしれない。
彼らは、『強さ』を知っている。
そしてこれからも、学んでいく。
よりもっと、深く。
★
【クラス】
フォーリナー
【真名】
神永新二/リピアー/ウルトラマン@シン・ウルトラマン
【ステータス】
筋力:E 耐久:E 敏捷:D 魔力:D 幸運:D 宝具:EX (通常時)
筋力:EX 耐久:EX 敏捷:A++ 魔力:D 幸運:D 宝具:EX (宝具解放時)
【属性】
中立・善
【クラススキル】
マルチバースの外宇宙の存在、その力を身に宿したものであることを示すスキル。
フォーリナーの人格は来訪者であるリピアーそのものだが、地球人類である神永新二との融合が精神に影響を与えていることによりスキルランクは規格外のものではなくなっている。
単独行動を可能とするスキル。
マスターがいない状態でも現界を一日程度維持可能。
生前においてフォーリナーは、バディを放っておいて単独行動することが多かったためこのスキルを得た。
乗り物を乗りこなすためのスキル。
このランクならば、大抵の乗り物はなんとかなら乗りこなせる。
生前、神永新二としての車を一応所有していたため、このスキルを習得。
【保有スキル】
宝具使用時のみに発動。
保有する魔力を、本来のエネルギー源である重元素スペシウム133に置き換え、扱うスキル。
このエネルギーは腕を十字に組むことで光波熱線として発射することも可能。
また、エネルギーを輪っか状に回転させた光輪を飛ばすこともできる。
また、スペシウム133で構成された体は、電撃や放射能を含む熱線等の攻撃を無効化してきた。
それによる昇華も少しあり、魔力による攻撃もある程度無効化可能となっている。
宝具使用時のみ発動。
空中を音速を超えるスピードで飛行可能。
宝具解放時にのみ発動。
人間と融合している影響で、魔力やエネルギーの消耗が非常に激しくなるデメリットスキル。
他の生命体との融合を果たし、相手の命を繋げるためのスキル。
既に神永新二と融合している状態での現界のため、スキルとしては失われている。
【宝具】
『β-system』
ランク:EX 種別:対城・対界宝具 レンジ:1 最大補足:1
ベーターカプセルを点火することで発動。
プランクブレーンと呼ばれる空間に格納された自分の本体を召喚・融合することで身長60m・体重2900tの巨大人型生物「ウルトラマン」へと変身する。
なお、生前においても人類との融合の影響でエネルギー消耗は激しくなっており、更にはサーヴァントの型に当てはめられたことも相まってその燃費はより悪くなっている。
令呪一画分の魔力につきおよそ1分程しかこの宝具の発動の維持は難しいと思われ、激しく活動すればその分さらに短くなると考えられる。
また、エネルギーを大きく消耗した状態だと、体表の赤い部分が緑に変色する。
【weapon】
宝具の発動のために使用するベーターカプセル。
宝具使用時には巨大な体による格闘や、スペシウムエネルギーを利用した光線や光輪、バリアーなどを扱って戦う。
他には、過特隊メンバーの神永新二として配給された拳銃も一応使用可能。
【人物背景】
光の星から生物兵器(地球では禍威獣と呼ばれる)の破壊のために地球にやってきた外星人。
最初に地球に降り立った際、誤って死なせてしまった人間=神永新二が、死の直前に自身より弱い生き物である子供を守ったことが理解できず、興味を持ってその人間と融合した。
その後、禍特隊のメンバーとして禍威獣や外星人達と戦っていく中で、人間のことを知ろうとする。
やがて地球を滅ぼすためにもたらされた、「天体制圧用最終兵器ゼットン」との戦いにより死の淵に瀕したが、そんな時になっても、彼は人間のことは分からなかったと言った。
けれどもそれ故に、人間のことをもっと知りたいと願うようになった。
また、人間の命は短いため、人間になるとは死を受け入れることだとも考える。
それ故に、神永には生き続けて欲しいと思い、自分の命を渡すことを決める。
そんなリピアーの想いを、光の星の同胞:ゾーフィは「ウルトラマン、そんなに人間が好きになったのか」と評した。
ここにおいては、神永新二と融合していた状態を全盛期として再現される形で現界している。
【サーヴァントとしての願い】
聖杯にかける願いはない。
ただ、人間を守り、もっと知っていきたい。
【マスター】
プリム@映画プリキュアオールスターズF
【マスターとしての願い】
聖杯にかける願いはない。
ただ今度こそ、プリキュアとして生きる。
【能力・技能】
本来持っていたシュプリームとしての「破壊の力」等の権能は、人間化したことによりほとんど失われていると考えられる。
けれども、新たに入手した変身アイテム:シュプリームフォンによるキュアシュプリームへの変身は可能と思われる。
キュアシュプリームとしての能力は、真のプリキュアになる前と大体同じで、格闘、ピースサインの2本指の間から放つ電撃のようなビーム等が扱えると推測される。
なお、プリキュアを模倣していただけの頃のキュアシュプリームは白を基調とした衣装だが、真のキュアシュプリームは黒を基調とした衣装に変わっている。
【人物背景】
プリキュア達がとある世界で出会ったプリキュアを自称する人物。
しかしその正体は、遠い宇宙から来て全プリキュアを一度倒して地球ごと消滅させた、史上最強の敵だった。
元の名はシュプリームであり、元々は人型ですらなく、白い体色をした兎と竜を掛け合わせたかのような姿をした巨大な怪物だった。
唯一ある目的は自分が宇宙で最強であることを確かめることであり、そのために様々な世界を巡り、戦い続けてきた。
そしてプリキュアの力の秘密を知るために、自らもプリキュアになろうとしてプリキュアの姿形を模倣し始めた。
だが、様々な要因が重なったことにより、復活したプリキュア達に敗れる。
けれども、プリキュア達が自分のことを消滅させず、その時にかけられた言葉からプリキュアのことをようやく理解し始める。
憧れを自覚し、人間へと生まれ変わり、今度こそプリキュアとして自分が生み出した妖精:プーカと共にふたりで再出発することを決めた。
こうして、怪物:シュプリームが人間へと生まれ変わった存在が、プリム/キュアシュプリームである。
なお、SS内においては便宜上少女として扱って書いてきたが、実際のところは性別は不明である。
この冬木市においてはロールは特に与えられてない。
最終更新:2023年11月06日 21:46