目の前に、果てしなく険しい道が広がっている。
聖杯戦争における現状を表した比喩ではなく、物理的な問題としてプロスペラ・マーキュリーの前にこの問題は立ちはだかった。
それは、工事により掘り起こされた砂利道であり、通り雨によって濡れたアスファルトの大地であった。
健全な人間であれば歩きづらい程度で済むその道に対し、彼女は左腕に握った杖を強く地面に付けた。
GUND、この聖杯戦争における時代設定においては「未来の人工義肢」と言える技術によって彼女の右腕は作られていた。
右腕だけであれば歩行に支障はないが、その先鋭的過ぎる技術の更に悪用と言える兵器運用の無理などが祟り彼女の体はハンドメイドの特殊なヘルメットのサポートが無ければ歩行することも難しい状態となっていた。
そのヘルメットも彼女の世界に彼女の身分で使用するのであれば、まだ普段使い可能だがこの時代に普段使いするのは無理がある。
そのため無理を押して杖を突いて歩いてはいるが、前途多難である。
ロールとしての資産や社会的地位も十分にある、しかしそんなものは一歩歩くのにもおぼつかないこの体を補えるものではない。
数十年前から身に染みていた世界の無常さを思い出しながら一歩を進めた時、雨に濡れた地面に杖を取られてしまう。
危うく転びかけたその時、小さな温もりがその体を支えた。
「助かったわ、キャスター」
プロスペラは己を支える純白の少女に感謝の声を掛けた。
少女が何も言わず、プロスペラを支えながら歩くたびその純白の長髪が揺れる。
夜道の闇の中においても、純白のワンピースに純白の肌が映える彼女はプロスペラのサーヴァント、キャスターだった。
その時、彼女らの前にキャスターの使い魔たる馬車を伴った黒衣の剣士が現れる。
『乗るか?』
「要らないわ、早くしまって。」
彼女の馬車は自動車のように早ければ、悪路もかまわず道を駆け抜けれられるがいささか目立ち過ぎた。
当然、現代の世界に馬車があるというだけで目立つのは当然であるが、彼女の馬車の問題はそれどころではない。
目の前の馬を見る。
これを馬である。と言われてもそう見えない人間は多いだろう。
赤と銀色に錆びついた後方の荷車と同じ色に染まり、髪が顔を覆い隠しているそれを見て馬という生物だと認識できる人間はいないだろう。
これが彼女の使い魔の一端。
果ての国に降った死の雨により変貌した「穢者(けもの)」と呼ばれる生きる屍。
それを自由に使役することが純白の少女の基本戦法であった。
「それより、準備は大丈夫なの?」
『こちらの仕込みは問題ない。
いつ仕掛けるかはお前に任せる。』
「……そう。」
排水溝から巨大な芋虫がこちらを見上げ、電線に留まる赤い目の不気味なカラスが鳴いた。
彼女に浄化され、使役される「穢者(けもの)」の汚れ。
彼女が引き受けたそれは、もはや果ての国そのものと言っても過言ではない軍勢であった。
彼女の軍勢があれば、この聖杯戦争に勝つことは不可能ではないだろう。
(蝋燭みたいで、綺麗だね!)
(やめなさーい!)
そう考えた時、彼女の脳裏に娘が人殺しに手を染めた瞬間が脳裏に過った。
目を瞑りその雑念を頭から追い払う。
復讐を決めた時から、他人の犠牲など気に留めないようになったはずだ。
なぜ今になって躊躇いなど湧いたのだろう。
目を開くと、青い瞳がこちらを見上げていた。
彼女の娘、スレッタ・マーキュリーの目だ。
「スレッタ…?」
「?」
目の前の少女はきょとんとした顔をした。
目の前の少女が首を傾げると、その純白の長髪が揺れた。
彼女のサーヴァント、キャスターは不思議そうな目でその青い両目をプロスペラに向けると、プロスペラはハッと気を取り戻した。
『どうかしたのか?』
「…ここから先は一人で十分よ。ありがとう。」
黒衣の剣士の問いに答えず、プロスペラは杖を突きながらも足早にその場を立ち去った。
どうしたことなのか。あの日、復讐を志した時から彼女は心を鬼とすることに決めたはずだ。
エリクトのため復讐の為幾人もの人間を巻き添えにしながら進み、彼女の娘であるスレッタも必要とあらば巻き込むつもりだった。それなのに、なぜスレッタの面影を己のサーヴァントに見出してしまったのか。
帰り道を急ぎながら、彼女の頭はそんな自問に埋め尽くされていた。
黒衣の剣士は、急ぎ足で帰るマスターの後姿を見送りながら白い少女へと尋ねた。
「これから私たちは彼女のために殺し合う事になるが、それでいいんだな?」
彼らに願いはない。
彼らの過去には耐えがたい痛みがあった。目を焦がす惨劇があった。拭い切れない涙があった。
だがしかし、その上に自分たちが立っている認識があり、その世界を駆け抜けた掛け替えない二人の旅から引くものも足すものもない。
彼らにとって戦う理由とはマスターが全てだった。
黒衣の剣士にとってはそれに不満は無いが、純真な白い少女を巻き込む事だけが一つの躊躇いだった。
「……」
白い少女は何も言わずに黒衣の剣士を見上げた。
彼女には言葉が無い。
「そうか。」
たがそれでも、彼と彼女の間には言葉が無くとも意思が伝わった。
その意志を受け取った黒衣の剣士はゆっくり頷いた。
「そうだな。お前の母も、自分の娘達のために足?いていたな。」
果ての国と呼ばれる地。
穢土の領域から湧き出る穢者に対抗できる白巫女の一族。
その中で子を為す前に激しく衰弱した白巫女に対して国は一つの案を出した。
彼女のクローンとなる子どもたち(リプリチャイルド)を作り出し、それに白巫女の穢れを受け付けさせる計画。
全てが順調に行ったその計画は、最後の最後で頓挫することとなった。
その白巫女が、リプリチャイルドに穢れを引き渡すことを拒絶したのだ。
その選択は、結果として全てを悪い方向に向かわせてしまったけれども。
彼女は、そして全てのリプリチャイルドにはその選択がなにものにも代えがたい“母親”の抱擁であった。
故に少女は、己の娘のために戦うマスターのために戦う事を躊躇わない。
その決意の固い瞳を目にした黒衣の剣士は、静かに頷いた。
もはや、彼にも躊躇いはない。
宵闇の中、黒の剣士と白の少女は決意を新たに、二人で手を取り合いこの町を戦場へ還る一歩を踏み出した。
【クラス】
キャスター
【真名】
リリィ@ENDER LILIES
【パラメーター】
筋力E 耐久D 敏捷C 魔力A+ 幸運B 宝具A
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
陣地作成:A
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
キャスターは穢れの王の力により、地下に禁じられた領域と呼ばれる陣地を形成可能。
道具作成:D
キャスターはレリックと呼ばれる魔術的な道具を作成可能、
【固有スキル】
使い魔:A++
かつて浄化した穢者を使役する能力。
キャスターの中に収められたその穢者はもはや果ての国そのものと言える。
白き巫女:A
穢土より来たる穢者を浄化する巫女。
狂化を持つサーヴァントに対して特攻。
パリィ:C
広く名の知られたアクティブガード。
このスキルを持つキャスターを正面の一撃で破壊することは難しい。
【宝具】
輝く護りの宝具(ENDER LILIES)
ランクB+++ 種別:対穢宝具 レンジ:10 最大補足:9
代々白巫女に伝わる浄化の負担を抑える宝具。
この宝具そのもの・またその中に宿る白巫女の願いの力によりリリィは穢れの負担を抑えて行動することが可能。
逆に言えば、この宝具が無くなればリリィの中の穢れの枷は無くなり、穢れの王と呼ばれる存在になり果てることが可能。
古き魂の残滓(Quietus of the Knight)
ランクC- 種別:対穢宝具 レンジ:10 最大補足:1
かつて不死の騎士だったもの。
かつて彼は巫女が死ぬまで不死の剣士として守護する契約を結んでいたが、
今回リリィは英霊として召喚されているため当然その効力は消失している。
そのため今の彼は精々不死に近いような頑丈さを持った剣士に過ぎない。
だが、少女にとっては契約から解き放たれた後も召喚に応じてくれた彼との絆にマサル宝具はない。
穢れの王(Mother)
ランクA- 種別:対国宝具 レンジ:100 最大補足:10000
リリィの中に眠る泉の白巫女、また膨大な穢れをその身に引き受けたリリィそのもの。
無数の穢者を生み出し、双子城砦防衛戦で一軍と泉の白巫女相手に死闘を繰り広げたその戦闘能力も脅威ではあるが、その能力で最も恐ろしいものは己の穢れを雨へと変え、一夜にして果ての国を滅ぼした「死の雨」である。
現在輝く護りの宝具により抑えられてはいるが、リリィは彼女の力により本編以上に穢者を自在に使役可能。
【wepon】
穢者と黒い騎士を使役して戦闘を行う。
【サーヴァントとしての願い】
マスターに聖杯を捧げる。
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【マスター】
プロスペラ・マーキュリー@機動戦士ガンダム 水星の魔女
【マスターとしての願い】
クワイエット・ゼロの完遂
最終更新:2023年11月20日 02:05