勇者。
 強い勇気を持ち、人々の羨望を集めた者に与えられる名前だ。
 彼女達にとって勇者は強い意味合いを持っていた。
 片や”魔王”の運命を背負わされた王女が目指した輝かしい名前。
 片や神託を受けて世界の脅威と戦う力を得た少女を称える称号。
 誉れ高き勇者の逸話を後世に遺せば、相応のクラスを与えられたサーヴァントとして召喚される。
 エクストラクラス・フォーリナー。
 それが結城友奈に与えられたクラス名だ。

「サーヴァント、フォーリナー……結城友奈」
「うん! 私は結城友奈……勇者のサーヴァントだよ!」

 お辞儀をする無垢な少女。
 そのあどけなさは、天童アリスの友になった優しい少女達とよく似ていた。
 もしも、友奈がゲーム開発部にいたら、みんなといいお友達になってくれる。
 そんな取り留めのないことを考えて、アリスは笑みを浮かべた。

「昨日、友奈の逸話を夢で見ました!」
「うっ……なんだか、ちょっと恥ずかしいね」
「アリスは知りました! 友奈には、素敵なお友達がいっぱいいたのですね!」
「……そうだよ! 東郷さんも、風先輩も、樹ちゃんも、夏凜ちゃんも、園子ちゃんも、みんな私の自慢だから!」

 誇らしげな友奈の姿。
 友奈は決して一人ではなかった。タタリに呪われ、誰にも真実を告げられずに追い詰められた時も、彼女はいつも想われていた。
 一途で眩い絆。かつてのアリスが知らなかった尊いものだ。

「じゃあ、アリスにとっても、友奈は自慢ですね! だって、友奈は真の勇者ですから!」

 天童アリスはアンドロイドだ。
 名もなき神々の王女AL-1S。
 古の民が残した遺産にして、無名の司祭が崇拝したオーパーツだ。
 「不可解な部隊(Divi:Sion)」の指揮官にして、世界滅亡の為に誕生した「魔王」だった。
 いずれ、キヴォトス全域に終焉をもたらす事を約束した厄災。
 だが、彼女はその運命を変えた。
 友との絆、培ってきた正義と愛の心、そしてアリス自身が抱いた心からの願い。
 友情と勇気と光のロマンが、アリスをなりたい自分に変えてくれた。
 それは、この世界に希望を与える勇者。

「アリスはまだ「見習い」勇者です! だから、勇者の先輩である友奈から、たくさんのことを教わりたいです!」

 そんなアリスの元に導かれたのは。
 紛れもない正道を歩む少女にして。
 小さな両手で数多の命を救い続けた正真正銘の勇者だ。
 その輝きで凶星(バーテックス)を幾度となく打ち倒した英霊(サーヴァント)。
 アリスにとって、まさに理想の体現者である勇者だった。

「本当に、友奈は素敵ですから!」

 紛れもない本心。
 善意と情熱に溢れた素直な言葉。
 友奈の在り方と力、それ以上に彼女を支える友情と真心に目を焦がれていた。
 結城友奈は勇者である。
 そして愛を与えられた普通の女の子だ。
 時にはワガママを言って、たくさんの友達と当たり前のように遊んだ。
 アリスがゲーム部に入ってから得たものを、生まれた時から持っている乙女。
 けれど、絆だったらアリスだって負けていない。


「へへ……照れちゃうな。なら、先輩勇者として教えてあげる! それは……」
「それは……?」
「私達、勇者部のモットーの勇者部六箇条だよ!」
「おおー!」

 勇者として、または普通の女の子でいる為に決めた6つの誓い。
 挨拶はきちんと。
 なるべく諦めない。
 よく寝て、よく食べる。
 悩んだら相談!
 なせば大抵なんとかなる。
 無理せず自分も幸せであること。
 一語たりとも聞き逃さず、アリスは心に刻み込んだ。

「パンパカパーン! アリスは、勇者部六箇条を覚えた!」

 それは友奈がアリスにくれたはじめてのプレゼント。

「アリスは最初のクエストをクリアしました! 仲間と出会い、絆を深めること!」
「おめでとう、マスター! 見習い勇者から、マスター勇者になったね!」
「なるほど……アリス、マスター勇者にランクアップしました!」

 英霊の座に登録された勇者からのお墨付きだ。
 アリスにとって誇らしい勲章にして、この聖杯大戦に立ち向かう大きな第一歩。
 マスターとは、主人である証ではない。
 揺るがない絆と親愛の証明にして、何よりも勝る最強のバフ。
 この称号があれば、アリスが持つ勇気と愛のステータスは無限大に強化される。
 どんなバッドステータスでも跳ね返せた。

「……マスターは、聖杯に何かお願い事をしたい?」

 真っ直ぐな目で友奈から聞かれる。

「私はあなたのサーヴァントだから、何でも言ってね」

 でも、どこか寂しそうで。
 その眼差しの意味をアリスは察した。
 アリスと友奈にとって避けて通れない試練。
 聖杯戦争のサーヴァントとして召喚されたからには、いずれ友奈も他者を殺める時が訪れる。
 アリスを信じ、アリスの願いを叶えたくて、アリスに大きな贈り物を与える為に。

「アリスの願い、ですか?」

 きょとんと首を傾げるも。
 すぐに、彼女は真摯な顔つきになる。
 TVゲームや漫画、古く遡れば伝記で称えられる勇者と呼ぶにふさわしい眼力だ。
 如何な巨悪にも屈しない眼差し。
 鬼神、悪魔、魔王、魔神。恐ろしい二つ名を持つラスボスを前にし、何度傷付けられても立ち上がる胆力があった。
 それは、アリス一人だけの力ではない。


「……大切な仲間がいます」

 間を開けてから、ゆっくりと言葉を紡ぐアリス。

「みんな、今もアリスの帰りを待っているでしょう」

 アリスの脳裏に浮かぶ仲間達の笑顔。
 花岡ユズ。才羽モモイ。才羽ミドリ。
 魔王と知られても、アリスのせいで怪我をしても、みんなは手を差し伸べてくれた。
 ゲーム開発部のみんなだけじゃない。
 ネル先輩達C&Cや、シャーレの先生だってそうだ。
 みんなは、アリスの本当の願いを思い出させてくれた。
 魔王である運命を変えて、アリス自身の意志で……勇者になってみんなと冒険をしてもいいのだと教えて貰った。

「アリスはみんなとまた会いたいです。勇者になって、みんなでいっぱい冒険したい……これがアリスの願いです!」

 聖杯はいらない。
 だって、アリスの願いはもう叶っているから。
 幸せな日々を過ごしているのに、どうして今更他の何かに縋らないといけないのか。
 もちろん、みんなが待ってるキヴォトスに帰りたい。
 でも、嘘や悪意で誰かを傷つけたくない。
 天童アリスは全てを話した。

「そっか。それが、マスターの願いだね」
「アリスの願いを聞いてくれて、ありがとうございます」

 心からの言葉を、譲れない願いを、大切な想いもーーその全てを優しく受け止める友奈。
 英雄譚の主人公になるべくしてなり、勇者として英霊の座に登録されるべき少女だ。

「それに、アリスの中にも、頼れる仲間がいました!」
「マスターの中にも? それって、どういうこと?」
「言葉の通りです! アリスの大切な仲間、ケイがいました!」

 アリスの身には鍵となる少女が宿っていた。
 固体名は<Key>。
 モモイの読み間違いからケイと呼ばれた少女。
 ケイはアリスを魔王に変える引き金にして、大きな鍵となるAIだ。
 一度、アリスの中にいるケイが起動し、モモイが怪我をした。その一件からアリスはケイを避けて、目をそらし、苦しめた。
 けど、それは勇者の在り方じゃない。
 誰かを助けたいという気持ちこそが勇者の資格。
 ならば、ケイの事だって真っ直ぐに向き合うべきだった。

「もう、アリスの中にケイはいません。でも、ケイはアリスを……助けてくれました。だから、ケイの為にも……アリスは勇者でありたいです!」

 聖杯の奇跡があればケイとまた会える。
 でも、ケイはそれを望まない。
 心を一つにし、アリスとケイの二人で光の剣を掲げたから。
 仲間の期待に応えると宣言したのに、魔道を歩むのはあり得なかった。

「アリスに力を貸してください、友奈!」

 今の天童アリスは武器を持たず、キヴォトスの大切な仲間はそばにいない。
 闇を切り開き、奇跡をもたらした『光の剣:スーパーノヴァ』は手元にない。
 ケイの想いをしまった小さなロボットも、今はアリスのそばにいなかった。
 屈強なキヴォトス人よりも、更に高いスペックを彼女は誇る。
 だが、如何にアリスだろうとサーヴァントの神秘には耐えられない。
 大切な絆の証がないまま、戦いを挑む事に不安はあるし、とても寂しい。
 ……それがどうしたのか?
 剣がなければ勇者は戦えないのか。そんなはずない。
 たった一人になった勇者はただ逃げるだけ。断じて違う。
 勇者とは、文字通り勇気ある者。
 勇気という最高の魔法がある限り、悪を打ち砕く正義の一撃は何度だって放てる。
 友奈だってそうだったから。

「任せてね、マスター!」

 アリスの願いを知った友奈は、胸を大きく張りながら笑ってくれた。
 天真爛漫な彼女達には、これからたくさんの試練が待ち受けている。
 勇者を目指す少女、そして勇者の影法師たる少女に牙を剥く悪鬼も現れるだろう。
 少女達を茨の道に歩ませ、逸話を血と罪で汚し、名を貶めようとする卑しい大人も現れるだろう。
 けれど、彼女達に迷いはない。
 夢と希望に満ちた明日の為、二人は戦いを決意する。
 天童アリスと結城友奈は勇者なのだから。

「勇者部六箇条……無理せず、自分も幸せであること。マスターの幸せのため、頑張るよ!」
「では、アリスと一緒に帰りましょう! これが次のクエストです!」
「おー!」

 夕焼け空の下、アリス達は肩を並べながら帰路につく。
 キヴォトスから遙か遠く離れた世界にて、アリスの役割(ロール)は留学生。優しい一家に囲まれながら、ホームステイ先で暖かな日々を過ごしていた。
 友奈の事も、この街で出会った新しい友達として受け入れられている。
 一緒にゲームをして、TVも見た。
 RPGゲームのやり方をアリスは友奈に教えてあげたし、二人仲良くレースや格闘ゲームでも遊んだ。
 もう彼女達の関係はマスターとサーヴァントではない。
 アリスにとって友奈は仲間で、友奈にとってアリスは友達。
 言葉は違えど、繋がりに込められた愛と慈しみは同じ。
 祈りと、真っ直ぐな輝きは誰にも穢せなかった。
 どす黒く、重苦しい深淵の闇すらも、二人の勇者を呑み込めない。
 天童アリスと結城友奈は前を見続けていた。
 光に満ちた未来を作る勇者である為に。


【クラス】
フォーリナー

【真名】
結城友奈@結城友奈は勇者である

【ステータス】
筋力B+ 耐久C+ 敏捷B 魔力D 幸運B 宝具B

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
領域外の生命:B
人類を守る神樹に魅入られ、一度は神の眷属にも選ばれた逸話でこのスキルを得た。
友奈がフォーリナーのクラスで召喚されたのも、神と深い関わりを持った事が由来とされている。

神性:B
神霊適性を持つかどうか。
神に選ばれ、勇者となったことで神性を獲得した。

【保有スキル】

対魔力:B
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

精霊の加護:B+
精霊の牛鬼からの祝福により、命の危機において精霊のバリアが発動する。
勇者の攻撃力及び防御力が向上し、同ランクまでの宝具ならばダメージを軽減する。
生前、勇者システムの変更によって、バリアを発動すれば勇者の切り札たる満開が使用不可となったが、マスターからの魔力があれば再使用が可能。

勇者の資格:B
守りたい人々の為に戦い続け、その手で己の運命を変えた勇者に与えられるスキル。
戦闘続行、勇猛の複合スキルであり、戦闘時に発揮される。


【宝具】
『結城友奈は勇者である』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
結城友奈が勇者である為に必要な勇者システムそのもの。
勇者システムの発動によって結城友奈は勇者となり、パーテックスと戦う力を得られる。
生前は勇者が強化する切り札として満開システムが実装され、強大な力と引き換えに身体機能が一部喪失……散華のリスクがあった。
後に勇者システムの変更で散華がなくなった代わりに、満開はたった一度だけとなる。また、その前に一度でも精霊の加護が発動すれば、そもそも満開システム自体が使用不可。
サーヴァントとして召喚された事により、令呪一画分の魔力供給があれば満開の再使用が可能。

『大満開(だいまんかい)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1
歴代の勇者達からの想い、そして神樹の力を授かった結城友奈が満開した姿。
この宝具を発動すれば、友奈は従来の満開よりも更に神々しい姿となり、各種ステータスが向上し、更に神性スキルを保有する相手であれば各防御スキルを無効化する。
無論、その拳一つで世界の運命すらも変えてしまう。
だが、歴代の勇者達と想いを共有し、更に神樹そのものを供物にしなければ奇跡は起こせない。
令呪三画全てを消費しようとも大満開は果たせない為、現在の彼女では事実上発動不可となった宝具。


【weapon】
勇者スマホ。

【人物背景】
讃州中学勇者部の部員。
かけがえのない友達と力を合わせ、勇者となって世界を救った少女。

【サーヴァントとしての願い】
勇者として、マスターの願いを叶えてあげたい。


【マスター】
天童アリス@ブルーアーカイブ

【マスターとしての願い】
聖杯はいりません。
友奈と一緒に、勇者として戦いたいです。

【weapon】
なし。

【能力・技能】
アンドロイドのアリスは並のキヴォトス人を凌ぐ体力や握力を誇り、また傷を受けてもナノマシンによる自己修復もできる。
ただし、サーヴァントの宝具に耐えることはできない。
愛用する『光の剣:スーパーノヴァ』、そしてアリスが大切にする小さなロボットは手元にない。

【人物背景】
勇者に憧れる少女。
ミレニアムサイエンススクールのゲーム開発部に所属し、RPGゲームの影響で勇者を目指すようになった。
元々は世界を滅ぼすために生まれた「魔王」だが、仲間達との絆で自分の夢を思い出し、「勇者」になりたいと宣言する。
その身に宿す鍵の少女とも向き合い、共に光の剣を掲げて世界を救うきっかけを作った。

【備考】
参戦時期はプレナパテス決戦後からです。

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最終更新:2023年11月21日 01:07