「―――どうなってるのよ、もう!」

思わず近くにあった椅子に座り込む。
ここは街の中央付近にある公園の中。
少し視線を上に向ければ、街を分断する巨大な川とその間を結ぶ大橋が見える。

二度目の空の世界での騒動も、ようやくひと段落ついたと思ってたのに!
だいたいなによ聖杯戦争って!
にこはスクールアイドルなんですけど!

連続で別世界に強制転移させられたようなものだ、ため息も出る。
願いを叶えましょうだの、万能の願望器だの、そんな大層なものに興味は湧かない。
夢というのは自分で叶えてこそ意味があるのよ、不思議な力で叶ったという結果だけ渡されてもねえ。

アイドルというのはファンを笑顔にさせるもの。
聖杯なんてものに頼った時点で、それは偽物に他ならないだろう。

「……さぶっ」

冬場の寒さに口から白い息が漏れた。
報酬に興味はないものの、人並みに生への欲求はある。当然死にたくはない。
頭に浮かぶのは、他のμ'sメンバーたちの顔。

……ま、μ'sにはにこがいなきゃダメよねやっぱり!
聖杯だか何だか知らないけど、絶対生きて元の世界に帰るんだから!
決意を新たに左手の、自分をこの世界に縫い付ける忌々しい痣を睨む。




―――瞬間、背筋に悪寒が走った。





―――なに、この感覚……誰かに、見られてる?
思わず周囲を見渡した。そして気づく。
さっきまではまばらに居たはずの人影が、今は一人もいない。

感じたこともない……けれど、どこか覚えがあるような威圧感。
その既視感の正体は、すぐに思い出せた。
空の世界で魔物と対峙した時の感覚。それがおそらく、にこの人生で感じた中では最も近い。
……重圧の差は、比べるまでもないけど。

少なくとも、視界に映る範囲には敵影はない。
おそらく姿を隠しているか、遠くにいるか。
……いや、たしか暗殺者のサーヴァントなら姿だけじゃなく気配も消せるのよね?

考えろ、考えるのを辞めたら死ぬ。今は仲間も団長もいないんだから。
相手はおそらく遠距離から自分を狙っている。そのサーヴァントのクラスで最も可能性が高いのは?
―――アーチャー!!!

何故か頭の中にある聖杯戦争の情報をもとに、相手を狙撃手のサーヴァントに絞る。
外れていたら一巻の終わりだが、普通の女の子にすべての敵へ対処出来ようはずもない。
ならば、最も可能性が高い敵一本に絞る。

「どこから狙ってるのよ……!」

相手の立場になって考える。この場所を狙撃するのに、最も適した場所はどこか。
幸か不幸か、ここは見晴らしのいい公園だ。
……いや不幸に決まってるでしょうが!

思わず自分でツッコミを入れてしまう。
そこで、思い出す。自分が公園に入った時、最も大きく視界に入ってきたものを。
街を分断する川。その上を繋ぐ大橋。……そして、その向こうに広がる駅周辺の街並み。

―――向こう岸のビルの屋上!





「―――ファランクスッ!!!」





その発想に至ると、無我夢中でそちらへ向けて防壁を展開した。
空の世界でアテナや団長に教わった技。
半透明の蒼い障壁が現れるのと、視界の片隅で何かが煌いたのはほぼ同時だった。

戦闘機のミサイルでも直撃したかのような爆音が響く。
思わず目をつぶる。だがその衝撃が体を襲うことはなかった。
……ゆっくりと目を開く。

「…………う、そ……でしょ……?」

確かに、障壁は敵の攻撃を受け止めていた。
―――その中央に白い、蜘蛛の巣状の無惨なヒビを残して。
……次の攻撃を受け止めるのが不可能なのは、誰の眼にも明らかだった。

敵が二射目を構えているのは、見えなくてもわかる。
今までで一番強い死の恐怖にすくむ足を、意志の力で強引に抑え込む。

「…………冗談じゃないわよ。こんなところで……死んでられないっての!!!」

精一杯の虚勢を張る。
私は絶対に……元の世界に、仲間の元に、帰るんだから!!



―――相変わらずですね、貴女は。



「―――えっ……?」

にこ以外誰もいないはずの公園に、女の声が響く。
……私、この声を知ってる?
心の声に応えるように、左手の令呪が赤く輝き、灼熱と燃えた。

その手の甲の痛みに気を取られてる間に、敵の第二射が放たれる。
やばっ……。そう思ってももう遅い。反射的に手で顔をかばう。
二度目の轟音と共に、障壁が砕け散る音がした。砂埃が宙を舞う。

……だけど、二度目の衝撃も届かない。
前方に何か壁でもあるように、衝撃が、空気が、砂埃が、にこの両脇を抜けていく。
砂埃の向こう側に、だれか……いる?
徐々に砂が晴れて、その姿が露になっていく。



「―――私を呼んだのは、貴女ですね?」



純白の鎧に、巨大な槍と盾。
まぶしい金色の長髪と、強い意志を感じさせる鋭い眼。
火の属性を表す、彼女の周囲を舞う炎の残滓。
鎧の色こそ違うけれど……空の世界で世話になった彼女を、見間違えようはずもない。

「……あ、アテナ……なの……?」

なんで、あんたまでこんな場所に。
おそらく、そんな心の声が表情にはっきり出ていたのだろう。
苦笑したアテナの口から、あっさりと答えは出てきた。

「サーヴァント、ランサー。召喚に応じ参上しました。これより貴女の槍となり、盾となりましょう」

サー、ヴァント……?
…………えっ!?あんたが!?私の!?
いや、そもそもあんたいつの間に英霊なんかに……!

「……疑問はたくさんあるでしょうが、その前に。まずは先ほどの敵を退けます」

湯水のように湧いてくる疑問で混乱していた頭も、その言葉で冷静さを取り戻す。
そうだった、まさしく今敵に狙われてるところだった……!
アテナが……いや、確かクラス名で呼んだほうがいいのよね。
ランサーが、手に持っていた大楯を地面に突き立てる。川の向こうから私を隠すように。

「サーヴァントの相手はお任せください。貴女は私の盾の影から出ないように」

「え、ちょっと!?」

呼び止める間もなく、彼女は炎を噴出して空へ飛び立っていく。
……な、何がどうなってるのよ~!!
そう思うものの、にこには言いつけ通りに盾の後ろに隠れるしかできなかった。



◇◇◇



炎の魔力を噴射して、レース用の小型騎空艇のように空を舞う。
先ほどの一射で、大まかな敵の方向はわかっている。
敵が高い建物の上からこちらを見ているのなら、さらにその上を取って敵を探すまで。

「―――見つけた。大橋の左側、橋の付近で最も高い建物の上」

公園の方角へ向けて弓を構えている敵サーヴァント。
だがその視線はもう公園を向いていない。
―――瞬間、目が合った。お互いに敵を認識する。

ランサーとアーチャー、普通に考えればこの距離では圧倒的に不利だ。
相手側から一方的に攻撃ができる。マスターを守るために盾も置いてきた。
……真っ向から戦えばこちらがジリ貧になる。ならばどうするか。

狙撃手に対して最も有効な戦法は、肉薄して白兵戦に持ち込むことだ。
しかし、この距離で絶え間なく矢を放たれれば、如何にジェット機であっても全て避けながら接近するのは不可能だ。
であるならば、もうひとつの手段を取るしかない。

「―――宝具、解放」

右手の槍に魔力を流し込む。槍から炎が溢れ出す。
速攻。この距離でも届く最大威力の一撃で、確実に倒す。
幸いにして敵がいるのはビルの屋上。こちらはさらにその遥か上空。
照準を定めるのはこちらのほうがはるかに楽―――!

射程範囲と威力を最低限に絞る。
無関係なものを巻き込むわけにはいかない。
角度をつけすぎれば、余波で地上も危ういだろう。
敵と自分を結ぶラインが、最低限の角度になるまで高度を下げる。
これならば、他のものを巻き込む憂いもない―――!

敵サーヴァントもこちらの狙いに当然気づいたはずだ。
先ほどの比ではない量の弓矢が降り注ぐ。
そのたびに魔力を放出し、ジェット噴射で強引に軌道を変えて避ける。



「―――その灯りは星の焔(ほむら)。断ち切るは破滅の厄災!」



いかにアーチャーのサーヴァントといえど、常に弓矢を射続けることができる豪傑はそういない。
どれだけ多くの矢を放てる英霊でも、どこかで矢をつがえ、弦を引くためのタイムラグが必ず発生する。
矢が途切れたその一瞬の隙をついて、宝具を展開する。
眼前に現れたのは、ふたつ重なった炎の魔法陣。

こちらの宝具を止めるためだろう。
全力で魔力をこめ、引き絞られた全力の一矢が魔法陣めがけて放たれる。
―――だが、遅い。



「―――『降り注ぐ女神の灼槍(ミネルバ・フィーニス)』!!!」



炎の魔力を纏い赤熱した槍を、陣の中央へ穿つ。
一閃の軌跡に合わせ、威力を増幅された灼熱の熱線が翔ぶ。
飛来する矢は、橙色の光に呑まれ焼失した。

もうこちらの宝具を止める手段は相手にはない。
寸分の狂いもなく、莫大なエネルギーを帯びた劫火の柱が敵サーヴァントへ着弾した。
―――追い打ちの火柱と爆炎が、ビルの屋上に高く跳ね上がる。
すべてが終わった後には、敵サーヴァントの姿は影も形もなかった。

「…………少し、やりすぎたかもしれません」

でも、ここは聖杯戦争をするために作られた電脳世界。
この程度のことは、きっとガス爆発事故で片づけるのだろう。
ようやく一難去った、ということを察して緊張状態を解く。

そこで真っ先に思い出すのは、有無を言わせず盾と共に残してきてしまったマスターの顔。
……早く戻らないと、マスターに何を言われるか分かりませんね。
愉快な顔をしているだろうマスターの顔を思い浮かべながら、マスターを残してきた公園へと戻った。

【クラス】ランサー

【真名】アテナ@グランブルーファンタジー

【属性】秩序・善

【パラメーター】
筋力:B 耐久:A++ 敏捷:D 魔力:A+ 幸運:C 宝具:EX

【クラススキル】
対魔力:A
魔術に対する抵抗力を示すスキル。
Aランクでは、Aランク以下の魔術を完全に無効化する。事実上、現代の魔術師では、魔術で傷をつけることは出来ない。

【保有スキル】
マルチクラス:C
二属性持ち。複数クラスの能力を取得していることを示すスキル。
彼女の場合はランサーとシールダーの適正を併せ持つ。
これによりシールダークラスの宝具やスキルを追加で得ているが、代償として本来ランサークラスが得意とする俊敏さが低下している。

魔力放出(炎):B++
武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出することで能力を向上させる。
炎属性を扱う星晶獣である為に獲得したスキル。
このスキルの存在により、攻撃に回った場合でも絶大な火力を有する。

女神の神格:A-
生まれながらにして完成した女神であることを現す複合スキル。
神性スキルを含み、あらゆる精神系の干渉を弾いて精神と肉体の絶対性を維持する。
彼女は本来神話由来の女神ではなく、星の民が生み出した星晶獣という別種の存在である。
だが英霊の座に登録される際に、同じ名で戦いを司るギリシャ神話の女神アテナとの同一視を避けることが出来ず、後天的にこのスキルを高ランクで獲得している。

守護の戦女神:B
アテナの星晶獣としての在り方を示すスキル。
自身とマスター、及びアテナが味方と判断した対象の防御力に対して補正がかかる。
敵の攻撃から受けるダメージを軽減し、防御スキルの効果がワンランク上昇する。
やけど状態の敵に対し特攻状態となる追加効果も併せ持つ。

自陣防御:A
味方、ないし味方の陣営を守護する際に発揮される力。
防御限界値以上のダメージを軽減するが、自分は対象に含まれない。
ランクが高いほど守護範囲は広がっていく。

【宝具】
『降り注ぐ女神の灼槍(ミネルバ・フィーニス)』
ランク:A+ 種別:対城宝具 レンジ:1~100 最大捕捉:30人
アテナの持つ槍の真名解放による奥義。
自分の前方に展開した魔法陣越しに巨大な槍の一撃を放つ。
その一閃は灼熱の光となって相手へと降り注ぐ。
それは炎属性を帯びた巨大な熱線であり、対城宝具の名に恥じぬ威力の一撃となる。
相手に対してやけど状態を付与する副次効果もある。

『劫炎の赤槍(テトラドラクマ)』
ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:5~300 最大捕捉:200人
『刺し穿つ死棘の槍』に対する『突き穿つ死翔の槍』に相当する、アテナの槍の投擲宝具としての真名解放。
投擲した槍は炎の矢となる。敵の人数が多ければそれに合わせて分裂し、雨のように襲い掛かる。
射程距離及び攻撃範囲に於いて第一宝具を上回るが、最大威力の面で劣る。
魔法陣の展開が不要である為、発動までのタイムラグは第一宝具より短く使い勝手は勝る。
相手にやけどを付与する副次効果も健在である。

『戦女神の神体結界(アイギス・パラディオン)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1~100 最大捕捉:1人
アテナの持つ盾の防御と、守護の女神としての加護を現す宝具。
第一、第二宝具がランサーとしての槍の宝具ならば、こちらはシールダーとしての盾の宝具。
前面に半透明の蒼と白銀の障壁を展開して背後の者を守護し、その守りは対粛清防御に匹敵する。
最大出力で使用した場合は、受けた攻撃を障壁の鏡面に映った攻撃者自身へ跳ね返す概念防御となる。
(宝具の最大補足はこの効果の対象についてのみ書かれているため、純粋に防壁を用いて広範囲を守護するだけならもっと多くの対象を守護できる。)

【weapon】
自らの宝具である槍と盾

【人物背景】
守護と平和を司る星晶獣。
静かに燃ゆる戦の女神。
信仰者には守護と英知を、仇なす者には慈悲無き火槍の制裁を与える。

その有り様に反して本人は争いを好まない。
できうる限り話し合いで解決したいと思っているが、それが叶わぬ場合は星晶獣としての力を無慈悲に振るう。
特に今回のような聖杯戦争では、話し合いは難しいことも本人が1番わかっている。

最終上限解放後の姿で召喚されているため、スキルや宝具もそれに準じている。

【サーヴァントとしての願い】
マスターを生きて元の世界に帰す。

【マスター】
矢澤にこ@ラブライブ!

【マスターとしての願い】
仲間の元に帰る。

【能力・技能】
スクールアイドルとしての心得と、折れない心。
見栄っ張りな部分もあるが、根っこは面倒見がいい。

唯一使える技は、空の世界で教わった防御スキル『ファランクス』。
半透明の蒼い障壁を生み出し、攻撃を防ぐ。
ランサー召喚後はそのスキルによって堅牢さがかなり増している。

【人物背景】
音ノ木坂学院の三年生で、スクールアイドルプロジェクトμ'sのメンバー。

グランブルーファンタジーとのコラボで、空の世界から参戦している。
時期は3年生チームの最終上限解放エピソードで2度目の空の世界に訪れた後。
元の世界に戻る直前に黒い羽を入手し、聖杯戦争に参加する羽目に。

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最終更新:2023年11月21日 01:09