「■■■!? ■■■■■■ー!!!」
二匹の猿が鳴く。
何故、どうしてと。
「■■■■■■■■■■■■■■■!! 」
自分の身体にべったりと纏わりつく赤い液体も不快ではあったが。
鼻を抜ける濃厚な鉄の匂い以上に、妙に鼓膜を震わせるその甲高い声が不快だった。
「■■■……■■■……■■■■■■■」
小柄な猿を守るように、私の方を向くもう一匹の猿。
小刻みに身体が震えているのは間違いなく恐怖からだろう。
だと言うのに、加害者の前から背を向けず小さな体躯を目一杯広げる姿。
なるほど確かに感動を誘う光景だ――それが自らと同じ生物であればの話だが。
生憎と、駆除しようとしている害獣が献身的な姿を見せたとて揺らぐような心の持ち主ではない。
呪いを祓うように、獣を掃う。
ただそれだけの簡単な作業だ。
「■■■……?」
買い替え時はとうに過ぎてるだろうに、また換え損ねてるのかこの人達は……と。
チカチカと明滅する電灯を見上げてぼんやりと思う。
どこかノスタルジックな気持ちにさせる薄明りは、胸に淀む澱を少しは洗い流してくれていた。
「■■■■ー!!! ■■■!!!!■■■■!!!」
必死の形相で縋りついてくる二匹の猿を振り払って。
深呼吸を一つ挟み、目線を下ろす。
どうにも息が苦しく、胸が重い。
覚悟はとうに決めていた。
これ以上、愚鈍な猿の所為で大事な家族を失う事には耐えられない。
何の力もない弱者を間引いて、間引いて、間引いて、間引いて、間引いて。
ゴールの存在しないマラソンを終わらせる。
積み重なる屍の山に、これ以上が家族の姿が見えないように。
それが私の生きる意味であり、大儀であり、願いであると。
そこまで理解していて、あとたった一言を発すれば終わりだとわかっていて。
壊れた玩具のように、パクパクと口を開いては閉じる。
『非呪術師を見下す自分。それを否定する自分。
どちらを本音にするのかは、君がこれから選択するんだよ』
とある女性にかけられた言葉が脳裏を過る。
選択、そう……選択。
これから選ぶ道は、誰に強制されたわけでもない。
家族を守る為だなんて大義名分に守られた、猿共が嫌いだと言う心の底からの感情。
目当てのアイテムが落ちずにゲームをリセットするような、稚児めいた本心。
消費されるだけの歯車にしか願う事を許されない、大切な想い。
自分自身で選んだ、偽りのない夢。
「ありがとう――――さようなら」
何の罪もなく、ただ猿であるというだけで殺される二人に。
或いは、半身だと思っていた相手に。
或いは、ただ弱者を守る為力を振るっていた自分自身に。
小さく吐き出した言葉。
そうして、無数の猿の血を浴びて真っ赤に染まる呪霊へ命ずる――刹那。
ひらひらと、一枚の黒い羽根が彼の手に舞い落ちた。
〇 × △ ◇ 〇 × △ ◇
「で、そっちの首尾はどうなんだい。ライダー」
「ダメだな。マスターならいざ知らず、サーヴァントにギアスを掛けるとなれば予想通り私の魔力では賄いきれない。
向こうの魔力が乏しい所に無理をさせた結果、消滅だ」
隣の部屋から顔を出した自らのサーヴァント。
黒の仮面に黒衣を纏った英雄に向けて軽い声音で投げた問い。
安物の椅子に座りクルクルと座面を回転させながら向けた、期待半分諦め半分の視線はあっさりと切り捨てられた。
「ふうん……流石にそう上手くはいかないか。
私の方も、呪霊と同じ要領でサーヴァントを取り込めないか試しておきたいところではあるけど……あまり派手に動き過ぎるも考えものだしね」
艶のある絹髪を頭頂で団子状に括り、一筋だけ前髪を垂らした美丈夫――夏油傑は目を細めて視線を窓の外へと移す。
時は12月17日。
クリスマスイブを一週間後に控えて浮足立つ人の群れが、今は全く別の喧噪に包まれていた。
「言動と行動が一致していないぞ、マスター。実験に使ったサーヴァントはともかく、マスターの方は処理しておいた方が良かっただろうに。」
仮面越しにも伝わる咎める、意図を込めたサーヴァントの言葉に対して視線は動かさないまま苦笑いを浮かべて手を左右に振る。
「その辺は重々承知しているんだけどさ。この町の住人が、私の知っているNPCの概念に即した存在なのか。
或いはもう少しマシなハードを積んだ生物なのかを今の内に試しておきたいと思ってね」
見下ろした視線の先には、一つの死体に群がり思い思いの行動をとっている人々の姿。
携帯を手に持ち撮影をする者。
未だ息があると勘違いしているのか手当を試みる者。
初めて見るであろう死体に悲鳴をあげる者。
十人十色の反応を見せていた。
無論、夏油に悪趣味な人間観察の嗜好は持ち合わせて居ない。
ただ、NPCと呼ばれる存在が――呪術師ではなく魔術師と呼ばれるらしい存在の魂が揺らいだ時に。
果たしてそれらは呪いに転ずるのか、それが知りたかっただけである。
故に。
自らの痕跡が他の陣営にバレる可能性を踏まえた上で、自分達に襲い掛かってきたマスターとサーヴァントを実験の道具として、仮宿にしているホテルの入口へと放置していた。
この死体は呪いに転ずるのか。
或いはそれを見たNPCが呪いに転ずるのか。
呪力ではない力が循環する魔術師とやらは、呪いに転ずるのか。
もし呪いに転ずるのであれば、夏油の呪霊操術がより一層活きる事になる。
聖杯を手にする為の必要経費さ、と嘯く夏油の言葉遮って、彼のサーヴァントは言葉を紡ぐ。
「それで、君が聖杯を手にしたとして――どっちを願うんだろうな」
「―――――――――――」
その問いに、言葉を詰まらせる夏油を見て仮面のサーヴァントは身を翻す。
「撃っていいのは撃たれる覚悟のあるやつだけ。
――だが、撃つ覚悟も撃たれる覚悟もあろうと、その先にある望みが無い人間は破滅すると思うがね」
皮肉気に告げられる言葉と共に部屋の扉が閉められる。
結局、猿(自らの両親)を手をかけたあの日。
黒い羽根を掴み、呪霊に塵殺を命じ、気付けば聖杯戦争の舞台へと転移していた。
それと同時に頭の中に流れ込んできた知識に暫し言葉を失い、そして夏油は笑った。
聖杯――万物の願いを叶える願望器。
それを空想の産物だと一笑に付すには、自身の脳内に流れ込んできた知識と目の前に現れたサーヴァントの存在が大き過ぎた。
何人のマスターを排除すれば良いのかはわからない。
それでも、元の世界で非呪術師全てを殺すよりは早いだろうと肩を竦める。
猿(非呪術師)は嫌いだ。
それは紛う事なき事実。
家族(呪術師)の屍をこれ以上見たくない。
それも紛う事なき事実。
聖杯が真に願望器というのであれば、余計な手間を掛けずとも“呪霊のいない世界”を願えば良い。
そこは、非呪術師がどれだけ死のうとも、どれだけ負の感情に引き摺られようと呪いが発生する心配はなく……引いては呪術師が命を賭す必要の無い世界だ。
ただ、それでもこの感情は――
「君なら、こんな事は迷わなくて済むんだろうね」
最強の片割れ。
半身を置いて一人に成った男の姿を思い浮かべて、独りになった男が浮かべた表情は――。
〇 × △ ◇ 〇 × △ ◇
「英霊の座と言うのも、存外当てにならないものだな」
黒い仮面のサーヴァント――生前、ゼロと呼ばれた男はマスターと別室へ籠り溜息交じりに零す。
本来であれば、仮面に隠された英雄の正体はルルーシュ・ランペルージという青年の筈であった。
最愛の妹を世界の悪意から守る為に。
悪意に刺されその命を散らした母の敵を討つ為に。
復讐に鈍く光る刃をその奥に隠し、願いを叶える為に纏う仮面。
それが、黒衣の英雄の始まりだったのだが。
魔女との出逢いにより他者を従える絶対の魔眼を得た青年は、いつしか“明日が欲しい”という人々の、願いという名の魔眼(ギアス)にかけられた。
自らの罪と人々の願い。
その全てを清算し、世界を明日へと導いた偉業は確かに英雄と呼ばれて然るべきではあるのだが。
今この場に召喚されたのは、ルルーシュではなくあくまでも“ゼロ”と呼ばれ民衆に支持された存在である。
「俺でもなく、スザクでもなく、無論C.C.でもなく。
――俺達として呼ばれるとはな。風聞を形にするのは良いがあまりにも乱雑が過ぎる」
伝説が、真実を上回る。
確かに、ゼロと呼ばれた存在はルルーシュ一人ではない。
ルルーシュが命を賭して世界に掛けたゼロレクイエムと呼ばれるギアスを実行したのは、枢木スザクであり。
ルルーシュが不在の時にゼロとして部下の前に姿を表していたのはC.C.である。
だが、ゼロの偉業を語る民衆からすればそんな事実はつゆ知らず。
さりとて、レクイエム以前以後で異なるゼロの微妙な違いを納得させるには多重人格が適切であったのだろう。
ルルーシュ達にとっては都合の悪い事に。
Cの世界と呼ばれる集合無意識の世界においてルルーシュとスザクが共闘し。
ギアスの力によって結ばれた人間たちの意識が混戦した事実が、風聞の英霊化に際して人々の空想を補強してしまったのであろう。
ゼロと言う一人の英霊の中に三人の人格が同居する事態となっていた。
「わかっているさ。だが、アレはあくまでもこの舞台に再現された装置に過ぎない。
世界を救った英雄として呼ばれている以上、生きている人間を踏み躙る策を取るつもりはない――勿論、マスターの身に危険が迫る相手なら別だがな」
既にゼロの願いは達成されている。
今更何でも願いが叶いますと言われようと、最早かける願いはない。
だが。
弱者によって消費され、屍を積み上げる強者。
立場は違えど永遠に終わらないマッチポンプに苦しむその姿が、理想と現実の狭間に苦しんだ自分に。
ブリタニアに虐げられるエリア11の住民の姿に重なって。
無辜の民を救った英雄としての側面が強調されたゼロにとって、そんなマスターは見捨てられるものではなかった。
「世界を壊し、世界を創る……か。その罪は、君が思っているより重いのかもしれないぞ」
扉の外にいるであろうマスターに向け呟いた言葉は、冷たい空気に溶けて消えた。
【クラス】
ライダー
【真名】
ゼロ@コードギアス 反逆のルルーシュ
【パラメーター】
筋力E~B 耐久E~EX 敏捷E~A 魔力C~B 幸運D 宝具C~EX
【ルルーシュ】筋力E 耐久E 敏捷E 魔力C 幸運D 宝具C
【枢木スザク】筋力B 耐久C 敏捷A 魔力C 幸運D 宝具C
【C.C.】筋力E 耐久EX 敏捷D 魔力B 幸運D 宝具EX
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
騎乗:C(A)
乗り物を乗りこなす能力。ライダークラスの象徴である宝具・ナイトメアフレームをどのレベルで扱えるか。
幻想種あるいは魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなすことが出来ない。
【保有スキル】
欺瞞の英雄:A
世界を恐怖と暴力によって支配した悪逆皇帝ルルーシュ。
そんな世界の敵を打ち破り、人々に明日を取り戻した黒き仮面の救世主。
――後世の伝承により、その本来の性質を歪められ英雄として祀り上げられた英霊。
かの英雄の素顔を見た民はおらず――――ライダーのステータス及び真名はあらゆるスキルを打消し秘匿される。
かの英雄の言葉は民を、兵士を熱狂させ勝利へと導いた――――Aランク相当の軍略・煽動スキルを保有している。
かの英雄は力なき者を愛し力ある者を憎む――――敵対サーヴァントとの力量差が大きい程ライダーの行動へプラスの補整がかかる。
専科百般:EX
時に巧みな弁舌で民を導き。
時に類まれな身体能力で銃弾すら躱し。
時に虚弱体質と目を疑う程の疲労感を漂わせ。
時に正体は女性と思わせる柔らかさを携える。
実際には複数人が仮面を被りゼロとして動いていたが、それを知る由もない多くの民からは矛盾の生じる行動の多さから多重人格だと思われていた。
その逸話が忠実に再現されており、人格の切り替わりでステータス・スキル及び使用可能宝具が切り替わる。
破壊工作:A
戦闘を行う前、準備段階で相手の戦力をそぎ落とす才能。
トラップの達人であり爆破物による地形破壊で戦局そのものひっくり返す。
ランクAならば、相手が進軍してくる前に六割近い兵力を戦闘不能に追いこむ事も可能。
ただし、このスキルが高ければ高いほど、英雄としての霊格は低下していく。
【宝具】
『蜃気楼』
ランク:E 種別:対軍宝具 レンジ:1~40 最大補足:100人
生前ゼロが搭乗した、人型機動兵器「ナイトメアフレーム」。
本機は第8世代相当の技術で製造されており、当時としては最高峰のスペックを誇る機体である。
必殺武器の「拡散構造相転移砲」は、戦場にプリズム状の結晶体を発射し、これにレーザーを照射・乱反射させるオールレンジ攻撃を実現するもの。
この他にも、堅牢なエネルギーシールドである「絶対守護領域」、飛行機能である「飛翔滑走翼」、超高度演算コンピューター「ドルイドシステム」などの機能を保有している。
しかしそれだけの技術を注ぎ込まれながらも、科学の域を出てはいないため、神秘性は最低ランク。
人格がルルーシュの時のみ使用可能。
『絶対順守の魔眼(コード:ギアス)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1~15 最大補足:100人
ルルーシュの両目に宿された「王の力」。
発現者によってその性質は異なっており、ルルーシュのものは、「目を合わせた相手に、何でも一つ命令を下すことができる」能力である。
この力は光信号によって伝達されるため、鏡越しに目を合わせても、複数人に同時に自分の目を見せても発動できる。
ただし、サングラス程度の透過率の低さのものを通しただけでも、その力は無力化されてしまう。
魔力消費量は相手の抵抗力、および命令の危険度によって左右される。
たとえば、令呪を持ったマスターに対しては、その魔力が抵抗力となるため消費が増大する。
逆に、膨大な魔力さえ賄う事ができるのであればサーヴァントすら従える絶対の魔眼。
命令の内容も、簡単なものであれば消費が少なく、逆に「死ね」や「奴隷となれ」などの重大なものであれば消費が大きくなる。
人格がルルーシュの時のみ使用可能。
『友に捧ぐ鎮魂歌(ゼロ・レクイエム)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人
生前ゼロが成した最大の偉業、悪逆皇帝ルルーシュの殺害。
暴君の胸を貫いた剣は、人々の明日を求める願いを、たった一人の青年が命を賭して盤上に掲げた願いを、確かに叶えた。
王属性のサーヴァントに対してスキルや宝具による防御を無視してダメージを与えられる。
人格がスザクの時のみ使用可能。
『愛という名の呪い(リ・コードギアス)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人
生前――否、現在も風聞ではなく生ある者として存在するC.C.に掛けられた呪い。
誰からも愛されるギアスを得たのと引き換えに、死ぬ事を許されなくなった魔女の身体が宝具化したもの。
人格がC.C.に切り替わった時のみどれだけ霊格を損傷しても消滅する事はなく、その身を生きながらえさせる。
但し、この宝具を使用した後に魔力が切れると自動的に人格が変更される。
【人物背景】
たった一人で神聖ブリタニアへの反逆を開始し、黒の騎士団と呼ばれる剣を手に世界の平和を勝ち取った黒き英雄。
圧倒的な戦力差も、絶望的な状況も覆して世界に明日を与えた救世主。
そんな『ゼロ伝説』の風聞がサーヴァント化した存在。
作中においてゼロの仮面を被った者は複数人――否、文字通り百万人存在する。
その中でも主に仮面の英雄として偉業を成した『ルルーシュ・ランぺルージ』『枢木スザク』『C.C.』この三名の人格が『ゼロ』という一つの英霊の肉体に収められており、Cの世界における意識の共有の経験が多重人格という形で再現されている。
召喚されたマスターとの相性によって主人格は変更され、今回はルルーシュとなっている。
【サーヴァントとしての願い】
サーヴァントとして夏油の力になるつもりではいる。
舞台装置に感情移入するつもりはないが、そのスペック次第では非人道的な策は使わないし使えない。
【マスター】
夏油傑@呪術廻戦
【マスターとしての願い】
聖杯を得て呪霊のいない世界を創る。
その手段は――。
【能力・技能】
◆呪霊操術
呪霊を取り込み、自由自在に使役する術式。
羂索は数千に達する呪霊のストックを有しており、それは最早一つの“軍勢”と呼ぶに足る。
低級の呪霊でも羂索ほどに卓越した術師が扱うことで殺傷能力は跳ね上がり、その戦闘能力はサーヴァントにさえ並び得る。
また『極ノ番』と呼ばれる秘奥が存在し、その能力は呪霊を使い捨てることによる“超高密度の呪力放出”と(高専基準で)準一級以上の呪霊を圧縮することによる“術式の抽出”。
前者は手数を捨てることになるリスクを含有するが、その分特級術師にさえ容易に致命傷を与える威力をコンスタントに引き出すことが出来、後者は本来術者が会得していない生得術式を一度切りとはいえ習得出来るという規格外の性能を誇る。
実例はまだないが、条件を満たす相手ならばサーヴァントでさえ使役の対象になる可能性が高い。
【人物背景】
四人しかいない特級術師の一人であり、最悪の呪詛師。
笑えない世界で、家族の為にその手を汚すと決めた男。
高専時代に両親を殺した直後に呼び寄せられる。
学生としての【役割】を与えられているが当然学校には行かずホテルを転々としている。
最終更新:2023年11月21日 01:13