「心配すんなよさやか。独りぼっちは、寂しいもんな……。
いいよ、一緒にいてやるよ……。さやか……。」




 冬木ハイアットホテルの屋上に寝転がって、佐倉杏子はつくづく思う。訳の分からない事態だと。
 あの時、美樹さやかの絶望から産まれた魔女と共に、この身は確かに死んだ筈だ。
 家族の為に願った末に魔法少女となり、家族を破滅させて、自分のために生きる様になった自分と。
 他人の為に願った末に魔法少女となり、誰かの為に戦い続けたものの、自分の幸せを何処かで望んでいた美樹さやか。
 相似で有り、相反する2人の運命は、あの時確かに混じり合い、終わった筈。
 それが何故こんな事になっているのか?

 「何でも願いが叶う…ねえ」

 あのクソ忌々しいインキュベータと同じ触れ込みの聖杯に何かを願う気は全く無い…。けれど願い事がない訳じゃ無い。
 さやかを生き返らせる。魔法少女を元の体に戻す。インキュベーター共を世界から…宇宙から消し去る。
 聖杯とやらの触れ込みが確かなら、これ位は出来るだろう。だが…。

 「胡散臭い。絶対何か裏が有る。こういう事は」

 願いを叶えたければ、最後の一組になるまで殺し合え。実に単純(シンプル)な話だが、仕組んだ奴は何処に居るのか?何の目的でこんな事をやらせるのか?
 此処が不明瞭な時点で、佐倉杏子は聖杯戦争に乗る気はない。一度インキュベーターに踊らされた身で、便利な願望機に再度飛びつく程、佐倉杏子は愚かでは無い。

 「どうする?さやか。アンタなら」

 正義の魔法少女を志したアイツなら、どうするだろうか?
 答える者は居ない。此処には杏子しか居ないのだから。杏子の召喚したサーヴァントは現在別行動中だ。一体何処で何を何をしているのか。
 尤も、自分の従えるサーヴァントとはいえ、ウマが合わない。
 望まぬ形で怪物とされ、その境遇からの解放を願うあの女の境遇は、多少は同情に値するが、結局は自業自得だ。
 望まぬ形で魔女と成り果てる運命の自分達魔法少女とは縁があると言えば有るのだろうが、そのくらいの繋がりで召喚されたと有っては、さやかや自分が、あんな拷問狂と同類扱いされた様で不愉快だ。
 あの女が筋金入りの反英雄な所為か、ソウルジェムの濁りを魔力として持っていくのは助かるが、なにせグリーフシードは無いし、この地で入手できるアテもない。

 「まぁ、あんなのでも相棒なんだよな」

 杏子は寝転がって空を眺める。此処は新宿区に有る京王プラザの屋上。この時間じゃ誰もやって来ないし、誰か来ても魔法少女に変身すれば見咎められる事なく立ち去れる。

 「願いとか戦いとかもあるけど、今日の宿はどうしようかなぁ……」

 何の因果か杏子のロールは、職なし家なしのホームレスだった。金銭は少しは有るが、余り使いたくは無い。
 まぁ、慣れた事だ。適当にやるとしよう。今までの様に。

 「それにしても、何処で何やってるんだ?アイツ」

 青空と白い雲を眺めながら、杏子は己がサーヴァントが何処で何をしているか、ほんの少し気に掛けた。




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 暗く、狭く、薄汚れた部屋だった。
 陰鬱な気配を漂わせる廃屋となった洋館の地下室。
 薄暗く異臭の立ち込める、石の床と石壁で囲まれた部屋は、訪れた者の精神に、不気味な重圧をかけて来る。
 ましてや、壁と床、果ては天井に至るまでに着いた、無数の赤黒い染みが、部屋の持つ凄愴な雰囲気を、より一層強くしていた。
 室内の空気を汚す悪臭が、血と糞尿と臓物と胃液の臭いが混じったものだと知れば、只人ならば即座に踵を返すだろう。
 極めつけは、床に置かれ、或いは壁に立てかけられている得体の知れない数々の器具だ。
 どれもこれもが赤黒いモノをこびり付かせ、摩耗したその様は、すべての器具が『使い込まれて』いる事を悟らせる。
 凡そ真っ当な目的で使われている部屋でも無ければ、真っ当な人間が使っているとも思えない。そんな部屋だった。

 「~~♪ ~~♪」

 鉄製の扉がゆっくりと開き、蝶番が軋む音と共に、扉の部分が光に切り取られる。
 鼻唄を歌いながら、そんな陰惨な部屋に相応しくない、軽快な足音を伴って、金髪の女が部屋へと入ってきた。

 「まだ生きてるぅ?」

 陽気な声であった。愉し気な声であった。部屋の用途を知っていて、尚このような声を出せる。最早これだけで、入ってきた女の人格が知れるだろう。
 入ってきたのは鮮血を思わせる紅いドレスの女だった。銀糸で編んだかの様な長いプラチナブロンドの髪を揺らし、雑然と散らかった薄暗い部屋の中を真っ直ぐに、足元も見ずに歩く。何かを踏みつける事や、足を引っ掛けることも無い
 その様は、女がこの部屋を『使い慣れている』事を如実に物語っていた。

 「まだ生きているようね。『まだ』ね」

 銀髪の女は、天井からぶら下がった“モノ”を見て、昂った声を漏らした。
 天井からぶら下がっているのは赤黒い塊だった。そうとしか言えないモノだった。
 だが、よく見れば、その塊は、一目でそれと分からぬまでに壊された人体と知る事ができるだろう。
 逆さに吊り下げられているのは、全裸の十五、六程の歳の少女だった。
 無数の殴打と火脹れにより腫れ上がった全身は、更に刃物により刻まれ、全身に細かい切り傷が作られている。鼻と耳は削ぎ落とされ、複数箇所を折られたせいで、関節が倍以上に増えた様に見える両手足の爪は全て剥がされていた。
 赤黒く見えるのは単純に全身を覆った血液が乾いて変色しているからだ。最早胸が僅かに上下していなければ死体と思われても仕方ない。それほどの徹底した暴力が加えられていた。
 此処まで執拗で徹底した暴力を加えられながらも、両眼とその周辺が無傷なのは、目が潰れたり塞がったりして、自分を襲う次の暴力が見えなくなる事が無い様に、という配慮の結果だ。

 「貴女で愉しんで半日。加減をしてもいないのに良く保ちました♡」

 手を伸ばし、触れた頬に爪を食い込ませると、少女の体が極僅かだが痙攣した。それを見て女は満足そうに笑うと、指についた血を舐める。

 「こんな事で魔力を得られるなんて、忌々しいけれど、便利なことは便利ですわね」

 顔を歪めて呟くと、再び底抜けに明るい笑顔で少女に話し掛ける。

 「鞭で打ち、体を焼き、皮膚を切り裂き…そして嬲り殺す…。その時湧き上がるこの上ない興奮は、とても悦ばしいのです♡」

 この少女とは、図書館で出逢った。自身の欲望と、宝具の強化の為に、図書館で古今東西の拷問に関する書物を読み耽っていた女の眼に、偶々留まってしまったのが、この少女の運の尽きというやつだった。
 即座に拉致し、この拷問部屋に監禁拘束し、慈悲を乞う度に指を折り、泣き喚く度に針を刺し、加虐された時以外に、少女の反応が無くなるのに掛かった時間は、一時間も無かった。

 暫し思案して、女は明るい口調で言った。

 「この地で識った拷問は『今までの娘達』で、粗方試しましたが…。宝具の機能で未だ試していないものは…これでしたわ♡」

 少女の口に指を押し込む。歯が全て抜かれた口腔は、なんらの抵抗もなく、女の指を受け入れた。

 「これを試すのは、貴女が初めてですが…今まで試した方達で、失敗はありませんでしたから、安心して下さいね」

 女の言葉を理解したのだろう。全身を僅かに震わせ続ける少女に、女は嗜虐に満ちた笑みを向けて、最後の拷問を開始した。

 「ご…ふご…ごふ」

 少女の喉が動き、口の端から血に染まった水が流れる。
 女は、指先から水を、少女の喉奥へと流し込んでいるのだ。

 「胃が破裂するまで飲ませましょうか?水が入らなくなったところで、膨れたお腹を思い切り打ちましょうか…迷ってしまいますわ♡」

 どちらも試してみたいが、どちらかを試せば少女は死ぬ。悩ましい事だと思いながら、女は少女に水を飲ませ続けた。

 一時間後。

 「それではご機嫌様。貴女は中の下といったところでした♡」

 水を飲まされ続けて胃が破裂した少女を、海に棄てて、女は艶やかに笑った。
 なかなかに楽しませて貰ったし、魔力も徴収出来た。結構な成果というべきだろう。結局のところ水を思い切り飲ませての殴打を試せなかったが。
 まあ良い。サーヴァントを相手にした時に試してみよう。

 「はぁ…足りませんわ♡やはり本命は、歴史に名を残した英傑達。その美しい姿と精神が壊れていく姿はさぞかし美しいでしょう」

 早く相見えたいものだと女は思う。歴史に名を残すほどの偉業を成した者達が、どんな声で苦痛を訴え、どんな表情で苦しみを表現するのか、考えただけで昂ってくる。
 それこそマスターである佐倉杏子に語った、生前に被せられた汚名を拭い去るなどといった建前などどうでも良い。
 嬲り、壊し、殺す。この身は真実その為に現界したのだから。

 「身体が苦痛に苛まれて尚耐える姿を、終わりのない苦痛に心が折れていく様を、早く私に見せて下さい♡」

 其れはマスターにしても同じ事。願いの代償に魔法少女となり、やがて魔女と成り果てる運命の少女。
 生前に満たし続け、死後も尚求める欲の為に、吸血鬼と呼ばれ。死んだ後に怪物として扱われた自分の境遇と似た運命を持つ少女。
 そんな運命を知って、尚も気丈に振る舞い前を向く姿は、拷問にかけて嬲り抜く対象としては上々のモノ。
 あのマスターの強い心を壊したい。あの不死ともいうべき身体のマスターを、思う存分飽き果てるまで嬲りたい。
 そんな欲があのマスターと共にいると抑えられない。唯の人間なら兎も角、魔法少女というものは、どう嬲っても死ぬ事が無く、拷問により生じる魔女化の原因であるソウルジェムの濁りも、筋金入りの反英雄であるこの身にとっては只の魔力。つまりは、問題は何も無いのだ。
 気が付けば拷問室へと連れ込んでしまいそうだ。いや、必ず引き摺り込んでしまう。
 令呪をどうにかしない限り、自殺行為と分かっていても。
 マスターとは気が合わないというのもあるが、そんな自己の欲に基づく理由も有って、女は聖杯戦争が始まるまでマスターとはなるべく別行動をしようと決めていた。

 「本当に、本当に。これから出逢える素敵な方々の事を思うと、昂ってしまいますわ」

 だが、未だに邂逅は果たせていない。思い描く事しか女には出来ない。只々欲求が募っていくだけだった。
 自身のを含むマスターも、サーヴァントも、出会えず嬲れずでは、NPCを嬲って鎮めるしかない。

 其れにしても、こうなる事を見越していたかの様に、拷問室を設えるのにおあつらえ向きの地下室の有る廃屋を、海の近くで首尾良く見つけられるとは、これで抑えられずにマスターを襲う事も無いし、人目に付くことなく、拷問を愉しめる。死体の処理も楽にできる。
 とはいっても所詮は無聊の慰み、本命までの繋ぎでしか無いが。

 鎮まったと思った途端に昂りだした欲望を鎮めるべく、女は新たな獲物を求めて、霊体化して街へと繰り出した。
 余り人を攫い過ぎては面倒事になるだろうが、これ程までに人間で溢れているのだ。一人や二人消えても問題無い。
 消えたところで、誰も気にしない様な者を選べば、10人20人と消えても先ず大丈夫、一度獲物を調達する毎に時間や場所を変えれば尚更発覚はしにくくなる。
 そんな事を考えながら、女は次に行う拷問に思いを巡らせていた。


【CLASS】 
キャスター

【真名】
 エリザベート・バートリー@魔女大戦 32人の異才の魔女は殺し合う

【属性】
混沌・悪

【ステータス】
筋力: C耐久:B敏捷: C魔力:B幸運: D 宝具:A


【クラス別スキル】
 陣地作成:C
 拷問室の作成が可能。
拷問室中では、拷問器具を用いた攻撃にプラス補正が掛かり、拷問対象が死ににくくなる。

 道具作成:C
 宝具から派生したスキル。
 キャスターは拷問道具しか作成できない。

【固有スキル】

 嬲欲:EX
 他者を嬲り、壊し、その果てに嬲り殺す。死後も尚キャスターを突き動かす強烈無比な欲望。
 最高ランクの精神異常と加虐体質及び拷問技術の効果を発揮する他、欲望により身体能力や宝具を強化する事が可能。


 無辜の怪物:C
 生前の行いからのイメージによって、後に過去や在り方を捻じ曲げられ能力・姿が変貌してしまった怪物。本人の意思に関係なく、風評によって真相を捻じ曲げられたものの深度を指す。このスキルを外すことは出来ない
 生前の所業から吸血鬼と呼ばれ、死後そのイメージがより強まった結果獲得したスキル。
 吸血鬼としての性質を持ち、夜間は身体能力に補正が掛かる他、吸血行為によって魔力体力を回復させる事が可能。


 戦闘続行:A
 往生際が悪い。
 瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
 欲が尽きぬ限り、キャスターは止まらない。


 使い魔:C
 鼠、蛇、蛞蝓、蟻、山羊といった、拷問に用いられる動物を使い魔として作成・使役できる。


 真実の欲:ー
 キャスターが抱く真の欲望……。だが、キャスターは未だに己の真実に気付いていない。

【宝具】

 魔装 血の伯爵夫人(カウンテス・オブ・ブラッド)
 ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:ー 最大捕捉:自分自身

 他者を嬲りたい。という欲望と、吸血鬼という汚名とが融合した宝具。深紅のボディースーツ状のキャスターの戦闘装束である。
 身体能力を1ランク高め、吸血行為による回復効率を向上させる他、防具としての性能も高い。



 朱殷の遊び部屋(レッド・プレイルーム)
 ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:50人

 拷問の固有結界。通常時は魔装に拷問室と直結する『穴』を作り、其処から任意の拷問道具を取り出す。というモノだが、真名開放を行うと、空が赤黒く染まり、血に染まった石床の空間に、巨大な鉄の処女(アイアンメイデン)が存在し、宙に無数の拷問道具が浮かぶキャスターの心象風景が展開される。
 この遊び部屋の中では、キャスターは幾らでも拷問道具を作成することができ、作成した拷問道具はキャスターの意のままに動く。
 固有結界の形成と維持には魔力を消費するが、結界形成時に用意されている拷問道具に関しては魔力消費はしない。しかし、破壊されたものを新しく製造する、または形成時に無かったものを新造するには激しく魔力を消費する。
 さらにただ複製するだけでなく、自分好みにアレンジを加えたり、形状を変えるなどいった独自の改造を加えることも可能。
 物品としての拷問道具を作り出しているのに止まらず、長年使用された拷問道具には意思が宿り、その意思と共に拷問道具に宿る「使い手の経験・記憶」ごと解析・複製している。このため、仮に初見の拷問道具の複製であっても、ある程度扱いこなすことが可能。
 拷問道具には定まった定義はなく、キャスターがこれは拷問の道具だと認識する。或いは拷問に使えると判断すれば、拷問道具として扱われる。
 この結界内部では、空間そのものが『拷問』の概念を帯びる為、結界内に捉えた相手を、熱気や冷気や陽光といった環境で拷問する事や、飢えや渇きといった状態を付与して苦しめる事が可能。果ては病ですらも付与することが可能。
 山羊や鼠や蛇やナメクジといった生物を用いた拷問もある為に、使い魔の作成及び使役を行う事も可能。
 拷問道具は『吸血』の性質を持ち、拷問道具により流された血は、魔力としてキャスターに簒奪される。

【Weapon】
 宝具・朱殷の遊び部屋(レッド・プレイルーム)で作成した拷問道具。


【解説】
 16世紀末から17世紀初頭にかけてハンガリーはトランシルヴァニア有数の名家に生まれ、とにかく殺しまくった。
 権力を利用し殺しに殺しまくった。非道の貴族。
 生涯殺害数(キルスコア)650
 その全てを拷問で行った不世出の大殺人鬼。
 あんまりやり過ぎたんで吸血鬼扱いされたりもした。その所為で教会の人間とか正義とか大嫌い。
 命が潰れる瞬間の煌めきを求めて殺しに殺しを重ねるものの。真実求めていたものは、己自身が美しく壊れる事だったりする。

【聖杯にかける願い】
吸血鬼という汚名を晴らしたい………。というのはマスターに対して語った表向きの願い。
本当の目的は、歴史に名を刻んだ英傑達を嬲って嬲って嬲り殺したい。
聖杯を獲得したら、受肉した上で、自分で聖杯戦争を催すのも良いかも知れない。

※不定期に、一回毎に場所を変えて、NPCを拉致しては嬲り殺しています。


【マスター】
佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ



【weapon】
やたら柄が伸びる多節槍

【能力・技能】
豊富な戦闘経験と、高い攻撃力を持つ。本来持っていた『幻惑』の魔法は使えない。

【解説】
インキュベーターと契約した赤い魔法少女。
家族の為に願って得た奇跡が、家族を破滅させた為に。魔法少女の力は自分の為に使うという主義の持ち主になってしまったが、元々は善良だったりする。

 【聖杯にかける願い】
 願いはあるが、果たして願って良いものか悩んでいる。

 【ロール】
 無職無収入住所不定。所謂ホームレスである。

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最終更新:2023年09月20日 23:56