私が一番不幸だった。
この迷路に出口がないことを知っていたから。

次に彼が不幸だった。
この迷路に出口がないことを知らなかったから。

その他大勢は不幸ではなかった。
自分たちが迷路の中にいることすら知らなかったから。

                       ――――■■■■■■■■■■■■■■の詩


◆ ◆ ◆


夜の寒空が窓ガラスに映る暗い部屋。
一人の男が手に持ったダイスを指先で弄んでいる。

「地球から月までの距離はおよそ38万km。0.1mmの薄紙をたった42回折るだけで届いちまう距離だ。
 だが昔の人ははるか彼方に輝く月を眺めてもそんなことなんか思いもよらなかったろう。……なあ、オマエもそう思うだろ?」

部屋には男の他には誰もいないはずなのに、そう問いかける。
ダイスは手の中で擦れ合い、コロコロと音を立てていた。

「俺は”熱”を愛している。月の大地をたった一歩踏みしめるためだけに、生涯を捧げた男たちが持っていたような”熱”を……な」

返答はない。
相変わらず静まり返った部屋で、男は一人テキーラをあおる。
強面の男だ。眼光は鋭く、眉は細い。とても堅気には見えない。
当然というか、男はただの一般人ではなかった。


呪術師。


恐怖、嫉妬、憎悪。
人の負のエネルギーから生まれる呪霊と呼ばれる存在を狩る、特殊な才能を持って生まれてきた。
「秤金次」というのが男の名だ。

秤金次は”熱”を愛している。

”熱”はエネルギーだ。
人が「人生を変えてやろう」と思う時に発せられるそれは、ただひたすらに強く、自身の運命さえ捻じ曲げてしまうような力を持っている。

”熱”は欲求だ。
それが無ければ人は恋一つできない。そして、一度でも浮かされてしまえば虜になってしまうほどの恐ろしい中毒性がある。

”熱”は極めて慎重かつ大胆に扱わなければならない。
秤金次は、”熱”を愛している。


「……クソッ、シカトかよ。昨日はあんなに饒舌だったくせに」

秤はそう言うと、気だるげに机の上にダイスを5つ放り投げた。
ダイスは互いにぶつかり合い、ややあって動きを止めた。
5つ全てが6の目を出している。

1/7776。
全ての出目が6になる確率である。

天文学的な幸運にも一切感情を見せず、秤は机の上に転がったダイスを回収し、もう一度放った。
次も全てが6の目である。次も、その次も――何度放っても6の目しか出ない。

明らかに異常である。

だが、秤はそれが当然だというように事実を受け入れている。
眉を歪ませ、貧乏ゆすりを繰り返しながら、心底嫌そうにこの異常なまでの幸運を。


「くすくすくす。ここ数日の幸運生活は楽しかったかしら」

スゥ、という音とともに、霊体化を解いた少女がいつの間にか姿を現していた。どことなく黒猫を思わせる小柄な少女である。
彼女は今回の聖杯戦争において、秤のサーヴァントをキャスタークラスとして務めていた。


「あのなあ。楽しいワケねぇだろうが」

くつくつと笑う己のサーヴァントを後目に、秤はもう勘弁してくれとばかりにかぶりを振る。

「どうして? サイコロを振れば6の目しか出ない。ポーカーをすればロイヤルストレートフラッシュばかり。パチンコもルーレットも、競馬も競艇も当て放題じゃない」

キャスターの真名は「ベルンカステル」という。
――またの名を「奇跡の魔女」。

起こりうる事象の可能性が”ゼロでない限り”必ず成就させる、というとんでもない魔法を持つ、千年を生きた大魔女である。

「”運”ってのは試されてナンボだろ。初めから勝ちが見えている賭けのどこが面白いんだ?」

こんな生活はもう懲り懲りだ、と秤はぼやく。

「っていうか、”魔法”って何だよ。呪術とはまた別の代物か。確率を自由自在に操るなんて聞いたことがねぇ」

秤の知識はあくまで呪術師ベースである。
よって聖杯戦争に参加する際にインストールされた「魔術」についての知識も、キャスターが語る「魔法」の知識も受け入れ難いところがあった。

「さあね。私の生まれた世界と貴方の生まれた世界は違うのだから、持ってる知識が違うくても仕方がないわよ」

答えのような、さりとてそうではないような曖昧な回答を残し、キャスターは黒猫へと姿を変える。

「ああ、でもこの世界は面白いわ。私が航海者ではなく駒としてゲームに参加するなんて何百年ぶりのことかしら。
 ”カケラ”を渡り歩くだけの人生にも飽き飽きしてた頃だわ。強者に弱者、英雄に塵芥(ゴミ)! どんな駒たちが私を楽しませてくれるの」

キャスターは残酷な黒猫だ。
虫も殺さない顔をして人を殺し駒を潰し、ゲーム盤を荒らす。


雪の舞うビルの屋上でくるりくるりと一匹の黒猫が楽しげに踊っていた。

自身の残酷な本性は「まだ」マスターである秤にも教えない。
彼の魔法――術式といったか――は、ギャンブルに関するものだったと聞いている。
本人は嫌がるだろうが、この「奇跡の魔法」を使えばそのギャンブルを確定させてやることも可能だろう。

「くすくす……。楽しい、楽しいわ。本当に楽しい……」


呪いを祓うことを生業としてきた男は、ただ己に与えられた役割のために。
かつて運命に弄ばれた少女は、一時の退屈を忘れ愉悦に浸るために。

噛み合わない歯車のような二人の関係は、ただ神(ゲームマスター)のみの知るままに動き始めた。




【クラス】
キャスター

【真名】
ベルンカステル@うみねこのなく頃に

【パラメーター】
筋力:E 耐久:E 敏捷:D 魔力:A 幸運:C 宝具:EX

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
陣地作成:B
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
”工房”の形成が可能。

道具作成:A
魔力を帯びた器具を作成できる。

【保有スキル】
加虐体質:B+
戦闘において、自己の攻撃性にプラス補正がかかるスキル。
プラススキルのように思われがちだが、戦闘が長引けば長引くほど加虐性を増し、普段の冷静さを失ってしまう。

航海者:EX
「カケラ」と呼ばれている異なる運命や境遇の世界を渡り歩くことができる。
このスキルを持つ者は、自身の受ける特攻効果およびクリティカルダメージを減衰させることが可能となる。

【宝具】
『奇跡の魔法』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
奇跡の魔女としての権能。起こりうる事象の可能性が”ゼロでない限り”必ず成就させる。
発動時に大量の魔力を消費する燃費の悪い宝具だが、攻撃に補助、果ては妨害や防御にまで使える強力な代物。

【人物背景】
世界でいちばん残酷な魔女。過酷な運命に囚われ弄ばれた少女の成れの果て。
ありとあらゆる世界を飛び回る一匹の黒猫である彼女を殺せるのはたった一つ、「退屈」だけである。

【サーヴァントとしての願い】
この聖杯戦争を観測する。
自身の生死はどうでも良い。


【マスター】
秤金次@呪術廻戦

【マスターとしての願い】
聖杯戦争を止める。

【能力・技能】
『坐殺博徒』
パチンコ台をモデルにした領域。
領域内ではパチンコの図柄三つによる役が成立するかしないかの演出が進行し、成立すると術者である秤にボーナスがかかる。
大当たりではボーナスとしてラウンド中(4分11秒間)無制限に呪力が溢れ続け、完全な不死身となる。

【人物背景】
「人生を変えてやろう」というエネルギーを”熱”と表現し、それを愛する生粋のギャンブラー呪術師。
野望は「日本中の”熱”そのものを支配する」こと。

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最終更新:2023年09月24日 14:10