希望の光が届かなかったとしても

照らし出すよ そうこの両手で

二度と戻れない旅へ

求めた答えを 今手に入れるため


☆☆☆☆☆


(うん)
(良かった)

まもなくティアレの人間としての命は終わりを迎える。体を動かしていた遺物は取り外し、病状はとっくの昔に末期に至っている。もうすでに体は指一本、唇一つ動かない。
それでもなお、最期に為すべきことが為せる。それだけの意思が残っていると確信できた。

深界5層「なきがらの海」最深部。ここでは、全てを託し死んだ人間は「命を響く石(ユアワース)」を生成する。これこそが白笛の原料であり、6層への道を開く鍵だ。
これで、アキを、6層へと進ませる事ができる。
アキと、アビスの底へ繋がる道を進める。
夢にまでみた、冒険のさらなる続き。

(ああ、でも…)

アキの声が聞こえる。けれど目はもう見えなかった。自分の目はとうに無くなったし、代わりの遺物は取り外してしまった。

(…アキが今、どんな顔をしてるのか、見たかったな)

アビスの冒険はすべてを記憶に焼き付けているけれど、この時だけは黒一色だった。
白笛になった後、彼の顔は見れるのだろうか。
そう思ったのを最後に、ティアレの意識は途切れた。


☆☆☆☆☆


ティアレのこの世界での役割(ロール)は、冬木の児童養護施設の子供だった。
ベルチェロ孤児院とどこか似ているようなこの施設の、本好きな少年。
ティアレの外見はこの冬木の街の人々とは別の人種のような、金髪緑眼の容姿だが、その程度のことはこの世界では奇異という程でもないようだ。

まだ日も出ていない、子供が起きるにも早い夜中と早朝の間。
目が覚めてしまったティアレは、こっそりとベッドを抜け出して施設の中庭に出ていた。
そして。

「ハロー、マスター。初めまして。
ワタシはアルターエゴ」

野性的な装いに、白衣を纏った女性。施設にはやや不釣り合いな格好の彼女が唐突に現れ話しかけてきた時、ティアレは全てを思い出した。
そして、聖杯戦争の知識が流れ込んでくる。

「ええと。初めまして、アルターエゴさん。
ボクはティアレです」

ティアレはやや混乱しながら、初対面の挨拶を返す。

「ボクは元の世界では、奈落の探窟家でした」

「ふむ……奈落、アビス。聖杯の知識では、概ね私がいた場所も比較的それに近いな。ワタシはパルデアの大穴、その最奥の研究所ゼロラボで作り出された研究補助のためのAIだ」

他の世界にも、アビスのような場所があるのだろうか。ティアレはもっと話を聞こうとするが、その前にアルターエゴが話し出す。

「親睦を深める前に、確認しておくことがある」

「単刀直入に話そう。ワタシにも聖杯に願うべき夢はあるが、そのためにキミのような子供を巻き込むつもりはない」

意味を訝しむティアレに、アルターエゴは言葉を続けた。

「あくまでワタシの夢は、ワタシの満足のために過ぎない。ワタシは夢のために戦えるが、夢のためにキミに戦いを強要しようとは思わない」

「キミが望むなら、聖杯戦争のことを忘れ、隠れて最後まで過ごしてもいい。あるいは、令呪でワタシを自害させるのもいい。この聖杯戦争は、サーヴァントを失ったマスターに苦しみのない終わりを与えてくれる」

口調こそ平坦だが、アルターエゴの言葉には慈しみと罪悪感が感じられた。きっとティアレがその言葉通りに令呪を使っても、彼女はそれを受け入れ消えていくだろうと信用できた。
きっと彼女が言うことも、一つの選択肢だ。戦いを拒否し、安らかな結末を迎える。このような状況下では、それは十分な価値があるのだろう。
だけど。
最初の混乱は引き、ティアレの頭は整理されていく。
ティアレの願いは、安穏とした逃避の先には存在しない。

「アナタのためだけの戦いではありません。ボクにはボクの…夢が。聖杯戦争で、勝たなければいけない理由があるんです」

「……ワタシはキミのような年齢の少年が、そのような業を背負うことを肯定しがたい」

「夢のため、アビスの冒険のために払った代償を業と呼ぶなら、ボクはもうたくさん負ってます」

デチュアンガの誘いに乗ったこと。ベルチェロ孤児院の皆に別れも告げず、勝手に飛び出したこと。…親友を、アキを、傷つけてしまうようなやり方しか選べなかったこと。
後悔はしないけれど、どれもティアレの業だ。
その業の一つ、緑の両目──実り多き真球(プアインハート)──をそっと指差して、遺物として使用する。

「……!」

白目が黒く染まり、異形の眼となったティアレの双眼に、アルターエゴが目を剥いた。

「ボクは本来、アビスに潜るなんて到底出来ない、ベッドから離れることも出来ない病人だったんです。アビスについての本を読んで、憧れることしか出来なかったんです。この眼は実り多き真球(プアインハート)という奈落の遺物で、ボクの身体能力を補ってくれていました。病気は治りませんが」

「待て。遺物……とは、アビスという場所で出土する特殊な物品のことではなかったか?キミ自身の目はどうした……。その病気で失ったのか?」

アルターエゴが挟んできた言葉は、焦りを帯びていた。ティアレはそれに淡々と答える。

「病気は関係ありません。取り出しました。この遺物を使うには、眼窩に嵌める必要があるんです」

「取り出した、だと?」

「確かに、自分でやるのは痛かったけど。ボクが、深界5層の最奥まで到りうる手段はこれしかなかったんです。この遺物を使えば元以上にはっきり目は見えますし」

アルターエゴが少しの間、呆然としていたのが分かった。

「……その病気を治すことが、キミの望みか?」

「治るといいとは思います。でも治らなくたっていい。元の世界に──アビスに戻って、アキと、友達と一緒にどこまでもアビスを冒険できれば、なんだっていい」

一緒に。どこまでも。
笛としてでも、探窟家としてでもいい。
ああ、でも。諦めていたけれど。
もしかしたら聖杯の力なら、白笛を手にしたアキと一緒に、探窟家として、アビスにさらに潜っていくことか出来るのかもしれない。
それが叶うのなら、まさしく奈落の奇跡だ。

「アルターエゴさん。アナタが、夢のために戦えるのなら。ボクの夢のために、力を貸してもらえませんか。ボクは聖杯を手に入れて、もう一度冒険を、冒険の続きがしたいんだ」

「キミの夢も、冒険か」

アルターエゴは、笑ったように見えた。

「ティアレ。キミが病床からアビスに夢を馳せていたように、ワタシは大穴の底からパルデアの地上で旅をする者たちを見ていた」

「もしかして、アルターエゴさん、アナタも」

「そうだ。ワタシの夢も冒険だ。彼らのように、あるいはキミたちのように、自由な、自分だけの宝物を見つける冒険がしたかったのだよ」

エリアゼロの研究所から出られない、被造物の身だとしても。その夢さえ、制作者たる博士の夢の続きに過ぎないかもしれなくても。そうアルターエゴは続けた。

「ワタシの最後の冒険は、残念ながらサーヴァントとしての記憶には残っていないが。ティアレ、キミの冒険では、どんな宝物が見つかったのかな」

奇妙で、時に危険な原生生物たち。大穴に広がる奇景。外では食べられない食べ物。同期の皆と潜った層、一人で潜り続けた層。アビスの冒険は一つ一つが宝物で、いくらでも挙げることが出来るけれど。

「友達に出会えました。同じ夢を持って、一緒に笑えて、一緒に前に進める。そして、自分の全てだって託せる友達」

「素晴らしいことだな」

アルターエゴは目を閉じる。彼女が目を開けた時には、その目には強い意志が宿っていた。

「ティアレ。ワタシのマスターがキミであることを嬉しく思うよ。ワタシはもっとキミの冒険の話が聞きたいし、キミが冒険の続きを歩むところが見たい。サーヴァントとして、キミの冒険のために戦うと誓おう」

「ありがとうございます、アルターエゴさん。ボクも、アナタの冒険の先が良い物であることを願っています」

ふと気がつくと、空は随分と明るさを増していた。朝の光が空を染めていく。振り返ったアルターエゴが、小さく呟く。

「夜明け、か……知識では知っているが、この目で見るのは初めてだ」

「冒険では、本でしか知れなかったことも、本ですら知れなかったことも、沢山見れますよ。アルターエゴさん」

楽しみですね、とティアレは笑う。奈落で長く過ごしたティアレにとって久しぶりな朝日は、記憶よりも眩しかった。

【クラス】
アルターエゴ

【真名】
オーリムAI@ポケットモンスタースカーレット

【ステータス】
筋力D 耐久B+ 敏捷E 魔力C+ 幸運D 宝具EX

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

単独行動:A
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクAならば、マスターを失っても一週間現界可能。

陣地作成:C
魔術師として、自らに有利な陣地(工房)を作り上げる。アルターエゴの場合は研究所、あるいは研究室を作り上げる。

道具作成:B
魔力を帯びた器具を作成可能。 アルターエゴが作成出来るのはテラスタルオーブのような、テラスタルの力を用いた器具。

【保有スキル】
ポケモントレーナー:A
オーリム博士本人を含めたパルデアのチャンピオンすべてのデータを学習した、パルデア最強のトレーナー。
その場で捕まえただけの獰猛な古来パラドックスポケモンでも、その力を把握し十全に従えることが出来る。

結晶の加護:B+
オーリム博士の見出した、エリアゼロ深部にのみ存在する結晶体の力。本来世界に存在しない性能のAIたるアルターエゴを作り出し、そして動かす動力そのもの。
アルターエゴの体を侵食、置換することで、さらなる性能を引き出すことが出来る。

【宝具】
『タイムマシン』
ランク:EX 種別:??? レンジ:? 最大捕捉:1
エリアゼロの底、ゼロラボ最深部でオーリム博士とアルターエゴが作り出した異なる時間軸との接続を可能とする装置。
現在はオーリム博士の愛した古代と接続され、古来パラドックスポケモンを呼び出し続ける装置となっている。
モンスターボール程度の大きさなら相互の行き来が可能だが、人間サイズの存在が移動すれば二度と戻ることは叶わない。

『楽園の守護竜(コライドン)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
タイムマシンから呼び出された、凶暴なパラドックスポケモン。同種を縄張り争いで追い出し、オーリム博士を殺害した。
オーリム博士の「楽園」を守る、最強の門番。

『楽園防衛プログラム』
ランク:C+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
アルターエゴに仕組まれたタイムマシンを防衛するためのプログラム。オーリム博士の妄執そのもの。
アルターエゴがタイムマシンの防衛に失敗したときに発動し、結晶体の力で強引にアルターエゴを乗っとる。その場の博士のものを除いた全てのモンスターボールを使用不能にし、『楽園の守護竜』で侵入者を排除する最終防衛機構。

【weapon】
宝具『タイムマシン』から供給され続ける、古来のパラドックスポケモンたちの入ったマスターボール。

【人物背景】
パルデアの研究者・オーリム博士に作り出されたAIロボット。オーリム博士の記憶と知識を完全に引き継ぎ、同等の能力を持つ。同僚や夫と袂を分かったオーリム博士が、それでもエリアゼロの底で研究を続けるために作成した。
大穴の外の技術では到底不可能な技術だが、機械にまでも影響を与えるエリアゼロの結晶体の力がそれを実現させた。

オーリム博士の「古来のポケモンと現代のポケモンの共存」という夢を、現代のパルデア生態系を壊す危険なものだと判断し、彼女の死後に阻止のため「オーリム博士」を自称し動く。
その過程でパルデアを冒険する主人公たちと関わり、自分自身で自由に古代の世界を冒険する、という夢を持つようになる。
最期には古来ポケモンを呼び続けるタイムマシンを止めるべく、タイムマシンを用いて夢であった古代の世界へと旅立った。

【サーヴァントとしての願い】
聖杯戦争に勝利し、マスターであるティアレの冒険の続きを見る。
叶うのならば、自分も古代の世界を冒険する。


【マスター】
ティアレ@メイドインアビス闇を目指した連星

【マスターとしての願い】
聖杯戦争に勝利し、またアビスで探窟の続きをする。
今度は人間として、アキと一緒に。

【weapon】
ナタ(鋸歯)
奈落の素材により強化されたナタ。

【能力・技能】
  • 探窟家
公式には赤笛だが、単身で深界5層最奥までたどり着ける、黒笛相当の高い探窟能力を持つ。
アビスの事物にも通じており、武器や食料の作成も問題なく出来る。

  • 実り多き真球(プアインハート)
富豪デチュアンガから与えられた遺物。
本来の目の代わりに眼窩に嵌めることで使用できる。
良好な視力を持ち、生きている間は身体能力が大幅に向上し、怪我や毒も治癒されるが病気を治すことはできない。
一つでベッドを離れられない病人が、優秀な赤笛としてアビスに元気に潜れる程となる。
通常時は普通の眼球に見えるが、両目とも置換し本来の力を使うと白目が黒く染まった異形の眼となる。
代償として、この遺物を使用したまま死んだ人間はこの遺物の意思により動かされる動く死体となる。
ティアレは両眼をこの遺物と置き換えている。

  • 病弱
ティアレは生まれつきの病を持っている。
本編時点では既に末期であり、上記の遺物がなければ戦闘は不可能。
そして、遺物があった上でもその命はあと僅かである。

【人物背景】
ベルチェロ孤児院の「赤笛」探窟家。
「闇を目指した連星」主人公と同期で、友達となりともに白笛になりアビスに潜る約束をする。

本来病弱な探窟に堪えない体で、ベッドの上で読む本の中のアビスの冒険に強く憧れていた。
後に遺物コレクターの富豪、デチュアンガに売られ、遺物「実り多き真球」を与えられ探窟家となれるよう取り計らわれる。その代償として、白笛を手に入れた時にはデチュアンガに渡す約束をさせられた。

孤児院の探窟家として探窟を続けるも、ティアレの病状の悪化は深刻であり、このままの探窟ではアビスの底を目指すよりも先に死を迎えると判断することになった。デチュアンガからさらに追加で「実り多き真球」を手に入れ、単身でアビスの底を目指す。

5層の最深部である前線基地で、主人公と相対し、負けたほうが「白笛そのもの」となる戦いをしかけ、負ける。最期は遺物を外し、白笛として主人公とともに冒険を続けられることを喜びながら死んだ。

【方針】
聖杯狙い。不必要な殺人や残虐行為は忌避し、サーヴァントを優先して戦う。

【備考】
参戦時期は死後。
原作主人公の名前はデフォルトネームの「アキ」とし、性別は男とする。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2023年09月25日 19:28