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冬木市のある街角。

そこでは、子供や疲れた大人に人気の屋台が営まれていた。

「お母さん、これ買って!このカブトムシの飴!」
「私こっちのリスさん!」

「この刀の形...昔、チャンバラごっこで遊んだのを思い出しますねえ」

子供が指差すのは、精密に象られた色とりどりの形をした飴。
精密に作られた虫や動物、仮面のような小道具の飴は童心をくすぐり、老若男女問わず目を引くものだった。

「アイスと飴とで、合計650円になります」
「今日もお手伝いなんて偉いねえメイちゃん」

主婦は勘定を受け取った少女———天野メイを労い、頭を撫でてやる。
するとメイはえへへと嬉しそうにはにかみ、傍にあった小箱に貰った金を入れてお釣りを返す。

「あんたもこんなお爺ちゃん想いの孫を持って幸せもんだねえ」
「カカカ!まったく、儂には過ぎた孫じゃわい」

主婦と談笑するのは、店主の禿げ爺だ。

「物覚えが良くて器量も良い。飴の腕前はまだまだじゃが、仕込みがいがあるというものよ」
「まあ羨ましい。ウチの子なんてすぐにグータラしちゃって...」

傍から見ればなんてことのない談笑。
しかし、メイは笑顔を振りまく傍らで、彼らの会話に耳を傾ける。
自分が褒められているからではない。
聞きたいのはもっと別のことだ。

「あっ、そうそう聞いた?この辺りのことなんだけど———」

主婦がそう切り出した瞬間、ほんの少しだけメイと禿げ爺の目の色が変わった。



ズルリ。ズルリ。

草木も眠る深夜帯。
閑散としたビルの中、なにかが這いずるような音が反響する。

「ヒ...ヒィ...」

獣のような姿をしたソレは、傷ついた身体で血反吐を吐きながら地を這っていた。

「逃げられると思っているのか」

頭上よりかけられる声に、獣はビクリと身体を震わせ、ガチガチと歯を打ち鳴らす。
ゆっくりと振り返れば、そこに立つのは筋骨隆々の大男。
月光に照らし出されるは、顔のおおよそ半分を覆い尽くす仮面と、見る者を畏怖させる鋭い眼差し。
そしてその右手に携える大剣は、まさに処刑人の出で立ちだ。

「な、なぁ。もう勘弁してくれよぉ。腕もボロボロだし、こんなに血がいっぱい出てたら死んじまうよぉ」
「だろうな」
「あんたはつええよぉ。降参、降参だ。靴も舐めるし俺のマスターにだってあんたらを援助させるから許しておくれよぉ」
「...確かに、決着が着いた以上は俺も貴様の生死に興味はない」
「じゃあ!」
「だが処断を決めるのは俺じゃない———如何する、マスター」

男が恭しく片膝を着き首を垂れると、暗闇よりカツンと床を鳴らす音と共に影が小さな浮かび上がる。

「...さっき、そこの部屋で子供の靴を見つけたわ。血まみれで、ボロボロになったね」

現れたのは、背丈の低い少女———天野メイ。
昼間に子供たちに見せていた愛嬌を何処ぞへと追いやり、冷酷な眼差しを携え問いかける。

「一つ二つじゃない...貴方たち、ここでたくさん殺したのね」
「ひ、ひぃっ!?」

キッ、と目つきを鋭くするメイに気押され、獣は悲鳴をあげる。

「なっ、なんだよぉ!こいつは聖杯戦争なんだぜ、NPCのガキ食ってなにか悪いのかよぉ!!」
「...そう」
「いっ、いや、待て!つい魔が差しちまったんだ!ガキの心臓は美味ぇからな、へ、へへ...そっ、そうだ!俺の目ぇつけてた奴らをあんたも食ってみろよ!へへっ、あの味を知りゃあ俺の言ってることも———」
「セイバー」
「承知した」

メイの呼びかけに、セイバーは着けていた膝をあげ、大剣を両手で握りしめる。
獣は理解した。せざるをえなかった。
セイバーによる処刑が確定したことを。


「あっ、グッ...チィクショオオオオオオオオ死にたくねええええええええええ!!!!!」

獣は喉からあらん限りの悲鳴を絞り出し、セイバーへと飛び掛かる。
錯乱からくるやぶれかぶれの特攻。
しかしその速度は侮れず。
弾丸さながらの突撃にセイバーは動かない。

距離が縮まっていく。
まだ動かない。

両爪が、セイバーの眼前にまで迫り———剣が動いた。

しゅっ、とセイバーの呼吸の音が漏れる。

一閃。

横なぎに振るわれる斬撃は獣を通りざまに斬りつけ、そのまま両断。
重力に従い、獣の肉片が落ちるとべちゃりと肉と臓腑が床にぶちまけられた。

「あ...そ、そんなぁ、僕のサーヴァントが...!」

いつの間に来ていたのか。
眼鏡をかけた貧弱な男が、霊子と共に消えていく獣の亡骸を前に泣き崩れる。

「も、もうお終いだ...僕も直ぐに消えてしまうんだぁ...!」
「あの」
「うああああああああああ!!!」

メイが声をかけようとすると、男は半狂乱になりながら逃走し何処へと去っていく。

「マスター」
「...大丈夫。私がやってることは、ちゃんとわかってるから」

メイは遠ざかっていく男の背中をジッと見つめ、やがてなにを想ったか、身体を震わせながらふぅと小さくため息を吐いた。

辺鄙な平屋の一室。
そこでがメイとセイバーの住処だった。

すぅすぅと寝息を立てるメイの目尻に浮かぶ涙を軽く拭いつつ、セイバーは彼女との出会いを振り返る。

かつて、彼はヤマトという大国の武将を務めていた。
時には戦陣の指揮を執り、時には戦友たちと肩を並べて戦火を駆け抜け、時には老人に変装し飴屋として市内の治安を見守り。
己の生の最期までヤマトへの忠誠を貫く。
彼の生き方はそんな『武人』の肩書に相応しいものだった。

そんな彼に英霊としての願いなどあるだろうか。いや、ない。
受肉して永遠にヤマトに仕える、ヤマトに未来永劫の繁栄をもたらす———そういった願いを彼は求めなかった。
彼は学んでいた。
永劫を望んだ者たちの哀れな成れ果てを。
彼は兄に示された。
己以外の者に全ての富を委ねた國がどれだけ脆く、飛躍の芽を摘まれるかを。

そんな彼がこの戦に臨もうとしているのは、目下、マスターである天野メイのためである。

彼はここに呼ばれる直前に夢を見た。

熱く、血潮を煮えたぎらせるような漢の夢を。

彼の見た光景。

そこは欲望の巣窟だった。

殺意と狂喜の中で、銭と権力に溺れた豚どもが命を玩具に愉しむ戦場だった。

その中でセイバーは見た。

脳裏に焼き付き離れなかった。

一人の娘のために戦う漢が。

並みいる強敵たち相手に戦い抜くその姿が。

勝敗が明らかな戦にも怯まず、一撃必殺の拳を幾重も受けながら、膝を破壊されながら、それでも愚直に突き進む。

己の持ちうる全てをぶつけて命の証を刻み込む灼熱の如き背中が。

まさに、試合ならず本物の『死合い』にセイバーは魅せられた!

数多の戦場を駆け抜け多くの死闘を繰り広げてきた彼が、熱き血潮を滾らせるほどに!

178:熱き鼓動の果てに ◆ZbV3TMNKJw:2023/09/26(火) 23:36:46 ID:RQz/EwBI0

そして夢が覚め、召喚されると、マスターである目の前の少女に問いかけた。
貴様はこの戦の果てになにを願うか、と。

彼女は状況を整理し、気を落ち着かせると、躊躇いなく言った。

「私は誰かを犠牲に願いなんて叶えない。こんな人の命を足蹴にするゲームなんて蹴飛ばしてやる」と。

何故か、と問いかければ、彼女はこう返す。

「私は『アイアン・ペガサス』天野和馬の娘、天野メイだから。お父さんみたいにどんな理不尽にも負けたくない———絶対に、負けないから!」

その彼女の姿を見て、彼は思った。親が親ならば子も子か。幼き女子であろうとも、あの気高き魂は引き継いでいるのか、と。

然らば。

ヤマトの左近衛大将という立場はもう任期を全うしたのだ。
無辜の民を蹴落としてまでしがみつこうとは思わない。
あの胸を震わす死闘の見物料として彼女たち親子に尽くすのもやぶさかではない。


故に。

彼は、セイバー・ミカヅチは天野メイに忠義を尽くすことに決めたのだ。

ズレた布団をかけ直してやり、ミカヅチは己の筋肉の調子を確かめながら飴の仕込みに取り掛かる。
メイはなにも幼き楽観的思考で聖杯戦争を止めようとしているわけではない。
そもそも、彼女は自分が生き残れる可能性は低いと思っている。
故に、自分が脱落した場合に備えて、ミカヅチに一つの頼みごとをしている。
それは『聖杯を委ねるに値する者を選別する』こと。

聖杯という万物の願望器を前にした者皆が高尚な願いを掲げる訳ではない。
永劫の富を手に入れ我欲と暴虐の限りを尽くそうとする者や、世界を破滅に向かわせるような邪悪な願いを抱く者もいるかもしれない。
メイが頼んだのは、そういった輩を排除し、せめて可能な限り善良な者にこそ願いを叶える権利を与えてほしいということ。

故に、昼間は飴屋の屋台を開き冬木市の治安を窺うのを兼ねて、多くの市民と触れ合うことで情報収集を行っている。
それに、このような市街でわざわざ飴屋の屋台を転がしており、挙句に少女と老人が営んでいるともなれば違和感は浮彫になる。
つまり、他の主従は彼らを聖杯戦争のマスターとサーヴァントであると推測しやすくなっている。
それもまたメイとミカヅチの狙いだ。
敢えて隙を晒すことで、他の主従を試しているのだ。
こちらへの対応が襲撃や奇襲であればその時点で敵と判明させられるし、交渉であれば可能な限りは応えたい。

当然、敵対した者があまりにも邪悪であれば斬る———即ち、相手を殺すことになる。
それはミカヅチに任せてマスターである彼女は目を瞑ることもできた。
だが、彼女は敢えて向き合った。
ミカヅチに斬ってと頼んだ以上、その相手を殺したのは自分であり、自分は紛ごうことなき人殺しだ。
その罪と罰は必ず受けねばならない———この聖杯戦争に連れてこられる前からの彼女の生き方である。

(幼くありながら強い娘だ。いや...幼いからこそ、か)

ミカヅチの脳裏に過るのは、かつて戦友として肩を並べた漢の妹と、帝の後継者たる姫殿下。
彼女たちは幼いながらの未熟さはあったものの、過酷な運命に晒されることでそれぞれが強く成長した。
まだ価値観が定まっていない幼き時期だからこそ、素直に己の身に起きたことを反省・反芻できるからだろうか。
平和な時代に生きたメイがそうなったのを喜ばしいとは思わないが、しかし否定するつもりはない。
彼女の受け継いだ『強さ』にケチをつける必要がどこにあろうか。

「さて...寝る前に飴を仕込みにいくか」

屋台に並べるための飴に触れながら、少女の未来には、どうか覚悟が報われるようにと甘い幻想を抱く。
一方で。
主の安寧を望みつつも、己は武士(もののふ)として、死すならばあの漢のような死闘の果てでありたいとも願っている。

「...ククッ、死んでも性分というやつは変わらんらしいな」

未だに死合の熱に浮かされる己を笑いつつ、ミカヅチは明日の屋台に出す飴の製作に取り掛かるのだった。


【クラス】
セイバー

【真名】
ミカヅチ@うたわれるもの 二人の白皇

【ステータス】
筋力A 耐久A 敏捷B+ 魔力D 幸運D 宝具C

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
対魔力:D(雷属性にはA)
一工程(シングルアクション)によるものを無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。ただし雷属性の魔術には耐性が大幅に上昇する。

単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。

【保有スキル】
亜人:A
人間の身体に野生動物のDNAが組み込まれている。
そのため生体強化されており、人間よりも身体能力・生存能力が高い。

仮面の者:A
帝の作りし『仮面(アクルカ)』の使い手。
仮面を装着すると、身体能力や治癒力が向上する他、それぞれの仮面固有の特殊能力が行使できるようになる。

頑健:A
耐久のパラメータをランクアップさせ、攻撃を受けた際の被ダメージを減少させる。複合スキルであり、対毒スキルの能力も含まれている。

【宝具】

『仮面解放』
ランク:A 種別:対人宝具(自身) レンジ: 最大捕捉:自身のみ
仮面の力を解放することで、攻撃に電撃属性が付与され身体能力が飛躍的に増幅する。
反面、持続時間はさほど長くない上に消耗が激しく多用はできない。

『仮面解放・真』
ランク:A+ 種別:対人宝具(自身) レンジ: 最大捕捉:自身のみ
仮面の力を全力で解放することで己の姿を巨大な二足歩行の竜に変化させる。
この形態の時は刀を失い、攻撃手段は殴打が中心となる。
例にもれず持続時間が短く消耗も激しい。

【人物背景】
ヤマト左近衛大将の官位を持つ武人。
帝より仮面(アクルカ)を賜った仮面の者(アクルトゥルカ)のひとり。身内に兄と母がいるほか、側用人にミルージュがいる。
強面で武を重んじる男なのだが、その顔付が怖すぎる故ヤマトの民から少々怖がられていることが多い。そのため普段は賑わっている市場も自分が歩いている時は途端に静まり返ってしまうため、プライベートでは飴屋の店主に変装して市街を見守っている。飴屋の老人として行動していると世間話ということで情報が飛び交ってくるので、色んな情報が入ってくる。
更に悪事を働くやつは自身を【飴屋】と侮って自慢げにべらべらと喋るので、それらを討伐するためにも役立っている。

【サーヴァントとしての願い】
メイを護り、邪悪な者を斬る。死すならば死闘の果てに死にたい。

【把握資料 ゲーム『うたわれるもの 偽りの仮面・二人の白皇』 本編。又は、TVアニメうたわれるもの偽りの仮面・二人の白皇】

【マスター】
天野メイ@職業・殺し屋

【マスターとしての願い】
聖杯戦争を止める。もしも不可能であれば善良な人に取ってもらいたい。

【能力・技能】
無い。

【人物背景】
S・M・Wプロレス団体の社長の娘。父の仇を取る為に職業・殺し屋に依頼する。
父・天野和馬はシュートレスラーとして名を馳せたが、大金持ちであるイワノフ・ハシミコフの裏格闘技への抜擢を断ってからは金の力で貧困にまで追い立てられる。
和馬は愛する娘のため、プロレスラーとしての意地のため、イワノフ主催のロシアン・コンバットへ参戦するも敗退。絶対王者・グルガとの死合いで己の命が尽きるまで戦い続けた。
その姿はイワノフの脳髄にも刻まれ、その死合いの内容を聞かされた二人の殺し屋は、その姿に触発され闘争心を燃やす。
けれど、メイにはわからなかった。負けたって、父さんが無事ならそれでよかったのに。なんで止めさせてくれなかったのだろう。
その疑問の答えを知ったのは、殺し屋たちが依頼を完遂してからのことだった。
事件後は銃弾で撃たれた後遺症で下半身不随に。職業・殺し屋に頼めば治すこともできたが彼女はそれを拒否。
相手がどんな悪党であれ、殺人依頼したのは自分であり、人を殺した以上はその罰を受け、それでも生き抜いて克服することを決意する。

【参戦時期】
ロシアン・コンバット編終了後。ただし、参加するにあたり下半身不随は完治させられている。聖杯に願わずに元の世界に帰還した場合、また下半身不随に戻るだろう。

【把握資料】
漫画 職業・殺し屋 7~9巻『ロシアン・コンバット』編

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最終更新:2023年09月27日 22:45