ポケットのなかにはビスケットがひとつ――――


枯山水の庭園に二人の童女の歌声が響く。


ポケットをたたくとビスケットはふたつ――――


二人は仲睦まじく遊んでいるようで、時たまはしゃぎ声が歌に混ざる。


――――あっ、あたしのおかし、落っことしちゃった。


やにわに片方の女の子が泣き声を上げた。
食べていたビスケットを芝生の上に落としてしまったのだ。


――――もう、しかたないなあ、まいは。


あたしのあげる、としっかりした方の女の子が自分のビスケットを割り、泣いている子へと渡した。


――――これで、二つになっただろ。


さっきの泣き顔はどこへやら、うん、と嬉しそうに笑いながらビスケットを受け取る。


――――なんでも二人で分けるとおいしいね、おねえちゃん。


妹のその言葉は、未だに私の胸に澱のようにへばりついて離れない。


 ◆ ◆ ◆


少女は暗闇の中で目を開く。
眼の前には死体の山が積み重なっている。


前を向く。だらしなく舌を突き出した従兄弟の生首が吊るされている。

左に視線を移した。頭を両断された父が刀を振りかぶったままこちらを睨んでいる。

下を見る。胸から鮮血を吹きながら母が恨み辛みを呟いている。


右は――――――――




右へはどうしても目をやることができない。


怖いからだ。


自分が殺してきた者たちと、自分が犯してきた数々の罪と向き合わなければならないから?


――――いや、違う。


罪悪感は全て『彼女』が持って行ってくれた。


――――彼女?


そう、私が怖いのは、あの子がすぐ傍で私を待っているかもしれないから――――



 ◆ ◆ ◆


「ヘイ、マスター! 今夜一緒に踊らない!? そんな目で見るなよブルっちまうぜ!」

深夜の裏路地で異様な姿の男女が連れ添って歩いていた。

一人はまるで時代錯誤のスーパーヒーローのような全身ラバースーツに身を包み、顔全体を覆うマスクを着用した男。


「さっきからペチャクチャペチャクチャるっせぇな。ちょっとは黙ってろ、バーサーカー」

もう一人はハイネックのタンクトップを身にまとったショートヘアーの美少女だ。
だが全身に歴戦の戦士の如き傷痕が大量に走っており、明らかに街の雰囲気に似つかわしくない。
それだけではない。彼女は一振りの脇差し大の刀を腰に下げていた。


「うるさいって、そりゃないぜ! 黙れよ! 俺! ……ごッ」

バーサーカーと呼ばれていた男が、少女の裏拳を喰らい吹き飛ぶ。
そのままの勢いで壁に命中した男は、泥人形のように溶けて崩れた。


「ジャジャーン! 俺は死なねえ! いやサーヴァントだからもう死んでるぜ」

すると物陰からひょっこりともう一人の『バーサーカー』が姿を現す。


手品? そっくりな別人?

いや、違う。彼らは全部で一つ、そして一つで全部なのだ。


狂戦士(バーサーカー)の名を冠するサーヴァントとして召喚された男は、魔力がある限り無限に増え続けるという“個性”を持っていた。
泥のような物体からホムンクルスのように産み出され、今もこの冬木市のあちこちには数知れぬほどの『彼ら』が無数に蠢いている。


――――突然、かん高い鳴き声とともに一匹の鷹が飛び立った。

路地からでもはっきりと見えるほど大きな鷹だ。

「おっ、鷹か。自由に飛べて、どこへでも行けて、羨ましいねぇ」

しかしバーサーカーの反応はまるっきり逆で、怯えるように首をすくめた。

「なんだ。お前、鷹が苦手なのか?」


少女の言葉に、バーサーカーは震える。

「鷹(ホーク)は嫌いだ! あの全てを見透かしたような目がいけ好かねェ……! まだトラウマなのかよ! ダッセェな!」


「そうか。色々あったんだな」

震えたまま頭を抱えたバーサーカーは、頭に被ったマスクを取り落とした。


「うぐぅぅぅ……」


その場にうずくまり、震え続けるバーサーカー。
少女はそのマスクを拾い、彼の頭に被せてやる。


「“包めば一つ”だろ」


これまで行動を共にしてきて、分かったことがいくつかある――――

まず一つ。マスクが外れるのを極度に嫌がるということ。
そして。彼も自分のようにトラウマに塗りつぶされそうになる時があること。
最後に。二つに別れたものでも、包めば一つ、ということ。


 ◆ ◆ ◆



ポケットのなかにはビスケットがひとつ――――


ポケットをたたくとビスケットはふたつ――――


私は、今度こそ、と心を決めた。


目を閉じ、そして再び開く。

眼の前には死体の山が積み重なっている。


いつものように――――

前には従兄弟が。

左には父が。

下には母が。


右を向こうと決意する。




――――だが。


首はどうしても動かない。

心はとっくに覚悟を決めたのに。

――――そう思っていたのに。


どうすれば見えるようになるんだろう。


――――ねえ、真依。


どうやら、全てが見えていても――――見えなくて、それ以外の全てが見えていても。

見えないものはあるらしい。





【クラス】
バーサーカー

【真名】
トゥワイス@僕のヒーローアカデミア

【パラメーター】
筋力:E+ 耐久:E+ 敏捷:D 魔力:E 幸運:E 宝具:B+

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
狂化:D
筋力と耐久のパラメーターをランクアップさせるが、複雑な思考が難しくなる。
過去のトラウマによる産物。分裂する思考が止められない。

【保有スキル】
気配遮断:C
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
完全に気配を断てば発見する事は難しい。

敵:B
侵す者。その象徴たる証。
自身のクリティカル発生確率を中程度上昇させる。
その代わり、精神系の状態異常を受けやすくなる。

【宝具】
『二倍(トゥワイス)』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1
一つのものを二つに増やす。複製するには対象物をしっかり精緻にイメージしなければならず、イメージが足りないと失敗して不完全なゴミが出る。
例えば、人を増やすなら身長や胸囲、足のサイズなど多くのデータが必要。複製はある程度のダメージが蓄積すると泥の様に崩れ消滅する。
また、人間を増やす場合は人格も含めて複製しているのでコピーが協力してくれるかは交渉次第である。

『哀れな行進(サッドマンズパレード)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1~999 最大補足:∞
バーサーカーの第二宝具。魔力が続く限り自分自身を複製し、更にその複製に自身を複製させる事で無限に増え続ける。
その規模は凄まじく、瞬く間に辺り一面を埋め尽くす程の数を作り上げるほど。
さらに自身ほどの効率では生み出せないが、事実上味方も同様に無限に増やすことも可能。

【人物背景】
信じていた友に裏切られ、愛する少女に看取られ逝った男。
彼はもう、居場所を見つけられた。

【サーヴァントとしての願い】
聖杯をブン獲ってマスターに渡す。


【マスター】
禪院真希@呪術廻戦

【マスターとしての願い】
聖杯を悪用しようとする奴等を全て斃す。

【能力・技能】
『天与呪縛・フィジカルギフテッド』
本来持って生まれる筈の術式と呪力を持たない代わりに、人間離れした身体能力を身につけている。

【人物背景】
片割れから呪いを託され、怪物に成り果てた少女。
彼女はまだ、居場所を見失っている。

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最終更新:2023年10月03日 00:11