とある学校の体育館。
 静かに構える、二人の鎧姿の人物。
 鎧とは言うが、なんてことはない、ありふれた剣道の試合。
 学校での部活動の一環。割と何処にでもある、よくあるものだ。
 だが試合は始まってもあっという間に終わってしまう。
 静かに、まるで本物の刃を振るうような冷静な動きで、
 容易く剣道の勝利条件を満たして試合を終わらせてしまう。

「やっぱり、先輩強いですね。」

 兜を脱ぎながら、男子生徒が感嘆の眼差しを向ける。
 瞬殺されたのに憧憬の眼差しなのは、元よりその彼女の人柄が伺える。
 同じように兜を脱いだ茶髪の女子生徒は、男子のような顔立ちの良さを見せつつ言葉を返す。

「嫌味に聞こえてしまったらすまないが、
 そんなことはないよ。ボク以上に強い人を知ってる。
 だからこそ、未だに鍛錬を積み重ねているんだ。」

「やっぱできる人は違うなぁ。さすがは獅童先輩だ!」

 試合を見ていた人たちも腕前を褒めたり、
 男性のような顔の良さに見惚れる女子生徒ががやがやと騒ぐ。
 容姿と強さ。双方を兼ね備えてるがゆえに男女問わず人を惹きつける。

「はいはい、雑談はそれぐらいにして片づけるよ!」

 手を叩くことで小気味よい破裂音と共に声は止められる。
 気だるそうに後輩が返事をしながら、道具を片付け始めていく。
 特に何が起きるわけでもなく部活動は終わって、全員解散。
 人気のない路地を歩いているが、特に何が起きるでもなく。
 此処が聖杯の為、命を奪い合う舞台としては不釣り合いな光景だ。
 と言うのも、彼女こと獅童真希はサーヴァントとの交戦を極力避けていた。
 するとしてもサーヴァントの特性を活かした事実上の暗殺を優先とする。
 だから平和的だ。何も起こさず、ただ静かにロールプレイで静かに過ごしていく。
 聖杯に関する知識は貰ったとしても、やはりまだ不慣れなことも多いのが理由だ。
 無知の冗長。そう言ったことで彼女の望みを捨てることなきように理解を深める。
 動き出すのはそれからでもいい。そういうスタンスで暫く様子見をし続けていた。

 一人静かにマンションへ帰ると、
 彼女の背後には一人の少女が姿を現す。
 傍でずっと霊体化していたサーヴァントだ。
 黒を基調とした腹回りを露出させた軽装に、緋色の髪の女性。
 凡そ現代の恰好とは言い難く、ファンタジーなものに見える。
 事実、彼女はそういった世界から召喚されたサーヴァントではあるが。

「目立つ行為に見えるけど、大丈夫?」

 目立つと言うのは彼女のその在り方だ。
 先の大会でも優勝を果たし、部活動でも手を抜かない。
 まるで自分の存在を知らしめしてるかのようにも見える。
 彼女はどちらでもいいが、彼女の立ち回りの仕方を考えると、
 敵になるべく察知されない方がよいものだと思えてならなかった。

「大丈夫だ。寧ろこれはいつも通りを演じる必要がある。
 大会で優勝する人間が体調不良で負けて噂になってしまえば、
 誰に疑われるか分からない以上、いつも通りの人物を演じるだけだ。
 ボクの通う学校にマスターやサーヴァントがいないとは限らないだろうから。」

 いつも通りを演じ続ければおのずとNPCと思われるだけ。
 いわれるとそれもそうだと感じたので、特に言及はせず二人は靴を脱ぎ家へと入っていく。
 家は一人暮らしらしい、どこにでもあるシンプルに物が程々に置かれた部屋が出迎ええる。
 特筆するべきことがないような、普通の部屋だ。

「ねえ、マスター。」

「アーチャー、ボクのことは真希でいい。」

 晩御飯の準備を始めながら、静かに言葉を交わす二人。

「じゃあ、遠慮なくマキって呼ぶわね。
 貴方にとって、その人はどんな人だったの?」

 アーチャーを召喚された時、
 彼女は『生き返らせたい人がいる。その為に聖杯が欲しい』と。
 暫くはロールに慣れる為聖杯戦争についての言及は避けていたのだが、
 大分慣れてきた様子であるので今尋ねてみることにした。

「とても、わがままで手が付けられない子供だったよ。
 命令を無視するし、必要ない戦いを持ちかけたりして迷惑をかけて。
 それを年相応と言ってしまえば、そうおかしいことでもないとは思うが。」

 思い返せば短い間だったが色々あった。
 長さで言えば数年もあっただろうか怪しい時間。
 あの五人で集っていた時期は、忘れられない日々となる。

「それでも会いたいのね。」

 なんだか大変な子供ではあるし、
 彼女の言動や年齢から血縁でもない様子。
 それでも会いたくて、他者を蹴落としてでも会いたいのだと。
 この聖杯大戦とはつまり、そういうことなのだ。
 誰かを蹴落とさずして死者の蘇生は叶わない。
 サーヴァントを喪えば時間経過で死ぬ以上、
 サーヴァントだけ倒そうとも今を生きる人を殺すことになる。

「もうありえないと思っていたチャンスだと思えた。
 ボクにはまた五人で……花見でもしたいだけの願い。
 ありふれてるだろう? その程度でボクは他人を蹴落とす。
 それが屍山血河の上であっても、その願いが捨てられないんだ。」

 その手に握られるのは、
 彼女が好きだった苺大福を模した猫のキーホルダー。
 鞘にすらつけていたほどにお気に入りのキャラクターで、
 彼女が死別してから形見として受け取ったのがそれだ。
 それが、唯一彼女に残されてている繋がりでもある。

「それだけ?」

「……? どういう意味だい?」

「本当にそれだけのようにはあまり思えなくて。何か、別のものを求めてない?」

「ああ、そういうことか……再戦も、目的なのかもしれない。」

「再戦?」

 少女は才能に満ち溢れていた。
 折神親衛隊末席でありながらも最強を名乗れる存在。
 (入った順番であり決して席=強さではないが)
 けれど彼女には生きる時間の猶予など殆どなかった。
 たった十二歳と言う齢で夭折へと至ってしまった病弱。
 命をつなぎとめたものも、非合法的で延命にしかならず。

「僕は未だ越えているのか怪しい。だから、戦いたくある。
 最大限戦える状態で、彼女を生き返らせてあげたいんだ。」

 少女の目的はその強さを誰かに焼きつけたい。
 強さを証明すること。彼女が強くなれる機会があれば、
 それをより伸ばすことができる。そして、それg目標となる。

「勝てないならば、もう一度その高みを目指して越えていく。
 もし勝てれば……いや、こんな及び腰の時点で勝てそうにないな。」

 自嘲気味に髪をかき上げる。
 幼い子供は自分よりもずっと強い。
 だからこそ鍛錬や非合法な手段にも手を出した。
 それでも越えられない。言うなればそれはわがままの類。
 どっちが子供なのか分かったものではない。そういう意味の自嘲でもあった。

「───ちょっと羨ましく思うのは不謹慎かしら。」

「……と言うと?」

「私の方だと高みは化物の領域だったから。
 強いことなのに誰も恐れてないのが、ね。」

 アーチャーは化物と言う言葉に苦手意識があった。
 それは自分を受け入れてくれる場所がなくなるから。
 元々人付き合いが下手だったのがあるにはあるが、
 同時に自分の強さによって一線を引いていた部分はある。
 本当は色んな人と買い物したり遊びたかったりしたいだけの女性だ。

「化物か……むしろ逆だよ。ボクの方が化物だ。」

 ノロ。荒魂と呼ばれる怪物を構成する特殊な物質。
 彼女はそれを体内に取り込んででも強さを求めている。
 強くなるためには手段を選ぶことなど彼女にはできなかった故に。
 今となっては少しばかり後悔している部分もあるにはあるが。
 元々先の見通しが甘いところは彼女の悪い所でもある。

「化物じゃないわ。本当の化物は……いいえ、これは言うべきことじゃないわね。」

 化け物ではない普通の女性。
 そうだとしても強さはどうしても関係にひびを入れる。
 親友を憧憬と同時に嫉妬させてしまうだけの才覚。
 一人の女性を追い詰めることとなり、自分も追い詰めることとなった。
 自分が化け物でなければ、彼女を裏切ることになるとある弓に唆されたが、
 友と邂逅したときにそれを言われ、化け物であろうとする呪いから彼女は解放された。

「聖杯だけ手に入れて、他のマスターを助けられる手段があればいいが。
 そんな都合のいい手段を見つけられるようならこんなことにはならないか。」

 古今東西を通り越して別の世界までアクセスする聖杯の奪い合い。
 そんなものに抗えるだけの頭脳、力量、何もかもが彼女には足りないのだ。
 加えて生き返らせたい少女がそこに居る。なら、伸ばすしかなかった。

「だから、せめて迷いのない答えだけは出す。
 ボクは聖杯を手に入れて、結芽を生き返らせる。
 それだけは、手に入るのであれば決めていることだ。」

 思慮が浅いだの愚かだの言われてしまう。
 そんな弱い彼女の、せめてもの意思表明。

「……分かったわ。改めてアーチャー、ソーン。
 お友達としてでもだけど、貴方のサーヴァントとして、
 誰の手にも届かせない高みにある聖杯を手に入れるわね。」

「ありがとう。さて、晩御飯だが君も食べるかい?」

「サーヴァントには必要はないのだけど、
 そういうのなら、お言葉に甘えようかしら。」

 まるで平和な時間のように過ぎていく。
 その覚悟は、他者の死を望みながらであることは分かっている。
 だとしても、大事な友の存在を忘れることなどできない。
 それは真希だけでなく、ソーンも同じことだった。



【クラス】
アーチャー

【真名】
ソーン@グランブルーファンタジー

【属性】
秩序・中庸

【ステータス】
筋力:D 耐久:C 敏捷:B 魔力:A 幸運:D 宝具:B

【クラス別スキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない

単独行動:A
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力
ランクAならば、マスターを失っても一週間の現界が可能
十天衆はその強さと、元々団としての関係が深くないのもあってか、
基本的に単独行動で事を済ませることが多いためランクは高い

【保有スキル】

十天衆:C
全空に名を轟かせた、最強の集団『十天衆』
ソーンはその一人であり、最強の弓使いとされる
交渉、話術と言った方面で有理に行動ができるものの、
場合によっては存在そのものが脅迫になるので扱い注意

魔眼:A-
彼女が化け物たる所以、最早人の眼ではない程の驚異的な視力を持つ
小島程度の広さであれば、遮蔽物がなければどこにいても把握できる
山から麓の町で行商人のやり取りを、読唇術を用いて会話内容すら理解可能
魔導弓の特性と組み合わせれば、視界のどこにいても彼女の射程とされるほど
攻撃の命中率、敵の逃亡阻止を幸運判定を無視して有利な判定を得られる
一方で日差しが強い、光が反射する場所だと逆に不利となり、天性の狩人のスキルも弱まる

天性の狩人:A
視力のよさと才覚により、彼女は狩人としての能力は非常に高い
このスキルにより彼女の攻撃は全てが対軍宝具と同等の捕捉が可能
多数の敵に十全に立ち回ることが可能とされるが、魔眼が機能してなければ効果を失う
また、このスキルが発動する限り、彼女の矢にはバッドステータスを付与する効果を持つ
あくまで付与するだけで、そのバッドステータスは耐性や幸運判定によって決まる

飛翔術:A
空の世界では有名であるが使えるものは少ない、生身で飛行をする魔術
天才と呼べるような人物以外に使用することができず、低ランクのものは存在しない
特にソーンの飛翔術は航行中の騎空艇に追いつける驚異的な持続力と速力を持っている

涯て:EX
彼女個人では到達不可能の領域。

【宝具】

殲滅の鏑矢(アステロイド・イェーガー)
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:測定不能 最大捕捉:1~300
二王の果て。魔眼の狩人の持つ弓の武具二王弓を解放することで使用できる宝具
飛翔術によって空から放つため、地上からの射撃の妨害は手段が限られる
槍のような巨大な矢と無数の矢を放つ。軍勢から単体まで対応の幅は広いが、
一番の強みはクリティカル発生率が大幅に上昇し、敏捷を一段階引き上げる恩恵。
霊核への攻撃が通しやすくなるものの、彼女の幸運はさほど高くないためこれはおまけ程度

限界超越・鳴弦の儀(ステラ・ターミネイション)
ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:測定不能 最大捕捉:1~100
天星器を手にした魔眼の射手が天星器と心を交わした、限界超越の果て
使用と同時に敏捷と幸運に+がつき、心眼(偽)に近しい回避能力を得る
ただし使用に令呪一画は必要で、長時間の使用は魔力が枯渇しかねない
矢ではあるが、やってることは最早極太レーザーとも言うべきものを放つ

【weapon】
魔導弓
彼女が使う矢は魔力で作り出した矢であるため、
魔力が尽きない限り、矢が尽きることは決してない
同時に魔力を消費するため、対魔力の影響を受けやすい
また普通の矢ではないので、軌道を逸らした狙撃も連射も乱射も可能である
そのため簡単な遮蔽物であれば物理的に曲がって当てることが可能

二王弓
覇空戦争時代、空の民の切り札とされた武器『天星器』
二王弓は全てを射抜くとされるほどの強力な力を持つが、
完成に至ってもそこまでの強さは発揮できないと思われる
依り代と属性の力を付与することであらゆる属性になれるが、
ソーンが所有している都合、二王弓の属性は【光】になっている
なお、この武器には意志が宿っていて、一時期ソーンを唆したこともある
今は次の逸材に出会うまではソーンの武器として従うつもりのようだが、
この聖杯戦争でソーン以上の射手を見つけた時、彼は・・・・・・

狩人
武器と言うわけではないが、生まれた土地では彼女は狩りをしていた
身を隠して機会をうかがったり、急所を狙った一撃などの才覚は十分で、
動物の血抜きや皮を剥いだりといった解体にも精通してはいるが、
人工的な冬木では、後者は発揮しにくい能力になるだろう

飛翔術
スキル参照

【人物背景】
全空最強の集団、十天衆の一人にして最強の弓使い
魔眼やその強さから化け物と呼ばれるほどの存在であり、
二王弓にすら次の逸材は千年後と言わしめる程の射手の腕前を持つ
本当は寂しがりやで友達や仲間と一緒にすごすのを夢みた、ある意味一番人らしい性格
生前、ある団との邂逅によりその願いは叶い、親友との悔根も既に過去のものとなっている
十人全員による食事など、彼女が願った一般的な日常は手にできた

【サーヴァントとしての願い】
既に彼女は望むべき願いは叶った
変えたい過去はあれど、それがあって今の自分がある
召喚に応じたのは彼女に似ていたから



【マスター】
獅童真希@刀使ノ巫女

【マスターとしての願い】
本当はなかった。
でも、彼女が、結芽が生き返るなら……

【能力・技能】
刀使
御刀と言う特殊な刀に選ばれた巫女が使役できる能力
薄緑と呼ばれる御刀を手にしている間様々な能力が行使できる
身体のダメージを無力化できる写シ、筋力を上げる八幡力など多彩

折神家親衛隊第一席
作中世界で五全試合を二連覇し、
折神家親衛隊第一席として活動していた。
流派は神童無念流。御刀は薄緑だが彼女は別名の吼丸と呼ぶ

【人物背景】
平時は仲間思いで面倒見のいい人で、親衛隊ではおじいちゃんのようなポジションとも言われる
一見クールなようで衝動的な悪癖を持ち、自分に自信が余りないと結構ポンコツな部分がある
実力自体はあるが直情型な部分がとにかく足を引っ張ることも多い

反省や成長は確かにあったのだが、
彼女が一人行動していた最中に黒い羽と邂逅することとなる

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最終更新:2023年11月22日 19:07