自分以外の人間は脆い土塊でしかなかった。
他人と関わることも、慈しむことも俺にはできなかった。
強さとは孤独なのか。
際限なく力の発露を求め彷徨い続けることが強者に課せられた罰なのか。
お前は俺に教えてくれるのか?
☆
バチィ、と雷撃の音が鳴り響く。
「ご、ぇ」
「やっぱ俺の呪力で英霊も殺せんだな」
くぐもった呻き声を漏らし、霊子となって消えていく黒こげのサーヴァントを見下ろし、男、鹿紫雲一は溜息を吐きながら振り返る。
「で、お前はどうすんだ」
「は、ひゃ、わああああああ」
英霊を殺され、涙と共にガチガチと歯を打ち鳴らす少女は、半狂乱になりながら頭を抱えうずくまる。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいお願いしますこっ、ころさないでください」
地面を涙と小便で濡らしながら頭を地に着け媚び倒す少女を、鹿紫雲は舌打ちと共に、心底つまらない眼差しで見下ろす。
「せめて刺し違えてやるって気概もねえのかよ...もういい、さっさとどっか行け」
シッシッ、と野良猫を追い払うかのような手振りで追い払えば、少女は鹿紫雲へと一瞥もくれることなく走り去っていく。
(つまらねえ)
遠ざかっていく背中に抱くのは、彼の表情から伺える感情そのもの。
いまの鹿紫雲一は人生二週目である。
現在は術師・羂索による手引きで過去から受肉し。
過去には多くの術師と戦い殺戮してきた男。
鹿紫雲一は戦に飢えている。
ただの戦ではない。
弱者を屠るのではなく、己の全てをぶつけられるほどの強者との戦いだ。
彼はこの聖杯戦争に不満を抱いていた。
羂索から「宿儺」という過去に存在した最強の術師と戦えることを聞き、彼との契約を結び現世に復活したのはいいものの、遭遇する相手が弱者ばかりだった死滅回游。
その途中で呼び出されたこの聖杯戦争も、最初こそは期待していたが、結局はただの死滅回游の焼き直しだ。
出会う英霊たちは悉く「外れ」ばかりで、未だに全力を出そうとも思えない相手ばかり。
これならまだ宿儺という目標が見えていた死滅回游の方がマシだった。
———渇いていく。
数をこなすだけの戦いを愉しめる時期はもう過ぎた。
早く俺の心を埋められるだけの戦いがしたい。
———戦う度に渇いていく。
自分と同じ、それまでの人生を否定されたような環境にいながら、強さ故の孤独も、他者との関わりも、全力を出すことをも許されたまま生を全うした、この聖杯戦争での相方を得てしまったが故に。
———俺の渇きは未だに収まることを知らない。
「...さて。あいつの方はどうなったか」
☆
...ええ。
貴方の気持ちはよくわかりますよ。
知った風な口を聞くなって思うかもしれませんが、自分(オレ)の父親がそうだったから。
小さいころから延々と鍛え抜いた死条の技を一度も使えず病に倒れ死んでいった。
まるで己の人生を否定されたかのように。何者をも傷つけず、己の技を受け止めてくれる強敵にも遭えず。
だから思うんです。自分はそうならなくて幸福だったと。
殺人を否定するこの現代社会において。
存分に己の力を振るえ。己の技を全て受け止めてくれる強敵にも出会い。
ずっと自分の上を行く人と同じ組織に属せて。
仮初の姿の自分を、得体のしれない自分をそれでも愛してくれる人もいてくれて。
えっ、惚気話を聞きたい訳じゃないって?
アハハ、すみません。でも仕方ないじゃないですか。
貴方を見てたら、やっぱり自分は救われてたんだと思えたんだから。
☆
ドン、とコンクリート壁を破壊する音が響く。
ずるり、と身体が血に落ちべしゃりとその肉塊を晒すのは、内臓を陥没させたバーサーカーだ。
「~~~~~~~~ッ!!!」
その下手人である幼い顔立ちの青年———アサシンは、その身を震わせていた。
己のしでかした所業に恐れ戦くのではなく。
(嗚呼...やっぱりめちゃくちゃ気持ちいい~~~~~ッ!!)
己の拳で生命を断ったという感触に喜び震えていたのだ。
「ば、バーサーカーァァァァァアァ!!」
己が相棒が消えていく様に悲痛な叫びをあげる男に、アサシンは問いかける。
「いい死合でした...それで、貴方はどうするんです?」
微笑みながら向けられるのは、左手は脇に引き締め右掌は相手に突き出す構え。
英霊同士の戦いが終わったというのに、アサシンは未だに戦闘態勢を解いていないのだ。
「~~~~決まったらぁ!!」
男は上着を脱ぎ捨て、拳を固めて咆える。
「バーサーカーは俺と血盟交わした戦友じゃあ!戦友殺られてだまッとれるかいッ!!」
怒号と共に駆け出す男。
それはあまりにもお粗末な突貫だった。
無策。無謀。
英霊相手に生身の人間が正面から立ち向かおうなどと愚の骨頂。
だが、アサシンはそんな彼を嘲笑いなどはしなかった。
「立ち向かってくれて嬉しいですよ。自分(オレ)もあんたを逃がすつもりはなかった———だって、これは試合じゃなくて死合いなんですから」
「死ねえゴラァ!」
———掌
全力で振るわれる拳を掌で受け流す。
———転
そのままアサシンは男の背後へと回り。
———握
男の喉元に優しく掌が添えられれば、男の目から血涙が溢れんほどの圧迫感が襲い掛かり。
———輪
勢いのまま男の身体は宙を舞い、受け身を取る間もなく脳天からコンクリ床に叩きつけられ、脳漿と血袋をぶちまけ一輪の赤い花が咲いた。
「ありがとうございました」
遺骸の前で手を合わせ、感謝の意を表すると共にぺこりとお辞儀をする。
(...でも、まだ本気にはなれなかったなぁ)
だが、彼の戦闘欲はまだ満たされ切っていない。
彼が真に求めるのは最強の座。
己が全てを受け止めてくれるほどの猛者。
彼もまた、戦に生を見出す者。
暗殺者でありながら、格闘家としての癖を持つ男。
それがアサシン———死条誠である。
「鹿紫雲さーん、終わりましたよー!」
ビル街を軽快に駆け抜け、アサシンは鹿紫雲のもとへとたどり着く。
「おう。そっちはどうだった」
「なかなか楽しめましたよサーヴァントも結構しぶとかったし、マスターの方も負けが決まってもなお自分に立ち向かってくれたんですから!」
「そいつはよかったな」
「鹿紫雲さんの方は...って、聞くまでも無さそうですね、スミマセン」
ご機嫌な顔で語るアサシンとは裏腹に、鹿紫雲の表情は仏頂面そのもの。
よほど空気の読めない者でなければ言わずとも答えは解るというものだ。
「組んでる時点でタカが知れてると思ったが、クソッ、どうせならお前の方を選んどきゃよかった」
苛立ちと共に親指の爪を噛む鹿紫雲に、アサシンは「まぁまぁ」と軽く肩をぽんぽんと叩き宥める。
「そう不貞腐れなくても大丈夫ですって。今はまだ予選中、本番になればもっと歯ごたえのある連中と出会えますから」
「ハッ。三度も退屈に殺されそうになってんだ。あまり期待せずに待っておくぜ。それに」
鹿紫雲は口角を吊り上げ、不意に如意をアサシンに突きつける。
「誰もいねえならいねえで、お前と殺りあえばいい話だ」
パリ、と鹿紫雲の身体から電子音が鳴り、殺意がアサシンの身体に襲い来る。
鹿紫雲はアサシンに怒り、憎悪しているのではない。
彼はアサシンの強さを知っている。それが己に届く領域なのかはわからないが、それでも今までの有象無象共よりはマシだと確信している。
だから、主従の関係であっても、お前と命のやり取りをしても構わないと改めての意思表示だ。
しかし、突きつけられる殺意にもアサシン動じず。
「...やめてくださいよ鹿紫雲さん」
否、動じていない、のではない。
「あんまり誘われると、自分も我慢できなくなっちゃうじゃないですかぁ」
鹿紫雲と同じく、相手への期待に表情を緩ませ殺意を迸らせていた。
この男には英霊と人間の差など関係ない。
自分の全てをぶつけてみたいと。
鹿紫雲一にも、アサシンにも万物の願望器に捧げたい願いなどない。
ただ、己の持つ力を全て出し尽くしたいだけだ。
互いの殺意と闘争心が入交り、その気迫と圧迫感だけで道行く蟻は進路をたちまちに変え、通りがかった猫は気配を悟られないよう置物と化す。
空気が凍てつく。
糸が一本でも弾ければ、互いに食らい合う———そんな威圧感が場を支配していた。
「...止めだ」
先に矛を収めたのは鹿紫雲だった。
彼に習い、アサシンも殺意を内に留めていく。
「別に手合わせくらいはしてもいいんですよ?」
「それで止まれるタマじゃねえだろ。俺も、お前も」
「確かに。まー、自分はあんたと戦って終わるのもアリかなとは思ってるんですけどね」
「てめえはそうだろうが、俺はまだなんだよ。四百と幾ばくも待ったんだ。癇癪でぶち壊すほど間抜けじゃねえ」
この聖杯戦争では、相方を失った主従は脱落が決まってしまう。
そうなれば待つのは『死』のみ。
鹿紫雲は死を恐れているわけではないが、ここで
ルールに抵触して宿儺に会う機会を失うのを避けたのだ。
如何な異常事態に巻き込まれようとも、最終的な目標は最強の術師・宿儺であることは変わらない。
「死条。俺はもう帰るがお前は?」
「自分はもうちょっとトレーニングしてから帰ります」
「英霊が鍛えても意味はねえだろうが...まあいいか」
「とうもろこし茹でてあるからお腹すいたらソレ食べてくださいねー」
二人は踵を返し、各々の闇夜に消えていく。
戦闘狂達の戦いへの火は、場所が変われど衰えることはない。
☆
孤独になるほどの強さが罪だというならば。
時の流れに滅ぼされるのが運命だというならば。
我らはそれを受け入れよう。
だからどうか許されよ。
卑しき我らの愚かな自己(エゴ)を。
【クラス】
アサシン
【真名】
死条(四条)誠@職業・殺し屋
【ステータス】
筋力:B 耐久:C+ 敏捷:B+ 幸運:D 魔力:E 宝具:C(通常時)
筋力:A+ 耐久:C+ 敏捷:EX 幸運:D 魔力:E 宝具:C(宝具解放)
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
気配遮断:A
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
アサシンの場合はスキルにより、初撃に限り攻撃対象に直感や感知に類するスキルがない限り、気配遮断のランクは落ちない。
だがこのサーヴァントは生粋の戦闘狂であり、必ず相手と対面してから戦いを始めるため、暗殺をするという面においては宝の持ち腐れもいいところだろう。
【保有スキル】
戦闘狂:EX
戦闘をこよなく愛する性質。
敵対者を一定以上の強者であると認めた時、相手の力量を確かめ味わい尽くしてから倒さなければ気が済まず、愉しむために敢えて力量を落してしまう。
つまり初手から全力を出せない、スロースターター。あればあるだけ損をするスキル。
死条皇神流:EX
その昔、京都に都をおいた天皇と公家を守護する為に創られた一撃必殺の暗殺術。
柔術・空手・相撲・合気・古武術などありとあらゆる武道を組み創られた総合格闘術。
その時代、時世において柔軟に術を吸収・結合・進化して『殺人』のみを追求した究極の武。
戦闘続行:A
名称通り戦闘を続行する為の能力。決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。「往生際の悪さ」あるいは「生還能力」と表現される。
【宝具】
『死条皇神流 最終継承者』
ランク:A 種別:対人宝具(自身)レンジ:なし 最大補足:自分自身
髪留めを解くことで発動する。
髪が黒髪から白髪に代わり、筋力と敏速のステータスと技のキレが大幅に上昇する。
ただし、反動が大きく使えば使うほどこのサーヴァントは大きく消耗し、最終的には身体が崩壊してしまう。
【人物背景】
職業・殺し屋の一人。
その昔、京都に都をおいた天皇と公家を守護する為に創られた一撃必殺の暗殺術『死条皇神流』の最終継承者。
普段は温厚だが、戦いの際には凶暴さが剥きだしとなり、極めた力で強敵と戦い倒すことに至上の快楽を感じる戦闘狂。
かつて刃物を持った酔っぱらいに絡まれた際に反射的に繰り出した拳で相手を殺害してしまい、これをキッカケに己の技で敵を屠る喜びを知る。
以降、職業・殺し屋に所属し、その技で標的を殺している。
上記の事件の際に様々な面倒を見てくれた水原響子というホステスと結婚している。
【weapon】
拳
【方針】
強者と戦いたい。ただそれだけ。
【把握資料】
漫画『職業・殺し屋』7~9巻、11~12巻、新職業・殺し屋斬4~5巻が主な活躍となる。
【マスター】
鹿紫雲一@呪術廻戦
【能力】
呪力が電気とほぼ同等の性質を持っており、その呪力特性に由来する呪力操作と如意による棒術を織り交ぜた体術を駆使して戦う。
また、生涯に一度きりの術式も有している。
【人物】
死滅回游の泳者(プレイヤー)の一人。
400年前から甦った過去の術師の一人で、電気回路のコイルのような特徴的な髪型をした青年。
生前の頃より強者との死闘のみを好み、自分自身の生きがいとする生粋の戦闘狂。
戦闘では合理的な勝利よりも、強大な相手を正面から突破する事を好む。
【方針】
全力を出せるほどの強者と戦う。いなければさっさと帰還して宿儺を探す。
【把握資料】
漫画『呪術廻戦』21巻が主な活躍になる。
最終更新:2023年10月06日 23:47