電脳冬木市にあるとある家屋、そこにある薄暗い地下の部屋。
何者かがその部屋で作業を行っていた。
手術台のようなものに載せられた人間を粛々と解剖していく。
「ァ…ァ…」
「なるほど、なるほど…」
それも死体ではない、生きた人間である。
生かされたまま解剖されているのである。
下手人が加虐趣味なのかと言えばそうではない、正しく解剖対象について観察しながら知識を深めている。
その人間にある身体、特に魔術に関係がある部位を中心に調べていく。
解剖をする男は異様な姿をしていた。
フルフェイスの仮面を身につけ全身をパワードスーツのようなもので覆っている。
ほぼ黒一色に包まれた姿は暗い深淵を彷彿とさせる。
名はボンドルド、元の世界では新しきボンドルドとも呼ばれた男である。
◆ ◆ ◆
「黒い羽」により電脳世界の冬木市に招かれた時はさしものボンドルドでも少しばかり面を食らった。
一瞬にしてアビスの外へと転送させられ、精神隷属機(ゾアホリック)の影響下から外れたと思われる場所で問題なく活動できるのは驚きであっただろう。
とはいえかなり特殊な状態であるのは間違いなく、今の自身の状態についてはある程度把握しなければアビスへと帰還した際に不具合が出るとして調査すべきと考えた。
同時にこのような現象をもたらした聖杯に彼は興味を持つ、この力はアビスの解明に大いに役立つものではないかと。
そのままボンドルドは自身のサーヴァントを召喚する。
そこに現れたのは儚げな雰囲気を纏う少女。
一見すると手弱女と感じさせるが、その頭部には二本の角が生えており、真っ当な人間ではないとすぐに分かる。
「サーヴァント、アサシン。召喚の儀に従って来たわ、君が私のマスター…でいいの?」
人外の少女、だがそれは見かけの話。
濃密な死の気配、清廉潔白の類ではないとボンドルドは感じ取る。
「ええ、初めましてアサシン、私はボンドルド。奈落の探窟家『黎明卿』――と人は呼びます」
相対するマスターとサーヴァント。
相手は一筋縄ではいかない相手と理解し、しばらく両者は沈黙する。
そんな状況の中で先にアサシンが沈黙を破り、ボンドルドへと微笑みかける。
「やめようか、このまま立ち尽くすのは時間の無駄だわ。とりあえずお話しましょうか」
「そうですね、構いません。ではまずは貴方の目的を聞かせていただけますか」
あくまで今は敵ではない。
この場で争う意味が全くない事を双方ともに認識し、情報共有を始める。
「私は人類について理解を更に深めるために他の人達とたくさんお話がしたいわ」
「素晴らしい、目指すものが違えど貴方もまた探究者の一人なのですねアサシン」
「ええ。人類の習慣や文化、魔法技術を探究するのが私の研究テーマなの」
そのまま彼らは情報交換と雑談をしながらマスターとサーヴァントとしての関係に落ち着かせていく。
その中でボンドルドは彼女の真名について把握する。
彼女は人類に仇なす種族である魔族、その中でも長い年月を生き、人類には知られなかった大魔族。
無名の大魔族ソリテール、それが彼が召喚したサーヴァントであった。
◆ ◆ ◆
それからボンドルドとアサシンは調査を行うため、他の陣営と接触もしくは戦闘を行った。
その最中でボンドルドは生き残ったマスターを捕らえ、調査のために様々な実験や調査を行った。
目的としては当初の目的であった自身の状態を確認することもあるのだが、それ以外では令呪や魔力供給といった聖杯戦争に関わる事柄についても検証を重ねていた。
聖杯戦争のマスターとして最低限把握しているが、メカニズムについては無知であり、それらに関する知識を得ることで備えを出来るだけしておきたいと思い立ったからである。
この解剖もまたそのための一環である。
「ありがとうございます、名も知らぬマスター。本当であれば貴方の名前も教えていただきたかったのですが、ともあれおかげで私はまた一歩前へと進むことができます」
死亡すれば消滅するかもしれないと考えたボンドルドは死なないよう細心の注意を払い、生かしたまま解剖している。
そしてそんな所業を行いながら、先ほどまで敵対していても関係なく相手に親しみと感謝を伝えるボンドルド。
常人から見れば異様な光景であり、それを行う彼がまともでないのはすぐに分かるだろう。
だがそんな光景も長くは続かない。
「おや、時間切れですか」
サーヴァントを失ってから一定時間経てば、マスターは強制的に消去され消滅する。
どれだけ死なせないよう手を尽くしても消滅を防ぐことは現状不可能であった。
そんな彼の様子を終始見ていたアサシンが報告しようと近づいてくる。
「それで何か収穫はあった?見ていた感じだとあまり芳しくはなさそうだったけど」
「調査の方はともかく聖杯戦争に合わせてカートリッジに代わる装備を考えているのですが、現状はよろしくありませんね。そちらの作業は終わられたのですか?」
「特筆することもない魔術工房だから特に支障もなくね。私に要する維持魔力くらいは賄えると思うわ」
「素晴らしい。ありがとうございます、アサシン。これで負荷も軽くなります」
今回の解剖結果は有益なものがあったが、聖杯戦争を勝ち抜くための装備品の目処はまだつかない。
ある程度の装備は持参しているとはいえ精神隷属機(ゾアホリック)がない以上、この肉体が滅びればその時点で敗北は確定する。
それ以上に今の自分が死んでしまったら最悪の場合、元の世界にいる祈手(アンブラハンズ)にも悪影響を及ぼす可能性がある。
それ故にボンドルドは万全を期して準備を怠らない。
幸いにもアサシンは魔法などについての知識が深く、魔術方面でボンドルドのサポートをしていた。
無論アサシンもただの善意で協力しているわけではないのだが。
「腰を据える拠点も出来たことだし、そろそろ君のことを教えてくれないかなマスター」
「そのような約束でしたね、構いませんよ。私に答えられるものであればお教えしましょう」
それからボンドルドはアサシンの話し相手として自分がこれまでやってきたこと、そのために力を貸してくれた者たち、愛した家族について語っていった。
アサシン――ソリテールにとってボンドルドという人間は希少な例として興味をそそられる人類であった。
彼の所業は真っ当な人間であれば眉をひそめるものであり、正義感のある人間であれば憤慨するであろう。
極めつけはそれらを悪意なしで為しており、かつ贄として捧げたも同然の子らに本心から愛しているということである。
ある意味、捕食のために人間を殺す魔族よりも性質が悪く度し難い。
初めから人として破綻していたのか、それとも後天的に精神が異常となってしまったのか。
実際どちらなのかは会話からでは読み取れないが、今のところ目の前にいる男の精神はまるで人類と魔族を混ぜ合わせたようなものであるのがソリテールの所感であった。
「真っ当な人間なら魔族(わたし)を召喚するなんてあり得ないもの。君、聖杯から人間扱いされてないんじゃない?」
サーヴァントとして魔族を召喚するマスターなど明らかに何かが外れたものと予想はしていた。
自身と協力関係を組める相手かも見続け、話を聞いた結果からアサシンは感想を述べた。
「なるほど、私を生物として認識しているということですか。思っていたより寛容のようですね聖杯は」
「まるで自分は生物じゃないって認識してるみたいな言い方ね」
「アビスでは我々の精神性を生物ではないと判断されました、心外ですよね」
その言葉には人類を知るアサシンも言葉を失った。
精神が人間であるか以前に生物としてすら見做されない者、人がこれほどまでになる例を見ることなど長い生涯の中でも彼女にはなかっただろう。
そしてそれほどまでになったとしてもやはり魔族とは噛み合わないのだろうとアサシンはボンドルドを見て思う。
「今の君は確かに外れた存在と成り果てたと言っていいかもね。でもその根底はやっぱり人類であったことから来ている。どれだけ変質しても初めから持たない者との間にはどうあっても取り払えない差が存在する」
「貴方にとってそれほどまでに人類と魔族というものは異なっていると思っているのですかアサシン」
「ええ、姿形が似ているだけで人類が言うところの人喰いの化け物よ」
「なんと…」
その言葉に対し、今度はボンドルドの方が言葉を失う。
目の前にいる自分のサーヴァントが抱えていたものを知り、彼は一つの提案をする。
「アサシン、私は魔族だからという理由だけで貴方と敵対するつもりはありません。どうですか、この聖杯戦争を戦い抜いたら私と共にアビスの世界に来ていただけませんか。もちろん来ていただければ相応の待遇はさせていただきます」
ボンドルドはアサシンにアビスへ共に来ないかと勧誘する。
そもそも彼に人類と魔族などといった差別の意識など存在しない、彼にとって全ての命は平等に価値があるものである。
そんなボンドルドを見てアサシンもまた自身の思いを伝える。
「ねえマスター、いえボンドルド。どうして私が君の質問に素直に答えていると思う?私はね、君となら人類との共存も絵空事じゃないって思えるの。ここまで魔族に寄り添ってくれる人間なんていなかったわ、君とならそのきっかけを見つけることができるかもしれない」
「貴方は素晴らしい理想をお持ちなのですね、アサシン。アビスであれば貴方の求めるものが手に入るかもしれません。同じ探究者としてその助けとなれば幸いです」
そう言ってボンドルドはアサシンに手を差し出して、アサシンはその手を握る。
410:深淵を覗くもの ◆p2UW/hG7xY:2023/10/07(土) 20:37:15 ID:7dvYgPtc0
少しの間、沈黙が流れる。
するとアサシンは何がおかしかったのか突如笑いだした。
「面白いね君、本当に悪意を出していない。付いて行ったらそのまま実験されるだけでしょ私」
「おや人間と異なる生物と言ったのは貴方では?」
「ふふっそうね、私のマスターならそうなるわよね」
先のやり取りはアサシンが信頼していると言ってボンドルドがどのような反応をするかを観察しただけである。
今までの観察で並外れた精神の持ち主であることは分かっていたが、アサシンも予想が出来ないほどであった。
まるで同族と会話しているような感覚だったのだ。
対してボンドルドはアサシンに親しみを覚えアビスに来てほしいと思ったのは本心である。
だがそれは丁重にもてなすという意味ではなく、アビスの検証に付き合ってくれる実験体として扱うという意味である。
それを彼は悪意なく、純粋にお願いをしただけにすぎない。
「今回は座にいる「私」にこの聖杯戦争の記憶全てを引き継がせるだけにしておく。受肉はやめておくわ、何されるか分からないし」
そうしてアサシンは此度の聖杯戦争での目的を決める。
最早死んだ身である以上、何かに強く執着する必要もない。
それでも折角の機会だ、様々な人間について知っていくのも悪くない。
「それじゃ改めてよろしくねマスター。互いに実りのある戦争にしよう」
ならば精々楽しませてもらうことにする。
観察に飽きないマスターに当たったことは彼女にとって僥倖だった。
「こちらこそ改めてよろしくお願いしますよ、アサシン」
ならば変わらず夜明けを目指して進むのみ。
聖杯を持ち帰るための良き協力者に出会えたことは彼にとって僥倖だった。
彼らの間に交わる絆はない、彼らの間に残る想いもない。
だが彼らの歩む探求の先だけには通じるものがあるのかもしれない。
【マスター】
ボンドルド@メイドインアビス
【マスターとしての願い】
今の自身の状態をきちんと把握した上で元の世界に聖杯を持ち帰る
【weapon】
『暁に至る天蓋』
探窟・戦闘向けの祈手のためにしつらえた特注の戦闘鎧。
遺物と生物由来の繊維を複雑に組んで作られ、内部に様々な武装を内蔵する。
主な武装として撃ち込むことで上昇負荷を発生させる「呪い針(シェイカー)」、仮面から命中させたい相手を追尾する光線を放つ「明星へ登る(ギャングウェイ)」、極めて強靭で伸縮性にも富み、標的を瞬時に絡め捕ったり移動用のロープ替わりに使用できる「月に触れる(ファーカレス)」、肘から謎めいた高出力のレーザーの刃を形成し触れた物質を分解し消し飛ばす「枢機に還す光(スパラグモス)」などがある。
その他にも複眼やパワーのある尻尾などの武装も搭載されている。
【能力・技能】
探窟ルートの開拓や便利アイテムの開発など、物資とテクノロジーの面から探窟家を支えてきた存在であり、科学・医療技術に精通している。
手段はともかく人類のアビス攻略を一気に推し進めた偉人であり、探窟家の頂点である白笛だけあり戦闘力は一級品。
全身のパワードスーツに無数に搭載した遺物の力とそれらを的確に運用できる冷静で優れた頭脳、豊富な経験から来る対応力はずば抜けて高い。
またその精神はアビスの力場からヒトは愚か生物ですらないと拒絶されるほどであり、精神攻撃は無効化される。
【人物背景】
生ける伝説『白笛』の一人で、二つ名は「黎明卿」「新しきボンドルド」。 普段は深界五層『なきがらの海』にある『前線基地(イドフロント)』に居を構えて活動している。
いつも前面に紫色の光が灯った細い縦スリットが一本入った黒い金属製のフルフェイスの仮面を被っており、素顔は不明。
基本的には非常にポジティブで、物腰が穏やかで腰の低い紳士的な人物。
愛を尊ぶ博愛主義者的な性格は紛れもなく本物であるが、アビスの謎の解明に役立つならばどんなことでも躊躇いなくどれほど残虐な非人道的な所業であろうと、実行するマッドサイエンティスト。
「良き伝統も、探窟家の誇りや矜持も、丸ごと踏みにじって夜明けをもたらす」故に「黎明卿」と呼ばれる。
なおこうした悪行を「より良い発明のため」「自身の知的好奇心を満たすため」に行っており、すべては人類が躍進する結果につながる礎になると信じておりそこに悪意や害意は一切ない。
人道を大きく踏み外したパーソナリティの持ち主ではあるが、同時に彼の裏表のない愛情深さと心の広さもまた本物である。
【方針】
基本は聖杯を取るために手段は選ばない。
他陣営とはその目的のために手を組むこともする。
アビスの謎を解明するのに役立ちそうならマスターやサーヴァントを連れて行きたいと考えてはいる。
【クラス】
アサシン
【真名】
ソリテール@葬送のフリーレン
【属性】
混沌・中庸
【パラメータ】
筋力:D+ 耐久:D+ 敏捷:C 魔力:A+ 幸運:C 宝具:A
【クラススキル】
気配遮断:D++
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
ただし、自らが攻撃態勢に移ると気配遮断は解ける。
またアサシンの場合、魔力隠蔽がかなりの精度を誇り、潜むアサシンを魔力探知にて探すのは至難と言える。
【固有スキル】
魔族:EX
人類と姿形がよく似た人食いの捕食者である人類の敵。
「人の声真似をするだけの言葉が通じない猛獣」と評され、言葉をもって人を欺き油断させて屠ることを常套手段としている。
飛行の魔法を始めとし、人類と比較して魔法の技量が高いことも特徴として挙げられる。
人類とは思考形態が異なり、人類の感情については共感できず、また人類の精神に作用するものは効きづらい。
その中でもアサシンは魔族の中でも異端と見られる存在であり、多くの魔族が見向きもしない人類の魔法や感情について研究している。
そのため人類の心理について魔族の中でも特に理解が深く、言葉を使って相手を欺いたり動揺を誘うことに長けている。
魔力操作:A+++
術式を介さずに行う卓越した魔力操作、アサシンのそれは常軌を逸している。
魔力そのものをぶつける術を持ち、その威力は当たれば強い物理的衝撃も受けるほどである。
また防御としても応用でき、耐久の向上及び高ランクの対魔力と同等の効果をもたらし、密度を高めることで盾代わりにすることも可能。
無名の大魔族:EX
アサシンは大魔族として長い年月を生きながらもその名が人類側の記録に無い「無名」であった。
それは単にアサシンと相対し、生きて帰った人間が存在しなかったという結果によるものである。
人類とそれに属する存在に対して有効な情報抹消スキルであり、対戦が終了した瞬間に目撃者と対戦相手の記憶からアサシンの能力・真名・外見特徴などの情報が消失する。
また大魔族である彼女は膨大な魔力を所持した状態で召喚される。
【宝具】
『一人遊びの観測者(ソリティア・オブザーバー)』
ランク:A+ 種別:対人類宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
長い年月をかけて人類についての研究を重ねてきたアサシンの成果そのものを体現した宝具。
人類の心理について深く理解した上で動揺を誘う言葉選びが巧みであり、相手を見定めて揺さぶることに長けている。
人類とそれに属する存在に対して使う場合、アサシンの言葉は無視できないものとなり、その言葉に耳を傾けてしまう。
また生前人類の魔法について深く研究していたことから、人が扱う魔法、人類に組み込まれた魔法もしくはそれに類する物への解析・対処が可能となり、時間をかければそれらの術式の解除等も行うことが出来るようになる。
さらに解析した魔術等も対象の取得難易度により変化するが、擬似的に再現可能となる。
ただしこれらは人類に対してのみ有効があり、完全な人外には適用できない。
【weapon】
『魔法』
アサシンが好んで使うのは複数の大剣を出現させて操る魔法であり、直接剣を振るったり同時に複数の大剣を相手に飛ばしたりする。
最もこれはアサシンが「お話し」をするために殺さず痛ぶるのであり、殺す場合には出が早い魔力をぶつける戦法に切り替える。
他にも「人を殺す魔法」に対抗するための防御魔法も使用可能である。
【人物背景】
角が生えた少女のような外見で、人類について研究をしている変わり者の大魔族。
笑顔を絶やさず口調は丁寧で穏やかで、人間に強い興味を持っており、遭遇した相手とはまず「お話し」して相手の生い立ちや感情を知ろうとする。
強大な魔力を持ち、長い年月を生きながらもその名が人類側の記録に無い「無名の大魔族」であるがその無名たる所以は、彼女がこれまで遭遇してきた者(人類)を皆殺しにしてきたと推測されている。
人間と「お話し」するために両腕を切り落とすことも躊躇わず、他にも実験として残虐行為を繰り返していたようで彼女もまた極めて危険な魔族であることには変わりない。
【聖杯への願い】
他陣営と「お話し」をしてさらに人間への理解を深めること
最終的にはこの聖杯戦争での記憶を「座」に持ち帰ることを考えている
【方針】
あくまでサーヴァントとして召喚されてるため、変に欲張らず目的を果たす予定。
不必要な敵対関係はしないようにし、殺す場合は効率よく済ませる。
魂喰いについては必要ならば特に控えるつもりはない。
最終更新:2023年10月09日 23:36