骨を断つ硬質の響きとともに、仮面の道化の首が宙を舞う。
 地に落ちた道化と目線が合い。クロメは嫌悪感を隠しもせず、八房を振るって刀身に付いた血を落とすと納刀した。

 思えば。召喚された時から嫌悪しか抱けない相手だった。
 道化の格好と相まって、ランの仇だったワイルドハントの1人を想起させる、仮面越しであっても理解出来る、情欲まみれの悍ましい眼差し。
 悪意と狂気で出来た耳障りな笑い声は、この道化が人を虐げ、傷つけ、苛み、殺す事を悦ぶ悪逆の徒であると嫌という程理解させる。
 そして何よりも、この道化が纏う、厭わしい昏い気配。クロメに纏わりつく“モノ”と同じ気配。こんな“モノ”を纏って愉しげに笑うその精神の在り方。
 出逢って三十秒も経たぬうちに、充分過ぎるほどに、クロメは己が“マスター”と呼ばねばならない男の正体を理解した。

 ────殺そう。

 戦乱の時代に生き、多くの人を殺したクロメの決断は早かった。
 殺人は望むところでは無いが、世の平穏を乱す輩を殺すのならば、むしろ本望ですらある。
 生前から聴こえ、死後もクロメを責め苛む怨嗟の声に対する贖罪でもあった。
 短く息を吐き、得物へと手を伸ばす。
 人間はおろか、武に秀でたサーヴァントでも無い限り、視認すら出来ぬ速度で腰に挿した黒鞘の日本刀を抜き、ままに、斬る。
 何が起きたかも理解出来ぬ内に首を刎ねられた道化に背を向け、マスターを失った己の身が消え去るまでの間に、この様な悪虐の徒が他にも居れば、見つけ出した殺そう。
 そう、決意して、歩き出す。
 室内と外界を隔てる扉に手を伸ばしたその時。

 「いけない子ね~。いきなり御主人様に手を挙げるなんて。コレはキッツ~~イお仕置きが必要ね!!」

 耳障りな声に、愕然と振り向いたクロメの四肢及び胴と腹にかけて、複数の刃が突き立ち、クロメの身体を宙空へと持ち上げた。

 「グハッ!?」

 クロメの身体を貫いたのは、六本の白い刃。それは、何事も無かったかの様に立つ、仮面の道化の胸から伸びていた。
 白い刃は骨だった。男は肋骨を伸ばして槍としたのだ。

 「おーほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっ!!」

 「化け物…」

 クロメが毒吐く。
 クロメは肉体操作をして戦う者を知らないわけでは無い。特異かつ苛烈な鍛錬の果てに、肉体を自在に変化させて戦う術を身につけた皇拳寺羅刹四鬼の様な存在を知っている。
 だが、皇拳寺羅刹四鬼にしたところで、その肉体操作は、精々が爪を伸ばして刃とする。特殊な体脂肪を分泌して攻撃を滑らす。毛髪を伸ばして敵を絡め取る、或いは絞め殺す。その程度だ。あくまでも人体機能の延長にある行為でしか無い。
 だが、この道化は、肋骨を伸ばして武器としている。肋骨は延伸するものでは無いし、第一に肋骨が体外に出る事態となれば呼吸が出来なくなる。
 この道化の様に、耳障りに笑い続ける事など出来はしないのだ。

 「化け物ッ!?失礼しちゃうわ~~。アタシはね。不死を手にしただけよ」

 道化は嗤い。身体の中に手を突っ込むと、体内から蛆に塗れた鉄の表装の黒い書物を取り出す。
 凡百の宝具を超える神秘を纏う書物は、魔導に疎いクロメでも、一目で『力有る書』と理解(わか)る逸品だ。

 「この魔導書『妖蛆の秘密(デ・ウェルミス・ミステリイス)の力でね」

 ティベリウスの身体から更に触手にも似た腸管が複数伸び、身体を貫く肋骨を外そうともがくクロメの四肢を絡め取った。

 「一つ聞くけど、どうしてアタシを殺そうとしたの?貴女も消えちゃうのに」

 クロメが完全に抵抗できなくなった事を確信すると、道化はクロメに反逆の理由を訊いた。
 別段、意味があってのことでは無い。何と無く気になったのだろう。その程度だ。
 汚液を滴らせる腐肉と骨に高速されて、悍ましさに苛まれながらクロメは吠えた。

 「治安を乱す輩は、私達イェーガーズが狩る!どんな境遇であっても!変わらない!!」

 「…………」

 決然と宣言したクロメに、道化は黙り込んだ────否。

 「………………ブフッ」

 生ゴミが詰まったまま打ち捨てられていた袋が破れ、内部に充満した腐敗ガスが噴出する様な汚らしい音がした。

 「おーほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっ!!!!!
 イイわ!凄くイイ!!
 アナタみたいな娘を召喚できたなんて、と・て・も、ラッキーだわ!ア・タ・シ!!」

 聞いているだけで精神が腐り落ちそうな不快極まりない笑声。
 凡そ人の声では無く、人外化生、悪鬼外道の声であった。
 その声は、クロメに嫌でも思い出させる。ボルスの家族と、ランとその教え子を殺した鬼畜共を。

 「誰がお前の思い通りに……ッ!!」

 「あらあら~嫌われたものねえ。けれど、アナタの意思は関係ないのよ~」

 クロメに見せつける様に道化がかざした右手の甲。そこにあるものは、サーヴァントに対する絶対命令権である令呪。

 「最初っからアナタには勝ち目なんて無・い・の・よ。まぁ、アナタに関しては、令呪より、もっと『面白い』ものがあるけれどねぇッ!!」


 道化の眼が妖光を発する。奇怪な言葉腐った吐息と共に吐き出される。
 悍ましいものを感じたクロメは必死にもがくが、宝具級の魔導書に由来する拘束は、四肢を貫かれている事もあって、到底外せるものでは無い。

 「アタシは死霊魔術師なの!殺す程に、怨霊が満ちる程に、力を増す!!アナタみたいなのは、大歓迎よ~~!!!」

 クロメの顔が白蠟の如き色と化す。生前からクロメを責め苛み、死後も尚怨嗟の声を上げ続ける死霊達に、この道化は気づいているのだ。

 「さあ!オシオキの時間よ~~!!」

 放出される魔力。世界が昏くなる。空気が腐る。空気を震わせることのない声が、クロメの耳に響く。


 「死ね。どうして殺したの。死ね。お前も死ね。苦しい。死ね。死にたく無かった。死ねお前が死ねば良かった。死ね。死ね。死ね。
 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
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死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」

434:命も無いのに殺し合う ◆/dxfYHmcSQ:2023/10/10(火) 13:50:13 ID:NTwnUJkU0
 道化の呪法により、よりはっきりと、より強く、より鮮明に聞こえる様になった怨嗟の声が、クロメの精神を切り裂き苛み打ち砕き押し潰す。
 クロメは拘束された身を捩り、絶叫し、貫かれた傷口が開くのも構わず暴れ狂う。

 「アタシを随分と憎々しげに睨んでいたけれど、憎しみは憎しみを呼ぶだけよ~ん」

 聞いてしなえばその時点で狂死は免れ得ない呪詛の絶叫と、のたうち苦しむクロメを見ていた道化は、クロメの動きが完全に停まった事を確認すると、怨霊を抑えて縛を外してクロメに歩み寄った。
 うつ伏せに倒れたクロメを蹴り転がして仰向けにすると、顔を覗き込んで話し掛ける。
 仮面から、蛆虫がクロメの顔にこぼれ落ちた。

 「辛い?苦しい?でしょうね~。なら、ケダモノになりなさい。ビーストモードってヤツ。狂っちゃって、アグレッシブになりなさいな」

 「い…や……」

 「強情な娘ねぇ~」

 再度クロメの耳朶にだけ響く無数の呪怨、最早断末魔の形相で叫び続け、生前の想い人に助けを求めるクロメを、道化は愉しく見つめていた。

 「おーほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっ。安心なさいな。ウェイブって子がいたら、しっかり殺してあげるから」

クロメが折れたのは、六時間後の事だった。


【名前】
クロメ@アカメが斬る!(原作漫画版)

【CLASS】
バーサーカー


【属性】混沌・狂

【ステータス】筋力;C 耐久;B 敏捷:A+ 魔力:D 幸運:E- 宝具;A



【クラス別スキル】

気配遮断:D -
 サーヴァントとしての気配を絶つ。隠密行動に適している。
 ただし、自らが攻撃態勢に移ると気配遮断は解ける。
 自らの意思で使用出来ない。


狂化:EX
 全パラメーターを1ランクアップさせるが、理性の大半を奪われる。
 強引な後付けの為に効果が安定せず、時折理性を取り戻す事もある。
 固有スキルの効果により、幸運と魔力を除いたパラメーターに+を付けることが可能。




【固有スキル】

歪曲:A 
 本来呼び出したクラスが強制的に歪められ、別のクラスの特性を付加された証。
 引き換えに、元のクラススキルのいずれかが低下している。
クロメの場合は、バーサーカークラスの特性を付与された為もあって、気配遮断スキルのランクが低下した上に、基本的に機能しなくなっている。

強化薬物:B+
特殊な身体能力強化薬物を常用している。ランク相応の怪力と戦闘続行の効果を発揮する。
戦闘続行の効果は凄まじく、頭か心臓を潰さない限り死ぬ事はない。
デメリットとして薬の効果が切れると身体能力が激しく低下する。
超強化薬物を使用する事で、身体能力を1ランク向上させられるが、戦闘継続可能な時間が大幅に縮まる。


薬物中毒:A
長年に渡る強化薬物使用により、薬物中毒になっている。
薬が切れると全ステータスがワンランク低下する。


怨嗟の声:C(A+)
生前クロメが殺してきた者達が纏わりつき、怨嗟の声を上げ続ける。
Cランクの精神汚染の効果を発揮、狂化スキルと相俟って、クロメの自我を殆ど崩壊状態にし、ティベリウスの死霊魔術が加わる事で、クロメを完全にティベリウスに隷従させている。
マスターの気分次第で()内の値に上昇する。


心眼(偽):C
 視覚妨害による補正への耐性。
 第六感、虫の報せとも言われる、天性の才能による危険予知である。

【宝具】
死者行軍・八房

ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1~2 最大捕捉:8人

日本刀型の帝具。この刀で殺された者は、八房の所有者の意のままに動く骸人形となる。
骸人形は言語機能と感情と記憶を失うが、生前の技能をフルに発揮し、死体であるが故に頭を潰されても止まらない。
サーヴァントであっても骸人形とする事が可能。
サーヴァントを骸人形とした場合。サーヴァントの霊基は幻霊レベルにまで落ちるが、この時、宝具の真名解放が出来なくなる。
更に魔力消費量も尋常では無く跳ね上がる為に、通常のマスターではサーヴァントを骸人形とする事はじ実質不可能。


【Weapon】
お菓子
:お菓子の見た目と味の強化薬物。摂取し続ける必要があり、効果が切れると戦えなくなる。摂取しないでいると死ぬ。


【解説】
アカメが斬る!の主人公アカメの妹で、帝国の特殊部隊イェーガーズ所属の少女。
幼い頃両親に売られ、帝国の暗殺部隊の一員とぢて暗殺に携わる。洗脳の所為もあって精神的にかなり壊れていて残虐な所業を繰り返してきた。
イェーガーズに所属してからは、仲間達との交流もあって人の心を取り戻していくが、戦いの中で仲間を次々と失い、薬物中毒の為に余命幾ばくもない状態となる。
姉との決着を付けるべく最後の戦いに臨むが、心を通い合わせたウェイブにより中断。
ウェイブと二人で帝国を離れ、死ぬまでの数年を幸福に過ごした。


【聖杯にかける願い】
怨嗟の声をあげる死者達から赦されたい。



【マスター】
ティベリウス@デモンベインシリーズ

【能力・技能】

魔導書『妖蛆の秘密(デ・ウェルミス・ミステリイス)の力で不死身となっている。魔導書を破壊しない限り死なない。
得意とする魔術は死霊魔術。殺せば殺すほど強くなる。
肋骨伸ばして剣にするとか、腸伸ばして拘束するとかもできる。


【人物紹介】
魔術結社ブラックロッジの大幹部『アンチクロス』の一人。
極めて残忍な猟奇快楽殺人者。
オカマ口調なのに性的に興味を持つのは女性。屍姦でも問題なくイケる
同じアンチクロスの死体もゾンビにして利用するクソ外道である。

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最終更新:2023年10月12日 02:08