神様は勇気とか希望とかいった人間賛歌が大好きだし、それと同じくらいに血飛沫やら悲鳴やら絶望だって大好きなのさ。でなけりゃぁ──生き物のハラワタが、あんなにも色鮮やかなわけがない。
 だから旦那、きっとこの世界は神様の愛に満ちてるよ


虚淵玄『Fate/Zero』


 誇らしい、夢を見た。



 遠征から帰ってきた戦士達。整然と隊伍を組んで凱旋した男達は、勇者と賞され、英雄と称えられるに相応しい威風を漲らせ、先頭に立つ将に率いられて行進する。
 凱旋した勇者達を讃え、その労を労おうと道の両側に詰め掛けた群衆達。やがて群衆の中から、戦士達の子であろう男の子が複数飛び出して、友人達を引き連れて各々の父の元へと駆け寄り、口々に土産話を要求する。
 男達は困ったような笑みを浮かべて、子供たちと一緒に将に目を向けると、将も心得ていたらしく、慈愛に満ちた笑顔をで首を縦に振った。
 子供達の歓声が上がる中、戦士達はそれぞれが此度の遠征で自身の挙げた武勇譚を語り出した。


 神殿の様な場所で、群衆を先刻の将が祭壇の上から見下ろす。その全身には威厳が満ち、語る言葉に漲る気迫は、聞くもの全てを平伏させる重さと、雄々しさと、荘厳さと、力強さに満ちている。
 祭壇の将に向けられる群衆の視線を見よ。皆が皆畏敬と崇拝に満ち満ちて、将が只、地位に依るだけの存在では無い事を、言葉に依らず雄弁に物語っている。
 止めどなく勢いを増す説法に群衆は熱狂し、理解のできぬ言葉で叫ぶ。叫ぶ。叫ぶ。
 群衆が何を讃えているかは解らぬ。何に熱狂しているかも解らぬ。だがしかし、祭壇の将が紛れもない、人々の崇拝を受ける英雄だということは理解出来た。


 将は戦士達の先頭に立ち、敵を睥睨する。
 矢弾も届かぬ、斬り結ぶ刃の音も聞こえぬ、敵の姿も見えぬ遥か後方から、声を枯らして「突撃」と絶叫するのでは無い。陣頭に立ち、戦士達に背を晒し、敵に顔を身体をを晒して、後方を振り返ることもせずに「我に続け」と告げ、戦士達の遥か前方に立ち敵陣目掛け駆けるその雄姿よ。
 誰よりも速く敵陣に斬り込んで、万夫不当の勇を振るい、後ろに続く当千の戦士達をして「我、及ばず」と、そう思わせる絶世の武よ。
 戦士達は凱旋した時の土産話に、自分達の戦振りではなく、将の勲をこそ我が事の様に語るだろう。
 自分達が将と同じ戦場に立てた事を、何よりの誇りとしながら。


 その咆哮は天地を震撼させ、吐く息吹で城塞を焼き尽くす、強大な龍を撃ち倒した将の姿が在った。
 白銀の鱗に覆われた総身を鮮血に染め上げ、地に倒れ伏した巨躯はすでに息絶えているのか僅かも動かぬ。
 やがて将と龍の死闘を見守っていた男達が、息絶えた龍の周りに群がり、骸を運び始めた。このまま持ち帰り、衆目の前で引き廻すのだ。
 男達は、彼等が崇める英雄の武勇譚に屠龍の勲が加わった事を、誇らしげに語り合いながら凱旋の途についた。


 ◆

 悍ましい、夢を見た。


 壮麗な大伽藍で、葬儀を執り行う将がいた。送られるのは、神の御名の下に行われる遠征で、命を落とした勇者達。
 軍を率いるだけでなく将であるだけでなく、祭祀を執り行う神職でもある男は、厳粛かつ荘厳な儀式を滞り無く行った。
 死者達は皆、神の名を奉じ、神の為に戦い、神にその身を命を魂を捧げた殉教者達。
 人々は皆、神の御許に召され、神と合一した勇者達を祝福し、我も続かんと奮い立つ。



 襲い来る悪鬼の群れ。生ある全てを殺し尽くし、形ある全てを焼き尽くし、通過した跡は二度と生命が生きられぬ焦土とする、地獄より来た混沌の軍勢だ。
 迎え撃つは軍勢は騎士と兵のみならず、近隣の村落からも掻き集められた農民達も又、手に手に粗末な槍を持ち、家族や財産を守護る為に血の気の引いた顔に悲壮な決意を浮かべている。

 現れる悪鬼の群れ。先頭に立つは悪鬼を率いるに相応しく真正の羅刹。
 凄まじい速度で駆け寄って来た羅刹の如き男に向かって繰り出される槍の穂を、手にした刃の一閃で切り飛ばす。
 木製の柄では無く鉄の穂先を枯れ枝の様に切断する技量と魔刃の冴えに恐れをなし、後ろえと退がった農民達の首が、槍の穂の後を追って宙に舞う。切断面から噴き上げた鮮血が辺りの空間を真紅に染める。
 農民達の身体が地に倒れ伏すよりも速く、後ろに並ぶ兵の群れに羅刹は斬り込む。
 鉄の兜も鎧も存在しないものの様に、兵達の頭を兜ごと斬断し、鎧に守られた胴を鎧ごと両断する。恐れ慄き、崩れようとする兵達を叱咤し、戦列の維持に努める指揮官を優先して屠り、指揮系統を崩壊させていく。
 大地が屍と血に覆われた頃、羅刹の後に続く悪鬼達が乱入し軍勢を壊乱させた。
 戦い続けようとした者も、命乞いする者も、投降する者も、逃げようとする者も、皆等しく殺戮された。
 悪虐の軍勢は進む。たった今屠り尽くした者達が護ろうとしていた村々へと向かって。



 全てが燃えていた。人々が住む家屋も。一年の実りを齎す畑も。生活と労働を支え、時には糧となる家畜も。そして人間も。皆等しく炎に包まれていた。
 両膝から下があらぬ方向へ曲がっている老爺が、必死に地面を這いずっている。殴打されたのだろう、へし折れた鼻梁から噴水のように血を吹きだし、歯が複数抜けて真っ赤に染まった口腔から血を零しながら、老爺は必死に地面を這う。生きる為に。
 指先が何かに触れ、触れたものの正体を悟った老爺の顔が絶望に匹歪んだ。
 指が触れたのはこの惨状を作り出した男が達の内の1人の靴先。ナメクジのように地面を這う老爺の必死の足掻きを嘲笑うかのように、進む先へと回り込み待っていたのだ。
 命乞いだろう、老爺の口が動き、血と、言葉にならない声を漏らす。
 靴の主は愉快そうに笑うと、老爺の顎を蹴り砕いて黙らせ、手にした刃を急所を外して突き立てた。できるだけ長く苦しむように、浅く浅く、何度も何度も。
 凄まじい苦痛の表情を顔に刻んで息絶えた老爺を、男は笑顔で見下ろした。



 燃え盛る炎に次々に生きたまま投げ込まれる幼児達。手足の腱を切られた為に身動きできぬ親達は、ある者は泣き叫び、ある者は慈悲を乞い、ある者は呪詛を吐き、ある者は言葉にならない絶叫を繰り返す。
 凄惨極まりない光景を、笑顔で見守る男が居た。運命を前に泣き叫び、生きたまま焼かれる幼児達の絶叫を。眼の前で子を焼き殺される親達の苦しみを。哄笑しながら見守る男。その姿は只々禍々しく、悍ましく、この男が地獄より来た悪鬼だと見るもの全てに確信させた。


 生い茂る木々も、森の始まりより存在し続けた大樹も、森に生きる命も、全てが炭化するまでに燃え尽き、死に絶えた後を歩く男が居た。
 生あるものなどどこにも無く、もはや生命が育まれる事など二度とないだろう焼け跡を、男は喜悦の笑顔を浮かべて歩む。
 吹き渡る風が運ぶ死の匂いに満ち満ちた風を吸気により肺腑に取り込み、全身へと行き渡らせ、死者の怨嗟の慟哭とも聞こえる風の音に、心地良さげに耳を傾ける。
 男の右手には黄金の腕輪があった。今までは袖に隠れて見えなかったのだろう。それは見事な装飾品だった。巧妙精緻な彫細工もさることながら、中央に象嵌されたまるで何かの瞳を思わせる、妖しい輝きを放つ猫目石だ。

 いや、確かにその猫目石からは視線を感じる。次の獲物はお前だとでも言いたげな、飢えた肉食獣の様な眼差しが─────。




 魂の芯まで穢し抜かれる様な悍ましさと共に、東郷美森は布団から跳ね起きた。
 下半身を布団の中に入れたまま、上半身だけを起こした姿勢で何度も何度も荒い呼吸を繰り返す。
 十を軽く超え、三十を数えた頃になって、漸く呼吸が収まった。

   ここ来てあのサーヴァントを召喚してからというものの、まともに眠れた試しが無い。
 寝巻きを脱ぎ、布団に染みをつくった全身の汗を拭った後も、深いため息を吐く。
 アレはどうしようもなく良く無いものだ。アレは英雄などというものでは無い。寧ろその逆。英雄に撃ち倒される悪鬼羅刹魔人の類だ。
 そんな事は召喚して一日目で理解できた、縁を切ろうとその時から思い続けている。
 だが、出来ない。出来るわけが無い。東郷美森の抱く願いは、あのサーヴァントとしか掴めないのだから。
 ノロノロと夏の日差しに炙られ続けたナメクジの様な動きで服を着ると、鏡の前に立って顔を見る。
 幽鬼の様な顔が映っていた。土気色の顔と、痩けた頬に眼の下に出来たドス黒い隈は、、勇者部の面々に見られれば病気と思われるだろうほどに酷い。
 今日も一日引籠もる事になるのだろう。学校に行けば周囲に─────NPCだが─────心配されるし、あのサーヴァントが彼等彼女等に何をしでかすかわからない。
 東郷は死人の様な無表情のまま、濡れたパジャマとシーツを洗濯機に放り込むと、緩慢な動きで食事の準備をする。
 食欲など全く無いし、最近は胃に入れたものを即座に吐き戻しそうになるが、食事を摂らなければ身体が保たない。


 夕刻。家に引き篭もっていた東郷の眼前に、東郷のサーヴァントが姿を現した。漆黒の獣毛で出来た胴着を身に付けた、長身痩躯の端正な白貌の男は、先端の尖った長い耳をしていた。
 エルフ。という単語を、男の耳を見た者は想起するだろう。

 「獲物を見つけたぞ。勇者殿」

 悪意に満ちた笑顔に、これから繰り広げられる惨劇を思い、東郷美森の全身が大きく震えた。




 轟々と狂風が吹き荒ぶ夜だった。気温は0℃近くにまで下がり、吹き荒ぶ風により体感気温はマイナスに達していた。
 北国で育った訳でも無い東郷には厳し過ぎる気候ではあったが、東郷の従える白貌のサーヴァントはまるで意に介さずに、東郷に背を向けて振り返る事なく、対峙するランサーに哄笑していた。

 「さあ!どうした英雄殿!!このままでは遠からずあの娘の生命は潰えるぞ!!」

 東郷の車椅子の前に立ち、喜悦を込めて嘲り笑う東郷のサーヴァントを、地に膝をつき、自身の血で赤く染まったランサーが、背後の東郷ごと睨み付ける。ランサーの背後に控える10代半ばの少女の顔は蒼白で、視線はあらぬ方向を彷徨っていた。
 戦闘は殆ど一方的に、東郷のサーヴァントが優勢に有った。
 ランサーが弱い訳では決して無い。この槍兵は充分に強い。天地に向けて「己は強者」と嘯ける資格がある。それ程の強者だ。
 彼我共に音に迫る速度で動き回る中、敵手の装甲の隙間を精確に狙い穿ち、音の倍する速度で迫る斬撃を、繰り出した槍の切先で弾き飛ばし、そのまま敵手の心臓を抉る。そんな絶技を小手先の宴会芸の様に容易く振るえる男だ。
 この聖杯戦争に於いても二騎のサーヴァントを座へと還し、その武名に偽りなしという事を、マスターに存分に示し、十全の信頼を勝ち得た英雄だ。
 それが、この惨状。
 疾風のように戦場を駆けた両脚も、槍を振るい、時には拳を奮って、数多の敵を屍と変えてきた両腕も、傷つき血に塗れ、胴にも複数の傷が有る。
最早十全の働きは─────どころか、普段なら歯牙にも掛けない雑兵にすら遅れを取りかねない。
 繰り返すがランサーは決して弱くは無い。相手が悪辣に過ぎたのだ。

 「さぁ立てよ英雄殿!もうすぐだ!もう直ぐこの娘の生命は潰える!!英雄の誇りはどうした!!気概はどうした!!邪悪に対する義憤は消えて失せたか!!」


 事の始まりは一時間前に遡る。
 ランサーとそのマスターの拠点に投げ込まれた一通の手紙。それがこの主従に取って、死神からの呼び出し状だった。
 手紙には簡潔に、場所と時間のみが記してあった。
 子供にでも判るあからさまな誘いだが、少女もランサーも、無視する事は出来なかった。
 手紙には、マスターと同年代と思しい人間の人差し指が同封され、手紙の文字は紅い─────明らかに指の主の血で書かれていた。
 二人はこの誘いに乗った─────自分達の拠点を知っている相手に挑まれている以上、黙殺できないということもあったが、何よりもこの様な非道を為す輩を許せなかったのだ。
 そして二人は指定された場所へと赴き─────その途上で襲われた。
 不意を突かれ、それでも致命傷を避けてのけたランサーは、百戦錬磨の強者と讃えられるべきだろう。しかし、最初に受けた傷の影響は大きく、十手も渡り合わぬうちに、ランサーは戦闘能力をほぼ喪失した。
 離脱を試みるという思考は、襲撃者が顎で示した先に有った、街灯から吊り下げられた少女─────送られてきた指の主の無惨な姿が封じていた。
 ランサー主従を釣り出すための餌とされた少女は、柳葉状の刃物が数十に渡って連結され、一本の索縄を形成し、先端に当たる部分はびっしりと牙が生えた巨大な肉食獣の下顎の骨を繋げた、異形の鎖分銅を全身に巻かれ、吊るされていたのだ。
 生前に数多の奇妙な武器や、奇抜な闘法を用いる者達と戦い、その全てを制したランサーをして、初めて見るシロモノである。鎖分銅の類ならば、生前に見た事があるが、これは明らかに異形であった。
 鎖といい分銅といい、鋭利に研がれていない場所はどこにも無い。どう触ろうと肉を裂かれるに違いない、使用する為に手にする事すら叶わない、およそ正気の沙汰とは思えない設計の器具である。
 ランサーは最初に拷問器具の一種かと思ってしまった程だ。こんなモノを生身に巻きつけられたならば、そう考えて、勇猛果敢な英雄であるランサーですらが、一瞬背筋を凍らせた程だ。
 だからこそ、流れ落ちた血で地面を赤く染め、時折弱々しく呻くだけの少女を放っては置けなかった。
 憤怒と共に槍を振るい、咆哮しながら身に付けた絶技の悉くを繰り出す。ランサーが持つ高ランクの戦闘続行スキルと、怒りが痛みを忘れさせ、傷ついた肉体は常と変わらぬ、いや、凌駕する動きを発揮した。
 その全てを襲撃者は嘲笑と共に最小の動きで躱し、手にした奇妙な光沢を放つ白い曲刀で捌き、やがて限界を超えた動きを続けて動きが鈍ったランサーの槍に、下から曲刀の強烈な一撃を見舞った。
 不意に槍に加えられた衝撃に、槍を手放すことこそなかったものの、大きく仰け反ったランサーの隙を見逃さず、襲撃者は胸に蹴撃を見舞い、ランサーをマスターの元まで蹴り飛ばした。

 「刻限切れだ、英雄殿」

 実に愉しげに告げる襲撃者。街灯から吊り下げられた人影は、最早僅かも動かず、遠目にも死んでいる事は明らかだった。

 「さて、そろそろ幕としよう」

 そう告げて、ランサー主従に歩み寄るその姿は、死神と呼ぶに相応しい。
 痛みと出血とで、朦朧としかかる意識の中、ランサーが考えたのは『逃走』だった。
 今の状態ではこの敵には敵わない。この傷では宝具を用いても斃せない以前に、そもそもが通用しない。この襲撃者はまともに戦っても自分を斃せる武練の主だ。此処まで傷ついた身では、宝具を用いても、襲撃者の影にすら触れられないだろう。
 この敵には現状、勝利以前の問題として抗する術が無い。此処から離れ、身を隠し、傷を治してから再戦するべきだろう。
 そう結論づけたランサーは、マスターに令呪の使用を乞い、令呪による強化を用いて、マスターを抱えて逃走した。

 「何処へなりとも行くが良い。何処へ行こうとも、私には判るのだから」

 一呼吸する間に視界から消えた主従に、襲撃者が漏らした呟きは、当然ランサーには聞こえなかったが、東郷の耳にはしっかりと届いていた。





 死闘の現場から10キロ以上離れた人気の無い夜道を、ランサーのマスターは悄然と歩いていた。
 傷つき消耗したランサーは、霊体化して側に付き従っている。
 拠点を知られている相手に、ああも無惨な敗北を喫した以上、最早戻る事は叶わない。目の前で素顔まで晒したのだ。別の拠点を探すべきだろう。
 所持金もろくに無い身では、宿泊するのも厳しい。しかも季節は冬だ。野宿するのは出来なくも無いが、やはり無謀というべきだろうに近い。
 今後、いや、今晩をどう過ごすか考えながら歩く少女の身体に、硬いものが巻き付き、少女は地面から30cm程離れた宙に吊り下げられた。
 先刻の襲撃者が執念深く追跡してきたのだ。しかし、迅速を持って鳴るランサークラスのサーヴァントが、令呪によるブーストで、更なる速度を得て逃げ去ったのだ。追いつく事は時間の経過からいって可能ではあるが、まずそれ以前に、瞬時に視界から消え去る速度で距離を取り、その後何度も追われていない事を確認した。捕捉されているなど有り得ない。
 実体化して周囲に敵の姿を探すランサーの脳裏には、そんな疑問が乱舞していた。
 しかし、悠長に思考に耽る暇など、この哀れなサーヴァントには存在しない。

 「ガッ…ギィああああああああ!!!」

 鋭利な刃が皮膚を破り、肉を裂き、骨に食い込む激痛に身も蓋もなく泣き喚く少女の声が、ランサーの思考を中断させる。
 先刻逃れた襲撃者が、人質を吊るしていた鎖分銅だと、少女に気付く余裕は無く、只々咽び泣きながらランサーに助けを求める。

 「グ…御免!!」

 ランサーの判断は迅速だった。先刻の襲撃者が至近にいる以上、マスターの拘束を悠長に解いている暇は無い。例え一瞬マスターに苦痛を与えようとも、鎖分銅を断ち切り、宙吊りの苦痛から解放するべきだった。
 その判断に基づき、ランサーは宝具である槍を鎖分銅に繰り出し、音を立てて跳ね返された。

 「何ッ!?」

 ランサーは生前に人以外とも戦った事が有る。鋼以上の硬度を持つ甲殻を持つ妖蟲とも、並の騎士であれば宝剣魔槍の類を用いても、傷ひとつつけられぬ硬い皮膚を持つ魔獣とも、戦った事もある。その全てを手にした槍で屠ってきた。
 だが、この鎖分銅から感じた感触は、生前に貫き穿った如何なる装甲も甲殻も皮膚も及ばぬ硬度。まるで、ランサーが生前についぞ交える事のなかった、龍の肉体の様ではないか。

 「そんななまくらが、私の凶蛟(まがみずち)に通用するとでも?」

 愕然とするランサーに浴びせられる嘲り。ランサーのマスターを拘束し、その苦悶の様とランサーの足掻きを嘲笑しながら眺めていた襲撃者が姿を表したのだ。


 「そんな簡単に龍の肉体が壊せるとでも?それは私の屠龍の勲に対する侮辱だぞ」

 浴びせられる嘲りに、ランサーの身体が打ち震える。この鎖分銅が龍の肉体から作られたのだというのならば、そしてそれが、この憎むべきサーヴァントの勲というのなら。

 ─────勝てぬ。

 ランサーの戦意は完全に喪失した。もとより勝ち目がないと判断して逃げた相手が、此処まで冠絶した勲を持つ者だと知って、心が折れたのだ。
 だが、ランサーは歴とした英雄だ。この局面でも勝利を掴む為の手段を模索し、そして見出した。

 「さあ!とく御照覧あれ!御身の従僕が、いま贄をひとつ捧げますぞ!!」

 ランサーの視界には、両手を広げて宣言するサーヴァントと、その後ろで蒼白な顔をしている、車椅子に乗った東郷美森の姿が映っていた。


 東郷美森には凡そ耐え難い光景であった。目の前で人が一人嬲り殺され、また一人惨死しようとしている。
 この惨状を作り出したのは、自分が召喚し、自分の魔力で現界するサーヴァントだ。
 その事を思えば東郷美森の精神は、鈍(なまくら)な鋸で刻まなれているかの様に痛む。
 自分をこんな場所に連れ出し、態々見せつけるのは、自分の精神を苛み苦しめる為だろうと、東郷美森は推察しているが、それで目の前の光景を受け入れられるかといえば、受け入れられるわけがない。
 それでも耐えるしか無い。東郷美森の願いは真っ当な英雄であるならば、即座に否定するモノである。この悪虐の英霊としか、彼女の望みは掴めないものである。
 実際のところ、東郷美森が理解していると思っていた以上に、彼女のサーヴァントは悪辣で邪悪であり、彼女はその事をじきに知る事となるのだが。


────────────────────

 ランサーは必死にマスターに念話で呼び掛けていた。
 令呪を用い、敵マスターを討つ。
 年端もいかぬ少女を手にかける事には忸怩たる思いがあるが、最早その様な事を言ってはいられない。自身のマスターを活かすためにも。敵のマスターを殺すしか無いのだ。
 逃げても何処までも追いかけてくる。戦って斃すしかないが、消耗が酷過ぎる為に、
単純に令呪による強化を施しただけでは追いつかぬ。
 マスターを殺し、主人を失ったサーヴァントを弱体化させるしか無かった。
 必死の呼びかけに苦痛の最中にあるマスターが応え、二画目の令呪を用いてランサーを強化。漲る魔力により傷ついた身でありながら常と変わらぬ動きを取り戻したランサーは、一気に哄笑するサーヴァントの横を駆け抜け、後方の美森へと迫る。美森がランサーを認識して、何らかの反応を示そうとした時には、既にランサーの槍は繰り出されていた。

 肉の裂ける音がした。ランサーの顔が驚愕に歪む。突如としてランサーと美森の間に現れ、ランサーの槍を我が身で受け止めたのは、十代半ばの肉付きの薄い体つきの少女。
 だが、怪異な事に、槍の切先は少女の心臓を確と貫いているのだ。にも関わらず、表情一つ変えずに立つその姿。少女に悍ましいものを感じたランサーは、思わず距離を取ろうとして、愕然とした。少女の手が槍先を掴んでいる。ただそれだけで槍が抜けないのだ。
 力尽くで引き抜こうとしたランサーの背を、サーヴァントは袈裟懸けに切り裂き、両脚の健も切断し、その動きを完全に封じた。


────────────────────

「さて、ランサーのマスターよ」

 倒れたランサーの背中の傷を踏み躙り、ランサーの苦鳴をBGMとしながら、激痛と出血で朦朧としている少女に語りかける。

 「一つ提案があるのだが」

 ランサーが呻きながら睨み付ける。
 『提案』と言ってはいるが、実際には『要求』だ。それも此方にとって間違いなく不利益をもたらすものだ。

 「君はこの無能なサーヴァントの為に敗北し、苦痛の最中にいる。君を救う義務を負うランサーは、この通り私の靴に汚れが付かないよう、地面に身を転がす程度のことしか出来ない。
 仕方が無い。主人の大切な切り札を使って、無力な少女一人殺せなかったのだからなぁ」

 東郷美森は、何故自分が此処に連れてこられたのかを理解した。正統な英雄であるランサーに自分を狙わせる。その事でランサーの英雄としての自尊心を貶め、更に失敗させて辱める。その為に此処に連れてきたのだという事を。

 「さて、君は今日、二度令呪を使用した。今最後の一角を用いて、この能無しに『自害を命じ給え』。そうすれば、『私は一切君に触れない』と約束しよう」

 その言葉に込められた悪意に気付いた、美森とランサーの声を封じるように、悪虐のサーヴァントは続ける。

 「令呪を全て失い、サーヴァントもいない者などに、何もしやしないさ。さぁ、この英雄などと言う御大層な名前倒れの屑をさっさと自害させるんだ」

 ランサーの誇りと、主従の絆とを、言葉の毒で腐らせてゆく。

 「マスター…。甘言に耳を傾けてはなりません!!」

 必死にマスターを諌めるランサーを、悪虐の英霊は嘲笑した。

 「主人の為に、何ら役には立てない身で、何を言っている。英雄だろう?ならば主人を救う為に進んで死ぬべきだろう?」

 「黙れ…黙れええ!!」

 「主人の苦痛を長引かせてまで、仮初のの生にしがみつくか。全く大した英雄様だ」

 嘲弄され、侮辱されるランサーを、ランサーのマスターは苦痛で濁った瞳で見つめていた。

 「うる……さい」

 マスターを諌めるランサーの声を遮ったのは、怨嗟に満ちた声だった。

 「何の役にも立たない癖に…私に指図するな!この塵!!………さっさと、死ね!!」

 ランサーの胸を、熱い感覚が貫いた。
 貫いたのはランサーの槍。彼の得物であり、誇りである宝具だ。
 ランサーの敗北と、全身を切り裂かれる痛みに心折れたマスターが、令呪を用いて自害を命じた結果だった。
 口から鮮血を溢れさせ、全身の力が抜けていく中、ランサーは安堵していた。この先マスターがどういう目に遭うか、ランサーは正しく理解していた。それを見ずに死ねるというなら、幸運に恵まれているというべきだろう。
 せめて座へと還る前に、冥土への案内くらいは…。そう思ったランサーだったが、苦痛に苛まれながらもその肉体が消える事はない。
 令呪により自害を強要されたランサーの腕は、精確に心臓を貫く筈だった。
 槍が心臓を貫く直前、この事態を演出したサーヴァントが手を伸ばし、その切先を少しだけずらして、心臓を僅かに外したのだ。

 「貴様…ッ!」

 際限無い悪意に、真正の憎悪を向けるランサーだが、忌まわしき白貌は意に介した様子も無く。

 「何処までも能無しだな。敗北した上に主人の苦痛を長引かせるだけとは」

 呆れた様に首を振る白貌を、睨みつけるランサーに、マスターの声が聞こえた。

 「どう…して、死なないのよ……。この、役、立たずガァ…ッッ!!!」

 ランサーに向けられる声は呪詛であった。ランサーを役立たずだと、無能だと罵倒する声であった。

 死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。
死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。
死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。
死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。
死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。
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死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。
死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。


 痛みと出血とで、朦朧とする意識の中で、ランサーに対して「死ね」と少女は繰り返す。それ以外に苦痛から逃れる術は無いと信じるが故に。

 「アヴェンジャー……」

 あまりにも凄惨過ぎる光景に、東郷美森は己が悪虐のサーヴァントに、無駄と悟りながらも慈悲を乞う。

 「彼女を殺せというなら、それは出来ませぬなぁ。『自害を命じ給え』。そうすれば、『私は一切君に触れないと約束しよう』。そう、私は彼女と約定を交わしたのですから」

 己がマスターを嘲り、侮蔑しながら、尤もらしい言葉を毒として放つ。

 「彼女を救いたいなら、マスターが如何にかするべきでは」

 言外に、お前の勇者としての能力で殺せば良いだろうと。そう、東郷美森に毒を吐きつける。

 東郷は唇を噛んで下を向いた。心中に抱く願いはこの悪虐の白貌の主人となるに相応しいが、己の手で人の命を絶つとなれば話は別だ。
 東郷の耳に、ランサーを呪う少女の声と、白貌への呪詛を喚き続けるランサーの声が、何時迄も聞こえていた


────────────────────

 結局。東郷美森は、少女を殺せなかった。苦悩と斬鬼とに震えるうちに、少女は息絶え。ランサーは、少女が死んだ後に、白貌の手で加えられた苦痛に、白貌への憎悪と呪詛を唱える事もできない程の苦痛にのたうち回って死んだ。
 哮笑しながら二人の死を見届けて、奇怪な発音の祝詞を唱え終わった白貌が、東郷へと歩み寄る。

 「礼を言うぞマスター。お陰で今宵の神楽は上々のものとなった」

 嘘偽りの無い心からの謝意を述べる白貌を、東郷美森は怒りと憎しみの籠った眼差しで迎えた。

 「不満か?聖杯に一歩近づけたのだぞ。何が不服だ」

 対する白貌は、変わらぬ侮蔑を東郷に向ける。元の性格も有るが、東郷の願いを知っているからこそのこの振る舞い。東郷がどれだけ憎み嫌っても、決して己を切れぬと知っていると、理解しているからこそだ。

 「あそこまで…あそこまでする必要が……」

 東郷もその事は知っている。己が抱く願いは真っ当な英霊は決して許容しないものだと。この悪虐の反英雄としか、己の願いは叶えられないと。
 決して譲れない願いを抱くからこそ、東郷美森はこも白貌を制御できない。
 それでも言葉を紡ぐのは、東郷が未だ悪鬼外道と堕ちていないからだ。この悪虐の白貌の殺し方を、人の心が許容しないからだ。

 「何を言うのかな、愚かな娘よ。私は言ったぞ。
 “殺し、穢し、焼き尽くすべし。陽光に栄える者共に闇の怨嗟を知らしむるべし”。
 それこそが、私がこの地に来た理由であると。お前の願いは確かに叶えよう、聖杯は必ず手に入れよう。その途上にあるものは悉く我が“混沌の君”の贄であると」

 白貌の反英雄はわざとらしく溜息をつく。仮初の主人の愚かさに心底呆れたと言った風情だった。

 「元はと言えば、お前の心構えがなっておらぬからだ。お前を、お前達“勇者”を育てた大赦の教育がなっておらぬからだ。
 何とも愚かしい。嘆かわしい。私とは奉じる神こそ違うとはいえ。神命を受けて戦う誉を担いながら、神の力をその身に宿すという栄誉を授かりながら、何故に嘆く。眼が見えぬ?声が出ぬ?味を感じぬ?だからどうした。
 その身を神に捧げて神と合一したのだ。誉れであろう。喜びであろう。祝福され、寿がれる事であろう。
 我等ならば、皆が皆。誇りとし、誉に思って身を捧げるぞ。私もまた。彼らを寿ぎ、祝福するぞ。
 なぜ拒む。何を哀しむ事がある。夢が潰えた?神と一つになれるのだぞ!それに比べれば、如何なる願いも夢も瑣末事であろうが!!
 その栄誉を拒んで貴様は聖杯を願い!そして私を呼んだのだろう。今更私を拒むなら、最初から神と合一する誉を受け入れておけば良かったのだ!!」

 東郷の願いを。勇者達の哀しみを、一切合切否定して、自分と共に聖杯を願うか、それとも神樹の贄となるか、二つに一つだと告げて、悪虐のサーヴァントは言葉を切った。

 このサーヴァントの言は正しい。
 神の力をその身に宿し、その身を捧げて強大な力を得るのが東郷美森達勇者の在り方。
 我が身を贄年擦り減らしながら、身体も記憶も捧げて人でなくなるものが『勇者』。
 その在り方は誉と思うべきなのだろう。誇りとするのが正しいのだろう。
 東郷美森が夢で見た者達ならば、誰しもが誇りとし、誰しもが誉とする。
 だが、しかし、東郷美森には、そんな在り方は出来なかった。
 自身の身体が動かなくなるならば、まだ許容できる。だが、友の嘆きを許容することなど出来はしない。友との記憶を奪われる事など耐えられない。

 「第一、お前が聖杯に願う事など決まっているだろう。例え仲間達の身体を元に戻そうとも。大赦を滅ぼし、神樹を枯らそうとも。
 天の神が在る限り、厄災(バーテックス)は再来する。そして聖杯は世界の内にしか効果を及ぼさん。厄災(バーテックス)ならばまだしも、全ての禍の根源である天の神には無力だろう。
 ならばお前の願う事は一つ。そしてその願いは、私以外の英霊には拒まれる。
 お前は私と征くより他に無い」

 である以上私の邪魔をするな。異を唱えるな。そう言葉にせずに悪虐のサーヴァントは歩き出す。
 次なる主従を求めてか?適当なNPCを奉じる神への贄とする為か?東郷美森には判らなかった。
 解っていることは、あのサーヴァントを御する術は自身には存在しない事。
 あのサーヴァントがこの地で、限り無い悪虐と殺戮を行う事。
 そしてそれを拒めば、自分の願いは叶わないという事。

 冬の冷気の中、東郷美森は寒さに依らず震えていた。
 その姿は、まるで帰る家を無くした子犬の様で、東郷美森が『勇者』と呼ばれる存在だとは、誰にも信じて貰えないだろう程に、弱々しく、哀れな姿だった。






【CLASS】 
アヴェンジャー

【真名】
ラゼィル・ラファルガー@白貌の伝道師


【属性】
混沌・悪

【ステータス】
筋力: D 耐久:D 敏捷: B 魔力:B 幸運: A 宝具;EX


【クラス別スキル】

復讐者:A+
 復讐者として、人の怨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。怨み・怨念が貯まりやすい。
 周囲から敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情はただちにアヴェンジャーの力へと変わる。
 人々に恐れられ、忌まわしき伝承と成り果てたアヴェンジャーの生涯の顕れ

忘却補正:EX
 人は恐れを喪えば忘れる生き物だが、闇の子の怨念は決して衰えない。
 忘却の彼方より襲い来るアヴェンジャーの攻撃は、混沌神の恐怖を忘れた者に強烈な苦痛を与える。

自己回復(魔力):B
 陽の加護の元に生きる者共への復讐が果たされるまでその魔力は延々と湧き続ける。魔力を微量ながら毎ターン回復する。

【固有スキル】


狂信:EX
特定の何かを周囲の理解を超えるほどに信仰する事で、通常ではありえない精神力を身に付ける。
トラウマなどは最初から存在しない、精神操作系の魔術等を無効化する。
神我一如の域に至った狂信は、ありとあらゆるものに揺らがされることはない。


闇の子の英雄:EX
 其れは闇の子に伝わる英雄譚。殺戮と拷問の技を技芸として嗜み、狡猾悪辣である程に称賛されるダークエルフ族に於いて、冠絶する武練と狡知とを誇った戦士。
 ダークエルフ族が行う地上への強襲行動“祭事“の指揮を執り、その悉くを成功させ、無数の地上に蔓延る命を刈り取り、人族の村やエルフの森を焼き払った祀将。強大な白銀龍を撃ち倒した屠龍の英雄。
 其れがアヴェンジャーである。
 極めて高ランクの拷問技術、心眼(真)、無窮の武練、勇猛、破壊工作の効果を発揮する他、対生物特攻の効果を持ち、更には陽光の加護を受けて生きるものに対しては攻撃力の数値を倍加させる。


カオスチャンピオン:EX
 〈法〉と〈混沌〉の二大の勢力の闘争に於いて、〈法〉に属する者達を殺戮し、二大の天秤を〈混沌〉に大きく傾けた〈混沌の闘士〉。
 属性が〈秩序〉のサーヴァントと対峙した時、幸運と宝具を除くステータスが1ランク上昇する他、行動の成功判定と幸運判定に大幅に補正が掛かる。


骸繰り(コープスハンドラー):A
 骸に魔力を通わせ、自在に操る魔術を行使する。外科手術及び解剖学の効果をAランク相当で発揮する。
 エクストラクラスの特殊性が合わさることで、ランクB相当の「道具作成」スキルが使用可能となり、“操躯兵”の製造を可能とする他、骸から道具や武具を製造する事が可能


魔力放出(毒炎);B
 訪れた地を悉く焦土とし、後には草一本生える事が無かったという伝承がスキルとなったもの。自身の魔力を金属すら腐食させる強い毒性を帯びた炎と変える。
 身体能力の強化には使えないが、武器や体に纏わせる、ジェット噴射の容量による飛翔といった使用方法が出来る。






【宝具】

龍骸装
ランク:A+ 種別:対人及び対城宝具 レンジ:  1〜99 最大捕捉:1000人


ダークエルフ族が寝物語として聞かされる、アヴェンジャーの英雄譚。屠龍の勲。
白銀龍を屠った勲功により、賜った白銀龍の骸を解体し、作り上げた一群の武器達。
竜種及び竜の因子を持つ存在と対峙した際、受けるダメージを半減し、与えるダメージを倍加させる。

凍月(いてづき)
龍の第六肋骨を削りだした一体成形型の曲刀。
刀身には"鋭化""硬化"の術が施され、状況に応じて“”震壊""重剛""柔靱"の状況に応じた魔力付与を発動させることが可能。

群鮫(むらさめ)
白銀龍の角を穂に、大腿骨を柄に使った短槍。
刃に“硬化”の二重掛け。更に切っ先への衝撃で“重剛”の魔力付加が発動し、運動エネルギーを倍化させるため、直撃した際の威力は絶大。
使い手の意思に感応して重心配分が変動し、投擲において絶妙な精度を誇る。

凶蛟(まがみずち)
白銀龍の下顎の骨に、四五枚の鱗を髭で結わえつけた鎖分銅。
全ての部品に“鋭化”が、顎骨には重ねて“重剛”の術が施されている。
全長二十フィート余りだが、連結部に“柔靭”が掛かっている為、状況に応じて自在に収縮する。
尾端に凍月を連結する事で鎖鎌としても使用可能。

手裏剣
龍の鱗から作成したもの。柳葉状の刃はどこに触れても鮮血を噴く。

胴着と籠手
鬣を編み上げて作成したもの、ダークエルフ族の銘剣でも断て無い。籠手を嵌めないと龍骸装は使用者の手指を斬り裂く。

凄煉(せいれん)
最強の龍骸装。白銀龍の肺胞を用いたものだが、この臓器には何らの加工もする必要が無かったので何もしていない。
取り出すと同時に吸気を始めて膨れ上がり、100秒後に龍の吐息(ドラゴンブレス)を吐き出す。
超高温を帯びた瘴気の息吹は、金属すら溶解させ、直撃せずとも致死の毒性で骨が腐り血が枯れる。
いかなる生物であろうとも死滅させずにはおかんし鏖殺の噴流。

龍骸装はいずれも魔力付与された屍であり、鮮血を滋養として代謝し、自己再生能力を持つ。
祭具として聖性が付加されており、これらの凶器による犠牲者の魂は、全て混沌神グルガイアに献上される。
龍骸装は、常時は影に変えてラゼィルの服の袖の中に収納されている。



嘆きの鉈
ランク:D+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜3  最大捕捉:10人

 巨大なギロチンの刃と形容される大鉈。
 祭祀に於いて、名だたる骸繰り(コープスハンドラー)であるラゼィルが、作成した操躯兵 (バイラリン/バイラリナ)に振るわせる武具。
 陽光の加護を受けて生きるものに対しては特攻効果を持つ
 祭具として聖性が付加されており、これらの凶器による犠牲者はの魂は、全て混沌神グルガイアの贄となる。
 “嘆きの鉈”の駆動装置である操躯兵 (バイラリン/バイラリナ)もセットでついてくる。お得。
バイラリンは様々な種族の死体の優れた部分を繋ぎ合わせて作成した巨人。
バイラリナはハーフエルフの少女の骸である。



神の眼
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:冬木市全域   最大捕捉:∞

精緻な彫り細工が施された黄金の腕輪の中央に嵌められた深緑の猫目石。
猫目石はラゼィルがグルガイアの神像から抉り取ったものであり、真性の“神の眼”である。
グルガイアはこの“眼”を通じて、地上の生命の苦しみと滅びを見る。




【Weapon】
龍骸装


夜鬼の置き土産:
極めて揮発性の強い薬品。訓練を積んだダークエルフ族の戦士だけが、この薬品の臭いを嗅ぎ分けられる。僅かな量でも、かなり遠距離から、かつ森の中でも正確に臭いを追える。


操躯兵:
死体の神経網をそっくり利用した、充填された魔力で動く死体。生前の知識と技能はそのままに、記憶、自我、精神は存在しない。主人の命令を遂行する為に思考し、生前に習得した技能を駆使して殺戮を行う。
概念としてはゴーレムに近い。
内臓や血液を必要としない為に、これらに作用する攻撃は一切効果を発揮しない。腹を開いて内臓を取り出して、荷物を詰めて置くこともできる。便利。
傷ついても充填された魔力で即座に傷が塞がるが、全身を潰されると流石にどうしようも無い。仕様上頭を潰されても止まるだろう。
充填された魔力を起爆して“壊れた幻想”として使う事が可能。

白貌:
エルフの遺灰から作った白粉。水や油に強いがエルフの血には弱い。これを用いる事でラゼィルはダークエルフであることを隠し、地上のエルフとして活動する。
魔力を用いて生成可能、



【解説】
混沌神グルガイアを奉じる、ダークエルフ族の地底都市アビサリオンに於いて、屠龍の勲を以って知られる、闇の子の大英雄。
人とは逆の価値観と倫理を有するダークエルフ族の地上への殺戮行を指揮する将であり、混沌神の祭祀を執り行う祀将である。
混沌神が宣した詔“殺し、穢し、焼き尽くすべし。陽光に栄える者共に闇の怨嗟を知らしむるべし”。 を忘れ果て、同胞同士の権力闘争に明け暮れる一族に見切りをつけ、グルガイアの神像の眼を抉り取り、グルガイア陽光の加護の元に生きる者共の滅びを奉ずるべく一人地上を行く。
その伝道の旅は、地上世界に於いて後世に“白貌の伝道師”という忌まわしい昔語りとして伝えられる事となる。





【聖杯への願い】
受肉。陽光の下に生きる者共に闇の怨嗟を知らしめるのは自らの手で行う。
マスターの願いはこの手で叶えてやっても良い。途上で『邪魔をする者達』が居れば当然殺すが、マスターの願いを叶える為には必要な殺戮だろう。



【把握資料】
白貌の伝道師 全一巻@星海社



【マスター】
東郷美森@結城友奈は勇者である

【能力・技能】
勇者システム
神樹の力により、『勇者』へと変身する。
拳銃、二挺の中距離銃、狙撃銃を使い分け、近中遠距離に対応可能。
歩行機能は回復しないが、触手っぽい4本のリボンでボインボイン跳ねて移動する。
精霊バリアは存在するが、満開は使用出来ない。


【人物背景】
讃州中学勇者部の一員。
『満開』の代償として、身体機能や記憶が消失する=勇者が神樹への供物であり、精霊達により自死すら出来ず、勇者となって戦う敵であるバーテックスが無限に湧いてくる存在であるというどうしようもない事実を知ってしまう。
身体の機能を失い、果ては大切な記憶すらも神樹に捧げて無限に戦い続けるという生き地獄に心が折れてしまい、四国と外を隔てる壁に穴を開けるという暴挙に出る直前に、黒い羽根に触れた。
アヴェンジャーを召喚したのは『世界を滅ぼそうとした勇者』という共通項から。
その為にアヴェンジャーからは完全に舐められている。

【聖杯への願い】
四国を滅ぼしてこの地獄を終わらせる。



令呪の形状は【炎に包まれたアサガオ】






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最終更新:2023年10月23日 19:10