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The Jovian Wetgrave

このショート・ストーリーは、Jove人とCaldari人が70年以上前に出会ってから少し後の物語であり、
両人種の最初期の駆け引きを描写するものである。



Hirakii Pirkotan大尉は、Caldari巡航艦Okarioni内の自室で、
髭を剃ったばかりの顔が映った、スチール製の鏡を眺めていた。
完璧だ。何週間かぶりに、この若い大尉は、忘れかけていた腹の底から沸き立つような興奮を覚えていた。

Pirkotanの父はGallente連邦との戦争を戦っており、そのスリルに富んだ戦いと武勇伝の数々は、
当時10代だったPirkotanの心に刻み込まれていた。しかし戦争も15年以上前に終わり、
Pirkotanが海軍に仕官してから今までの何年もの間、特筆すべきことなどはほとんど何も起こらなかった。
清掃、演習、就寝…まるでそれだけが海軍生活の全てであるかのようだった。

だがここに来て、ほんの二ヶ月足らず前、ある新しい種族がCaldariにコンタクトしてきたのだ。
Pirkotanはこの人種についてあまりよく知らなかったが、最も人間の起源に近い者達だろうという話は聞いていた。

初めのコンタクトからほどなくして、Okarioniは新種族が姿を現した国境地帯への配置を命じられた。
そして今、数日間のCaldari宙域での平穏無事な航海を経て、艦は目的地に近づきつつあった。
新種族が乗船する艦とのランデブー地点である。

Pirkotanはジャケットを念入りに整えてから居室を出た。
ブリッジへと向かいながら、その心は再び、この異例なミッションへと向けられていった。
あまりにも多くの気がかりなことや答えのない問いを抱え、Pirkotanの心中は穏やかではいられなかった。

なぜOkarioniはここに来る前に、Ishukone社が所有する高セキュリティの軍用港で2週間停泊するよう
命じられたのだろうか?そして、あのカーゴホールドBに封印されたものは一体何なのだろう?
この機密ぶり、副司令官であるこの自分にさえ、何が起こっているかを知らせないのは何故なのだろうか?

Pirkotanはこの状況に不満もあり、クルーの多くも同じように感じていることは分かっていたが、
不満を漏らすほど愚かではなかった。このような不安な心を抱えながら、Pirkotanはブリッジに到着した。

Ouriye艦長はブリッジの司令官席に座り、ランデブー地点への最後の航路変更を指揮していた。
Pirkotanは司令官席の左やや後方にある自分の席に腰を下ろした。

「それで、状況はどうなっておりますか、艦長」彼は尋ねた。

「約20分以内にランデブーを開始する」Ouriyeは答えた。
艦長とその部下はしばらくの間、沈黙のまま座っていた。やがて、Ouriyeは口を開いた。

「ランデブー間近になったから、君にミッションについて詳しく説明できる」Pirkotanは耳をそばだてた。
ようやく自分たちがここに派遣された理由が分かるのだ。艦長はたっぷり1分ほど押し黙ってから、再び口を開いた。

「我々がコンタクトした種族は、自分たちをJoveと呼んでいる。私はそれ以外に知っているのは、
最高司令部から聞かされた、彼らが高度に発達した種族であるようだ、ということだけだ。
我々がここへ来たのは情報交換のためだ。彼らJove人は情報の収集を人生最大の目標をしているらしく、
そのためなら十分な対価を支払ってくれるようだ」Ouriyeは含み笑いをして続けた。

「我々は彼らに、あらゆる種類の情報を提供する予定だ。社会問題、歴史、航路図、軍事機密までいくらか渡す」
Ouriyeは最後の一言で目に見えて不機嫌になった。

「だが上は、それだけの価値のあるものを代わりに手に入れられると思っているようだ…」艦長は言いよどんだ。

「代わりに何が手に入るというのですか?」Pirkotanは尋ねた。

「私にもよくわからんよ、副官殿。はっきりとはわからないんだ。何でも艦を操縦するか交信するかするデバイス
らしい。私が知っているのはそれだけだ」


Pirkotanは考え深げに座り、首の後ろを掻いていた。手術の痕がまだ痛むのだ。
Ishukoneステーションでの滞在中、OuriyeはPirkotanに脊髄と小脳へのインプラントの埋め込みを勧めたのだ。
確実に出世することができると言って。

「艦長、我々が彼らに渡すものとは、カーゴホールドBに積んであるもののことでしょうか?」
Pirkotanは艦長に尋ねた。

「いや、あれは、あー…デバイスだ。Jove人から代わりに手に入れることになっている」Ouriyeは答えた。

「何ですって?これから手に入れるものが既に艦内にあるというのですか?理解できません、艦長」

「手に入れたのは一部なのだ。あらゆる重要部品、たとえば認識パターンの復号器のようなものが欠けている。
これから会うJove人たちが、その重要部品を持ってきて、その動作を見せてくれることになっている」Ouriyeは言った。

Pirkotanはしばらく考え込んで言った。
「私が分からないのは、艦長、なぜ我々が直接にJove人達と引き合わされることになったのかについてです」

「どういう意味かね?」Ouriyeは聞いた。

「その、このような初期段階におけるJove人との関係というのは、軍人ではなく外交官が、専任で当たるべき
であると思うのです、艦長。なぜ我々に討議を担当する外交官が割り当てられなかったのか・・・」

「我々はCaldari国の公式な代表としてここにいるわけではないのだ。我々の任務は、Ishukone社のCOEである
Rato Momoriyota氏から直々に命じられたものなのだ。このミッション、この交易は、厳密にはIshukone社の
ビジネスにあたる。上は、我々の独力でミッションを完遂できると確信している」Ouriyeは説明した。

「上、というのは、Ishukone社の上層部のことを言われているのですか、艦長?」

「そう、その通りだよ、副官殿」Ouriyeは答えた。
「だが、だからと言って、このミッションの重要性や意味が薄れるようなことはないぞ」


今や、落ち合う相手の艦はレーダー上にはっきりと映し出されていた。

「彼らの艦は思ったほど大きくありませんね」Pirkotanは艦を観察して言った。
確かに、その艦はOkarioniの半分ほどの大きさしかなく、平均的なCaldariのフリゲートよりやや大きいほどで
しかなかった。艦はややつや消しの入った金属光沢の緑、茶、灰色を組み合わせた色使いであった。
かなり奇妙な外見をしており、建造されたというよりは、成長したか、彫刻したかのような外観であった。

通信担当官が二人に向かって合図した。
「Joveの艦からメッセージを受信しました」担当官は言った。「こちらに来るとのことです」

「わかった」Ouriyeは言った。「副官殿、任務は理解しているね?」

「はい、艦長」Pirkotanは答えてブリッジを後にした。

シャトルベイへ、4人の海兵を連れて行く。
「謹んで振る舞え」Pirkotanは言った。
「今回護衛する相手は貴賓客である。お前たち一人一人が今、Caldari国の大使となるのだ。」
(あるいはIshukone社の、まあいずれにせよ同じことだが) Pirkotanは思った。



Joveの艦と同じ色使いのシャトルが、シャトルベイにドックインしてきた。3人の小さな人間がシャトルから出てきた。
3人ともが上質の材料で作られた、明るい茶色と灰色のチュニックのような制服を着ていた。
確かに人間であるにもかかわらず、その風貌は実に奇妙に見えた。肌は薄く灰色がかった黄色をしており、
ほとんど透明で、静脈がはっきりと見て取れた。頭は異常に大きく、その一方で体は細く貧弱に見えた。

Pirkotanはその姿を見て不安を抑えきれなかった。3人の人間はPirkotanの方へ歩き出し、
うち一人が進み出て、Pirkotanに近づいた。

「ご機嫌よう、Caldariの将校殿。私はJoveのAnuで、こちらは助手のYedとElasです」
Jove人は完璧なCaldari語を操っており、ほとんど訛りは感じられず、その動きと仕草はなめらかで優雅であった。
Pirkotanは、このJove人たちがどこでこのような良質のCaldari語を学んだのだろうと訝った。

Pirkotanは、知らず知らずそのJove人の薄黄色の瞳を見つめていたことに気付き、
しどろもどろになりながら返答した。

「ええ、ああ、Okarioniにようこそいらっしゃいました。私はHirakii Pirkotan大尉です。どうぞこちらへ」

PirkotanはJove人の探るような視線から自分の目を引きはがし、きびすを返してメインデッキへ歩き始めた。
Jove人たちは後に続き、Pirkotanは彼らが互いに完全に母音だけからなる奇妙な言語で言葉を交わしているのを聞いた。


ブリッジに戻ると、Pirkotanは艦長とJove人たちを引き合わせた。
Ouriyeは、くつろいでJove人たちと会話しているように見え、緊張して居心地悪げなPirkotanとは違うようであった。
しかし艦長と共にこのJove人たちと雑談をしているうちに、Pirkotanは初めてようやく、この3人を外宇宙のエイリアン
ではなく、人間として見ることができるようになった。Jove人たちは艦長のジョークに律儀にも笑うことさえしており、
人類であればどこでも見られる社会的なエチケットを完全に理解していることを示していた。
すぐに会話は本題へと進み、Jove人たちは受け取ることになっている品物を求めた。

「Pirkotan大尉、私の居室から例の箱を持ってきてくれ」OuriyeはPirkotanに、セキュリティーキーを渡しながら命じた。
「ブリッジに持ってくるんだ」

「了解しました、艦長」Pirkotanは答え、身振りで4人の海兵に後へ続くよう促した。
ブリッジを出る時に、Jove人の一人がこう尋ねるのが聞こえた。
「用意はできていますか、艦長?」そしてOuriyeは答えた「彼に必要な程度には」Pirkotanは一瞬ためらったが、
歩みを再開した。漏れ聞こえた言葉について考えながら。「私のことを言っているのだろうか?」

箱は思ったほど大きい物ではなく、長さ1メートル、高さと幅がそれぞれ50センチといったところだったが、
驚くほど重かった。Pirkotanはセキュリティ拘束具を解除し、4人の海兵が苦労の末ブリッジに運び込んだ。
PirkotanはOuriyeにセキュリティキーを返却し、艦長はパーソナル・コードを箱に入力した。
ロックは大きなシューという音を立てて外れ、Ouriyeは下がって、Jove人たちが箱に近づけるようにした。

Anuは箱を開けて品物を引き出し、助手に手渡し始めた。助手は品物をリストと見比べ、印を付けていた。
Jove人たちは全ての品物を確認して満足すると、次にそれらを注意深く調査し始めた。
その仕事は信じられない速さで、データディスクと情報クリップを手のひらサイズのコンピューターに挿入し、
内容を数秒ほどスキャンすると、それを放り出して次に移るのだった。ホログラムリールを起動すると早送りで再生し、
画面から放たれるチラチラした光がブリッジ中に投げかけられ、Caldari人たちの頭をくらくらさせるのだった。

数分の後、Jove人たちは突然調査作業を止め、互いに興奮した様子で話し始めた。
今見たものについて満足したことは明らかであった。

「この箱の中身には確かに取引通りの物が入っていますね。我々のシャトルの方へ運んでください」
AnuはOuriyeに言った。

「まず、私達の取引したものが全て揃っているか確認しましょう」Ouriyeは顔をしかめ、「私達」を強調して答えた。

PirkotanはAnuが一瞬返答にためらったことに気づいた。
「もちろんです、艦長。取引は取引ですから。すべては計画通りに。ね?」

「ええ」Ouriyeは答え、Pirkotanを一瞥して言った。「すべては計画通りに」

カーゴホールドBの扉は溶接されていて、こじあけるのに数分を要した。
Pirkotanは、心が引き締まるのを感じたが、それは興奮だけでなく、同時に恐怖によってでもあった。
自分はあらゆる状況において完璧な知識を持ち、完璧な主導権を握ることができるという自負心があった。
だが今や、まるで闇の中に取り残されたような、未知への恐怖があった。

かつて仕官訓練である教官が言っていたことが思い出された。
「常に不測の事態に備えよ。そうすればあらゆる驚きも楽しめるものになる」とはいえ、
この言葉は今の彼にはほとんど何の支えにもならなかった。

カーゴホールドBの中は寒く薄暗く、部屋の中央には、黒い金属製の、高さ4から5メートルほどの物体があった。
たくさんのパイプとワイヤーが、カーゴホールドの壁とそれの間を結んでいた。
明らかにJove人がデザインしたものだ - あのJoveの艦やシャトルのような奇妙に彫刻されたような形をしているのだ。
Jove人たちはその物体に歩み寄り、ざっとした調査を行った。

「これはカプセルです」AnuはCaldari人たちに言った。
「艦を操縦するのに使います。これがあれば、この艦ほどの大きさでしたら、少しばかりの乗組員だけで扱えますし、
もっと小さな、あなたがたのフリゲートほどのものでしたら、1人で扱えるようになります」

「どうやってそんなことができるのですか」Ouriyeは尋ねた。
その声は明らかに訝しげであった - もう1人のCaldari人がAnuの言葉を聞いたときの驚きぶりほどではなかったが。

「操縦者が - お好みでしたら艦長でもかまいませんが - カプセルの中に入ります。カプセルを通して、
操縦者の神経が艦のあらゆるパーツに接続されます。カプセルはひとつの巨大なコンピューターとなり、
艦長はそのコアとなって、全てをコントロールするのです」Anuは答えた。

「けれど、1人の人間が艦全体を操縦するなどということができるのですか?」Ouriyeはさらに問い詰めた。

「ありがとう艦長。本題はそれです。申し上げたように、艦長は高度に発達したコンピューターの中央装置となります。
これにより、データへのアクセスと評価を極限まで高速に行うことができるようになります。通常であれば5人や10人が
必要な作業を1人で簡単に処理できるようになるのです。
さらに、指揮官としてもより有能になれます。周辺環境への理解力と知覚力が向上しますし、退屈な乗組員の管理問題に
煩わされることもなく、しばしば起きているコミュニケーション不全は過去のものになります」Anuはそう締めくくり、
目の前で考え込んでいるCaldari人たちの顔を見渡した。

「それで、この技術の欠点は?」Pirkotanは尋ねた。「何にでも欠点はあるものです」

「今回には当てはまりませんね、副官殿」Anuは答えた。
「このカプセルは艦の操縦性を向上させながら、乗組員の数を減らすものです。
ご存じのとおり、艦の維持費の中で最も大きいのが乗組員の訓練費ですから、維持費はこれで大幅に減ることになります。
我々Jove人は数は多くありませんが、このカプセルのお陰で大変強大な艦隊を所持しています」

「では、カプセルの操縦者は?誰にでも操縦は可能なのですか?」Ouriyeはさらに問いかけた。
傍目からも、このカプセルについてできる限りの情報を集めようと躍起になっているのは間違いなかった。

「誰でもというわけにはいきません」Anuは答えた。「操縦者は必要な神経インプラントを持っていなければなりません」
Pirkotanは、首の後ろにある新しく埋め込まれたインプラントを指でいじった。
ぞっとするような現実感が心の中に湧き上がってきた。

「しかしこの巨大な構造物は何ですか?操縦者を単に神経椅子に固定するだけではいけないのですか?」Ouriyeは尋ねた。

「カプセル用の神経索具は、あなた方がご存じのものよりはるかに複雑で高度なものなのですよ、艦長殿。
使用者は、効率的にカプセルを使用するために、完全な活動停止状態におかれなければなりません。
カプセルの中は液体で満たされていて、艦長はこの中に浮かびます。この液体は外部からのあらゆる干渉を遮断し、
艦長に保護と栄養素を提供します」

Jove人助手の1人がカプセルのホログラム・ブループリントを開き、Anuはそれを使いながらカプセルの建造方法を説明した。
「また、カプセルは非常に強固な装甲を持っており、艦長にさらなる防護を提供します。我々Jove人は、生命の不必要な
浪費を好みません」Pirkotanには、Anuがこの最後の一文を並ならぬ熱意を持って述べたように思えた。

「それで、これを動くようにできますか?」Ouriyeは尋ねた。
自分の好奇心を満足させ、いまや実際に動くのを見たがっているのは明らかだった。

「ええ、あなた方のエンジニアが私たちの指示に正しく従って、カプセルの建造と艦への接続を行ってくれるのならば」

「つまり、このカプセルが艦の操縦権を握るということですね?」Ouriyeは不安そうに尋ねた。

「はい、ですが書き換えは簡単にできます。今回はただのデモンストレーションが目的ですから」Anuは答えた。

Jove人たちは、カプセルにある様々なコントロールパネルをいじり始めた。
ひとつひとつ、カプセルのシステムが息を吹き返し、光が明滅を始め、低いハム音を発し始めた。
最後に、AnuはCaldari人たちに向き直って言った。「カプセルは使用可能になりました。テスト準備完了です」

Jove人とOuriye艦長の目がPirkotanへと向いた。Pirkotanはまるで檻に捕らえられたネズミのような心持ちがした。
今や、Ouriyeが神経インプラントを勧めたのは友情からでないことを悟った。
彼が巧妙にこの状況へとPirkotanを陥れたせいで、今や拒否することは不可能な状態にあるとわかった。
だが、この不誠実ぶりは一体何のためだろう?なぜ単にインプラントを埋め込むよう命令しなかったのだろうか?

「私が、あー・・・私にこれに入れと仰るのですか、艦長?」Pirkotanはどもり、
自分の疑いが間違いであればいいがという絶望的な望みを持ちながら言った。

「そうだ、Pirkotan副官。君はカプセルの試験を行う最初のCaldari人となる栄誉を得た」Ouriyeは答えた。
「名誉なことではないかね?」
「あー、はい。はい、艦長。大変名誉に思います」Pirkotanは小声で答えた。

Jove人の助手が2人、後ろに立った。Pirkotanは前に歩き始めたが、まるで体が勝手に動いているかのようであった。
Anuの前に立つと、Anuは手を首の後ろに置いた。Anuは神経インプラントを手探りで探すと、Pirkotanの顔を
じっとのぞき込んだ。Pirkotanは目を合わせることもできなかった。


「しっかりと立っていてください」Anuは言った。「接続しないといけませんからね」Pirkotanは呆然として声も出ず、
まして動くなど思いもよらなかった。Jove人の1人が、たくさんの電子管ソケットのついた堅いゴムのキャップを頭の上
から通し、目と耳を覆った。もう1人は、チューブを鼻孔に挿入した。最後に、神経プラグが接続されたのが感じられた。
「準備できました」声が聞こえた。手によって誘導されるのを感じた直後、彼は持ち上げられ、液体に飲み込まれた。

沈んでいる!

だがそれでも、鼻を通して呼吸することはできた。何も見えないし、何も聞こえない。
Pirkotanが感じられるのは、その周りにある、冷たく、ねっとりとした液体だけだった。今やカプセルの中にいるのだ!
Pirkotanはゆっくりと、手をカプセルの内面にそって這わせた。手触りはとてもなめらかで、継ぎ目や割れ目、
コントローラーやボタンといったものがまったく見つからない。カプセルはきっちりと閉じられ、中から開けられそうな
方法は見つからない。

Pirkotanは普段から閉所恐怖症というわけではなかったが、今となってはパニックが湧き上がってくるのを感じ、叫び、
走り出したい気持ちだった。だが、そのどちらも叶わなかった。濃い液体が素早い動きを封じているし、口を開いた
ところで、すぐさま奇妙な味のする青い液体に満たされてしまうのだ。再び呼吸するためには、それを飲み下さなければ
ならなかった。

一旦は気を落ち着けようとしたものの、永遠とも思えるほど長い間何も起こらなかったことに、再び絶望的な気分になった。
以前読んだが、遠い昔、事故で生きたまま埋葬されてしまった人々の話があった。
今まさに、その人々が味わったであろう気分となっていた。このカプセルが、これこそが、水の墓 (wet grave) として、
彼を埋葬しようとしているかのようであった。(これで終わりなのだろうか?) Pirkotanは思った。
(機械に異常があったせいで、私を外に出せなくなっているんじゃないか!?)

その時、突然に、明るい光が視界を満たし、吹き荒れる風のような音が耳を満たした。
数秒の後には光は薄れ、視界が戻ってきたが、全てが死んだように静かになっていた。
そしてその光景を前にして、Pirkotanは内蔵が裏返る思いがした。
彼は今や、Okarioniを外から見ているのだ!まるで艦から100メートルほど離れて浮かんでいるようだった。

「聞こえますか?」声が聞こえた。Anuだった。
Pirkotanは反射的に喋ろうとしたが、その口は再び例の液体で満たされ、首を絞められたようなうめき声が出ただけだった。
(もしもし?) 彼は思った。

「もしもし、Pirkotan大尉」Anuは言った。
「聞こえていますよ。このデモンストレーション・カプセルのコミュニケーション・リンクは自動的に開いています。
普通はあなたが自由に開閉できますがね。今、あなたの進捗を監視しているところです。艦は見えますか?」

「はい」Pirkotanは、思考するだけでこれに返答した。
「はい。艦が見えます。でも、誰の目を通して見ているのですか?」

「あなたはその艦を、カメラ・ドローンを通して見ているのです。移動しようと思ってみてください。
右へ動こうとしてみてください。どうなるか見てみましょう」

Pirkotanはそう思考し、カメラが思い通りに動くことが分かって嬉しくなった。艦に沿って移動し、カメラを周回させ、
ズームイン・ズームアウトさせる。全て思っただけで動くのだ。Pirkotanは、どれだけカメラを動かしても、
艦が視界の中央に固定されていることに気がついた。

この新しい感覚に慣れていくにつれて、周囲の様子が随分よく分かるようになってきた。実際に意識を集中させると、
Okarioniを、自分と艦が一体であるかのように感じることができた。エンジンが胃の中で駆動し、電極が肌の上で跳ね、
乗組員が体の中でうごめいているように感じられた。実に心が浮き立つような感覚だった。

しばらくして、再びAnuの声がした。
「とてもうまくやっていますね。では、音声合成機を起動させましょう」
「音声合成機?どういう意味ですか?」Pirkotanは思った。

「ご存じの通り、宇宙では音はしませんが、カプセルを開発する過程で、誰もが自分の五感を可能な限り使いたいと
思っていることが分かりましたので、音を追加することにしたのです。コンピューターが三次元音響を合成することで、
例えば戦闘などで認識力を向上させることもできるわけです」

数秒の後、Pirkotanは音響合成機が起動する音を聞いた。推進システムの低いハム音と、軌道修正用スラスターの
断続的な噴射音が聞こえてきた。Anuの声が再び言った。「では、音響システムのテストに入りましょう」

突然、一発のミサイルがミサイルベイから発射された。ミサイルは艦から堂々と飛び立ち、Pirkotanの視界の右側へ
消えていった。Pirkotanはカメラを回転させ、ミサイルが艦から飛び離れていく様を見送った。
次に、鋭い緑と黄色の光がJoveの艦から、大きなパチパチという音を伴って放射された。
その一条の光はミサイルを直撃し、ミサイルは爆発した。

Pirkotanはその爆発音をはっきりと聞き、カメラをJove艦の方へ向けても、まだかすかに爆発の残響が聞こえた。
再びAnuは話し始めた「うまくいきましたね。では、最後のテストです。推進システムを一度切って、
もう一度入れ直してください。艦のコントロールメニューを出して、それを使ってください」

Pirkotanは推進システムのことを考えた。何も起こらない。そこで艦の操縦のことを考えた。
すると目の前に艦の映像と重なって、メニューが現れた。意識でメニューの一覧をなぞり、
推進システムのシャットダウン命令を見つけた。命令を実行すると、メニューは消えた。
すると、推進器の白熱が薄れ、続いていたハム音がゆっくりと消えていった。
次にもういちど先ほどの手続きを繰り返し、推進システムを再起動させた。

「お見事です、Pirkotan大尉」またAnuの声がした。
「これでテストは終了です。完璧に遂行されましたね」


現れた時と同じく唐突に、Pirkotanの目の前の映像は消え失せ、闇が彼を飲み込んだ。
何度か目を瞬かせたが、Okarioniの姿は彼の神経にまだ留まっていたものの、ゆっくりと薄れていった。
凄まじい速度で落ちていくような感覚に襲われ、それに反応する間もなく、彼は意識を失った。


Pirkotanはゆっくりと深い眠りから目覚めた。

目を開き、目の前にある、鈍い灰色の壁を見つめた。辺りを見渡そうとしたが、それができないことに気づいた。
奇妙な混乱に襲われていた。後ろにいる誰かが、低い声で話しているのが聞こえた。
艦長と、Jove人のAnuだということがPirkotanにも分かった。
口を開いて、目覚めていることを知らせようとしたが、何も起きなかった。突如、背後の話し声が脳裏に焼き付いた。


「彼を調査しました。あらゆる症状がこれに合致しています」Anuは言っていた。
「このあなたがたがマインドロック (精神閉鎖) と呼んでいるこれは、永久的なものなのですか?」Ouriye艦長は言った。
「恐らくは。綿密に研究しましたが、治療法は見つかりませんでした。こう言っては何ですが、お気の毒です」
「しかしそもそも、どうやってこれを予防すればいいのですか?つまり、これはどうしても起こってしまうものなのですか?」
艦長は尋ねた。

「特定の状況下では、その通りです。これを防ぐには、数年間の集中訓練が必要です。それだけの時間をかけることは、
あなた方の上層部が容認しないでしょう。それに、あなたは最初からこうなることが分かっていたでしょう。
今になって苦情を言う理由はないはずです」

「ええ、ええ。分かっていました」Ouriyeはため息をついた。
「隠していたことは認めます。しかし、他にどうしろと言うんですか。厳命があったのですから」
「分かっていますよ」Anuは答えた。「大尉殿は立派に務めを果たされました。誇りに思って良いですよ」
「思っていますよ」Ouriyeは答えた。

沈黙。(何が起きているんだ?) Pirkotanは思った。(私のことを話しているのだろう。マインドロックとは何だ?)
そこで、艦長と二人のJove人が目の前に現れた。三人は彼の顔を、見開いた目をのぞき込んだ。
(おい!) Pirkotanは心の中で叫んだ。(助けてくれ!)

「とても安らかな様子で横たわっていますが。意識はあるのでしょうか?」艦長は尋ねた。
「誰に分かるでしょう?意識はあるかもしれませんし、ないかもしれません」Anuは答えて言った。
「彼を失うのは悲しいことだ。有能な仕官だった。そして良き友だった」Ouriyeは言った。
「この功績に対して武勲章が送られるだろうから、両親へ送ってやろう。父上は大変誇りに思うだろう」
「まさしくその通りですね」Anuは言った。

「ところで、我々が適切な...処置を、彼のためにをとれますが、もしよろしければ」
「申し出には感謝いたしますが、結構です」Ouriyeは答えた。
「彼の面倒を見られるとてもよい施設があります。何不自由なくやっていけると思いますよ」

Pirkotanは声にならない呪いの言葉を叫んだ。運命は閉ざされた。
Caldari国の大事のために、巨大な機械の中のゴミのように犠牲にされたのだ。

濁とした眠りに落ち込んでいく直前、艦長の袖にはめ込まれた、Caldari海軍の標語が目に入った。
<全ては公益のために>まさにぴったりの言葉だ - 残りの人生を自分の心の中に縛られて過ごす人間には・・・
最終更新:2013年10月21日 17:02
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