アットウィキロゴ
「「!!!」」

臨戦態勢を整えていた筈のフェイトとシグナムの心胆が今、氷をブチ込まれたかのような寒気に襲われる。

そう、先ほどまでの軽口によって弛緩した場を吹き飛ばすようなそれが、目の前の相手が紛う事なき敵である事を再認識させる。
それも得体の知れない、未知の脅威を孕んだ強敵だという事を。

―――空気が軋む―――ほどなくして、ここは戦場になる。

「この襲撃……当然、我らの素性を知っての事だろうが
 時空管理局の者に狼藉を働いた罪は決して軽くない。 剣を収めるなら今だぞ?」

「知らねえよ、お前らの事なんざ。 何たってこれから調べるわけだしな」

「戯れた男だ…」

緊張感でギチギチと硬直していく大気が肌を刺し、心臓を、呼吸を圧迫する。
これこそ戦闘が開始される直前の戦場の空気だ。
精神のギアを一気に臨界に持っていくシグナム。

「レヴァンティン」

<―――Die Zustimmung>

己が相棒、炎の魔剣を雄大に抜き放つ。
デバイスに搭載された擬似人格が彼女の呼びかけに対し、甲高い声で答えた。

「「!!」」

その、今まさに動こうとした相手の怪人がシグナムの言葉に表情を一変させる。

「レヴァンテイン―――レーヴァテインか……!?」

常に余裕を称えていた男の表情から薄い笑みが消え、声が微かに強張る。

「とすると彼女はスルト……いや、シンモラ?」

「……?」

紫の女の声も僅かながら半トーン上がっている。
相手の動揺を称えた空気に踏み出したシグナムの方が微かに戸惑ってしまう。

「おいライダー。お前、比較的近くの出自だろうが。
 アレは――――そうなのか?」

「そこまでのモノは感じない……というか魔力すら感じ取れませんが。
 私には特別な事は何も―――貴方が感じている認識と同じ程度ですね。」

「何だよおい……バッタもんかよ……ふざけやがって」

「何をごちゃごちゃと言っている!」

何やら思う所があったようだが、今更相手に足並みを揃えてやる必要など微塵も無い。
また一歩、間合いを詰めるシグナムが容赦のないプレッシャーを相手にかけていく。

――どちらが動く? ――どう動く?

フェイトが、シグナムが相手の挙動。 視線から指の先に至るまでを凝視し
相手の初動を見逃さぬようにしながら有利なポジションを取ろうと行動を開始。
シグナムは槍の男を牽制。フェイトは拘束魔法の詠唱。
意思疎通が無くても10年来のパートナー。既に互いのやる事は分かっていた。

だが、ジリジリと距離を狭めるシグナムの後方。
摺り足で相手の側面に回り込もうとしていたフェイトに対し―――
対峙する四つの影のうち、紫紺の女怪の体が――爆ぜた!!

「な、にっ!??」

それは信じられないほどの恐ろしいスピード!
下手をすればフェイトのトップスピードに匹敵するほどの!
長く美しい髪がゆらりと揺れたかと思った瞬間、常人には気づく事すら出来ぬ予備動作無しの踏み込みで
援護のポジションにつこうとしたフェイトに襲い掛かったのだ!

「くうッッッ!!!!?」

あっさりと真横を抜かれたシグナムの驚愕の吐息を置き去りに、その一撃目を何とかバックステップでかわす黒衣の魔導士。
だが大きくバランスを崩した身体はそのままライダーに押し切られ、シグナムとの距離を離されてしまう。

「気が早えなオイ……これだから物の怪の類は」

開幕の一撃は誰にも譲らない心積もりだっただけに少し憮然となる男。

(テスタロッサ!)

(だ、大丈夫です!こうなってしまったら仕方がありません!)

分断されたフェイトとシグナムがすかさず念話のチャンネルを開く。

(互いにフォロー出来る距離を最低限保ちつつ、可能であれば説得……)

(やむを得ぬ場合は各個撃破だな。了解だ!)

不意をつかれたという焦りも分断された不安ももはや微塵も無い。
そこには互いに対する信頼感。
相手が何であれ、このパートナーが一対一で簡単にやられる筈がないという絶対の確信があった。

(無理はしないで下さい。何かあったらいつでも……)

(誰にものを言っている?)

そこで念話は切れた。
フェイトとあの女の戦闘が本格的に始まったのだ。

ともあれ方針は決まった。こちらも後は目の前の相手に集中するのみ。
幾多の戦場を共に駆け抜けた己が愛剣を携える女剣士。
その騎士の眼前、視線の先には禍々しい光沢を放つ紅き長槍――その先端が陽炎のようにゆらゆらと揺らめいていた。

「仲間がやべえってのに余裕じゃねえか?」

「生憎だが見かけと違い、そこらの無頼に遅れを取るほど可愛げのある奴ではないのでな。」

相手の男の空気は掴み所が無い。
隙あらば一撃で仕留めてやろうと構える将であったが、一見どうとでも打ち込めそうなこの男はその実
こちらの間合いを悉く外すように槍の先で牽制してくる。

「もう一度確認する。 私は管理局所属、機動6課ライトニング隊所属の騎士だ。
 それを知りながらお前は私に剣を向ける……これで間違いは無いな?」

「だから知らねえっつってんだろうが。
 現世にも色々な機関があるんだろうが、はっきり言ってそこはどうでもいい。 元より俺の与り知る事じゃねえよ」

「そうか……ならば局員襲撃の現行犯だ。
 抵抗を続けるならば、こちらも武力行使に頼らざるを得ん」

「なかなかに強気な姉ちゃんだがよ、大丈夫かい? 
 初めに串刺しになりかけたの忘れたわけでもあるまいに。」

「……もう一度やってみろ。
 その右手に永遠の別れを告げる事になる。」

目に見えて火花を散らす両者。
自分から隙を見せない槍兵に対し、シグナムは変わらずプレッシャーをかける。

「久方ぶりの槍働きなんだ。身体を慣らしたいんでな……
 せめて二分はもってくれよ? 騎士の姉ちゃん。」

「慣らすのは良いが五体満足で家に返してやれる自信が無い。
 お前のような無礼者相手に手加減などする気はないのでな。悪く思うな」

「ふざけろ。いらねえよそんなもん」

尻上がりに上がっていく戦意。ぶつかり合う殺気。

「さて――おっぱじめるかい?」

いつまでも口喧嘩などに興を割いていては逆に場がしらける。
フェイトテスタロッサハラオウンとサーヴァントライダーが交戦状態に入ってから遅れる事一刻。
男の揺らめく槍の穂先がゆっくりとシグナムに向けて構えられる。

―― それはどちらが示し合わせたわけでもなく行われる ――

シグナムもまた相手に熱気漂わせる炎の剣を向ける。

―― 戦士と戦士との間に交わされる暗黙の契約 ――

槍と剣が中央にてコツン、と当たった瞬間、弾かれたように後方へ飛び退る両者。

―― 例え相手の凶刃にかかったとて、恨みっこ無しという ――

「改めて名乗りを上げよう……我が名はシグナム。
 古代ベルカの騎士ヴォルケンリッター烈火の将シグナムだ。」

「………」

「貴様も名乗れ……槍の男」

堂々と名乗りを上げ、しかもこちらにまで素性を明かせとは――本気で困ったような顔をするランサーである。
男にとってもこういうノリは嫌いではない。
目の前の女剣士の気概と潔さに好感も持てる。

「―――――ランサーだ」

故に言って突き出すは男の唯一の武装である真紅の槍。

「あとはそうだな……こいつにでも聞いてくれ」

それこそがこの男の出自を雄弁に語る、かの英雄の手で踊り狂い、千の血を吸った呪いの魔槍。
男にとっても精一杯の、シグナムの名乗りに対する礼。

それは結局、この女剣士には伝わらなかったが―――

「ならば来い……ランサー!!!」

「へっ、上等だ!!」

その戦士の魂は十二分に伝わった事だろう。
他人が見ればアナクロな決闘風景と笑うだろうが、武に生きる者にとってはそんな空気がひたすらに心地よい。
言葉ではちぐはぐだった二人だが、彼らは結局、剣を交えてのみでしか互いを理解しあえない人種なのかも知れない。

両の手で槍を回転させ、低い姿勢からの下段の構えにて構えるランサーと
片手剣のまま仁王立ちで魔力を解放させ、炎を纏いて相手を威圧するシグナム。

百戦錬磨の闘将とケルト神話の英霊。
その壮絶なる戦いの火蓋が今―――切って落とされたのだ。


――――――

Flame&Lancer ―――

ひん曲がったガードレールとアスファルトに刻まれた黒く伸びるベルト状の跡。
辺りに充満する焦げ臭い匂いに撒き散らされたオイル。
凄惨な大事故の余韻冷め遣らぬ人気のない林道にて今、無双を誇る弐機の剣と槍が激突する。

「ハァッッッッッ!」

互いにシンクロしているかのようなタイミングで両者は同時に、まるで示し合わせたかのように前方に踏み込む。
声もなく音もなく地面を滑るように短い呼吸と共に迫り来るランサーに対し
数分の遅れも躊躇もなく、全身から炎を撒き散らし、地面を削る蹴り足と共に気合一閃。
騎士もまた最大出力にて真正面から槍の男に向かっていったのだ。

互いに裂帛の戦意を以って、馬力に換算して余りあるほどの出力を誇る激突を果たす彼らの様は
MAXスピードまで加速したモーターカー同士の衝突と何ら変わらない。
狭い道路上にてあっという間に互いの間合いの詰まるほどの踏み込みの元に繰り出される剣戟と槍撃。
空気を切り裂き、轟音を伴って放たれるそれが―――――ギィィィン!!!、という甲高い音と共に交錯し、ぶつかった!

辺りに木霊した爆音じみた残響は100里先の空気をも震わせ、凝縮し、こそげ取られた空気が周囲に弾かれる!
交差された凶器と凶器を中心にぽっかりと真空を作るほどの、これが烈火の将シグナムとサーヴァントランサーの初撃。ファーストコンタクト。
竹を割ったかのように潔い、騎士同士の正面衝突といわんばかりの光景はしかし、そこに至るまで互いにどのような思惑が交錯したのか―――
それを知る術はもはや無く、今はただ両者の血肉を削るであろう壮絶な激闘の幕開けに歓喜と恐怖を抱いて震えるのみであった。


――――――

SIGNUM,s view ―――

向かい合う私と槍の男。
重心を低く落とし、下段の構えから真紅の槍をこちらへ向ける男――ランサー。
淀みの無い切っ先を前に半身を切り、片手剣の姿勢で相対する私。
「寄らば斬る」の一念を魔力と戦意に込め、我が剣から迸る炎にて眼前の男を牽制する。

「…………」

構えを一寸も崩さぬままに男が笑いを零す。
じり、と半歩。総身を蒼い装束で覆った戦士に向かってにじり寄らせ、思い直したように半歩下がる。
手に持つ愛剣の柄をぎりっと握り締めながら私は、その地面スレスレにまで重心を落とした男の山のように揺ぎ無い構えを前に歯噛みする。

(………打ち込めない)

情けないが、微塵の隙も見出せない。
悠久の時を経て、研鑽に研鑽を重ねてきた守護騎士プログラムが「行くな」と言っている。
敵がどれほどのものか。その「格」はいかほどのものか。
あの一見ふざけた態度の奥に隠された……否、隠そうとしても到底隠し切れないほどの巨大な牙。
こちらの身を容易く引き裂き臓物を抉り取らんと欲する魔獣の如き、男の身体から漏れ出る無尽蔵の殺気と不吉な気配。
迂闊に動けば為す術も無く一撃で、この身体を打ち抜かれてしまうというある種の予感。
ともあれ久しぶりの感覚――こんなのは……初手を交わす前からここまでの戦慄を感じさせてくれる相手は本当に――

「…………久しぶりだ」

既に乾いている喉からひり出される言葉は男の耳に届いたか?
こめかみをつ、と冷たい汗が滴り落ち、ある種の予感はどんどん大きくなる。
それは、この一騎打ちが自分が体験してきた数多の戦いの中でも最も苦しいレベルの戦いになるというもの。

もっとも私とて武人の端くれだ。
肌にビリビリとくる殺気に戦慄を覚えている反面、血が滾り、どうしようもない高揚を覚えている心もまた内にある。
戦慄と歓喜。理性と本能。
行くなというプログラムの命令と、今すぐにでもこいつと剣を交えたいという、相反する心の鬩ぎ合い。
その果てに私は――――まるでロックオンをされているかのような刃先を嫌い、摺り足でサイドに回ろうとする足を……止めた。

ここは狭い峠の一本道。 
回り込めるだけのスペースは残念ながら無い。
あったとしても、もはやそんな心積もりも無い。
空に身を躍らせるという選択肢も今は捨てる。

初めから距離を取って戦う砲撃魔道士ならともかく、自分は騎士だ。
初手の鬩ぎ合いにて背を向けるなど言語道断。
安い意地やプライドの問題ではない。
まずは己が力と相手の力の真っ向からのぶつかい合いこそが前線に立つ戦士の本分にして我々の有り様。
騎士同士の戦いの開戦の狼煙であるのだ。

目の前の男は―――無言。
時が来るその瞬間まで内に力を溜め、まるで彫像のように動かず、こちらを凝視。
その表情……口元がニィ、と歪な笑みを作った気がした。
互いに混ざり合う思考は今、自分と相手が同一の選択肢を選んだ事を如実に表しており
夏の夜空、本能のままに蛍光灯に群がる蛾のように私とランサーをその行動へと誘っていく。

―――即ち、小細工無しの真っ向勝負

クリアになっていく思考は本能が理性を、血の滾りが戦慄を押さえ込んだ証。
元より、柔より剛を旨とするベルカの騎士に後退は無く、その力を示すには言うまでもなく―――振るうだけだ。その手に担う相棒を。
故にこれ以上の思考の時間など無意味。
弾ける戦意は同時。身体に滾る力が灯ったのも同時。
私と男――ランサーはその勢いのままに、相手を一刀の元に叩き潰さんという意識の元に
目の前の敵に対し、手に持つ武力を叩きつけていた。


――――――

――― 近づいて斬る ―――

それだけの事。
恐らくは時間にして数秒。体感にして数瞬の、刹那の間の思考であっただろう。
ついに噛み合う剣と槍。凄まじい初撃の邂逅。
互いにフルスイングで叩き込まれる刺突と打ち下ろしの閃光。

「でぇあッッ!!!!!!」

その邂逅は、先ずは女剣士の武の顕現とも言うべき炎の魔剣レヴァンティンの圧倒的なパワー。
それに打ち負け、後方に弾かれた蒼き槍兵という光景を以ってその結果を見る事となった。
受けた衝撃を殺し切れず、地を食んだ足が滑るように後方に押し出され
勢いのままに5歩の間合いを身体ごと後ろに持っていかれる槍兵。

「ほぉ…」

その彼が素直に賞賛の声を上げた。

(よし――)

問題は無い――いける…と、いつもの感触に手応えを感じる将。

「覇気は良し。打ち込みも悪くない。
 矢張り剣使い―――セイバーはこうでなくてはな」

男が先の見事な一撃に対し率直な感想を述べる。
対するシグナム。その勢いは止まらない。
地を這うような低空飛行にてランサーに肉迫し、間髪入れずに二太刀目を加えようとする。

「焦るなって……まだ始まったばかりだぜ!」

ビリビリとその手に伝わる衝撃を愉しみながら、男は眼前に迫る猛将を前に迎撃の姿勢を取る。
聊かも恐怖を感じてはいない。むしろ男の表情を彩るのは溢れんほどの愉悦。

「せぇぇぇいッ!!!」

そんなランサーに、地を這うような低い姿勢で弾丸のように迫る将。
薄い赤色の魔力の残光が尾を引き、後ろで縛った髪が勢い良く翻る。
全身を叩きつけるといった表現がまま当て嵌まるような強打のつるべ打ちにて男を見る見るうちに後退させていく。
槍兵の身体を根こそぎ持っていくかのような斬撃。
両手で構えたランサーの足が地面から浮き上がり、その場に留まる事適わずに後方に飛ばされ続ける。

「は、――」

思い切りの良いシグナムの攻めに対し「そうでなくては」と、来たるであろう更なる連撃に心躍らせるランサー。
だが、相手の女剣士は中段を放った反動を利用するやバックステップ。
ここに来てまるで一息を置くように後方に退いたのだ。

(おいおい……機先を制しておいて追撃せずに離脱だと? どうしたよ?)

訝むランサー。
だが、後方に下がったシグナムが次に起こした行動は期せずして男に更なる猛攻の予感を感じさせる。
男の眼前に移る女剣士の姿こそ、従来の騎士のセオリーなど何するものぞとばかりの「空の騎士」のあるべき姿。
初撃の剣戟にて自分の形に持っていけた事により、ようやく本来の戦い方、そのリズムを取り戻していくシグナム。

その後退は離脱などではなく更なる攻撃の序章。
ならば次に繰り出す剣士の一撃こそ眼前の男を沈黙させるに足る渾身の一振りに他ならない。
即ち、ベルカの騎士が近接最強と恐れられる由縁となる一撃だ!
何とシグナムは全身から魔力を放出させ、宙に身を躍らせる。
狙うは跳躍しての一撃?落下の勢いを威力に換算しての斬撃であったのか? 
……違う! その「飛ぶ」は「跳躍」という意味でのものでは断じてない。
それは文字通りの「飛翔」――飛行と呼べるもの。
跳躍した身体は一瞬で更なる魔力の奔流に打ち上げられるかのように上昇し、何とランサーの遥か天高く、上空10mにまで浮かび上がる。
そして宙に躍らせたシグナムの肉体がまるでジェットコースターのように急上昇から急降下へと移行。
猛禽類が獲物を仕留めるが如く、鋭角の軌道を以ってランサーに突っ込んでいったのだ。

「受けろランサー! 我が業火の太刀をッッ!!」

立ち塞がる者は何であろうと一撃でブチ抜く! これこそがベルカの騎士の真髄!
その最強と謳われた烈火の将の剛剣が今、槍のサーヴァントに迫る!

「紫電」

劣勢にありながら、どこか余裕を称えた男の表情が固く引き締まる。
高速飛行中にて彼女の口から紡がれた言葉は、言霊となり、言霊は確かな力となって手に持つ魔剣に注ぎ込まれ大気を震わせる。
デバイスが起動し、使い手である彼女の魔力を加速度的に吸い上げ始める魔剣レヴァンティン。
常人ならばその行使だけで体中のエナジーを吸い尽くされてしまうほどの貪欲なる魔力暴食。
馬鹿げた魔力放出を伴い、 恐ろしいほどに吹き出す炎。それはもはや剣などと呼べる代物ではない。
煮え滾る溶岩の塊の如き熱量を持った何かとしか記せないものだ!
直下してくる赤き裂光は白熱に至り、問答無用の力と化して今―――槍持つ男に降り注ぐ!

「一閃ッッッッ!!」

鬼すらも震わす怒号!
炎の騎士がその渾身を以って繰り出される、これぞシグナムの誇る奥義!

――― 紫電一閃 ―――

その姿は直下する雷鳴の如し。二の太刀要らずと断ずる閃光の剣閃。
噴火し、降り注ぐ火の玉を思わせる烈火の将の無双の一撃が
槍を構えた男の頭上に、男の予想を遥かに超える速度と伸びを持って叩きつけられたのだった!


――――――

中華鍋に油を落とした時のような爆炎、と比喩するより他に無い炎の柱。
それが数Km先からでも分かるほどの巨大な規模で立ち昇る。
さながら小型のナパーム弾を投下したかのような威力はまさに天を焦がす、と評するに相応しい光景だ。

その炎熱の只中、柄に残る確かな感触―――いつも通りのソレに唇を舐める騎士。
この手応え、間違いなくクリティカルヒット。
彼女の奥義を真っ向から受けては、受身の取れた取れないに関わらず無事に立っていられる者などいまい。
将もまたそう考えていた。

「……………!!」

その「未だ残る」手応えを確かなものとして感じるまでは。

シグナムの全身に電流が走る。
既に何の障害もなく地面に振り抜かれていなければならない魔剣が、未だ宙空―――
ちょうど成人男性の面の部分で止まって……否、阻まれているという事実。
熱気渦巻く粉塵が晴れ、一四方先の光景が目に映る、その最初にシグナムが見たもの。
それは自身、数え切れぬほどの敵を薙ぎ倒してきた剛剣を、上段受けに構えた槍の中央で真っ向から受けた、男の姿!!!

(馬鹿な………)

槍の柄の中央でギチギチと金属の擦れる音と共に阻まれた、一閃の太刀の姿だった!
驚愕に目を見開く女剣士。
二の太刀要らずの奥義を正面から、力で受け止められた?
魔導士のシールドの上からデバイスとBJを両断する一撃必殺の剣が、こんなか細い槍一本折れなかったというのか?

未だ硝煙は晴れず、男の表情は土煙に隠されたままだ。
だが、額の部分からつ、と紅い液体が落ちるのだけは見えた。
流石にこの一撃を受けて無傷では済まなかったのだろう。
剣を止めてなお降り注ぐ剣風による衝撃は槍の下で守られた男の額を割り、圧壊の剛剣の衝撃がいかに凄まじかったかを物語る。

「――――こいつはいい」

だがそんな傷よりも、赤く染まった額よりもなお紅い
土煙に阻まれた向こう側から煌々と光る猛獣の瞳。

「先に傷を負ったのは本当に久しぶりだ……やるじぇねえか、姉ちゃんよ!!!」

ピリ、――――と………男を取り巻く空気が変わる。
全身に尽きせぬ戦慄を感じ、その場から飛び荒ぶ将。
だが全霊を以って放たれた剣を受け止められたのだ。どうしたって隙は出来る。
そしてその隙を見逃すほど、この槍兵は甘くは無い。

ゆらりと揺れる紅き切っ先が彼の言葉を受けて新たなステージへと二人を誘おうとしている。
一見、脱力したかのような緊張感の無いランサーの姿はその実、しなやかさと柔らかさを併せ持つ武における理想の構え。
それを難なくやってのける相手に対し内心、寒気にも似た感嘆を覚えるシグナム。

―――――――――男がニィ、と歪に哂う。

「――――そらよ」

破顔した槍兵、が無造作にフ、と動いたその時――――


――――――――セカイを取り巻く、音が死んだ


――――――

「…………ぐうっ!!!!??」

それを辛うじてでも避けられたのは―――彼女が幾星霜にも渡って培ってきた、戦士としてのカンの為せる業としか言いようが無い。

「音断ち」と呼ばれる現象――――
音速を超えた鋭利な物体が大気を、空間を裂いた事により生ずる、一切の音が空気を渡れずに耳に届かない無音空間。
物体がマッハの壁を越えるという奇跡の元に起こる様々な現象のうちの一つ。
人の身では到底適わぬ、人力では到底届かぬその境地。
紅くて細いその何かが通り過ぎた瞬間、確かに――音は死んだのだ

「ッ…………はッ!!?」

そして彼女の脇腹を『甲冑』ごと抉って行ったナニカが、男の繰り出した槍だと認識し
その傷に焼けるような痛みを感じた瞬間―――時が止まっていたかのような場が再び動き出していた。

「――――、」

赤毛の女剣士の顔にありありと浮かぶ呆然という感情。
目を見開き、驚愕の表情を作っていく様が、男の繰り出した一撃のあり得なさを如実に物語る。
そして震えるように動いた唇から紡ぎ出された―――

「な、んだと……!?」

―――唖然の二文字を感情に示した言葉。

自身のバックステップを、まるで無いもののように一瞬で距離を詰め
そして放たれた一撃…………まるで………見えなかった。
ランサーの中段構えから放たれた一撃は何の予備動作も予兆も生じないままにシグナムの間合いを犯し
彼女の視認を許さぬままに、その横を通リ過ぎていったのだ。
フィールドが働いていなければ、内臓を抉られていたに違いない。

この速度は――――局の魔導士Sランクのそれを遥かに――――

「く………」

そのあまりのギア比の違いによる噛み合わなさに、ニ~三歩、後方にたたらを踏むように距離を取る騎士。
からからに乾いた喉からようやっと搾り出す焦燥の吐息が、彼女に男とのクロスレンジを拒否させる。

「宣言通りだ、姉ちゃん。
 んじゃ、ま……ぼちぼち見せてやろうか?」

流麗で物静かささえ醸し出していた男。
それはあるいは社交的で好感の持てる好青年であったのかも知れない。

「本当の――――俺の槍をなぁぁぁああッッ!!!」

そう、今までは………である。
ランサーの表情が鬼貌に歪む、この瞬間までは!

途端、その気配――今まで彼の心中で押さえつけていた何かが一気に噴き出した。

その異名は初め、決して勇名として馳せたものではなかったのだろう。
あまりにも凶暴にして蛮勇に過ぎる戦い方。敵味方共に恐怖の対象。
千の敵をその蛮勇にて貫き続けた男―――

   「クランの猛犬」

自らを律する首輪を、鎖を今、己が牙で引き千切った人喰いの魔犬。
それが文字通り咆哮を上げながらに烈火の将シグナムに―――――飛び掛っていたのだった。


――――――

Lightning&Rider ―――

剣と槍の織り成す凄絶なる凌ぎ合いと打って変わり―――
機動6課ライトニング隊隊長フェイトテスタロッサハラオウン。そしてサーヴァントライダー。

「止まれ! まずは話をッ!!」

下がるフェイトに追うライダーという構図のままに飛び交う二対の閃光。
対話の機会を持とうと何とか距離を離そうと試みる執務官であったが、絶叫する彼女の声を紫の女怪は全く耳に入れない。
互いの凄まじい速度は美しきステルスランナーの夢の競演を思わせる。
常人の鑑賞を許さぬ、スピードの向こう側の光景。
1000分の1のレンズのフィルターを通して見たとしても、その金と紫の美しい両者の髪が残像となって尾を引くのを辛うじて移すのみであろう。

「貴方はスカリエッティのッ……うっっ!??」

一時も止まない猛攻。その一撃がフェイトの胸元を一文字に裂く。
相手の女の手に握られる小型の短剣と、その柄から伸びる鎖のようなもの。
まるで日本の戦国時代――兵法家の一部が愛用したとされる鎖鎌を模したような武装を以って攻めに攻める紫紺の騎兵。
その連撃はフェイトをして全く口を挟む隙を与えない。
しかし仮にも「Sランク」魔導士である自分をして防戦に回らされる戦闘力を持った個体。
フェイトの全身を覆う汗はその半分が冷たいものであろう。喉元に再び杭の様な短剣が迫る。

「くうっ!!」

それをスウェー……否、身体を捻りながら後方に倒れこみ回避するフェイト。
そのまま低空飛行にして、片手で自身の全体重を支えながらのバク転。
まるで体操のムーンサルトのように身体を反転させて華麗に地面を滑りながら着地する黒衣の魔導士。
だがライダーもそれに負けてはいない。
地面スレスレで縦回転した相手の上空を取るように彼女は飛翔。
相手の回転の僅かな隙をつき、その死角に回りこむ。

「! シールドッ!!」

着地して開けた視界に紫の肢体がどこにも無い事を察したフェイトが
今のアクションで己の死角となった方角、地点を高速で先読みし、そこに稲光を放つ防御壁を張る。
ギュイィィィィ―――という、魔力壁と物体が衝突した音が鳴り響く。

「―――、?」

飛び込んだライダーがフェイトの頚椎を貫こうと放った短剣の一撃が間一髪、防御魔法によって阻まれる。
今まで知覚しなかった所に突然現れた壁に阻まれ、そのまま弾かれるライダー。

(駄目だ……守勢に回っていたら!)

相手の凄絶な追い足に手腕。守りに回っていては一気に叩き潰されるという直感は間違ってはいないだろう。
この敵は……相応の力を以って迎撃をせねば止まらない!
金と紫の髪をなびかせて飛ぶ二対の光が交錯する中、フェイトがバックステップから一転、初めて攻勢に出る。
話を聞いて貰うにはまずは卓について貰わねば始まらない。
己が掛け替えのない友達に教えられたそれを彼女は今、実践に移す。

金色に光る、彼女が持つには聊か無骨な巨躯の杖。その頭身から煌く一条の鎌。
それを一切の重量を感じさせずに後方に振りかぶり、フェイトは勢い良く横一文字に薙ぎ払った。
それは彼女の動きと相まって加速に加速を重ねた雷光の一撃に他ならず
ブリッツアクションと呼ばれる速度補助の魔法を伴う彼女の斬撃は一流の騎士をして「見えぬ」と言わしめる不可避の領域。
それをカウンターで相手の女性が踏み込んでくるタイミングに合わせて放ったのだ。
普通ならばここで決まり。並の相手なら斬撃に反応すら出来ず、切り伏せられて地に侍る事だろう。

「!!」

だが、その切り払いを放ちながらに相手を見据えるフェイトの表情が歪む。
紫の女性の中段を狙ったバルディッシュの一撃を、何と相手は中段の更に下に瞬時に沈み込んでかわす。
まるで四足歩行の獣のように地に伏せ、低空にて潜り、頭上にてサイスの一撃をやり過ごしたのだ。
人の肉体が演じるにはひたすらに歪な四足直立……それがこの女性にはとにかく馴染んでいて
くねるような腰や背中が、まるでヒトではないナニカを連想させる。

「ハーケン、セイバァァーーー!!」

だが空振りからでも何かを掴むのが一流の戦術家だ。
捻りを加えた姿勢から、力を開放するように返し中段の二撃目を放つフェイト。
中間距離から放たれる三日月の光輪が静止したライダーを薙ぎ払おうと迫る。

「ふん」

まるで回転ノコギリのように空を裂いて飛ぶ金色の凶器を鼻で笑うように、瞬間移動じみた横っ飛びでかわすライダー。
凄まじい速度で放たれた光の刃なれど、そのような飛び道具にむざむざ当たってしまうほど彼女――いや、サーヴァントという存在は甘くない。
だが、フェイトにはそれで十分。
この一時の間こそ雷光が天に昇る絶好の機会だった。

「―――テイクオフ!」

雷電纏う黒衣の魔導士が、その対照的な白いマントを翻し
運動法則をまるで無視したロケットスタートのような離陸によってライダーの遥か上空にその身を翻していた。
一瞬で空高くまで舞い上がった肢体が後ろ手に鎌を抱え、目下の相手――ライダーに向けて手を翳す。

ようやく本来の自分の居場所、空へとその身を置く事の出来たフェイト。
地上でこちらを見上げてくる恐るべき敵の追撃に備え、マルチタスク――並列思考で同時7つの術式を展開しつつ、相手の動向を見る。

(追撃は、無い………陸戦タイプ。)

いきなりの超速戦闘に入り、ギアを無理やりトップギアに入れた事による負荷か。
既にフェイトの額には玉の様な汗が浮かび、荒げた息と共に肩が大きく上下している。
正直、追撃が来なくて助かった。取りあえずは一息つける事にホッとするフェイトである。

(……でも油断は出来ない。
 あれほどの戦闘力を有する相手だ。何をしてくるか分からない)

「どうやら雀を取り逃がしたようですね」

フェイトの姿を見上げながらにボソリと呟く騎兵。
アイマスクの下に封じられた両目が称えるは如何な感情か?

(あの速度に加え、防壁に飛行能力……
 まともに戦えばこちらの攻撃を届かす術はない。厄介なものです)

管理局魔導士が誇る神域の守りと卓越した性能はやはり、それを持たぬ者にとっては脅威以外の何物でもない。
これは長丁場になりそうだと……美しき女怪はマスクの下の眼に光を灯らせる。

「………問答無用で攻撃してきた事は、今は不問にします」

その獲物が、上空から右手を翳しながら何やら喋り出した。

「そちらに何の意図があるのか私は知らない。
 でも管理局はちゃんと相手の話を聞く用意がある…
 まずは武器を収めた後、事情を聞かせて欲しい。」

何やら場違いとしか思えない言葉をつらつらと語り出す黒い金髪。
取りあえずは沈黙を以って答えるライダーである。

「………貴方はルーテシアという娘を知っていますか?
 または何かしらの関係が…?」

沈黙――――
言葉が通じている事すら疑わしくなるフェイトであったが、その追及の手は緩めない。
自身との因縁深きプロジェクトFとの関連性等、様々な関連性を思案するフェイトに対し―――

「話す事などありません。
 サーヴァントはマスターの命によって動くのみ。
 どの道、貴方が死ぬ事に変わりは無いのですから。」

女性がようやっと口を開く。
ハスキーで透き通った落ち着いた声だ。
ゆっくりと紡ぐような声色はまるで歌うように美しく、だからこそその口から容易く「死」を連想させる言葉が紡がれる事に戦慄を禁じえない。

(マスター……やはりスカリエッティか)

サー、―――何やら聞き慣れない言葉が出てきたような気がするが
この女性と、そして槍の男が誰かの指示で動いている事は間違いない。
そしてその誰かとは言うまでもない。

「貴方は何者だ? 戦闘機人か?」

「―――――サーヴァントライダー」

「……なら、ライダー。 貴方を管理局法第13条=公務執行妨害で逮捕する」

敵が正体と目的を明確にした以上、こちらも躊躇う事は無い。
常の優しい態度からは考えられない厳かな視線を彼女に向け、言い放つは法の執行者たるその宣言。

「拘束後、貴方には弁護士を呼ぶ権利が生ずる。
 局員の勧告にあくまで従わず、武装を解除しなければ裁判では更に不利に……」

「―――――フ」

流れるような口上に対し嘲りの笑みを返すライダー。
つくづく面白い事を言う獲物である。今、この自分に何の権利が生ずるとのたまったのか?

「弁護士を呼ぶ権利だ………それと貴方には」

相手のどこか嘲るような態度にも冷静に対処するフェイト。
だが一間、無表情に見えた紫紺の女はどうやら相手の口上が楽しくて仕方が無いようだった。

「弁護士、ですか……ふむ――興味がありますね。」

原初に遡っての自身の所業を現代の法に照らし合わせた場合
どう裁かれ、はたまた人の世において弁護の余地があるものなのか?なかなかに学術的である。
何やら口に手を当てて、ブツブツ独り言を呟く女性。

「私の話を聞いているのか……?」

「ええ、大変面白いお話でした」

「お、面白い……?」

面食らうフェイトの手前、やがて女は髪をすいっと掻き揚げて返答を返す。

「まあそれはそれで―――埒も無い口実はもういいでしょう?魔術師」

もはやこの場において言葉など何の価値もないと、フェイトの説得をピシャリと斬って捨てるライダー。
サーヴァントを相手に何を、という態度は一先ずは出さない。
相手にも相手の何らかのポーズがあるのだろう。どうせ殺す相手だ……さしたる趣向も沸かないが。

「奇襲で私を倒せなかった以上、そちらに勝ち目があるとは思えない……それでもやるのか?」

そしてフェイトもまた説得の無駄を悟り――目がスウと閉じられる。
相手は陸戦で、そしてこのポジション。
万が一にも後れを取るとは思えない。

「勝ち目がないというのは―――どうでしょう」

対し、空に陣取り得意げな表情の小雀をあくまで嘲笑の対象として見るライダー。
「その気」になれば英霊にとって上空などは何のセーフティゾーンにも成り得ない。

ライダーを直下に迎えるフェイトの目がゆっくりと……決心を固めるように開かれ、そして紡ぐ。

「ランサー……セット」

今の今まで一時も下ろさずに敵の女に向けていた手から、迸る金色の魔力の奔流。
マルチレンジでの多彩な技を有する彼女が一つ、己が引き出しから手の内を見せる。

――プラズマランサー
彼女の得意技にして全ての攻撃の基点となる技である。
空間に顕現させた無数の雷属性の矢を敵に投擲する直射型射撃魔法。
魔導士の周囲に次々と展開されていく二の腕ほどの長さを持った矢は、全てフェイトの命のままに動く意思を持った猟犬だ。
高い目標到達性能を持つ矢の数々を一斉に降らせる。
敵は翼持たぬ者……恐らく勝負は一瞬で決まるだろう。

(完封する……下手に手加減するよりは一気に倒した方がいい)

手心を加えては下手に生殺しになり、かえって重い後遺症を与えてしまう事になる。
ならば全力。初撃にて敵の抵抗、防御の意思すら奪う会心の一撃を入れ、ノックアウト。
その右手が力ある者の言葉を受けて翻り――――瞬間、紫の刺客が走り出す!
先ほどクルマと自転車が下っていた一本道の林道の先。
未だふもとに続く下りの峠を道成りに駆け抜けていくライダー。

「………ファイアッ!」

それに対し、明確な攻撃の意思を示したフェイトの表情。
そのままに10を超える雷槍に向かい、敵を殲滅せよと命令を下した。

フェイトとライダー。空と地上。
爆撃戦が今、ここに幕を開ける。


――――――

奔走するライダーを上空から追うフェイト。
執務官の号令一合、次々と対象目掛けて飛来する雷の槍がライダーの逃げ足を妨げ、足元へと集中砲火を集めていく。
後ろを振り向かぬままにアスファルトを駆け、側転、バク転、ムーンサルト。
さながら体操選手さながらの身のこなしで矢をかわしていく騎兵もまた凄まじいの一語に尽きる。

(……だけど!)

魔導士が狙いをつけ、相手が回避し得ない上空に舞い上がった瞬間、待っていたかのように四方から矢を集中させる。
爆撃じみた射出音と共に翻る雷槍がフェイトの指示の元、紫の女に飛来。
決まった! ドンピシャの手応えに勝利を確信するフェイト。

「―――、!」

だが―――そこでも悉く埒外だったのは敵の女性。
空中でしなやかな肢体が回転し、その体の周囲に剣閃が走る。
それはまるで女の体から射出されたカマイタチの如し。
己が身を高速で回転させた体術のままに両手に握った鎖鎌のような短剣を駆使し、360度から来る射撃を切り払ったのだ。

「そ、そんな……!?」

唖然とする執務官。
大道芸人のような所業。TVでしかお目にかかった事のないような超ウルトラCの数々。
女性の両肩、太股が装束からはみ出し、扇情的な肌が限界まで露になっている。
足の先から頭のてっぺんまで非の打ち所の無い「美」を醸し出す紫紺の女神。
異性……否、同姓ですら虜にする魔性のダンサーだ。

(流石にこの状況で自信満々なだけの事はある……)

もっとも――それでも……

―――――バチィ!!

「―――、!」

雷撃を帯びた矢を切り払った騎兵が衝撃に弾かれる。
雷光の繰る射出魔法、プラズマランサーはそれほど甘くない。
文字通りの電撃を帯びた矢だ。それに付加される「感電」を完璧に切り払う事など不可能。
宙空にて体勢を崩し、地面に突っ伏すように着地する女。

徐々に追い詰められ、削れていくその姿はいわば当然の帰結だ。 
更に先ほど身を捻ってかわし、地面に突き立った筈の矢すらも再び意思を取り戻して自分に襲い掛かってくるのだからたまらない。
忌々しげに顔を歪める騎兵。
獲物に過ぎない相手に背を向け、撃たれ続けながら逃走するという屈辱。
その相手に対し、暗く残忍な復讐を胸に誓いながら―――

  目次  

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2010年08月02日 12:33