結局、最悪の形で聖は真相を知る事となった。
星とナズーリンは全てを伝えた。里からの提案を、幻想郷の裏の顔を、○○が生贄候補になった事を。
真相を知った聖は泣いていた。自分のせいで○○に迷惑がかかっていると考えているから。
今聖は星の付き添いの元、床に入っている。
残された者はこれからの事を話し合っていた。
「もう時間がない!明日○○は来るんでしょう?その時に動けば良い!」
その席で、村紗は他の2人を圧倒していた。
村紗から出る言葉の勢いに、2人は明確な反論を出せずに居た。

「荒事は姐さんも望んでいないわ」
「あいつ等に任せた方がもっと荒っぽい事になる!」
一輪のなだめの返しには。里への不信感が。

「やるにしても、それは最終手段だ。まずは聖から○○に思いを伝えさせよう」
「もう遅いの!これが駄目だったらあれ、あれも駄目だったらそれをって言う時間はないって分かってるでしょ!?」
そしてナズーリンの代案にも譲らず、議論とは程遠い村紗の主張が飛ぶだけの独演会状態だった。
二人の意見にも語気を緩めない為その様相は益々濃いものとなっていた。

「ナズーリンの言うとおりです・・・聖に少しだけ時間を与えましょう」
そんな熱された場は、星の登場で一旦冷まされた。
「時間って?」
それでも村紗の勢いはまだまだ強いままだった。
「明日○○が来ます、その時聖は○○に思いを伝えます」
「二人きりにしてあげましょう。我々はどう考えても外野です、盗み聞きも許しません」
村紗の語気と勢いに負けぬよう、星は言いよどむことなく、はっきりとした言葉で伝えた。
星の凛とした言葉は、明らかに村紗を意識した物だった。
熱くなり過ぎた村紗は何をするか分からない。
最終手段を取る取らないよりも、野暮な真似を慎ませるのが目的だった。

「聖は、確かにそういったの?」
「はい、はっきりと。疑ってますか?」
そんな事はないけど・・・と。語気は緩んだが、村紗はまだまだ不満気な顔を隠さなかった。
「そもそも・・・一輪の言うとおり荒事も聖は望んでいません」
「彼が悩みぬいて出した結論なら・・・聖は受け入れます」
「それくらいの器量があることくらい、私達は知っているでしょう?」
ここに来て、星の声と顔は徐々に優しい物となった。

「私たちが同じところに傷を持ってしまった大きな原因は・・・思いを伝えなかったからです」
「結果がどうであれ・・・伝えるべきだったと、種族を隠していたなら告白するべきだったと。そうでしょう?」
星の言葉に、ナズーリンと一輪もシュンとなる。遠い昔の事が思い出されて。だが。
「甘いよ・・・」
村紗だけは態度が変わらなかった。
「まだ何か言いたい事があるのですか?」
「・・・・・・」
村紗から感じられる、何か言いたげな雰囲気は消えなかった。星が促すが村紗の口は開かなかった。
だが、村紗は星の目だけははっきりと見ていた。何かを言いたそうだが、その声は喉で止まり、言葉を探しているようにも見受けられた

「ああーもう見てられないよ!村紗が言えないなら私が言うよ」
突然闇から現れた出席者以外の声。
声の主には、皆覚えが合った。その声の主に、一同の視線が集まる。
夜の闇の一部がぶわぁっ、と晴れる。
その晴れた闇から現れた、招かれざる声の主は、封獣 鵺だった。

「鵺!?」
「何をしに来たの!?」
鵺の姿を認めるはるかに前から、ナズーリンと一輪は臨戦態勢だった。
そしてその体勢は、鵺の姿を認めると一気に最高潮に達した。

「あー、ストップストップ。大丈夫だよ2人とも、私は3人が知らない真実を伝えに来ただけだから」
鵺は手の平を前に押し出し、敵意が無い事を主張する
「真実?」
「まぁ一輪・・・聞くだけ聞いてあげましょう」
闖入者に対する体勢を解かない一輪を、星は制する。
同時に、にらみを利かせ続けるナズーリンの肩にも手をやり動きを抑える。

「さて・・・教えてください、真実と言う奴を」
「村紗とはよく遊ぶし喋るから別として・・・3人は○○ってのが生贄だって所までは分かってるんでしょう?」
「・・・ああ、それは確かだ」
鵺は話を一つずつ進めていく。
「じゃあさ・・・生贄を差し出す側が一番注意する事って何だと思う?」
なぞかけ形式に入り、一輪の顔がほんの少し不機嫌になった、ナズーリンの方からは舌打も聞こえる。

「もったいぶるな」
星が肩に手をかけていなければ、恐らくナズーリンはそのまま詰め寄っていただろう。
「生贄にしても大丈夫そうなのが居る・・・でもその大丈夫そうな奴はそう簡単には手に入らない」
それでも、気圧されることなく鵺はなぞかけを続ける。

「逃げられたら困るわね・・・」
話を進める為に仕方なく一輪の出した答え。その答えに鵺は笑顔を浮かべた。
「その通り!中々手に入らない手頃な生贄さんに逃げられたら困るよね?」
「じゃあさ、この幻想郷から完全に逃げる方法って何だと思う?それも外来人にしか使えない方法で」
外来人にしか使えない方法・・・最早答えを言っているような物だった。
「博麗神社・・・・・・!!?」
呟くナズーリンは何かとてつもない事に気づいた。

「逃げられたら困る・・・じゃあ、逃げれなくすればいい」
鵺は淡々と言葉を進めて行った。
「外来人相手には、足の腱を切っちゃうのと同等の方法があるんだよ。その鍵は博麗神社にあり」
鵺の言葉に村紗以外の3人の顔が一気に青ざめていく。
「言ったでしょう・・・甘いって」鵺の言う真実を知っているのか、小さな声で村紗は呟いた。

「村紗は優しいからさ、場を荒らしたくなくて、知っちゃう前に無理にでも聖と○○をくっつけようとしてたみたいだけど」
「いつかは知っちゃう事なんだし、いつ知っても荒れるんだから。大して変わらないよ」

ナズーリンは悪戯半分、真顔半分の鵺を無視して飛び出していた。
「―!!ナズーリン」
星は大声を出そうとしたが、聖に気づかれたくなくて、飛び出すナズーリンを捕まえる事にした。
「私が金子を持ち歩く茶巾袋・・・中身全部使って構いません、夜更けですからそれくらいはしないと」
ナズーリンは小さくうなずくと脱兎の如く駆け出した。
その速さは瞬きをする前に、夜の闇に溶けるくらいの早さだった。
「もういいよ・・・確認なんて・・・・・・○○は聖に任せようよ・・・それが聖にとっても○○にとっても幸せなんだから」
小さな声で、そう主張する村紗の目には。うっすらと涙が浮かんでいた

「でも、ナズーリンが散らせたネズミからはそんな話。合ったら間違いなく議題に上がるはずよ!」
一輪は鵺から教えられた真相を払拭したく、鵺に食って掛かった。
「ネズミが嗅ぎつけれなくて当然だよ、もうとっくの昔に手を回してるんだから、蒸し返す必要がないんだよ」
「鵺・・・何故貴方はこれをしっているのです?」
鵺は一輪の問いに答えた後、めんどくさそうに星の問いにも答えていく。
「正体不明の種だよ、あれでいろんな所を気づかれずに回ってるからさ。ネズミより収集しやすいんだよ」
長くなりそう。そう思ったのか、星の問いに答え終わると、「じゃあね」と言って夜の闇に消えていった。
消える寸前「私は村紗のやり方が、実は一番荒っぽくならないと思うんだけどなぁ・・・最終的には」
そう主張した。

そう言えば、いつかナズーリンがぼやいていたのを星は思い出した。
いくらネズミが小さくて早くても・・・
穀物を荒らす害獣として嫌われているから、少しでも姿を見られると。騒がれるから意外とやりにくい。
その為、夜はともかく。真昼間に家から家へと渡る場合は、細心の注意が必要で。
音の少ない夜だと、屋根裏をトトトと走る音にも注意しないといけない。
その為、思ったよりはかどらない事が多いと、そう嘆いていた。その姿が星の脳裏に映し出された。




その日、3人とも一睡も出来なかった。
正確には眠る気になれなかった、皆ナズーリンからの報告を待ち望んでいた。
どうか外れてくれ、鵺の出した性質の悪いデマカセで合ってくれ。村紗以外はそう願ってもいた。

だが―。
そろそろ日が昇ろうかと言う時に帰ってきたナズーリンの顔で、全てを察する事ができた。
おまけに、足元もおぼついていない。ヨロヨロとナズーリンは部屋へと入る。
「最悪だ・・・手遅れですらない」
その言葉と共にナズーリンは崩れ落ちた。
「ナズーリン・・・辛いと思いますが、報告をお願いします」

ナズーリンの顔には涙が浮かんでいた。
星はそんな状態のナズーリンに報告をさせるのは酷な気もした。
「大丈夫だ・・・これが私の役目だ」
そんな星を思いやってか、報告を始める前にそう付け加えた。

「それじゃあ・・・報告を始める」
それでも、涙交じりの声で、ナズーリンの報告は開始された。
「まず・・・“手遅れですらない”これの意味について説明する」


「奴等は・・・新しい外来人が里に居つく度に、金子を博麗の巫女に渡して。帰還の足止めをするように頼んでいる」
その言葉に一輪が机の上に崩れ落ちた。
「そして・・・生贄候補の外来人となった時は・・・相当な額の金子で、期間を妨害するように頼む」
「そ・・・それでは、○○は」
星の声が震える。気丈で、優秀な彼女の姿からは中々想像できない姿だった。
「もう詰んでいる・・・完全に。多分、外に出るのに多額の金子が必要と言うのも・・・足止めするための、嘘だ」
報告を続けるナズーリンの目には涙が溢れていた。
それに呼応するように星の目にも涙が。一輪の方は机に突っ伏し、声を押し殺しながら泣いている。
「もし・・・○○が帰りたいと言った時。それよりも多い量の金子は用意できるものなのでしょうか?」
「無理だ奴等は・・・・・・私達が幻想郷に居つくはるか前からこの事を続けている」
この時ついにナズーリンの涙腺も決壊した。村紗もボロボロと大粒の涙が落ちている。

「その因習を破るとなれば・・・向こう数百年は、博麗の巫女が食べていける額で無ければ嫌だと」
「そうはっきりと言われてしまったよ・・・・・・」
全ての方向を終えたナズーリンの視界は、滲んでしまっていて、皆の表情を見ることができなくなっていた。
それでも机に突っ伏す一輪、下を向いて鼻をすする村紗、途中から微動だにしなくなった星。
これらで、場の空気は十分に伝わってきた。
そして全ての報告を聞き終わってからやっと、星の方も気づいた事があった。
自分も他の三人と同じように泣いている事を。

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最終更新:2011年11月26日 10:59