魔法使い□□が好むもの。
それは集中する事、である。
例えば読書。大図書館の只中、黙々とページを捲り本の中身を理解する。
時折メモを取ったり思考に耽ったりするが、一番好きな状態はただ無心にページを捲る時である。
気が付くと妻である魔女が寄りかかって読書してたり、愛人である司書が至近距離から音もなく自分を覗きこんでいるが些細な事柄だと言えるだろう。
例えば魔術の研究。
彼が好む魔術は基本。
ひたすらに基本行程を繰り返す。
妻の手伝いや技術の開拓などよりも、この方が□□は好きだ。
飽きもせず、ただひたすら、ひたすらに同じ魔力行使の行程をロボットの様に繰り返す。
気が付くと妻か司書、もしくは二人がじっと見ている事がある。
何が楽しくてこんな退屈なものを見るのかと思いつつ、彼はその日半日同じ行為を延々と繰り返した。
例えば、魔力の行使。
彼は媒体に力を与え使役する付与魔法を得意とした。
ゴーレムやパペット、ちょっとした小物や家具に魔力を吹き込むのだ。
彼は暇があると、それらに単調な命令を下してそれをずっと眺めている。
トランプにピラミッドを組ませる命令を下し、延々と組み立てては崩れるのを眺める。
沢山の書物運搬用ゴーレムにアルゴリズム体操を躍らせたり。
操れる家具やパペット、小道具を使ってピタゴラスイッチを1人で延々と楽しんでいた。
途中で司書がわざとスイッチの発動を止めた事がある。彼に構って欲しくてやった事だ。
□□は無表情で司書を41番目のピタゴラ装置にした。
例えば黙考。
そう思わせて何も考えない。
地下大図書館の書斎で椅子に座り、ぼんやりとし続ける。
妻がしがみつこうと、司書にセクハラされようとぼんやりとし続ける。
思考と反応の放棄、これが意外に病み付きになった事がある。
妻と司書のヒステリーと嘆きの凄まじさにより、今では封印された娯楽でもある。
ああ、そう言えば無反応ってのが執着する者にとって嫌われる行為だったな、とどうでも良い具合に思い出した。今度、里の外来人達に対処法として教えようか。
そして最後。性交。
基本的に彼は求められて応じる方であり、自分から求める事はあまりない。
親しい女性が魔女と悪魔という環境で男としての不全など有り得ないが、それでもこの郷に居着いた経過が経過な為か能動的になれないのだ。
ただ、時折ひたすら考えもなく機械の様に二人を抱く事がある。
教えられた性技をもって、洩らさずただ女性を一方的に高め続ける、これだけだ。
性交とは、双方がいたわりと奉仕の気概を持って快楽を与え合うのが理想である。
しかし、この三人でその理想が為されたケースは希少とも言える。
多くは女が圧倒的かつ献身的(?)に性感を与えるものであり、稀なケースとして□□が主導権を握る事がある。
魔女か司書が共に果ててくれと嘆願しても、頼みを無視してひたすらに責め続ける。
□□が加虐趣味なのではない。単にセックスに間違った角度で集中してしまっているだけなのだ。
魔法使い□□は今日も幻想の郷で暮らしている。
そして時折集中し―――その中でのみ、環境で歪んだ己の禍を確認するのである。
最終更新:2012年07月05日 23:59