スレタイSSその3。テーマは第15夜。


バラを女性に送るのは求婚を意味する。
しかも本数によって微妙に意味合いが違うらしい。
といっても差異はほとんど無いようだが。
僕も想いを寄せる女性がいるので、これは使えると思った。しかし。
「花なんて育てたことないしなぁ」
「だから私のところに来たんでしょ」
ぼやきに対し呆れたように溜息を吐く幽香。
今の会話通り、僕は一度たりとも花なんて育てたことがない。
だがフラワーマスターの異名を持つ彼女なら美しいバラを咲かせられるのではないか。
一縷の望みをかけて頼み込んだところ、あっさりOKされた。
「しかしまぁ、貴方って意外とキザなのね。バラでプロポーズだなんて」
「ロマンチックで良いだろ」
「あら、貴方からロマンなんて言葉が出るとは思わなかったわ」
「そんな無骨じゃないやい」
わざと不機嫌そうにそっぽを向くと、幽香は楽しそうにクスクスと笑う。
「ま、特別に頼まれてあげるわ」
「助かるよ」
「そのかわり……」
「ん、何だ? 礼ならするぞ」
できる限りで、と密かに心の中に付け加えておく。
しかし幽香はしばらく黙ったまま何も喋らない。
しん、と沈黙が場を制す。
何か話しかけた方が良いだろうか。そう思い声をかけようとしたところで――
「何でもないわ。バラはちゃんと育てておくから」
幽香は振り返り奥の部屋へと姿を消した。
機嫌を損ねたわけではなさそうだが、少し様子が変だったな。
とりあえずバラは育ててくれるようだし、今日は引き上げよう。

それからしばらく経って。
それはもう見事なバラの花束を持って幽香が訪ねてきた。
色とりどりのバラは極上の艶と鮮やかさを併せ持ち、美しく咲き誇っている。
「これは凄いな……」
「ふふん、フラワーマスターの名は伊達じゃないのよ」
「ありがとう。これならきっと上手くいくよ」
すると、幽香は途端に顔を赤くしだした。
視線は泳いでいて――時折こちらを見てはまた逸らし――何故かもじもじしている。
「あ、あの……」
「ん?」
「前から訊きたかったんだけど、誰にプロポーズするの……?」
あぁ、そうか。そういや言ってなかったな。

こいしだよ。こいしってバラが好きでさ。だからさ、バラを――」


「○○、遅いなー……」
古明地こいしは○○を待っていた。大事な話がある、と呼び出されたからだ。
「話ってなんだろ。もしかして、プロポーズとか!?」
彼とこいしは長い間交際していた。そのため、当然のように期待は膨らむ。


しかし○○が来ることはなかった。

いつまで待っていても、永遠に来なかった。

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最終更新:2013年09月16日 02:57